リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

再発性多発軟骨炎②~病因~

UpToDateをもう少しわかりやすく意訳したものです。

 

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【ポイント】

・再発性多発軟骨炎の明確な病因は不明だが、外的刺激や遺伝的感受性(HLA-DR4)などが関与していると考えられる

・HLA-DR陽性抗原提示細胞とCD4陽性Tリンパ球が顕著に病変部に増加しており、逆にNK制御性T細胞の数と機能の選択的な低下が見られる

・軟骨の細胞外マトリックスの構成成分であるII型、IX型、X型コラーゲン、マトリリン-1、プロテオグリカンなどに対する抗体や細胞介在性自己免疫が起こっていることは確からし

II型コラーゲンは主に軟骨マトリックスの線維性足場と眼の硝子体の2つの部位に存在する

・マトリリン-1は胎児骨端軟骨に特有のマトリックスタンパク質だが、成人では耳介、鼻、気管、肋軟骨の軟骨にのみ発現する

・プロテオグリカン共有のエピトープは多様に分布している(大動脈中膜・内膜の結合組織、前部ブドウ膜、心臓弁、視神経の神経内膜及び神経周囲、気管粘膜下基底膜、内皮細胞、糸球体や尿細管の基底膜、心筋の筋細胞膜、滑膜細胞など)

・これらのタンパク質に対する自己免疫であるため、再発性多発軟骨炎では多彩な症状が生じると考えられる 

 

【Etiology】

・病因は不明

・遺伝的感受性と免疫異常、化学的傷害を含む複数の刺激が関与する

 

遺伝的感受性

・HLAクラスI抗原との関連は確認されていない

・HLAクラスII抗原、特にHLA-DR4との関連が示唆される(1)

・特定のDR4サブタイプ対立遺伝子との関連はない

・3つの関連が疑われた対立遺伝子が発見され(HLA-DRB1*16:02, HLA-B*67:01HLA-DQB1*05:02)、内2つ(HLA-DRB1*16:02, HLA-B*67:01)は東アジアの人口で優位に見られたが、一般化出来ていない

・3つ目であるHLA-DQB1*05:02はヨーロッパでの集団でも存在し、さらなるジェノタイピング研究の焦点となる可能性あり

・3つの対立遺伝子は疾患の臨床的特徴に影響を及ぼさない(2)

・別の研究ではHLA-DR6陽性と臓器病変の程度と特定臓器の症状は負の関連を認め、HLA-DR6陽性患者は陰性患者と比較して発症年齢の中央値が高かった(1)

・他の研究ではHLA-DQB1*0601HLA-DQA1*0103HLA-DQA1*0301が健常者と比べて多いという報告もある(3)

 

他の免疫異常と骨髄疾患

・再発性多発軟骨炎は他の自己免疫疾患としばしば併存する

・以下に645例の再発性多発軟骨炎の患者の内、併存する自己免疫疾患の一覧を示す(4)

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・特に高齢男性では骨髄異形成症候群(MDS)の罹患率も増加している

・MDSのクローン性幹細胞障害はそれ自体が免疫グロブリン異常症や自己抗体形成、Tリンパ球及びNK細胞の機能における異常を含む免疫異常の高い発生率と関連する(5)

・MDSと再発性多発軟骨炎は通常、同時に認められる

 

 毒素による誘発

・ある研究では複数の物質を混ぜ合わせたものを静脈投与すると24時間以内に再発性多発軟骨炎様の症状(耳介・鼻軟骨炎、強膜炎、末梢、体軸関節病変)が起こったという(6)

・この混合物には塩酸、キャブレター液、メントール入りの鼻吸入機のワックス状の内部マトリックス、水道水が含まれていた

 

【Pathogenesis】

・II型、IX型、XI型コラーゲン、Martrilin-1、プロテオグリカン構成断片に対する抗体および細胞媒介性の自己免疫が存在している可能性

・いくつかの報告はII型コラーゲン抗体に対する細胞性免疫反応の寄与を支持している(7)

・DRB1*0101/0401ヘテロ接合性患者から分離されたT細胞クローンはRPの特徴を有するトランスジェニックマウスモデルにおける免疫優性エピトープであるII型コラーゲン由来ペプチドに対して特異性を示す

なお、II型コラーゲン抗体に対するエピトープは関節リウマチ患者と再発性多発軟骨炎患者とでは異なる(8)

HLA-DR陽性抗原提示細胞CD4陽性T細胞が病変部に認められる

・軟骨破壊は軟骨細胞のアポトーシスの誘導によって起こされる、軟骨細胞に発現したMMP-3やカテプシンKはこれに関連する(9)

 ・古典的なT細胞、B細胞、NK細胞とは異なるリンパ球であるNK制御T細胞の数と機能の選択的減少がサイトカイン産生のバランスを調整し、自己免疫疾患の発現をコントロールすると信じられている

 

軟骨の免疫原性

・軟骨にはプロテオグリカン、コラーゲン、エラスチン、軟骨細胞の細胞膜など、免疫応答を誘発できる複数のエピトープが発現している

・これらのエピトープは立体構造のために、普段はほとんどマスクされている

II型コラーゲンは胚発生の時期から多くの組織に一時的に存在するが、その後、主に軟骨マトリックスの線維性足場と眼の硝子体の2つの部位に存在する(10)

・トリプルヘリックスを折り曲げた形のIX型コラーゲンはプロテオグリカンの特性があるが、II型コラーゲンフィブリルに会合し、固定する分子である

・XI型コラーゲンはフィブリルのサイズを調整するが、軟骨に均一に分布し、細胞周囲領域に集中する

マトリリン-1は胎児骨端軟骨に特有のマトリックスタンパク質だが、成人では耳介、鼻、気管、肋軟骨の軟骨にのみ発現し、動物モデルではこれに対する免疫が再発性多発軟骨炎様の症候群を引き起こすことが分かっている(11)(12)

プロテオグリカン共有のエピトープは多様に分布している(大動脈中膜・内膜の結合組織、前部ブドウ膜、心臓弁、視神経の神経内膜及び神経周囲、気管粘膜下基底膜、内皮細胞、糸球体や尿細管の基底膜、心筋の筋細胞膜、滑膜細胞など)

・軟骨のプロテオグリカンは連鎖球菌のペプチドグリカン、Mycobacterium tuberculosisから生成されたタンパク質と交差反応性の病原性を持つ(13)

・再発性多発軟骨炎患者から採取された末梢血B細胞由来のモノクローナル抗体細胞骨格抗原(デスミン)、II型コラーゲン、プロテオグリカンと反応する(14)

結核菌から得られたHeat shock protein 60に対する抗体が軟骨に交差反応性を示した報告もある

・これらは、外因性抗原が自己抗原と交差反応し、病原性プロセスに寄与する抗体を誘導する可能性を示唆している

 

遺伝的素因

・ネイティブのII型またはXI型コラーゲンで免疫されたげっ歯類や霊長類のMHC制限性の破壊性関節症を引き起こす可能性がある

・これはコラーゲンの立体構造に特異的な抗体を産生したり、コラーゲンのタイプに特異的でない細胞性免疫による

・T細胞は炎症プロセスで重要な役割を果たすが、単独で関節炎を引き起こせるかは未だに不明

・耳介軟骨炎は関節炎の発現とは無関係に免疫後の期間に発症する可能性がある

・これらの応答はMHCのIr領域に部分的にリンクしている複数の遺伝子の制御下にあるよう

・このIr領域は疾患の発現、重症度、進行速度の調節に関与していると考えられる

・ヘルパーT細胞サブセットの不均衡は動物モデルで軟骨破壊の進展に重要な役割を果たすようであるが、ヒトで見られるような眼、喉頭気管気管支、心血管病変は起こさないよう

・II型コラーゲンの抗原提示とコラーゲン誘発関節炎の発症にはHLA-DQクラスIIの関与が示されている

DQ8を発現するマウスはコラーゲンで免疫すると重篤な関節炎を起こす一方で、DQ6マウスは反応しない

DQ6DQ8の双方を発現するマウスはII型コラーゲンで免疫した後、再発性多発軟骨炎のような重篤な耳介軟骨炎、多関節炎を起こす

DQ6DQ8の両方を持つ高齢のマウスはコラーゲンによる免疫がなくても、自然に軟骨炎を起こす

・非肥満糖尿病(NOD)遺伝子型を持ち、内因性クラスII分子を欠くマウスでのDQ8の発現は、II型コラーゲン免疫誘発性軟骨炎に対する感受性とも関連する

・このトランスジェニック株ではII型コラーゲンによる免疫で大部分に耳介軟骨炎が起こり、II型コラーゲンとIX型コラーゲンの両方に対する抗体反応も起こす

・このマウス系統をIX型コラーゲンで免疫すると軟骨炎をしばしば引き起こす

 

マトリリン-1

・マトリリン-1は主に発達中の骨格成長軟骨に発現するが、成人期の鼻中隔、気管、耳介、剣状胸骨軟骨に限定される

・このタンパク質による免疫をするとラットでは気管軟骨炎、鼻腫脹(±鼻出血)による重篤なstriderを呈する(オスよりもメスの方が感受性が高い)

・すべての株で強いIgG抗マトリリン-1応答を起こすが、疾患を発症するのは一部の株のみ

・疾患を発症する可能性はMHCおよび非MHC遺伝子の両方によって支配されているようであり、αβT細胞に依存している

・遺伝子欠失を介したインターロイキン-10を欠くマウスはより早期に発症し、重篤化する

・B細胞を欠くマトリリン-1免疫マウスは特異抗体も疾患も誘導しなかった

・マトリリン-1特異的抗体を注射したB細胞欠損マウスは気管軟骨炎を発症した

・補体因子C5の遺伝子のみ異なるマウスではマトリリン-1で免疫しても呼吸器症状が有意に出なかった

・これはC5が全体的ではないが、潜在的に重要な役割を果たしていることを示唆する

・これらの発見のヒトへの適用は不確かではあるが、マトリリン-1断片は活動性炎症中のRP患者の血清で同定され、他の患者では体液性、細胞性免疫応答の両方が報告されている

・また、抗抗マトリリン-1抗体が少数のRP患者の血清中に存在し、呼吸器症状と相関している報告もある

 

軟骨の分解を媒介する免疫学的経路

・免疫応答に引き続くサイトカイン放出はRPの軟骨破壊の原因となる可能性がある

・炎症部位で生成され、ポリアニオン性プロテオグリカンへの親和性により局在化される免疫複合体は軟骨の表面に結合する

・スカベンジャー細胞による除去はマトリックス分解メタロプロテアーゼ(MMP)、酸素代謝産物またはサイトカインの放出を促進する

・IL-1やTNFなどのサイトカインはMMP、プラスミノーゲン活性化因子、プロスタノイドの軟骨細胞産生を誘導する

・またサイトカインにより、軟骨細胞コラーゲン、プロテオグリカンの合成が可逆的に

レギュレートする可能性がある

・RP患者では単球走化性蛋白1(MCP1)マクロファージ炎症性タンパク質β1(MIP-1β)IL-8の血清レベルが高かった

MCP-1とMIP-1βは循環する単球やマクロファージの補充や活性化させ、IL-8は活性化された単球やマクロファージによって産生され、好中球を誘引する役割を部分的に果たす

 

【参考文献】

(1) Zeuner M, et al. J Rheumatol. 1997;24(1):96. 

(2) Terao C, et al. Rheumatology (Oxford). 2016;55(9):1686. Epub 2016 May 30.

(3) Hue-Lemoine S, et al. Arthritis Rheum. 1999;42:S261. 

(4) UpToDate "Etiology and pathogenesis of relapsing polychondritis" Last update: Jul 02, 2018.

(5) Hebbar M, et al. Leukemia. 1995;9(4):731. 

(6) Berger R, Am J Med. 1988;85(3):415.

(7) Buckner JH, et al. Arthritis Rheum. 2002;46(1):238. 

(8) Burkhardt H, et al. Arthritis Rheum. 2002;46(9):2339. 

(9) Ouchi N, et al. J Rheumatol. 2011;38(4):730. 

(10) Stuart JM, et al. Arthritis Rheum. 1979;22(4):347. 

(11) Mörgelin M, et al. Biochem J. 1995;307 ( Pt 2):595. 

(12) Wu JJ, et al. J Biol Chem. 1998;273(28):17433. 

(13) van Eden W, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1985;82(15):5117. 

(14) Menge T, et al. Immunobiology. 2002;205(1):1.