リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

ぶどう膜炎 Uveitis

《眼の解剖》

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※ぶどう膜=虹彩+毛様体+脈絡膜

 

 【疫学】

・発生率は17-52人/10万人/年(1)

・有病率は38-714人/10万(1)

発展途上国の失明の原因の25%に上る(1)

・原因には地域性がある(1)

 

【遺伝的素因】

・HLA-B27:強直性脊椎炎と関連

・HLA-B29:Birdshot網膜脈絡膜症に関連(99%に陽性となる)

・HLA-B51:ベーチェット病と弱く関連

 

《日本での発症年齢と男女割合(2)

f:id:tuneYoshida:20190503002229p:plain・男女ともに60歳台にピークがある

 

《日本のブドウ膜炎の年代別の発症率の推移(2)

f:id:tuneYoshida:20190503005600p:plain・60歳以上は増加傾向だが、60歳未満は減少傾向、20歳未満は概ね横ばい

 

《ブドウ膜炎の分類(International Uveitis Study Group classification system:SUN)》

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因みに前部、中間部、後部、汎ブドウ膜炎を図示すると下記の通りになります(6)

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部位別ブドウ膜炎の原因は以下の通り(6)

f:id:tuneYoshida:20190504173438p:plain※斜体の原因は頻度が低い


前部ブドウ膜炎

・世界的にはブドウ膜炎の部位別で最多(日本では汎ブドウ膜炎が最多)(1)

・プライマリーケアでは全ぶどう膜炎の90%、専門施設では50-60%(1)

・原因として特発性が最多で38-88%(1)

・原因が特定できたもので最も多いのは脊椎関節症(8-12%)、HLA-B27陽性と関連(1)

・日本で多いのはベーチェット病(9%)(1)

・その他、Fuchs uveitis症候群(1-20%)、ヘルペスブドウ膜炎(1-22%)

     サルコイドーシス(1-6%)(1)

・結膜炎と鑑別を要する(結膜炎ではびまん性で充血がややピンク色で眼脂を伴う)(4)

・急性前部ブドウ膜炎の場合、症状は眼痛、充血、羞明(4)

・最も重要な臨床所見は片側前房の細胞増加(4)

・その他、角膜沈着物、後部癒着、虹彩結節(4)

・急性の原因として最も多いのは特発性、その他、強直性脊椎炎も多い(4)

・治療はコルチコステロイド点眼、散瞳薬の点眼(4) 

・慢性前部ブドウ膜炎はしばしば無症状、視力低下も起こり得る(4)

・最も重要な臨床所見は両側前房の細胞増加(4)

・慢性の原因として最も多いのは特発性だが、若年性特発性関節炎も多い(4)

・治療は局所コルチコステロイドと散瞳薬に加えて全身の免疫抑制が必要(4)

 

中間部ブドウ膜炎

・最も少ない部位(全体の15%)(1)

・原因は特発性が最多(60-100%)(1)

・原因を特定できたものではサルコイドーシス、多発性硬化症

 HTLV-1感染症、梅毒、ライム病、眼内リンパ腫など(1)

・しばしば両側性(4)

・症状としては飛蚊症、視力低下(嚢胞状黄斑浮腫が視力低下の原因)(4)

・臨床所見として重要なのは周辺部ブドウ膜炎の下部に位置する血管新生を伴う灰白色の血管線維組織のプラーク、その他、硝子体の細胞数増加と靄(4)

・治療は全身の免疫抑制薬(4)

 

後部ブドウ膜炎

・2番目に多いタイプ(全体の15-30%)(1)

・特発性が最多、その他トキソプラズマ脈絡膜網膜炎(米国、欧米、アフリカではコモン)、CMV、サルコイドーシス、birdspot網膜脈絡膜症、トキソカラ症、急性網膜壊死(1)結核(4)

・症状は飛蚊症、視力低下、盲点など(4)

・ 臨床所見として重要なのは網膜、脈絡膜の浮腫による視力低下(4)

 

 汎ブドウ膜炎

南アメリカ、アフリカ、アジアに多い(最多もしくは2番目に多い)(1)

・日本ではVogt-Koyanagi-Harada病、ベーチェット病、サルコイドーシスが多い(他の国では特発性が多い)(1)

 

《一般的なブドウ膜炎の原因の分類(6)

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《世界のブドウ膜炎の部位別、原因別の頻度(1)

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・感染ではトキソプラズマ症、ヘルペス、トキソカラ症

・非感染では若年性特発性関節炎、外傷、若年性脊椎関節症、ベーチェット病

 

《日本における原因別頻度(2)

東京大学病院のブドウ膜炎外来を受診した750名(男性363名、女性387名)の解析

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・元来三大原因と言われていたサルコイドーシス、ベーチェット病、原田病を抑えてヘルペスぶどう膜炎が最多となっている、この4つはブドウ膜炎の4大原因

 

《日本のブドウ膜炎の原因別罹患率の推移(2)

f:id:tuneYoshida:20190503010102p:plainヘルペスぶどう膜炎が増加し、元来三大原因とされたサルコイドーシス、ベーチェット病、原田病は低下傾向である

ヘルペスぶどう膜炎罹患率が増加しているのはPCRなどの診断法が確立されたためであるが、その他の疾患の罹患率が低下している原因は不明

 

《日本の4大原因の各国での順位(3)

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・日本で多いサルコイドーシスや原田病はアラビア、イラン、欧州、米国では少ない

・欧州、米国ではベーチェット病は少ない

・上記は2017年の慈恵医大からの報告(3)です。1位がサルコイドーシス、2位が原田病、3位がヘルペス虹彩炎、ベーチェット病となっております。上記の東京大学病院からの報告と比べるとサルコイドーシスの53%以上が臨床診断となっている点、東京大学ではヘルペスぶどう膜炎の6割以上がPCRで診断されていますが、上記報告ではPCRで診断したのが17%である点など、診断方法の違いが順位の誤差を生んだのだと推察されます。

 

《日本の年代別のブドウ膜炎の原因(2)

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《ブドウ膜炎の発症部位の年代別推移(2)

f:id:tuneYoshida:20190503004714p:plain・前部ブドウ膜炎は減少傾向であるが、汎ブドウ膜炎は増加傾向

・中間部ブドウ膜炎という概念は後から追加されたため、途中からのデータのみ

 

 【診断】

 ブドウ膜炎の原因の頻度を考慮した診断のための3 stepアプローチがあります(5)

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 これに参考文献(6)からも少し追加したものを下記に示します(完全の筆者の目線で編集しておりますので、使用時には注意して下さい)。因みに2nd stepからはブドウ膜炎の部位毎の診断アプローチとなるため、眼科医による障害部位の断定が必須です。プライマリケアでは1st stepの検査と問診と診察で前部、中間部、後部ブドウ膜炎のどれかを推定し, 2nd stepの一部まで検査出来れば十分かと思います。なお、赤文字は追試験(7)でさらにより診断に寄与した検査を示したものです。これは意識して行っても良いかもしれません。

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【参考文献】

(1) Tsirouki T. et al. Ocul Immunol Inflamm, 26(1), 2–16. A Focus on the Epidemiology of Uveitis.

(2) Shirahama S. et al. BMC Ophthalmol. 2018 Aug 2;18(1):189. Epidemiology of uveitis (2013–2015) and changes in the patterns of uveitis (2004– 2015) in the central Tokyo area: a retrospective study 

(3) Takahashi R. et al. Clin Ophthalmol. 2017 Jun 15;11:1151-1156. Uveitis incidence in Jichi Medical University Hospital, Japan, during 2011-2015.

(4) Krishna U. et al. Postgrad Med J. 2017 Dec;93(1106):766-773. Uveitis: a sight-threatening disease which can impact all systems 

(5) de Parisot A. et al. Am J Ophthalmol. 2017 Jun;178:176-185. Randomized Controlled Trial Evaluating a Standardized Strategy for Uveitis Etiologic Diagnosis (ULISSE).

(6) Sève P. et al. Autoimmun Rev. 2017 Dec;16(12):1254-1264. Uveitis: Diagnostic work-up. A literature review and recommendations from an expert committee.

(7) Grumet P. et al. Autoimmun Rev. 2018 Apr;17(4):331-343. Contribution of diagnostic tests for the etiological assessment of uveitis, data from the ULISSE study (Uveitis Clinical and medicoeconomic evaluation of a standardized strategy of the etiological diagnosis).