リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

いつやめる?ニューモシスチス肺炎の予防

ニューモシスチス肺炎の予防はリウマチ膠原病疾患ではしばしば重要な検討事項です。

 

しかし、一度予防投薬を開始すると『いつ止めるか』という事が頭を悩ます問題になります。

 

予防の中止に関してはHIV患者ではCD4陽性リンパ球数などを参考に行っている報告はいくつもありますが、リウマチ膠原病疾患ではほとんど報告がありません。

 

本日ご紹介するのは、米国感染症学会(IDSA)のメンバーの先生方にニューモシスチス肺炎の予防に関して取ったアンケート調査の論文です。

 

特に感染症の先生が『リウマチ膠原病疾患でいつ予防をやめるか』についても統計を取られており、今後の参考になるかもしれません。

 

 

Background

このアンケート調査の詳細な内容は以下の7つの質問です。2016年9月7日から2016年10月3日までの間に新興感染症ネットワーク(EIN)の感染症科医メンバーに対してメールで送られたものになります。

 

このEINはアメリカ、プエルトリコ、カナダの米国感染症学会のメンバーで構成されるネットワークだそうです。

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Result

回答者の背景

1264人にアンケート調査メールが送られ、631人(50%)が回答しました。この中で非HIV患者に対してPJP予防をすると答えた感染症科医は362人(57%)のみでした。

以下に回答をした631人、回答しなかった633人、PJP予防をすると答えた362人のCharacterを示します。

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回答者の感染症フェローシップ終了後のキャリアですが、5-14年目、25年以上と割とベテランが多い印象でした。これはPJP予防を行うと回答した医師でも同じ傾向です。

一番多かった職場は大学や医学部でした。病院のタイプも大学病院が多かったです。

 

どの膠原病疾患にPJP予防をする?

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『予防をする 』と回答した362人の感染症科医に『20mgのプレドニゾロンを最低3か月以上使用する場合にPJP予防を行う疾患』について質問した結果が上になります。複数選択できるので合計は100%を超える場合があります。

 

半数を超えるのは多発血管炎性肉芽腫(GPA)だけです。ループス腎炎も4割を超えていますが、その他は3割台と、意外と予防しないのだと分かります。

 

どの疾患でも予防しないという医師も7%いる事に驚きましたが、93人(26%)は全ての疾患で予防を行うと回答しました。なお分からないと回答したのは127人(35%)と最多でした。

 

どの免疫抑制療法ならPJP予防をする?

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続いて『どの免疫抑制療法ならPJP予防を行うか』という質問に対して回答したものが上になります。

 

プレドニゾロン20mg以上を3か月以上ならば9割近い感染症科医はPJP予防を行うようです。しかし、興味深いのはそのステロイド量と免疫抑制薬を併用した時にはPJP予防を行うと回答した感染症科医の割合が減少している事が分かります。

 

ただし、一番多い回答のパターンは『高用量プレドニゾロンを含むすべての免疫抑制療法』でこれは回答者の49%(179人)だったようです。

 

これは、プレドニゾロン単独や免疫抑制薬単独よりも両者を併用した方がPJPの発症リスクが高いという報告に矛盾しません(PMID=30639289)。

 

PJP予防の判断に血液検査を用いるか?

報告によっては膠原病疾患でも総リンパ球数がPJP発症の予測因子になるというものがありますが、本アンケート調査では79%の感染症科医は総リンパ球数やCD4陽性リンパ球などの代理血液検査マーカーはPJP予防の判断に有用ではないと判断しています。

 

代理血液検査マーカーが有用だと回答した76人(21%)のうち、CD4陽性リンパ球が有用だと回答したのは48人(63%)でした。

 

PJP予防はいつになったらやめるか?

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回答者の65%がPJP予防をやめる主要な決定因子としてステロイドの用量を選択しています。用量に関しては20mg以下(16~20mg)が半数のようですが、その次には10mg未満が3割でした。

My comments

感染症科医でも意外と予防しない人が4割るいるのだと驚きました。

●疾患では以前のまとめ同様GPAやループス腎炎がやはり治療法に関わらず予防対象になりそうですね。
●『PJP予防をいつ中止するか』というのは大変興味深い質問だと思いましたが、治療法ばかりに着目した質問事項となっている印象でした。PJP予防の中止を考慮する指標としてプレドニゾロン20mg以下を選択する感染症科医が半数でしたが、他のリスクである『年齢』『肺疾患』なども考慮して欲しかったなと思いました。

ステロイドの用量だけで言えば、他にリスクがなければ15mg未満になったときにPJP予防を中止する事を提案する感染症科医もいます(PMID=29459427)。

→日本人の場合は体重が軽いので欧米での15mgではなく、10mgが一つの指標ではないかと私は思います。もちろんこれは何のリスクもない若年患者に限った事ですが。

→高齢で肺疾患がある場合はたとえPSL5mgを切ったとしてもPJP予防は続けるべきだと思います。

●このアンケート調査の個人的な最大の重要ポイントは質問7にリウマチ膠原病疾患のためのPJP予防ガイドラインは必要か?と聞いているところです。

これに対して89%の感染症科医は必要と答えています。このアンケートが実施されたのが2016年で、論文が報告されたのが2019年ですので、そう遠くないうちに予防ガイドラインが発表されるかもしれません。そのガイドラインを作成する方々はIDSAメンバーだと思いますし、少なくともこのアンケート調査でその半数はリウマチ膠原病疾患でPJP予防は不要と答えている訳です。必要と答えた先生でもPSL量を含めた治療に重きを置いています。日本では医師毎に予防に対して様々な考え方がありますが、もしPJP予防ガイドラインが出たからといって、それをそのまま日本でも適応すべきかに関しては疑問が残ります。海外でガイドラインが出たら右に倣えの日本ですが、ACR、EULARのものと同様、どこを利用し、どこは本邦ないしは自身のやり方で通すのかはしっかり定めて欲しいと思います。

 

【参考文献】

Rachel M Wolfe, et al. Open Forum Infect Dis. 2019 Jul 12; 6 (9): ofz315. "Practice Patterns of Pneumocystis Pneumonia Prophylaxis in Connective Tissue Diseases: A Survey of Infectious Disease Physicians" PMID=31660399