リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

ANCA関連血管炎のマネジメント BMJ2020

 ANCA関連血管炎(AAV)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)に関連した血管炎で、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3つの総称です。

 

 つい最近にマネジメントについてBMJからReviewが出たので、ご紹介致します。

寛解導入療法と寛解維持療法に分けて、過去20年に渡る臨床試験を紹介されており、ANCA関連血管炎の治療の歴史を学ぶのにちょうどいいです。

 

 

ANCA関連血管炎の概要

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ANCA関連血管炎の発生率と有病率

アメリからの報告ではGPAMPA年間発生率はそれぞれ10万人あたり1.3人(0.8~1.8)、1.6人(1.0~2.2)であるという。同報告ではANCA関連血管炎全体の有病率10万人あたり42.1人(29.6~54.6)であった(Arthritis Rheumatol 2017; 69: 2338-50.)。

英国のデータベースではGPAの年間発生率10万人あたり0.8人(0.8~0.9)(Rheum 2009; 61: 1412-6.)。

  

ANCA関連血管炎診療の流れ

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GC:グルココルチコイド、RTX:リツキシマブ、CYC:シクロホスファミド、MMF:ミコフェノール酸モフェチル、MTX:メトトレキサー

※RTXとCYCの併用とそれぞれの単剤、グルココルチコイドとの併用、血漿交換追加の比較試験は乏しい。

※非重症疾患での寛解導入におけるMMF、RTX、MTXの比較試験はない。

※MTXは腎排泄のため、腎障害の場合、毒性を引き起こす可能性がある。

MMFの使用に関してはContraversial

 

●AAVの重症度は大きく異なり、上記図の通り、重症か非重症かを区別する事が重要である。

重症びまん性肺胞出血、糸球体腎炎、多発単神経炎、感音難聴、強膜炎、壊疽

非重症鼻副鼻腔、皮膚粘膜疾患(非壊疽)、肺結節、気管支疾患、関節炎

●上記のように分けたとしても、重症疾患は無症候性に進行し得るし、非重症疾患が病的状態に大きく寄与する事もある。

副鼻腔筋骨格系の症状が最も一般的。

一部の患者は慢性の非重症疾患(しばしば副鼻腔上気道に限定)を呈する。

●ほとんどの場合、非重症疾患患者は数か月から数年後に重症疾患へ進展する。

早期認知と治療開始が重要!!

●しかし、重症疾患は劇症で予測できずに起こる事がある。

●腎障害は最も一般的な重症疾患で、末期腎不全につながる可能性がある。

→腎障害がある患者の30%5年後に陥ると言われる。

●重症のANCA関連血管炎は放置すると致死的だが、治療しても死亡率は一定残る。

●一般人口と比較したANCA関連血管炎の死亡率は2.7(95%CI 2.3~3.2)。

 

ANCA関連血管炎の病因

●原因は不明だが、20%遺伝的要因が関与する。

●PR3-ANCA陽性患者とMPO-ANCA陽性患者で異なる。

MPO-ANCAの病因における役割はマウスモデルで確立されている。

●PR3-ANCAの病原性の根拠は強くないが、あるものだと推測されている。

PR3-ANCAは臨床症状が出る数年前から出現する。

●プロテイナーゼ3の遺伝的変異体(PR3-ANCAの標的抗原)はPR3-ANCA陽性のANCA関連血管炎に見られる。

●PR3-ANCAの力価は一部の患者で疾患活動性と相関する。

●B細胞標的療法(リツキシマブなど)はPR3-ANCA陽性患者に有効。

●ミエロペルオキシダーゼとプロテイナーゼ3は好中球に見られる酵素で、ANCA抗体の標的であり、病因において重要な役割を果たす。

好中球細胞外トラップ(NET)は病因に重要であると分かっている。

●病理組織で免疫グロブリンや補体を時に見る事がある。

●補体の副経路が病原性に重要であると考えられている。

抗C5a抗体が現在治療法として注目されている!!

 

ANCA関連血管炎の寛解導入

ANCA関連血管炎の寛解導入試験

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ANCA関連血管炎に用いられる一般的な薬剤とその副作用

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※これらの薬剤を使用する前にHBV抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体をスクリーニングしておく必要がある。

※また、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、水痘帯状疱疹ワクチンは各地域の推奨に則て考慮されるべきである。

グルココルチコイド

●グルココルチコイドはANCA関連血管炎の治療における要である。

●しかし、単剤療法では効果が不十分でなく、副作用も多いため、グルココルチコイド減量目的で2剤目の免疫抑制薬が必要となる。

●グルココルチコイドの最適投与量、経路、期間は不確実。

●メチルプレドニゾロンの静脈投与は通常1000mgを3日間で、重度の臓器障害の治療として使われるが、根拠は弱い。

●グルココルチコイドの用量と期間は変動があり、臨床試験によっては5.5か月から24か月以上使用する場合もある。

●経口グルココルチコイドは通常、プレドニゾン換算で1mg/kg/日から開始し、1か月までに30~40mg/日3か月までに10~20mg/日まで漸減する。

 ●ただし、最近の流れ(PEXIVAS試験)ではより早く減量する動きとなっている。

PCP骨粗鬆症の予防、消化不良患者ではPPIやH2遮断薬が必要。

 

PEXIVAS試験

PEXIVAS試験では血漿交換群と非血漿交換群を比較した試験。

●同時にグルココルチコイド標準投与量群減量グルココルチコイド群(最初の6か月のグルココルチコイド使用量が標準投与量群の55%)を比較している。

結果、減量グルココルチコイド群で重篤感染症が少なく、有効性が同じであった!!

 

シクロホスファミド

●シクロホスファミドはB細胞の枯渇を含む広範な免疫抑制を引き起こすアルキル化剤である。

●かつては連日経口シクロホスファミドが標準だったが、CYCLOPS試験(下記)が出てから、間欠的IVCYが主流となった。

PCP予防が必要、腎不全、高齢者では用量調整が必要。

●メスナの静脈投与は出血性膀胱炎のリスクを下げる可能性がある。治療開始後、定期的に尿検査を行い、膀胱癌の有無を監視する必要がある。

●妊娠を希望する患者では卵子精子保存または卵巣機能抑制などの選択肢を生殖内分泌・不妊専門医と相談する必要がある。

 

CYCLOPS試験

CYCLOPS試験はANCA陽性(99%)の腎疾患のあるGPAまたはMPA149名に対してPOCY連日群とIVCY間欠的投与群をランダム比較した非盲検対照試験である。

●18か月における寛解までの時間は有意な差なし。寛解までの期間の中央値は両群で3か月であった。

●POCY連日群はIVCY間欠的投与群よりも2倍量のシクロホスファミドを使用した(16g vs 8g)。9か月で寛解達成率に有意な差は見られなかった(両群で88%)。

●追跡調査ではANCAの種類に関わらず、IVCY間欠的投与群と比較してPOCY連日群で中央値4.3年の間に再発リスクが50%減少した。白血球減少症はPOCY連日群で優位に上昇した(45% vs 26%)。

●18か月の分析と長期追跡調査の両者で2群間で悪性腫瘍、重度感染症、死亡、腎機能障害のリスクに違いはなかった。

 

リツキシマブ

●合併症がある患者、シクロホスファミドによる治療が成功しなかった患者では別の方法が必要であった。シクロホスファミドの代わりとしてB細胞枯渇療法(リツキシマブ)の有用性が謳われたのがRAVE試験RITUXVAS試験であった。

●これ以降、寛解導入にはリツキシマブがしばしば選択されるようになった。

●最適なレジメンは週375mg/m2を4週または1000mgを2週連続投与。

●リツキシマブの難点は高価である事。その代理となるのがシクロホスファミド。

●リツキシマブの方がシクロホスファミドと比較して悪性腫瘍のリスクが低い。

PCPの予防が必要。

重篤な低ガンマグロブリン血症または感染状況における低ガンマグロブリン血症の場合は免疫グロブリンの補充の適応がある。

●遅発性好中球減少症は特異的である可能性があり、B細胞が枯渇期間中またはその後、いつでも発生する可能性がある。

 

RAVE試験

RAVE試験は新規または再発したANCA陽性GPAまたはMPA197人の患者を5.5か月のグルココルチコイドにリツキシマブ(週1回4週間、375mg/m2)またはPOCYのいずれかに無作為化した二重盲検、非劣性試験である。

●患者は6か月までにグルココルチコイドから離脱した。

●リツキシマブ群は寛解維持療法を行わなかったが、POCY群はアザチオプリンで寛解維持した。

●ほとんどの患者はPR3-ANCA陽性(68%)でGPA(77%)に分類された。

●48%が大きな腎病変を認めなかった。

●RAVE試験ではCr4.0mg/dl以上の腎不全とびまん性肺胞出血患者を除外している。

●主な結果は6か月後のグルココルチコイド完全離脱寛解率はPOCY併用群で53%、リツキシマブ併用群で64%。

●リツキシマブは全体的にシクロホスファミドより統計的に優位ではなかった(p=0.09)だったが、再発疾患患者では優位性(OR1.4)が見られ、事後解析ではPR3-ANCA陽性例で優位性(OR2.11)が見られた。

●リツキシマブ群(寛解維持なし)は、POCY群(アザチオプリンで寛解維持)と18か月時点で持続寛解率が同様であった(39% vs 33%)。

●18か月時点で患者の74%がグルココルチコイド完全離脱寛解を達成した。

●18か月時点で両群に再発の頻度、重症度、再発までの時間に有意差なし。

●腎病変を有する患者間でも結果は同じであった。

●シクロホスファミド群では肺炎が多かった(p=003)が、その他の有害事象の発生率は両群で有意差なし。

 

RITUXVAS試験

重篤な腎血管炎を有するANCA関連血管炎の患者44人を対象にリツキシマブに2回のIVCYを投与する群と3~6か月のIVCYを投与し、アザチオプリンを維持療法に使用する

 群に無作為化し比較。

●両者とも同等の寛解率(76% vs 82% P=0.7)で重篤な有害事象も同等(42% vs 36% p=0.8)。

 

メトトレキサー

●メトトレキサートは寛解導入薬として研究されている。

●メトトレキサートは細胞外アデノシンを増加させることで効果を発揮する。

●メトトレキサートの有用性は非重症患者においてNORAM試験で証明された。

●メトトレキサートの有効性は非重症例で示されているため、重症例では考慮しない。

●メトトレキサートは心血管疾患の二次予防に対して有効性が示されている(N Engl J Med 2019; 380: 752-62.)。

葉酸の補充で特定の副作用(粘膜病変など)のリスクを減少させる可能性がある。

●GFRが30ml/min/1.73m2未満に低下している場合、MTXを使用しない。

 

NORAM試験

●非重症GPAまたはMPA患者100人をメトトレキサートまたは12か月のPOCYに無作為化に振り分けた非盲検非劣性試験である。

重篤な臓器障害、生命を脅かす疾患を有する患者は除外された。

●患者はほとんどがPR3-ANCA陽性(74%)のGPA(94%)であった。

●6か月時点での寛解率はメトトレキサート群とPOCY群で同等(90% vs 94%)で寛解までの中央値も同等(3か月 vs 2か月)。

●しかしメトトレキサートはシクロホスファミドよりも広範な病変がある場合は寛解に至るまでの期間が長く、全ての患者で再発までの期間が短い。

●メトトレキサートはシクロホスファミドよりも多く再発していた(70% vs 47%)。

●メトトレキサートはシクロホスファミドよりも白血球減少症は少なかった(3 vs 14)。

●しかし、肝機能障害が多かった(7 vs 1)。

●この試験には大きく2つのLimitationがある。

  ①シクロホスファミドの投与法方が現在の間欠的IVCY投与法とは異なる(POCYか月)。

  ②全ての治療が12か月時点で中止され、その後に再発が多く発生したが、メトトレキサートの長期服用による再発予防の可能性は否定できない。

 

ミコフェノール酸モフェチル

●ミコフェノール酸モフェチルがDNA合成を阻害する。

●ミコフェノール酸モフェチルの寛解導入における有用性はMYCYC試験で示された。

●ミコフェノール酸モフェチル群の臨床試験は非重症例が対象であり、かつPR3-ANCA陽性例では再発率が高いため、非重症例MPO-ANCA陽性例で使用を考慮する。

●EUVASメンバーからの推奨は最低であるが、これはMYCYC試験の発表前の事である。

●ミコフェノール酸徐方剤は胃腸への副作用が少ない可能性がある。

 

MYCYC試験

●ミコフェノール酸モフェチル(2g/日)とIVCYを比較した非盲検、非劣性無作為化対称試験である。

●新たに診断されたGPAまたはMPAの非重症で腎機能が低下したANCA関連血管炎患者を140人を対象とした。

●59%がPR3-ANCA陽性、38%がMPO-ANCA陽性。

●両群ともに維持療法はアザチオプリンを使用した。

●生命にかかわる疾患を持つ患者、腎機能が急速に低下している患者は除外されたが、ほとんどの患者(81%)に腎疾患があり、NORAM試験の患者よりも重症度が高かった。

●ミコフェノール酸モフェチル群はIVCY群と6か月時点で同等の寛解率を示した(67% vs 61%)。

●しかしミコフェノール酸モフェチル群でより多くの患者が寛解後に再発した(33% vs 19%)。

●これはANCAのタイプの違いによる。ミコフェノール酸モフェチル群ではPR3-ANCA陽性例の48%が再発したのに対してシクロホスファミド群では24%しか再発しなかった。

重篤感染症率は同等であった(26% vs 17%)。他の有害事象(末期腎不全、死亡など)も同等であった。

 

血漿交換

●びまん性肺胞出血、急速進行性糸球体腎炎の場合には血漿交換が併用される事があります。

●最近まではMEPEX試験が唯一の血漿交換の大規模試験であったが、つい最近PEXIVAS試験が登場した。

●いずれの試験も血漿交換によってANCA関連血管炎の長期予後が改善しない事を示している。

●ただしANCA抗糸球体基底膜抗体が療法が陽性の患者では血漿交換が必要である。

 

MEPEX試験

MEPEX試験はCrが5.8mg/dlを超え、生検で証明された糸球体腎炎を有するANCA関連血管炎患者を対象とした試験である。

●137人(PR3-ANCA陽性43%、MPO-ANCA陽性52%)を対象にPOCYと血漿交換7回または3日間のメチルプレドニゾロンパルスのいずれかを比較した。

血漿交換群は死亡せず、透析導入もなかった。

●3か月でCre5.8mg/dlを下回ったのもメチルプレドニゾロン群よりも多かった(69% vs 49%)。

●しかし、事後解析では末期腎不全と死亡の有意差が持続しない事がわかった。

●その後、メタ解析では血漿交換の末期腎不全や死亡を予防する効果は不十分と結論付けられた。

 

PEXIVAS試験

●糸球体腎炎(GFR<50ml/min/1.73m2)、びまん性肺胞出血、またはその両方を対象に標準治療(リツキシマブまたはシクロホスファミド+グルココルチコイド)に血漿交換を組み合わせるかどうかをランダム化した試験である。

●704人(PR3-ANCA陽性41%、MPO-ANCA陽性59%)を対象していたが、98%が腎疾患を罹患していた。

●MEPEX試験とは異なり、両群でメチルプレドニゾロンパルスを実施された。

●結果は両群で末期腎臓病と死亡に有意な差はなかった(28% vs 31%)。

●興味深いのは、長期観察した7年後でも、末期腎不全と死亡にも有意な差が見られなかった事である。

 

寛解導入の要約

●今日では高用量のグルココルチコイドリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかが頻繁に使用される。

●リツキシマブとシクロホスファミドを併用し、グルココルチコイドを避けるケースシリーズもあるが、エビデンスレベルは低い。

●リツキシマブの問題点は費用が高い事である。

バイオシミラーが使用できる場合は積極的に検討する!!

●シクロホスファミドは腎機能障害や高齢患者で減量が必要。

血漿交換は重症患者でメリットが得られなかった。

非重症患者の場合は、メトトレキサーミコフェノール酸モフェチルが選択肢となるが、リツキシマブと比較されていない。

 

ANCA関連血管炎の寛解維持

ANCA関連血管炎の寛解維持試験

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 ●ANCA関連血管炎の大多数は最新のレジメンで寛解に達するが、約1/318か月までに再発し、1/3未満10年以上無再発寛解を維持する。

寛解を維持するために、免疫抑制薬による寛解維持療法が必要である。

●一方で、ANCA関連血管炎診断後1年以上経過した患者の死亡原因は活動性血管炎ではなく、感染悪性腫瘍心血管疾患によるものが多い。

●患者リスク、ベネフィットに合わせて、個別の寛解維持療法が必要である。

●上記に寛解維持療法の臨床試験を示す。いずれもプレドニゾンとシクロホスファミドで寛解導入されているが、シクロホスファミドの投与方法と期間が異なる。

●以下に示すが、当初はシクロホスファミドを寛解維持でも持続する流れであったが、アザチオプリンの有用性が出現してから、アザチオプリンが寛解維持における標準療法となった。時代は変わり、最近ではリツキシマブの寛解維持の有効性が示されて来ている。

 

アザチオプリン

●DNA合成を阻害する薬剤。

●チオプリンメチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング(NUDT15遺伝子多型)をすることで、毒性のリスクが高い、酵素活性の低い患者を特定できる。

●妊娠中にも安全に使用できる。

●アザチオプリンの寛解維持の有効性を検証した試験はCYCAZAREM試験である。

この試験により、長期のPOCYを回避し、シクロホスファミドを3~6か月に制限し、アザチオプリンで寛解維持する治療のパラダイムシフトが起こった!!

●その後、寛解維持療法としてのアザチオプリンと他の様々な免疫抑制薬の比較がなされ来た。

寛解維持としてのアザチオプリンとメトトレキサートを比較した試験がWEGENT試験である。

●アザチオプリンとミコフェノール酸モフェチルを比較した試験がIMPROVE試験であるが、ミコフェノール酸モフェチルはアザチオプリンよりも再発率が高かった。

寛解導入におけるミコフェノール酸モフェチルはMYCYC試験で有効性が言われたが、寛解維持では有効性が不透明である。

 

CYCAZAREM試験

●新たに重症ANCA関連血管炎と診断された144人(PR3-ANCA陽性57%、MPO-ANCA陽性39%)の患者を対象にアザチオプリンまたはPOCYを比較したランダム化非盲検対照試験である。

●18か月以上経過した後の再発率(重症、非重症)はアザチオプリンとPOCY群で同程度であった(15.5% vs 13.7%)。

 

WEGENT試験

寛解維持としてのアザチオプリンとメトトレキサートを比較した無作為化対称非盲検試験。

●新規にANCA関連血管炎と診断された126人(PR3-ANCA陽性60%、MPO-ANCA陽性31%)を対象とした。

●メトトレキサートとアザチオプリンの有害事象は同等(19% vs 11% p=0.21)。

●メトトレキサートで有害事象率が高いのは腎機能障害に対して用量調整が出来ていたなかったと考えられた。

●24か月時点で、両群で重症、非重症患者の無再発生存率は同等であった。

 

IMPROVE試験

寛解維持としてのアザチオプリンとミコフェノール酸モフェチルを比較した試験。

●新規にANCA関連血管炎と診断された156人(PR3-ANCA陽性58%、MPO-ANCA陽性33%)を対象とした。

●中央値39か月でミコフェノール酸モフェチルを使用した群ではアザチオプリンと比較して再発率が高かった(重症、非重症両方で)。

●この試験の特徴はPR3-ANCA陽性が多く、重症な病態が多かった事である。

  

リツキシマブ

寛解導入におけるリツキシマブの有用性はRAVE試験RITUXVAS試験で証明されたが、これを寛解維持にも使用する動きが出てきた。

●代表的な試験がMAINRITSAN1試験RITAZAREM試験である。

これらの試験の結果、寛解維持療法におけるリツキシマブの立場が向上した!!

 

MAINRITSAN1試験

●新規発症したANCA関連血管炎115人(PR3-ANCA陽性70%、MPO-ANCA陽性23%)を対象に非盲検無作為化対照試験である。

●リツキシマブ(500mg週1回を2週あけて投与後(0週目、2週目)、6か月毎に18か月まで維持投与する)群とアザチオプリン(22か月)群を比較した。

寛解導入はIVCYで行った。

●結果は重篤な再発がアザチオプリン群で多かった(29% vs 5%)。

●5年後(リツキシマブ最終投与から42か月後)では、リツキシマブとアザチオプリンの両群で無再発生存率が低下したが、リツキシマブの方が高値を維持した(58% vs 37%)。

●死亡は両群でほとんどなかったがリツキシマブの方が5年生存率が高かった(100% vs 93%)。

●この試験の最大の問題点はリツキシマブの用量は変更されなかったが、アザチオプリンは12か月時点で2mg/kgから1.5mg/kgに減量し、さらに18か月時点で1mg/kgに減量された事であった。

 

RITAZAREM試験

●再発例の170人(PR3-ANCA陽性72%、MPO-ANCA陽性28%)を無作為にリツキシマブ1000mg4か月毎投与群とリツキシマブで寛解導入後にアザチオプリンで寛解維持を行う群を比較した試験。

●リツキシマブ維持群の方が再発率が低かった(13% vs 38%)。

 

リツキシマブ投与のタイミング

MAINRITSAN1試験RITAZAREM試験ではリツキシマブの定期投与を行った。

●一般的には末梢血B細胞が検出されない患者では再発率が低くANCA力価が上昇すると再発リスクが上昇する事が分かっていたが、リツキシマブ定期投与群と末梢血B細胞が検出またはANCA力価が上昇した場合に投与する群を比較した試験がMAINRITSAN2試験である。

●この結果、リツキシマブは定期投与(Day 0、14、6か月、12か月、18か月)しても、3か月毎に末梢血でB細胞が出現またはANCA力価が上昇した場合に投与しても有意差がなく、どちらでも良いという結果となった。

 

MAINRITSAN2試験

●リツキシマブ定期投与群(Day 0、14、6か月、12か月、18か月)と3か月毎の採血で末梢血B細胞の検出またはANCA力価の上昇をもって投与する群を比較した試験。

●新規のANCA関連血管炎162人(PR3-ANCA陽性47%、MPO-ANCA陽性31%)を対象。

●28か月にわたる重症、非重症患者の再発リスクは両群で同等であった(10% vs 17% p=0.22)。

●B細胞の出現またはANCA上昇に際してリツキシマブを投与した群の方が総投与量が少なかった。

●安全性は両群で同等であった。

 

治療期間

●ANCA関連血管炎の適切な治療期間は不明のまま。

●一部の患者は無治療で寛解を維持する事が出来るが、再発率は時間とともに確実に増加する。

●重症ANCA関連血管炎(PR3-ANCA陽性52%、MPO-ANCA陽性44%)の患者を対象としたREMAIN試験では24か月治療後にアザチオプリンとプレドニゾンを中止すると、48か月持続した群と比べて、重度、非重度の再発リスク(63% vs 22%)と末期腎臓病のリスク(7.8% vs 0% p=0.01)が高まる事が分かった。

●同様に983人のANCA関連血管炎患者を対象とした13件の研究のメタ解析ではグルココルチコイドを長期持続した場合は短期間治療群よりも再発率が低いことが分かった(Arthritis Care Res (Hoboken)2010;62:1166-73.)。

●再発の危険因子がいくつか特定されている。

 

再発リスク

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●上記に再発のリスク因子の一覧と、以下に表の要約を示す。

PR3-ANCAはMPO-ANCAよりも再発リスクが2倍と言われている。

●ANCA力価の上昇についてはRAVE試験でリスクと関連はないとされた。

●しかし、メタ解析ではANCA力価の上昇はわずかに再発と関連する事がわかった。

●PR3-ANCAはリツキシマブによる寛解導入後の再発を予測できる可能性がある。

寛解導入後、陰性だったMPO-ANCAが陽転化する事は再発リスクと関連する。

重症の腎障害は再発リスク低下と関連する。ある報告では腎疾患患者は60%再発リスクが低下する。

リツキシマブでB細胞が枯渇している期間の再発率が低い。

●疾患活動性の潜在的な血清や尿のバイオマーカーが特定されているが、まだ研究段階である。

 

特定の症状に関連する治療の課題

 ●副鼻腔、気管気管支、眼窩偽腫瘍、間質性肺疾患がANCA関連血管炎の唯一の症状となり得る。

●診断と治療が難しく、これらが不可逆的損傷を引き起こす可能性がある。

●これらの症状の研究はケースシリーズに限定されている。

 

副鼻腔病変

●GPAでは良く副鼻腔炎が見られる。

●副鼻腔や気道に限局する疾患の最大40%はANCA陰性であり、経験豊富な耳鼻科医による評価が一般的な副鼻腔炎との鑑別に有用である。

●鼻中隔穿孔や鞍鼻はANCA関連血管炎の(不可逆的な)ダメージ症状として有名だが、適切な治療後も骨びらん、持続的に鼻閉、痂皮形成、鼻出血が続く場合がある。

●免疫抑制療法中は感染症やその他の合併症のリスクが上昇する可能性があるため、ダメージ症状なのか活動性の疾患なのかを区別する事が重要である。

●副鼻腔症状の最適な治療法を調査した研究はないが、寛解導入の薬剤が有効であると考えられている。

●慢性副鼻腔炎で推奨されている生理食塩水やグルココルチコイドの局所療法が有効な場合がある。

 

気管気管支病変

声門下狭窄、気管気管支炎、気管支腫瘤はGPAのまれな症状である。

●気管気管支病変は免疫抑制療法中に発生する可能性があり、免疫調整に反応しない可能性がある事を示唆する。

●一般的に気管支腫瘤は免疫抑制薬で治療されるが、声門下狭窄は議論の余地がある。

●21人の患者からなるケースシリーズではグルココルチコイドを平均41か月以上投与した場合、気管切開例はなく、声門下狭窄の顕著な改善が見られた( J Rheumatol 2003; 30: 1017-21.)。

●一方で43人のケースシリーズではプレドニゾンと免疫抑制薬(メトトレキサート、シクロホスファミド、リツキシマブ)を併用した結果では様々な結果となっている。

 

眼窩炎症性病変

●眼窩炎症性病変は免疫抑制に十分に反応しない事が多く、再発が一般的であるため、治療が困難である。

●59人のケースシリーズではシクロホスファミドと比較してリツキシマブがアウトカムを改善させた(91% vs 52%)(Rheumatology (Oxford) 2019; 58: 1565-73.)が、サンプルサイズが小さく、この結果を一般化する事は出来ない。

 

間質性肺疾患

●間質性肺疾患はMPO-ANCAと関連している。

●他にANCA関連血管炎の症状がない場合のANCA陽性の間質性肺疾患の管理については不透明である。

●36人のケースシリーズではANCA陽性の間質性肺疾患患者の20~30%がANCA関連血管炎を発症し、特にMPO-ANCAが陽性であった(Chest 2019; 156: 715-23.)。

●ANCA陽性の間質性肺疾患12人のケースシリーズでは免疫抑制薬によって間質性肺疾患の改善が報告された(Respirology 2016; 21: 920-6.)。

●しかし、他のケースシリーズでは有益性が報告されたなかった(Respirology 2004; 9: 190-6./ Ann Rheum Dis 2009; 68: 404-7.)。

●強皮症間質性肺炎に対するニンテダニブの効果が示されたが、ANCA関連血管炎の肺線維症に対する効果も期待される。

 

ANCA関連血管炎の捕捉療法

●ST合剤はPCP予防に必要である。特にPSL20mg以上を4週間以上投与する場合。

骨粗鬆症予防としてカルシウム製剤とビタミンD製剤に加えて、PSL7.5mgを少なくとも3か月以上投与されている、FRAXに基づいて骨折リスクが高い、閉経後女性と50歳以上の男性にはビスホスホネート製剤や他の製剤を投与すべき。

●適切なワクチン接種を行う。

 

ANCA関連血管炎の臓器移植

●急速進行性糸球体腎炎と間質性肺炎は不可逆的な臓器不全を起こす2大症状である。

●腎移植はANCA関連血管炎の末期腎不全患者に効果的である。

●移植待ちの末期腎不全のANCA関連血管炎患者は腎移植により全ての死因リスクが70%、特に心血管イベントによる死亡リスクが低下する。

●推奨は様々だが、GFR<20ml/min/1.73m2で回復の見込みがない患者は透析を行う前に腎移植を考慮されるべきである。

●ANCA関連血管炎は少なくとも12か月は寛解を維持し、ANCA力価は移植前に陰性である事が必要。

●腎移植とは異なり、肺移植のアウトカムはあまり記載されていない。

 

ANCA関連血管炎とQOL

●ANCA関連血管炎はうつ病や不安症、QOLの低下と関連している。

●ANCA関連血管炎固有の患者報告アウトカム指標が開発されたため、今後はQOLの評価が可能となる。

 

新しい治療法

●ANCA関連血管炎の病因に補体の活性化が関与している事が指摘されている事を受けて、C5a受容体阻害薬であるアバコパンを寛解導入に使用する第III相試験が行われている。

CLEAR試験CLASSIC試験は第II総試験であるが、リツキシマブまたはシクロホスファミドとアバコパンを併用する事で有用性が示された。

CLEAR試験ではアバコパンにより、劇的なステロイド節約効果が示された。

●IFX-1(C5aに対するモノクローナル抗体)が第II試験中である。

●非重症GPA患者に対するアバタセプトの第III相試験も進行中である。

●グルココルチコイドの投与量と期間に関しても研究がされており、49人の研究ではリツキシマブとシクロホスファミドと2週間以内のグルココルチコイドを併用することで6か月で96%の患者が寛解に達したという(Rheumatology (Oxford) 2019; 58: 260-8.)。

●今後、PR3-ANCAとMPO-ANCAの陽性患者毎に治療に対して反応が異なるか解明される。

 

研究課題

●PR3-ANCA陽性患者とMPO-ANCA陽性患者では寛解導入と維持で異なるマネジメントをする必要があるか。

寛解導入と維持に用いられるグルココルチコイド用量の累積曝露量、期間を減らすメリットとリスクは何か。

●非重症ANCA関連血管炎患者に対するメトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブのそれぞれの有効性の比較。

●ANCA関連血管炎患者のQOL改善、心理社会的ニーズを満たす事が出来る介入はあるか。

 

【参考文献】

Wallace ZS, et al. BMJ. 2020 Mar 18; 368: m421. "Management of ANCA associated vasculitis."