リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

リウマチ膠原病疾患毎のニューモシスチス肺炎発症リスク

ニューモシスチス・イロベチイ肺炎(PJP)はリウマチ膠原病疾患の治療を行う上で、常に考慮しなければならない真菌性肺炎です。

 

HIV患者での発症が有名ですが、リウマチ膠原病疾患を含めたnon-HIV患者の方が、一般に急速に進行し、予後不良と言われています(PMID=25148074)。

 

多くのリウマチ膠原病疾患で使用されるステロイドは、特に20mg以上を4週間以上使用する場合に、PJPの高リスクと言われています(PMID=28134084)が、疾患毎のリスクというのは、今まで言われておりませんでした。

 

今回は、まとめど先生(@tsukuchip)に教えて頂いたChestの論文をご紹介したいと思います。疾患はもちろん、治療薬毎のPJPリスクについても少し言及します。

 

 

疾患毎のPJPの発生率

f:id:tuneYoshida:20210214201005p:plainSLE: 全身性エリテマトーデス, RA: 関節リウマチ, GPA: 多発血管炎性肉芽腫症, PAN: 結節性多発動脈炎,

PM/DM: 多発筋炎/皮膚筋炎,

a) エビデンスレベルC: 専門家のコンセンサスまたは小規模の後ろ向き研究

b) CD4+<250/mm3のときに予防

c) 患者が次のスコアで5点以上の時に予防

→65歳=1点, 2種類以上の免疫抑制=1点, MTX≥6mg/週=1点, グルココルチコイド≥5mg=3点

 

上記表は過去のリウマチ膠原病疾患の臨床試験でPJPの発生率をまとめた表です。

各々の試験でPJP予防がされていたかは右端の列に示しております。

 

表からはSLERAなどでもそれほどPJPの発生率が高くない事がわかりますね。

 

しかし、発症した場合の死亡率は恐ろしい数字となっています…

 

興味深いのは、上の表には載っていないのですが、同じくステロイドを長期に使用する血管炎でも、巨細胞性動脈炎(GCA)ではPJPの発症リスクがそれほど高くないという事です。

 

ある7543人のGCA患者を含む研究では、PJPは7人(0.09%)にのみ発症しました(PMID=21240966)。

 

しかし、うち4人(57%)がICUに入室し、3人(43%)が人工呼吸器を要し、2人(29%)が死亡しており、罹患率自体は低いかもしれませんが、これも予後は決して良いとは言えない事が分かります。

 

別件ではサルコイドーシス585人の患者を含む後ろ向きコホート研究では3人(0.5%)だけPJPを発症しました(PMID=29245251)。

 

同じ膠原病・血管炎でステロイドを使用していても(予防あり)、PJPの発生率に差がある事は、原疾患の炎症などがPJP発症に関与している可能すら考えられますね。

 

治療薬のPJP発症リスク

グルココルチコイドと免疫抑制薬

免疫抑制薬の使用とPJP発症に関しては、興味深い報告があります(PMID=30639289)。

無治療、グルココルチコイド単独、免疫抑制薬単独、グルココルチコイド+免疫抑制薬でそれぞれのPJP発症率は以下の通りだったそうです。

 

CS: グルココルチコイド, IS: 免疫抑制薬

 

これを見ると、無治療よりも何らかの免疫抑制療法をしているとPJP発症率は上昇(CS alone: 0.01%, IS alone: 0.01%)しますが、グルココルチコイドと免疫抑制薬をそれぞれ単独で使用した場合では発生率は変わらず、両者を併用した場合にはPJP発症率が大きく上がる(CS+IS: 0.20%)事が分かります。

 

一方で、免疫抑制薬であるミコフェノール酸モフェチル(MMF)については、PJPに対してむしろ保護的な作用がある可能性が示唆されています(PMID=19497072/12060875)。

 

SLE患者でPJP罹患率が低い理由にMMFの使用があるのかもしれませんね。

 

生物学的製剤

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また、この論文では各疾患毎で使用された生物学的製剤のランダム化比較試験(RCT)でのPJP発生率についてもまとめてくれています。

 

これを見ると意外と生物学的製剤を使用していても、PJP予防をしていなくても、PJPの発生率がほとんどない事が分かります。

 

一番上だけPJPが大変多く発生しておりますが、これはAAVの寛解維持療法におけるリツキシマブとアザチオプリンを比較したMAINRITSAN1試験です。

 

したがって既にステロイドを大量に行かれた後だから仕方ない、と思っていましたが、実はこの表で黄色の所は新規発症の患者ではなく、長期に疾患を罹患している患者を対象とした試験なのです。

 

もちろん罹病期間はバラバラですが、SLEやRAでは全然PJPが発生していない事が分かります。RAではステロイドの使用量が少ないと考えられますが、SLEで予防していないのにも関わらず、全然PJPを発症していないのはやはりMMFのおかげなのでしょうか…

 

その他のリスク

リンパ球減少症

AIDS患者ではリンパ球数がPJPの予測因子として有名ですが、リウマチ膠原病疾患ではそれほど多く報告はありません。

 

かなり古い報告ではSLEで総リンパ球数350/mm3をカットオフ値として提案するケースシリーズ(PMID=1404153)もあれば、GPAでは治療前のリンパ球数が800/mm3未満と治療3か月後のリンパ球数が600/mm3未満がPJP発症リスクという小規模な後ろ向き研究もあります(PMID=8546533)。

 

リンパ球のサブセットに関してはAIDS患者ほど有用ではないようです。
 

間質性肺疾患

SLEと皮膚筋炎・多発筋炎患者では総リンパ球数に加えて、間質性肺病変がPJP発症予測因子になるという小規模な後ろ向き研究があります(PMID=8823690)。

 

関節リウマチではメトトレキサート療法に加えて、65歳以上肺疾患がリスク因子として報告されています(PMID=28925305)。

 

また別の報告でも高齢に加えて、肺の構造異常がある場合にPJP発症リスクが高まる事が報告されています(PMID=23212592)。

 

驚くべきことに、上記の2つの報告はいずれも日本からの報告であり、RAでは基本的にPJP発症リスクは高くないと考えられますが、日本では報告が目立ちます。

 

結局PCP防をどうするか

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筆者らは上術の結果をもとに独自に上記の様な推奨を出しています。
 

SLEでは PJPのリスクは高くない上、スルファメトキサゾール-トリメトプリム(ST)の副作用が高率である事が知られています。2016年の報告では抗SSA抗体が陽性の患者では副作用の発生率が高い事も知られています(PMID=26587755)。

 

MMFがPJP発症予防効果があると言われているので、もしかするとそれほど予防しなくても良いかもしれませんが、起こったときのアウトカムはあまり良いものではないので、やはり予防ができるのであればした方が良いですかね。

 

【参考文献】

Amine Ghembaza, et al. Chest. 2020 Dec; 158 (6): 2323-2332. "Risk Factors and Prevention of Pneumocystis jirovecii Pneumonia in Patients With Autoimmune and Inflammatory Diseases" PMID=32502592