リウマチ因子(RF)~役割と他の疾患での陽性率~
健康診断の血液検査の項目に『リウマチ因子(RF)』がある影響で、しばしば『RF陽性』という紹介が来ます。
確かに関節リウマチの診断の役に立ち、予後に関連すると言われておりますが、関節リウマチ以外にも多数の疾患で陽性となり、さらに健常者でも一定の割合で陽性になり、果たして本当にスクリーニングする意味があるのか、疑問です。
今日は、RFの役割と関節リウマチ以外の疾患での陽性率についてまとめた論文をご紹介します。
以前、抗CCP抗体の関節リウマチ以外の疾患での陽性率についてお伝えしました。こちらも併せてご覧ください。
歴史
●Waalerは1940年にウサギの抗体を亜凝集させることによって感作されるヒツジの赤血球の凝集を促進する血清ガンマグロブリンに対する抗体を発見した(PMID=17504400)が、実際は1922年にKurt Meyerが慢性気管支炎と肝硬変患者で見つけたのが最初である。
●1948年にRoseが関節リウマチ患者でその抗体を発見し(PMID=18863659)、1952年に『Rheumatoid factor:RF』と命名した(PMID=15398122)。
RFの役割
●関節リウマチにおいては発症予測(発症の2年前から陽性)、診断(分類基準の1項目)、予後予測(予後不良因子)、薬剤反応などに有用である可能性がある。
●関節リウマチ患者では高親和性RFが産生されるが、感染症などでは低親和性RFが産生される。
●感染症における低親和性RFの役割については、いくつかの仮説がある。
①マクロファージによる免疫複合体除去能力を高める能力(PMID=4599390)
②抗ウイルス抗体の細胞毒性の改善(PMID=12408052)
③寄生虫の除去(PMID=15103252)
●また、RFは樹状細胞による外因性抗原との免疫複合体の取り込みや、他のB細胞よりも効率的な抗原提示細胞であると思われるRF陽性B細胞によるT細胞への抗原提示を増強することも示唆されている(PMID=9257834)。
●大量の低親和性RFの分泌が、より高親和性のRFを産生するB細胞の活性化を防ぐ可能性もある。
RFの種類
●RFにはIgM型、IgG型、IgA型の3つのアイソタイプと、稀だがIgE型、IgD型もある。
●RFと言えば、一般的にはIgM型を示す。
●関節リウマチ患者ではIgM、IgG、IgA型の3つが最大で52%で検出されるが、他の結合組織病でも5%未満で検出される。
●IgM型RFがない場合のIgAやIgG型RFアイソタイプの存在は関節リウマチよりも他の結合組織病患者で一般的だが、IgM型とIgA型RFの両方の増加は、ほぼ関節リウマチ患者でしか見られない(PMID=9833253)。
健常者におけるRF陽性
●過去の報告では白人では4%前後の陽性(PMID=22956591/22829412)とされている。
●北米インディアンの部族では最大30%の陽性率が観察される(PMID=8343181)。
●健常者でみられるRFは低親和性でCD5陽性B細胞から産生され、poly-reactive IgMで、成熟する徴候が見られず、根本的に関節リウマチ患者のそれとは異なる(PMID=9079816)。
●RF(IgM型)は高齢者でも見られ、加齢に関連した免疫制御の緩和の結果と考えられる(PMID=19460147)。
RFが陽性になる疾患
●感染症で検出されることもあるが、低親和性でCD5陽性B細胞から産生され、通常は一時的で害はない。
●RFは通常はIgMだが、病原体に結合するIgGと抗原抗体複合体を形成することで、病原体のクリアランスを高める可能性がある。
●また、RF高値は、そもそもそれを産生するB細胞が活性化している事を意味する。
RFが陽性の時のマネジメント
●HCVで高率にRFが陽性となるが、流行地ではRF高値の際には抗HCV抗体を測定する必要がある。
※この論文では抗HCV抗体の測定を押していますが、罹患率が低い場合は測定する必要はないです。むしろC型肝炎ではII型クリオグロブリン血症を合併するときはRFはほぼ100%陽性になります。
※我々の領域だと、『RF陽性の方』がいらしたら、リウマチ膠原病疾患の問診と身体所見を一通り行いますが、シェーグレン症候群のRF陽性率が著明に高いため、口渇や目の乾燥などのSicca症状がないかをしっかり聞くようにします。シェーグレン症候群でもII型クリオグロブリン血症を合併しますので、関節リウマチ以外のRF高値の原因として、上記のC型肝炎に加えて、シェーグレン症候群、II型クリオグロブリン血症はおさえておきましょう。また、シェーグレン症候群ではRF高値はリンパ増殖性疾患に関連すると言われています。
ちなみに
●シェーグレン症候群では初発で60%でRF陽性で、男性は女性よりもIgA型RFが高い(PMID=15229956)。
●シェーグレン症候群で5%に発生するといわれるリンパ増殖性疾患の病因に活性化されたRF産生性のB細胞クローンの疾患関連形質転換が関与する(PMID=15110228)。
●シェーグレン症候群では一般的にポリクローナルRFが高力価であるが、リンパ増殖性疾患やII型クリオグロブリン血症の時にはモノクローナルRFが高力価となる(PMID=12375308)。
【参考文献】
Francesca Ingegnoli, et al. Dis Markers. 2013; 35(6): 727–734. "Rheumatoid Factors: Clinical Applications"