リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

血管内リンパ腫細胞が血管内に留まる理由

 分子免疫学を勉強していると臨床で抱いた疑問がしばしば解決することがあります。

今回はこの疑問『なぜIVL細胞が血管内に留まるのか?』に対して分子免疫学的視点から迫ってみようと思います。

 

リンパ球の分類と成熟部位

 まず、リンパ球は T細胞B細胞に分けられ、それぞれ、胸腺骨髄で成熟します。T細胞はヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞に、B細胞もさらに細かく分類できますが、ここでは割愛します。大雑把に言うと、両者とも抗原を認識して免疫においては重要な細胞となります。血管内リンパ腫(IVL)細胞が血管内に留まる理由

 

 成熟にするまでにT細胞もB細胞も既に認識できる抗原が決まっております。つまり体の中には、最初から無数の抗原を認識できるT細胞とB細胞が用意されているということです。体って不思議ですね。 

 

 しかし活性化するためには実際に抗原と結合し、認識する必要があります。認識できる抗原と結合すると、T細胞もB細胞も爆発的にクローン増殖し、その抗原を排除できるようになります。

 

 成熟したT細胞もB細胞もはじめは抗原を認識していないので、ナイーブT細胞ナイーブB細胞と言います。言わば“赤ちゃんリンパ球”です。

 

 これらのナイーブ細胞は通常1-3か月生存可能なのですが、その間に自分とマッチする抗原を探すために体中を巡っています。巡っていると言ってもリンパ系血液系を行ったり来たりしているわけです。

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リンパ球の血液液とリンパ系の行き来

 さて、問題なのはどうやってリンパ系と血液系を行き来しているかです。血液中のリンパ球はそれぞれのリンパ節を介してリンパ系に入ります。一方リンパ球を含んだリンパ液は右上肢右リンパ本幹、その他のリンパ節からのリンパ液は胸管に集められ、それぞれ右左の静脈角に注ぎ込まれます。

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看護roo(https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1844)より引用

 

 ナイーブT細胞とナイーブB細胞が血液系からリンパ節に入る時、リンパ節の動脈と、それに続く高内皮細静脈を通ってリンパ節実質内に侵入します。

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 重要なのはこの高内皮細静脈を通過してリンパ節実質内に入るときの機序です。

 

リンパ球の高内皮細静脈を介した侵入機序

 リンパ球が高内皮細静脈の壁を通過するためにはまず、高内皮細静脈に結合する必要があります。

f:id:tuneYoshida:20190725110704p:plain図:リンパ球が高内皮細静脈の壁に接着している様子

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  リンパ球の表面にはL-セレクチンという接着分子がありますが、高内皮細静脈上のPNAdと結合することで接着が始まります。なお、この結合は弱いものなので、白血球は高内皮細静脈にくっついては離れを繰り返し、内皮細胞の表面を転がるように動きます(Rolling)。

 次にT細胞はCCR7、B細胞はCCR7CXCR4CXCR5などのタンパク質がそれぞれ高内皮細静脈の表面のCCL19/CCL21CCL19/CCL21CXCL12CXCL13が結合します。

 これにより、より強固な白血球細胞表面の接着分子であるインテグリンファミリーの白血球機能関連抗原1(LFA-1)が活性化します。このLFA-1が高内皮細静脈の細胞表面のICAM-1と結合することで高内皮細静脈と強力に接着し、内皮細胞の隙間からリンパ節実質内に侵入します。

 

血管内リンパ腫(IVL)細胞の接着分子

 一方、血管内リンパ腫細胞では一部のインテグリンなどの接着分子が細胞表面に発現していないことが報告されております。そのため、血液系からリンパ系に移行する際に高内皮細静脈に結合できないため、リンパ節に侵入できないのではないかと言われております。

 リンパ節に入れない血管内リンパ腫細胞は血液内で増殖し、あらゆる臓器の毛細血管で詰まるのではないでしょうか。

 信じるか、信じないか、はあなた次第です。

 

【参考文献】

・分子細胞免疫学 原著第9版

田中稔之 ~リンパ管と血管による細胞動態制御から見た免疫学~ J Jpn Coll Angiol, 2008, 48: 151-157

・Ponzoni M, et al. Hum Pathol. 2000 Feb;31(2):220-6. "Lack of CD 29 (beta1 integrin) and CD 54 (ICAM-1) adhesion molecules in intravascular lymphomatosis."

・Zuckerman D, et al. Oncologist. 2006 May;11(5):496-502. "Intravascular lymphoma: the oncologist's "great imitator"."