リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や滑液包炎はPMRに特異的?

リウマチ性多発筋痛症(PMR)のエコー所見と言えば、上腕二頭筋腱の腱鞘滑膜炎や肩関節の肩甲下・三角筋下滑液包炎が有名です。

 

2012年のEULAR/ACRの分類基準でもエコー所見項目が含まれているぐらいです。

 

 PMR EULAR/ACR 2012年 分類基準

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関節エコーなし:4点以上でPMRと分類

関節エコーあり:5点以上でPMRと分類

 

しかし、この上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や肩の滑液包炎は本当にPMRに特異的な所見なのでしょうか?

 

PMRの最大の鑑別と言えば、関節リウマチ、特に高齢発症関節リウマチ(EORA)です。

 

以前に両疾患の区別方法についてまとめましたが、PMRは末梢性関節炎を呈する事が少ないなどを点を除けば、これらの区別は至難の業です。

 

今回少し古いですが、PMRとEORAの関節エコーの所見の違いを比べた日本からの論文がありますので、ご紹介したいと思います。

 

 

治療開始前のPMR(2012年EULAR/ACR分類を満たす)とEORA(2010年ACR/EULAR分類を満たす)、それぞれ15名の患者(30肩)に関節エコーを当てて違いを比較した研究です。

 

この論文では肩関節炎のエコー所見はSOLARスコア(PMID=22183834)、上腕二頭筋長頭腱炎OMERACTの定義(PMID=22183834)を使用しており、滑液包炎に関しては滑膜増生は(0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度)、血流信号は(0=なしまたは最小限、1=軽度または単一の血流信号、2=中等度または合わさった血流信号、3=滑膜領域の50%を超える重度の血流信号)と主観的な指標を元に分類しています。

 

患者背景

さて、患者さんの概要が以下です。EORAでは末梢関節病変RF・抗CCP抗体陽性が多い事が分かります。またEORAの6割がPMRの分類基準を満たす事が分かります。

 

またEORAでRFまたは抗CCP抗体が陽性なのは40%で残りの60%が血清反応が陰性のSeronegative EORAという事になります。

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PMRとEORAの3種類の肩病変の血流信号と滑膜増生スコアの分布

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上記はそれぞれ15名(30肩)のPMRとEORA患者で①上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)の滑膜増生(GS)、血流信号(PD)のスコアを比較したものです。

 

これを見ると、PMRに特徴的だと言われている滑液包での滑膜増生(PD)、血流信号(GS)がEORAで有意にスコアが高い事が分かります。

 

つまりは滑液包炎はPMRに特異的な所見でないうえに、EORAの方でより重要度が高いという事です。

 

その他、上腕二頭筋腱や肩関節では有意差はありませんが、例えば滑膜増生(GS)血流信号(PD)の『スコア3(より重症)』は圧倒的にEORAで高い事が分かります。

 

PMRとEORAの肩の全滑膜病変スコアの差

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上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)は滑膜が主体の病変ですが、滑膜増生(GS)、血流信号(PD)のスコアの合計をSSS(肩滑膜炎スコア)と定め、両肩を合計したものをPSSSとしたところ、やはりEORAで肩の全滑膜病変のスコアがPMRよりも高い傾向にある事が分かります。

 

このようにEORAでより上腕二頭筋腱や滑液包、肩関節の関節エコースコアが重症なのは、関節リウマチでは滑膜増生に伴う滑膜炎が起こるのに対して、PMRでは滲出性の滑膜炎が起こるためと考えられています。

 

PMRとEORAの肩甲下筋腱の血流信号の差

次に筆者らは①上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)などの滑膜を有する部位以外の滑膜外組織の血流信号に着目しました。

 

従来より筆者らは肩甲下筋腱の前面の血流信号がPMRで目立つことに気が付いており、これがPMRの特徴的な所見になるのではないかと考えていたよう。今まで滑膜外軟部組織(肩甲下筋腱前面)の炎症を半定量するためのスコアがなかったため、独自に定めています(以下Bil-HSScTS)。

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Score 0:血流がないか、最小限

Score 1:単一の血流ドットまたは評価領域の半分の長さより短い線形信号

Score 2:長い線状信号または評価領域の半分の長さより短いゾーンのある信号

Score 3:長いゾーンのある信号

 

滑膜外軟部組織(肩甲下筋腱前面)の炎症スコア(Bil-HSScTS)を肩滑膜炎スコア(PSSS)で割ったところ、PMRで有意に高い値を示しました。

 

これはPMRで肩関節の滑膜病変のスコアよりも肩関節外の軟部組織炎症スコアが高い事を意味しています。

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 PMRでは肩甲下筋腱の血流信号がEORAよりも目立つ、すなわちPMRでは肩関節滑膜外組織の炎症が首座である可能性があるという事を示しています。

 

ちなみにMRIでPMR患者の肩関節周囲の軟部組織の炎症が顕著である事から(PMID=25698371)、炎症の首座が関節外の軟部組織であると報告しているグループもいます(PMID=11508586)。

 

My comments

●PMRの上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や滑液包炎などのエコー所見は特異的ではありません

●2012年のEULAR/ACRの分類基準もエコー基準は関節リウマチとPMRを区別するためのものではなく、PMRと非リウマチ疾患を区別するためのものです。

●以前よりMRIなどで肩関節周囲の滑膜以外の軟部組織の炎症が関節リウマチとの大きな差であると指摘されておりました。

●今回は関節エコーでスコアを作成する事でそれを間接的に証明しております。

●ただし、PMRの炎症の首座が滑液包の滑膜なのか、それ以外の軟部組織なのかはまだ結論が出ていません。

●興味深い事は上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)などの滑膜炎が関節リウマチで高い重症傾向にあるという事です。

PMRが滲出性滑膜炎であるのに対して関節リウマチが増殖性滑膜炎である事が原因と考えられておりますが、興味深いです。

『末梢性関節炎、足のMTP関節炎がある場合は、PMRよりもRAを疑う』というパールに加えて『画像所見で軟部組織(特に肩甲下筋腱前面)の炎症が強い場合はPMRを考え、滑液包や腱鞘、関節の滑膜炎所見が派手な場合はむしろRAを考える』という新しいパールができそうです。

 

【参考文献】

Takeshi Suzuki, et al. Biomed Res Int. 2017; 2017: 4272560. "Semiquantitative Evaluation of Extrasynovial Soft Tissue Inflammation in the Shoulders of Patients with Polymyalgia Rheumatica and Elderly-Onset Rheumatoid Arthritis by Power Doppler Ultrasound" PMID=28293635