疥癬UpToDate
UpToDate"Scabies: Epidemiology, clinical features, and diagnosis" Last updated: Mar 22, 2018.
UpToDate"Scabies: Management" Last updated: Jul 27, 2018.
全然リウマチ膠原病ではないですが、高齢患者の病棟管理において必ず問題となるあれ…『疥癬』についてまとめてみました。細胞性免疫不全患者では角化型疥癬になり得るため注意が必要ですね。
【まとめ】
・疥癬はSarcoptes scabiei.による皮膚感染症
・夜間の激しい掻痒感を伴う典型的な分布(指間、手首、腋窩、乳輪、会陰部)の皮疹が特徴的
・細胞性免疫が低下している場合は角化型疥癬となる
・通常型疥癬は初期感染から3-6週間後に起こる
・感染は接触感染が主で、相手は家族やパートナーが主
・通常型の場合、短い接触では感染しない
・診断は虫体、虫卵、排泄物を鏡検で確定
・治療はペルメトリン外用かイベルメクチン内服、角化型疥癬で両者を併用する
【疫学】
・世界では1億人が罹患、地域差あり
・有病率は0.2-71%、太平洋地域、ラテンアメリカに多い、貧困地域に多い
・人口密度が高い場合も流行のリスク
・長期介護施設、刑務所で流行する
【ライフサイクル】
・S. scabiei var. hominisは白茶色で八本足のダニ
・オスよりメスが大きい(0.4×0.3mm)
・交配後、メスは蛋白分解酵素を分泌しながら角化細胞を溶かして行きながら、上皮内に潜伏する
・メスは4-6週間後に死ぬまでに2-3個の卵をその隠れ家に産み付ける
・幼虫は3-4日で孵化して、3回脱皮して成虫になる
・通常型疥癬では虫体量は平均10-15匹だが、角化型疥癬では数100万の虫体量を有する
・疥癬虫は平均的な湿度と温度では宿主に34-36時間住み着く
・低温、多湿では生存期間は延長する
【伝染】
・家族やパートナーとの長期間の接触感染で伝染する
・短時間の皮膚接触では伝染しにくい
・通常型疥癬では衣類や寝具からの伝染は起こりにくいが、角化型疥癬では起こりやすい
・動物からヒトに感染することは少ない(動物の疥癬は種族が異なる)
【臨床症状】
通常型疥癬
・特徴的な症状は夜間に悪化する重篤な掻痒症で虫体や虫卵、排泄物に対する遅発型過敏症による
・症状は初期感染から3-6週間後に起こる
・しかし、以前に感染した既往がある場合は1-3日以内に症状が起こる(既に感作されているため)
・典型的な皮疹は多発性小紅斑性丘疹、しばしば皮が擦りむける
・疥癬トンネルは2-15mmで細く、灰色、赤色、茶色の蛇行した線
・皮疹は1か所以上に起こる、1か所に留まることは少ない
《典型的な皮疹の部位》
指の横や指間、手関節の屈側、肘伸側、腋窩、乳輪周囲(特に女性)、臍周囲、腰、男性の会陰部(陰茎、亀頭、陰嚢)、膝伸側、肛門周囲の臀部と近接した大腿、足の側後方
・背部は比較的罹患しない、頭部は小児を除いて起こらない
・小児ではしばしば手掌と指のあらゆる側面に皮疹を生じる
・小児ではしばしば成人よりも炎症が強く、小胞や水疱を形成しやすい
・結節は先行または最近の疥癬感染に対する過敏反応を示す
角化型疥癬
・細胞性免疫が低下している場合に起こり得る(AIDS、HTLV-1感染、らい病、リンパ腫)
・高齢者とダウン症の患者、長期介護施設入所者、コルチコステロイド使用者にも起こりやすい
・あらゆる部位が侵されるが頭皮と手、足は特に感受性が高い
・治療しない場合は全身に広がる
・爪は肥厚し、変色する
・掻痒は最少またはないことがある
【合併症】
・二次性のブドウ球菌や連鎖球菌感染症(膿痂疹、膿瘡、爪周囲炎、フルンケル症)が起こるとしばしば通常型疥癬を複雑にする
・角化型疥癬だと全身の菌血症を起こす可能性あり
・連鎖球菌感染症は糸球体腎炎などを起こし得る
・疥癬のSMSB4という補体抑制物質が二次性連鎖球菌感染症を引き起こす可能性があると
【組織病理学】
・表皮の海綿状変化、好酸球、リンパ球、組織球の浸潤
・角化型疥癬では角質層の著明な肥厚を認める
・疥癬の虫体、虫卵、排泄物が角化型疥癬の生検検体で見られることがある
【診断】
・疥癬の虫体、虫卵、排泄物を鏡検で見つけることが第一だが、通常型疥癬では検出率が低い可能性がある
・上記が見られなくても病歴と身体所見で診断することもある
病歴と身体所見
※以下の1つ以上を認める場合は通常型疥癬を疑う
①皮膚変化と釣り合わない、広範囲の掻痒感、夜間に悪化、頭部は除く(小児や乳児はあっても良い)
②特徴的な分布(上記)
③同じ症状の方がいる
※以下を認める場合は角化型疥癬を疑う
①肥厚した表面が荒い亀裂局面
②高齢者、免疫抑制患者
・疥癬トンネルはしばしば身体所見で見られないこともあるが、見られたら、より診断に有意
・鏡検の感度は46-90%、特異度は100%
方法
・複数個所で皮疹(特に疥癬トンネル部)を擦過してプレパレートに乗せる
・麻酔は不要
・十分な表皮が取れるように勢いよくメスの刃で擦過する(出血させる必要はない)
・ミネラルオイルを少量擦過部位につけておくと虫体や虫卵が取りやすい
・削り取った表皮にKOHを滴下し、角化細胞を融解させる
上記のような虫体と虫卵が見られたら診断確定
【鑑別診断】
通常型疥癬の鑑別
・アトピー性皮膚炎
・接触性皮膚炎
・貨幣状湿疹
・節足動物咬傷
・類天疱瘡
・肢端膿疱症(乳児)
・ランゲルハンス組織球症
角化型疥癬の鑑別
・乾癬
・ダリエ病
・掌蹠角化症
【治療】
通常型疥癬
[ペルメトリン]
・局所合成ピレスロイド
・ダニの電位依存性ナトリウムチャネルを阻害し、神経伝達を阻害する
・治癒率は90%以上
・ペルメトリンクリームを全身に塗布する(30g程度必要)
・小児では頭部も好発部位であるため、塗布する
・8-14時間後にシャワーで洗い流す
・1-2週間後に2回目の塗布を行う(1週か2週かは不明確)
・副作用は皮膚の不快感のみ
・妊婦、授乳婦、小児に推奨される
[イベルメクチン]
・安価で内服薬なので簡便
・妊婦や授乳婦、体重が15㎏未満の小児には推奨されない
・200μg/kgを1回、1-2週間後に2回目を内服
・単回投与で治癒率は79%程度
角化型疥癬
・角化型疥癬ではペルメトリン外用とイベルメクチン内服を併用する
・5%ペルメトリンを7日間、その後完治するまで週に2回
・イベルメクチン200μg/kgを1,2,8,9,15日目に内服
・重症の場合はさらに22,29日目にも追加内服する
【接触と環境】
・疥癬虫は宿主から2-3日離れると生存できないため、環境や道具の接触感染に関しては数日前からの対策で良い
・衣類やリネンは最低3日間プラスチックバッグに入れるか、お湯で洗い、アイロンがけするかホットドライヤーで乾燥させる
・患者に接触する場合は疥癬が治療され、鏡検で消失するまで接触感染対策を行う
・症状は6週間遅れることがあるため、6週間以内に感染患者に濃厚接触した接触者に対して治療を行う
【復帰】
・感染者は最初の治療後、社会復帰が可能