関節リウマチの発症に関わる環境因子
関節リウマチの発症には遺伝因子と環境因子が関わると言われています。
遺伝因子は特に1親等(自分の親と子+兄弟:兄弟は法律上は2親等だが、生物学的には1親等に当たる)に関節リウマチ患者がいる場合はリスクが高まりますが、そうは言ってもこれだけで発症するというわけではなく、環境因子と相まって発症する可能性が指摘されています。
それならば予防できる可能性がある環境因子に着目してみよう、というのが今回のテーマです。
早速ですが、以下に環境因子をまとめます。
これらは今までに報告が上がっている因子のまとめになります。こうしてみると絶対にこの因子を取り除くと良い、あるいは取り入れると良い、と言えるほど研究が進んでいるものはなさそうです。
しかし中でも、喫煙と様々な粉塵曝露はリスクが高いです。喫煙の関節リウマチに影響を与える機序については以下をご覧ください。
これらの外因性の異物が気道で自己蛋白のシトルリン化を亢進させる可能性が示唆されています。シトルリン化蛋白質は抗CCP抗体(抗シトルリン化蛋白質抗体)の抗原でもあるため、自己抗体陽性化に関与する可能性があります。
ホルモン因子では、母乳栄養は多くの研究では関節リウマチのリスクを下げるとされていますが、すべての研究で同じ結果というわけではありません。
経口避妊薬は長期に使用していると、抗CCP抗体陽性の関節リウマチの発症リスクが下がるとされていますが、これもさらに研究が必要です。
食事に関しては脂の多い魚食がリスクを減らすことが言われています。脂の多い魚というと、EPAやDHAなどのω-3脂肪酸が多いマグロ、さけ、サバ、ブリ、さんま、いわしなどでしょうか。これらの摂取を推奨するには、もう少し追加研究が必要な所です。
適度なアルコールもリスクを減らすとされていますが、これはNF-κB依存性の炎症経路を抑制するためと言われています(PMID=17185416)。
肥満も関節リウマチのリスクに上がるとされています。これは脂肪細胞から分泌される肥満の抑制に関わるレプチンというペプチドホルモンが血液中の濾胞性ヘルパーT細胞を増やし、さらにはSTAT1、STAT3経路を介して、IL-6、IL21、IL12などのサイトカイン分泌を亢進させるため、と考えられています(PMID=29377743)。
ウイルス感染に関してはいくつか疑わしいウイルス(パルボウイルス、EBV、HCVなど)が言われていますが、どれも決め手に欠けます。
一方で歯周病の原因菌でもあるPorphyromonas gingivalisは、局所で自己抗原のシトルリン化を媒介する酵素を活性化させる機序が言われており、これによりシトルリン化蛋白質ができ、抗CCP抗体が産生される可能性が示唆されています。
その他、同じ歯周病菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansや、腸内細菌であるPrevotella copri, Lactobacillusも自己免疫を惹起する可能性があります。
腸内細菌がある一定の菌種に偏る腸内細菌のDysbiosisが起こる事で、関節リウマチに関わらず、様々な自己免疫性疾患の発症のきっかけになる事が研究されており、結果が待たれます。
さて、上記の因子がどのように関節炎を起こすか、のまとめです。
例えば、歯や肺に関わる様々な環境因子は局所での自己免疫反応に寄与します。具体的には抗CCP抗の抗原となるシトルリン化蛋白質を産生し、これに対する抗シトルリン化蛋白抗体が産生されます。さらには神経シグナルや腸内の自然免疫が関節炎の発症に関与します。
これを分子学的に見ると、繰り返しになりますが、歯や肺などの局所で特定の物質や菌に曝露されると、自己蛋白のシトルリン化が促進されます。このシトルリン化自己蛋白に対して免疫寛容が破綻し、抗シトルリン化蛋白抗体が産生されると、その抗体は関節で例えば破骨細胞、マクロファージなどを活性化させたり、好中球にNETosisを起こしたりして、炎症を惹起します。
【参考文献】
L Klareskog, et al. J Intern Med . 2020 May; 287 (5): 514-533. "The importance of differences; On environment and its interactions with genes and immunity in the causation of rheumatoid arthritis"