リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

NPSLEの認知機能障害は血液脳関門の漏出と関連する可能性!?

認知機能障害は全身性エリテマトーデス(SLE)の神経精神症状の一つです。そのメカニズムには血栓性脳血管虚血、脳に対する自己抗体、補体活性化が挙げられています(PMID=29927108)。

 

これら自体が血液脳関門に傷害を加える可能性があり、それによって血液内の神経毒性のある物質が脳へと届いてしまう結果、神経精神症状が起こると考えられてきました。

 

動物実験モデルでは血漿蛋白質(アルブミン、トロンビン、活性化プロテインCなど)、さらには自己抗体が血管外、脳組織へと漏出して、神経炎症、神経変性を起こすという事が知られています。

 

しかし、ヒトでは理論こそあれど、それの証明はされていませんでした。

 

今回ご紹介するのは、ニューロイメージング技術を用いて、血液脳関門の漏出を同定し、それが認知機能障害に関連する事を示した論文です。

 

 

患者背景

65名のSLE患者(1997年のACR分類基準を満たす)と健常者9名を比較しています。

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白人女性がほとんど9割を占め、罹患年数の平均値は15年。今まで神経精神症状を呈したことがあるのは77%でした。神経精神症状がSLEに関連していたのは23%でした。

 

 

血液脳関門からの漏出の可視化

次に示すのは、血液脳関門からの漏出を画像的に解析したものです。

Aでは健常者とSLE患者の脳のMRIを示しています。赤い部分血液脳関門からの漏出を示す部分です。

 

こうして見ると同じSLE患者でも1番から3番の患者さんのように漏出が少ない方4番から6番の患者さんのように漏出が多い方がいる事が分かります。

 

Bはそれらを統計的に比較したものです。健常者と比較するとSLE患者全般で血液脳関門からの漏出が有意に多い事が分かります。しかし、SLE患者を漏出が少ない方と漏出が多い方に分けると、漏出が少ない方は漏出割合がほとんど健常者と変わらないのに対して、漏出が多い方は有意に漏出割り合いが高い事が分かります。

 

つまり、血液脳関門の漏出はSLE患者全体ではなく、一部の方がものすごく漏出しているという事が分かります。

 

 

血液脳関門漏出量と灰白質

次に脳の灰白質の量を23の領域で比較したものをお示しします。

白枠▢は健常者、赤枠▢はSLEで血液脳関門からの漏出が少ない方、赤塗■血液脳関門からの漏出が多い方です。

 

こうして見ると、血液脳関門からの漏出が少ないSLE患者は脳の灰白質量は健常者とほとんど変わりませんが、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は灰白質量が有意に少ない領域がある事が分かりました(A)。

 

Bでは血液脳関門からの漏出を比較していますが、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は脳の23領域全てで、健常者や漏出が少ないSLE患者と比べて違いがある事が分かりました。

 

 

血液脳関門漏出量と認知機能障害

続いて、認知機能障害についてお示しします。

Aは様々な認知機能を示しております。SLE患者で血液脳関門からの漏出が多い方は少ない方と比べて遅延想起が悪く(左から4番目: Delayed recall)、平均の認知機能のスコアが低い事が分かります(一番左: Mean cognitive score)。

 

Bでは血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は認知機能試験で1つ以上間違う率が高い事が示されています。

 

以下に血液脳関門からの漏出が多いSLE患者と少ない患者の交絡因子をお示しします。

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これを見ると、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者では喫煙者が有意に多い事が分かります。

 

My comments

●今回の結果は、あくまでもSLE患者の一部に血液脳関門からの漏出が多い方がおり、血液脳関門からの漏出が多い事は、灰白質量の減少と認知機能障害と関連する可能性がある事を示したものです。

●これは血液脳関門の障害が存在する事を示した初めての論文です。

血液脳関門が傷害されていると、血液内の有害物質が脳に到達し、神経精神症状を引き起こす理論が成立するわけです。

●シンプルな研究で大きな結果(仮説の証明)を導き出した事はすごいです。

血液脳関門からの漏出が多い方に喫煙者が多い事は、たばこによって血管の障害が起こっている可能性が示唆されます。

●SLE患者さんが全員神経精神症状を起こすという事を示すものではなく、過剰に心配する必要はありません。

 

【参考文献】

Lyna Kamintsky, et al. Ann Rheum Dis . 2020 Oct 1;annrheumdis-2020-218004. "Blood-brain barrier leakage in systemic lupus erythematosus is associated with gray matter loss and cognitive impairment" PMID=33004325