リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

サイトメガロウイルス感染症の危険因子と発症予測因子

  移植ほどではありませんが、自己免疫性リウマチ性疾患を治療していて、免疫抑制が強すぎると、必ずやサイトメガロウイルス(CMV)の再活性化の心配が出てきます。

 

 CMVウイルスの再活性化はしばしば血液中の抗原が陽性となる事で判断しますが、陽性となったからと言って、必ず、CMV感染症を起こす訳ではないので、CMV抗原血症となったからと言って、全例でCMVの治療をすべきではありません。

 

 しかし、どんな患者であれば、CMV抗原血症からCMV感染症に発展するかは不明のままでした。

 

 今回ご紹介するのは、CMV抗原血症が陽性となった患者がCMV感染症を起こす、その危険因子を検討した論文です。

 

 

Introduction

● 免疫抑制患者でサイトメガロウイルス(CMV)感染症を発症すると、肺炎、胃腸疾患、肝炎、膵炎、中枢神経疾患、網膜炎、腎炎、膀胱炎、心筋炎など、多彩な合併症を併発し、死亡率が増加する。

●CMV感染は一次性感染、再感染、再活性化に分類できる。

ステロイドまたは免疫抑制薬を使用する自己免疫性リウマチ性疾患患者では再活性化に注意すべきである。

●一般的に確定診断には組織病理学的な所見が必要だが、しばしば困難であるため、代わりに、多形核白血球(PMN)のウイルス特異的タンパク質pp65抗原を検出するCMV抗原検査が広く使われる。

●ただし、CMV抗原血症は症状や臓器障害なしで出現する事がある。

CMV抗原血症の出現はCMV感染症発症前のCMV再活性化を検出する事に有益である。

●過去には臨床症状リンパ球減少症他の感染症の合併がCMV再活性化後の予後不良予測する因子であり、CMV pp65細胞痛が5.6/105PMNを超える患者は症候性である可能性が高い事が報告された(Rheumatology (Oxford). 2008 Sep;47(9):1373-8.)。

●しかし臨床的な特徴を含む危険因子を分析した報告はなかったため、この論文では自己免疫性リウマチ性疾患患者でのCMV感染症の危険因子を特定することを目的とする。

 

Materials and methods

●2008年1月から2016年12月まで。

京都府立医科大学のリウマチ科でステロイドまたは免疫抑制薬治療を受けた自己免疫性リウマチ性疾患患者

●過去の報告ではCMV再活性化は白血球のCMV pp65の検出を持って定義されているため、CMV pp65を用いた。

CMV感染症臨床症状または臨床経過中にCMVの再活性化により発生する臓器障害として定義された。症状、臓器障害がないものはCMV感染症として定義しなかった。

●様々な連続変数、定量変数データの関連性を評価するために、ロジスティック回帰モデルを使用してオッズ比を分析した。

 

Results

患者プロファイル

f:id:tuneYoshida:20200120232832p:plain

●382人の患者がCMV抗原血症検査を受け、80人がCMV pp65抗原血症が陽性となり、CMV再活性化と診断された。

●CMV再活性化患者の年齢の中央値は65歳(51.5~74.0)、男女比は1:2.2とやや女性に多い。

●自己免疫性リウマチ性疾患の内訳はSLE25人(31.2%)、PM/DM18人(22.5%)、ANCA関連血管炎13人(16.2%)、成人Still病9人(11.2%)、関節リウマチ4人(5.0%)、その他12人(15.0%)であった。

●治療薬については上記の通り、シクロホスファミドとシクロスポリンAが最多の14例(17.5%)、次いでタクロリムス11例(13.8%)、ミゾリビン10例(12.5%)、アザチオプリン6例(7.5%)、メトトレキサート1例(1.2%)。

●CMV感染症(N=27)の詳細は汎血球減少症および血小板減少症9例(33.3%)、肝炎8例(29.6%)、肺炎5例(18.5%)、胃腸疾患5例(18.5%)であった。

CMV再活性化からCMV感染症発症までの期間は10日(4~20日)であった。

 

CMV再活性化患者におけるCMV感染症の危険因子

f:id:tuneYoshida:20200120234544p:plain

●CMV再活性化された患者80人のうち27人(33.8%)がCMV感染症に発展した。

●多変量解析ではCMV感染症を引き起こすリスクとして口腔カンジダ(OR=8.82)血清アルブミン値(OR=0.81)CMV pp65陽性細胞(OR1.26)が独立した危険因子となった。

 

CMV感染症を予測するための血清アルブミン値のカットオフ値

f:id:tuneYoshida:20200120235701p:plain

●CMV感染症の予測因子に血清アルブミン値が重要である事は前述の通りだが、そのカットオフ値を求めた。

●その結果、左表より血清アルブミン値は30g/L(=3g/dl)が最もAUCが高い値となった。

●左図では血清アルブミン値が低いほど、CMV感染症の確率が上がる事が分かります。

 

各項目のカットオフ値を設定した場合のCMV感染症のリスク

f:id:tuneYoshida:20200120235757p:plain

●上記は血清アルブミン値(<3g/dl)とCMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)のカットオフ値を設定して、CMV感染症のリスクを分析したものである。

●上記より、調整なしの多変量解析モデル1では口腔カンジダOR6.49血清アルブミン値(<3g/dl)OR11.50CMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)OR5.82であった。

●年齢、性別、血清CRP、IgG、リンパ球数、プレドニゾロン投与量で調整したモデル2では口腔カンジダOR9.99血清アルブミン値(<3g/dl)OR11.40CMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)OR6.80であった。

 

3つのリスク因子を用いた場合のROC曲線

f:id:tuneYoshida:20200120235831p:plain

●口腔カンジダ、血清アルブミン値(<3g/dl)、CMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)の3つの危険因子を組み合わせると、CMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)単独よりもCMV感染症のAUC値が大きく、CMV感染症を予測する可能性が高い。

 

CMV再活性化前の検査データ変化に基づいたCMV感染症の予測

f:id:tuneYoshida:20200120235912p:plain

●上記の図はCMV pp65抗原血症が最初に検出された時よりも4週間前にさかのぼって、検査データの変化からCMV感染症を予測できるかを見たものである。

●上記より、単変量解析では血清アルブミン値(1週間で1g/L減少)リンパ球数(1週間で100/mm3減少)はCMV感染症と関連していた。それぞれORは1.40および1.27

●CMV pp65抗原血症が最初に検出される4週間前に年齢、性別、血清アルブミン値、リンパ球数を調整した多変量解析でも血清アルブミンリンパ球数はCMV感染症の発症を独立して予測した。

 

まとめ

●CMV再活性化とCMV感染症は意味が異なる。

●CMV再活性化=CMV pp65抗原血症が陽転化する事を意味するが、C7-HRPC10,C11を測定してCMV pp65陽性細胞が出現する事で診断する。無症候性が原則。

●一方、CMV感染症は厳密にはCMV抗原陽性細胞の数に関わらず臨床症状臓器障害が伴うもの(組織生検での証明を含む)を意味する。

CMV再活性化からCMV感染症発症までの期間は10日(4~20日)であった。

●CMV再活性化された患者80人のうち27人(33.8%)がCMV感染症に発展した。

●CMV感染症の危険因子として既報のCMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)に加えて口腔カンジダ血清アルブミン値(<3g/dl)が新たな危険因子として挙げられた。

 ●CMV再活性化(CMV抗原血症が出現する)前の血清アルブミン値(1週間で1g/L減少)リンパ球数(1週間で100/mm3減少)はCMV感染症の発症を予測する。

 →CMV感染症発症4週間前の採血で血清アルブミン値が低下したり、リンパ球数が低下する場合はCMV感染症が起こる可能性が少し上がる!!

 

本論文の注意点

●本論文ではCMV感染症CMV抗原血症+(臨床症状または臓器障害)とされており、内訳として血球減少が3割おりますが、これは薬剤性などが完全に除外されているか不明です。なので、CMV感染症の数が多く見積もられている可能性があります。結果でもCMV抗原血症の内、3割がCMV感染症となっており、感覚的に少し多いように思います。実臨床では感染症科の先生の中では、臨床症状+CMVの証明(組織生検)と解釈されています。

●CMV感染症のリスクとしてCMV pp65陽性細胞数(>5.6/105PMN)、口腔カンジダ、血清アルブミン値(<3g/dl)が挙げられましたが、これがあると感染症のリスクが上がりますがこれらがあるからと言ってCMV感染症になるという訳ではない事には注意して下さい。CMV感染症はあくまで上記定義を満たすかどうかで治療するかどうかを判断してください。判断に迷う場合は上記リスクの有無を使用しても良いかもしれません。本論文の主旨はあくまでもCMV感染症を満たさないCMV抗原血症を治療しすぎという注意喚起であって、CMV感染症のリスクがない場合は治療しなくても良いのではないか、という事を言いたいのです。

●CMV抗原陽性細胞のカウントが白血球10万あたりとなっておりますが、C7-HRPとC10,C11は5万あたりのカウントになっております。なので、本論文と比較しようとすると、実臨床の値を2倍しないといけません。ただし、『CMV抗原陽性細胞が5.6個/WBC10万だから、即治療!!、5個未満だから治療しない!!』という事にはなりません。上述同様、あくまでもリスクであり、このカットオフ値を超えるかどうかで治療すべきかという議論をしているのではありません。治療に関しては上記の通り、CMV感染症の定義を満たすかどうかで判断してください

●なお、C7-HRPは1回カウントですが、C10,11は2回カウントしているため、この二つを比較するときはC10,C11の2回の平均数とC7-HRPと比較するのが良いでしょう。

 

【参考文献】

Kaneshita S, et al. Mod Rheumatol. 2020 Jan; 30 (1): 109-115. "Risk factors for cytomegalovirus disease with cytomegalovirus re-activation in patients with rheumatic disease."