リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

肺胞出血UpToDate

 肺胞出血の患者がいるため、復習しています。UpToDateが最新で最もまとまっていたため、訳してみました。

 リウマチ膠原病領域では低酸素血症、貧血、新規陰影の場合に常に鑑別に挙がる病態です。

 

 肺胞出血は肺胞上皮細胞、基底膜、肺毛細血管の破綻によって赤血球が肺胞内へ流出する状態で、病理組織学的パターンによって3つに分けられる。

 ①肺胞毛細血管炎(Pulmonary capillaritis)

 ②淡い肺出血(Bland pulmonary hemorrhage)

 ③びまん性肺胞損傷(Diffuse alveolar damage)

 

①肺胞毛細血管炎

・好中球の肺胞中隔、間質への直接浸潤、分裂した好中球からの産物(酸素ラジカル、タンパク質分解酵素)によって肺障害が起こされる

・全身性血管炎、抗糸球体基底膜(抗GBM、Goodpasture)病、リウマチ疾患、特定の薬剤、特発性ヘモジデローシス、特発性肺胞毛細血管炎(pauci-immune)などが含まれる

・特発性肺胞毛細血管炎は血清学的に陰性だが、病理組織で血管炎所見を認めることで診断できる

 

肺胞毛細血管炎の原因

f:id:tuneYoshida:20190724214459p:plain



 

②淡い肺胞出血

・肺胞構造の炎症破壊なしに肺胞腔への出血を来す

・原因には左心室拡張期血圧上昇、出血性疾患、抗凝固療法がある

・時に抗GBM病、SLEなどが原因となり得るが、一般的には肺胞毛細血管炎を起こす

 

淡い肺胞出血の原因

f:id:tuneYoshida:20190722224307p:plain

 

③びまん性肺障害

・びまん性肺胞傷害が根底にあるARDSでは肺胞出血を起こす可能性がある

・肺胞中隔の浮腫、肺胞腔を覆う硝子膜の形成が特徴

・細胞傷害性、非細胞毒性薬物、感染症、リウマチ疾患、ARDSなどが原因

 

びまん性肺障害の鑑別

f:id:tuneYoshida:20190722224338p:plain

 

《臨床症状》

・発症はしばしば急激、または短期間(7日未満)

・赤、喀痰、発熱、呼吸困難が初期症状

・喀血は3分の1の患者では認めない

・聴診は非特異的、頻呼吸、Crackle、気管支呼吸音が聞こえることがある

 

放射線画像所見》

X線は非特異的、斑状またはびまん性の透過性低下

・CTでは通常は両側性でびまん性のすりガラス影または浸潤影だが、時に片側性

・しばしば末梢側よりも中枢側寄りの傾向がある

・肺胞出血を繰り返すと肺線維症につながる可能性がある

 

《検査異常》

・非特異的

・Hb、Ht低下、WBC上昇は一般的だが、必須ではあに

・血小板は増加も低下もし得る

・ESRは全身性疾患によって起こされる肺胞出血では亢進する

・凝固異常は血小板数、PT-INR、APTTでチェックする

・再発性の肺胞出血では鉄欠乏症が存在する可能性がある

・壊死性糸球体腎炎合併を除外するために尿検査、クレアチニン値をチェックする

 

《診断評価》

・DLCOの増加は診断に有用だが、多くの場合呼吸状態が安定せず実施困難

・喀血は33%の患者では見られないが、Hbが低下している場合は肺胞出血を疑う

・鑑別にはARDS、多葉性肺炎、誤嚥性肺炎、急性好酸球性肺炎、肺水腫、急速進行癌(例として精巣生殖細胞腫瘍)

・気管支鏡検査で肺胞出血を確認し、感染、好酸球増多症、悪性腫瘍を除外する

 

気管支肺胞洗浄

・BALは診断に最も有用

・50-60mlの生食で3回洗浄し、次第に血性になることで診断する

・Prussian blue染色によってヘモジデリンを含むマクロファージがBAL液内で認められたら特徴的、明らかな喀血やBALで出血を認めなくても染色が陽性なら診断可

・200個のマクロファージのうち、20%以上がヘモジデリンの染色で陽性であればDAHと診断できる

 

肺機能検査

・ほとんどの患者は肺機能検査を実施することができない

・DLCOが100%を超える場合はDAHと診断できる高感度マーカー

・DLCOの増加は肺胞内のヘモグロビンが呼気から一酸化炭素を除去するため

・DLCOのモニタリングは特発性肺ヘモジデローシスや抗糸球体基底膜疾患の患者のDAHの悪化の指標にもなる

・時々、閉塞性肺疾患が再発性肺胞出血患者や顕微鏡的多発血管炎による二次性肺胞毛細血管炎患者で認められることがある

 

《特定の病因の手がかり》

病歴

・アブシキシマブ、アミオダロン、カルビマゾール、コカイン、レフルノミド、ニトロフラントイン、ペニシラミン、プロピオチオウラシル、シロリムス、TNFα阻害薬、トリメリト酸無水物などの薬剤への暴露

・コカインの吸入は肺胞の障害や毛細血管炎を引き起こす

・肺胞出血症例の10%は薬剤性

・ARDSを引き起こす状況の確認

・造血細胞移植、肺移植、化学療法への暴露

・喫煙は抗糸球体基底膜抗体を有する患者の肺胞出血の強い危険因子

・SLEやAPSなどの全身性血管炎、リウマチ疾患、血栓性静脈炎、血小板減少症の病歴
・間欠的な胸痛、動機、末梢浮腫は僧帽弁疾患を示唆

・げっ歯類や家畜への暴露、暴露地(東南アジア)への旅行はレプトスピラ症を示唆

 

身体所見

・身体所見は非特異的、ブドウ膜炎、鼻・口腔潰瘍、触知可能な紫斑、下垂足、関節炎の存在は全身性疾患を示唆

 

臨床検査

・特定の病因を特定するための追加検査は以下

f:id:tuneYoshida:20190722231426p:plain

・重要な事は感染症を除外すること

・肺腎症候群を評価するためにBUN、Cre、尿検査を全患者で実施すべき

・僧帽弁狭窄症または肺水腫が疑われる場合はBNP、NT-proBNPを測定する

・抗GBM抗体は陽性であれば抗GBM病を強く示唆するが、禁忌でない限り確定診断のために腎生検が行われる

・SLEが疑われる場合は抗核抗体、補体、抗ds-DNA抗体などを検査するが、薬剤性SLEが疑われる場合は抗ヒルトン抗体を追加すべき

・抗トランスグルタミナーゼ抗体や抗筋内膜IgA抗体はセリアック病と肺ヘモジデローシスが合併するレーンハミルトン症候群(Lane-Hamilton症候群)で計測する

・特発性肺ヘモジデローシスは30歳未満の小児および若年成人に起こる

 

放射線所見および心エコー所見

・肺胞出血では通常心臓の大きさは正常

・全身性血管炎やリウマチ疾患に関連する肺胞出血では心拡大(心筋炎または心嚢液貯留による)が見られることがある

・僧帽弁狭窄症では左心房拡大により異常な左心の輪郭が見られることがある

・肺梗塞は肺胞出血として現れることがあるがX線写真の特徴は異なる

→肺梗塞は部分的、楔形、胸膜寄りの透過性低下、同側の胸水を認める

・胸部X線でKerley B linesは僧帽弁狭窄症や肺静脈閉塞症の可能性を示唆

・心エコーは僧帽弁狭窄症の評価に使用する、左心機能不全、肺動脈圧の上昇も

 

気管支肺胞洗浄

・肺胞出血の診断には有用だが、病因の特定は難しい

・ARDSの場合では培養、イムノアッセイ(PCP、ウイルス)、細胞診が病因の特定に有用になり得る

 

生検

・上記すべてで診断が不明瞭である場合に肺や腎、皮膚の生検を行う

・生検部位は侵襲が最小限となるところ(皮膚)や診断の可能性が高いところ(通常では肺病理は腎病理よりも特異的)を選択する

・皮疹がある場合、白血球破砕性血管炎やRGPA、その他の血管炎の診断に皮膚生検が有用

・肺毛細血管基底膜に沿った線状のIgG沈着は抗GBM抗体(Goodpasture病)を疑う、時に肺のみに限局する(5-10%の症例)

・リウマチ疾患、特にSLEは肺毛細血管基底膜に沿った顆粒状の免疫複合体沈着が見られる。しかし、免疫沈着物が主にIgAである場合はIgA血管炎(HSP)またはIgA腎症が考えられる

・GPA、MPA、孤立性肺毛細血管炎に起因するDAH患者の肺生検では典型的に毛細血管壁への好中球の浸潤および出血を認める。大血管は関与しない。点状の好中球の集塊および小血管の白血球破砕性血管炎が見られることがある

 

全身所見のないDAH

・薬剤、環境暴露、僧帽弁疾患、出血性疾患、ARDSを引き起こす疾患を除外したら、以下の4の疾患の可能性が残る
①肺に限局した抗GBM抗体疾患(Goodpasture病)
②肺限局型毛細血管炎(MPO-ANCA)
③自己抗体のない肺限局型毛細血管炎
④特発性肺ヘモジデローシス

・Goodpasture病は時折、糸球体腎炎のない肺胞出血として存在するが、抗GBM抗体はしばしば存在せず、診断を確立する唯一の方法は肺組織で線状の免疫染色を確認すること、淡い肺胞出血、肺毛細血管炎のいずれも取りうる

MPO-ANCAの有無に関わらない孤発性肺胞毛細血管炎は、肺限局型の小血管年の一形態である

・ある報告ではANCA陰性の患者を4年間フォローアップしても全身性血管炎を起こさなかった

・特発性肺ヘモジデローシス(IPH)は除外診断。20%のみが成人に起こるが主に若年患者

・小児患者ではセリアック病に関連し、50%でIgAが上昇する

・特発性肺ヘモジデローシスは免疫複合体のない無傷の肺出血を示す肺生検によって確立される

・病理では毛細血管病変に慣れていないことがあり、肺限局型毛細血管炎の症例は特発性肺ヘモジデローシスと診断されている可能性が高い

 

《治療》
支持療法

・酸素療法

・ECMO:抗凝固による出血のリスクあり

・過剰な抗凝固の補正

 

毛細血管炎を伴う肺胞出血

・全身性グルココルチコイド、シクロホスファミド、リツキシマブ、血漿交換が必要
・毛細血管炎(例えば全身性血管炎、抗糸球体基底膜症候群、リウマチ疾患)に起因する肺胞出血患者ではグルココルチコイドの速やかな全身投与が必要
・mPSL500-2000mgを最高5日間投与し、徐々に減量して経口製剤に移行

・GPAやMPAステロイド単独よりもシクロホスファミド、リツキシマブ併用が推奨

・シクロホスファミド(腎機能が正常であれば0.75g/m2)を1回静脈内投与

・リツキシマブでは具体的に375mg/m2を週1回、4週間行う

・重症混合型クリオグロブリン血症ではほとんどが抗ウイルス療法の前(C型肝炎)または後(HIVまたはB型肝炎)の免疫抑制療法で治療する。典型的にはグルココルチコイドパルスとそれに引き続くリツキシマブ、またはシクロホスファミド

 

薬剤誘発性DAH

・被疑薬を中止する

・重症呼吸不全患者では全身性グルココルチコイドを投与する

以下にDOACの場合の対応についてまとめます

f:id:tuneYoshida:20190723111300p:plain


過剰な抗凝固作用または出血性疾患

・出血性素因を補正する

・ビタミンK、4因子プロトロンビン複合体(PCC)、抗線維素溶解薬または血小板輸血

・ITP、TTP、HUSはそれぞれの治療を行う


特発性肺ヘモジデローシス

・全身性グルココルチコイド療法が推奨

・1-2mg/kgのmPSLを投与する

・シクロホスファミド、アザチオプリン、ヒドロキシクロロキンを使用することもある

 

びまん性肺胞障害

・感染に伴う肺胞出血では抗菌薬治療が必要、場合によっては抗ウイルス療法を含む

 

上昇した肺毛細血管圧
・肺静脈狭窄症、肺静脈閉塞性疾患、肺毛細血管血管腫、僧帽弁狭窄症は個別の管理を行う

 

《予後》

・肺胞出血のエピソードは特発性肺ヘモジデローシス、GPA、僧帽弁狭窄症患者では不可逆的な間質性線維症を起こす可能性がある

・さらに重度の進行性閉塞性肺疾患および肺気腫からなる肺胞出血後症候群は微小多発性血管炎による再発性肺胞出血患者にみられる

・短期、長期生存率は肺胞出血の背景疾患によって変化する
→SLE、血管炎、抗糸球体基底膜抗体疾患、特発性肺ヘモジデローシスを有する患者は早期死亡率が25-50%と非常に高い

 

【参考文献】

 UpToDate “The diffuse alveolar hemorrhage syndromes” Last updated Jun 11, 2019.