リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

SLE患者の死亡に関わるリスク因子

早期診断と強化治療のおかげでSLE患者の5年生存率は1950年代の50%(PMID=13233308)から1990年代以降では90%以上となりました(PMID=10817773/★22257558/25057036)。

 

今までもSLE患者の死亡率に関連するリスク因子についての報告がありましたが、つい最近イギリスから報告されたものをご紹介します。

 

 

4356人のSLE患者と年齢と性別を一致させた21845人の健常者をマッチさせています。SLE患者の平均追跡期間は6.4年、対照群は6.6年でした。

 

患者背景

以下にベースラインの患者背景を示します。

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●SLE患者は対照群よりも心不全虚血性心疾患脳血管イベント痙攣腎疾患の既往が多い。

●SLE患者ではグルココルチコイドマラリアアザチオプリン抗痙攣薬抗うつ薬抗不安薬ビスホスホネート製剤ビタミンDなどが多く使われていた。

 

患者背景別死亡ハザードリスク

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●4356人のうち、442人のSLE患者が研究期間中に死亡(死亡率10.1%、平均追跡期間6.4年)。

●健常者と比較して死亡ハザードリスクは1.8倍(95%CI 1.57-2.08)。

●40歳未満の年齢が若い患者では死亡ハザードリスクは4.87倍(1.93-12.32)。年齢が上がるにつれてハザードリスクが低下する傾向であった。

 

※若年ほど、死亡リスクが高い!と思われるかもしれませんが、そもそも若年健常者ではほとんど死亡しないため、どうしてもSLE患者でリスクが上がってしまうと考えると良いでしょう。年齢が上がるにつれてリスクが下がっているように見えますが、これは単に健常被験者でも死亡が多くなるためです。80歳以上でリスクが最も低いのは、そもそも80歳以上のSLE患者が少ないことも関係すると考えられます。

 

●性別では女性の死亡ハザードリスクが高い傾向だが、性差はなし。

 

原因別ハザードリスク

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潜在的な交絡因子(痙攣の既往、腎疾患、最近のグルココルチコイド・抗マラリア薬または糖尿病薬の使用)の調整後、心血管疾患感染性・非感染性呼吸器疾患事故や自殺に起因する死亡の死亡率はSLE患者で増加。

●一方、癌の死亡率は低下した。

 

治療・併存症別ハザードリスク

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●治療強度が低い患者では死亡ハザードリスクが高い傾向。

累積グルココルチコイド治療死亡率の増加と関連。

ヒドロキシクロロキンの使用死亡率の低下と関連したが、累積暴露量が最も少ない患者でのみ有意だった。

●SLE患者では認知症痙攣腎疾患糖尿病薬の使用(糖尿病)悪性腫瘍の併存の全てが死亡リスクの増加と関連していた。

 

まとめ

●SLE患者では健常者と比較すると1.8倍死亡率が増加。

●年齢が若いほど、全身性グルココルチコイドへの累積暴露が増加するほどハザードリスクは増加。

●死亡リスクは低用量のヒドロキシクロロキンの使用で45%低下する。

心血管疾患感染性・非感染性呼吸器疾患事故や自殺に起因する死亡の相対死亡率が増加。

●さらに認知症痙攣脳血管イベント腎疾患糖尿病によって疾患経過が複雑化したSLE患者では健常者と比較して死亡リスクが増加したが、悪性腫瘍に起因する死亡の相対リスクは低下。※ただし、SLE患者の26.2%の死因が悪性腫瘍。

 

※繰り返しになりますが、 SLE患者の5年生存率は1950年代に50%だったものが、早期診断と強化治療のおかげで、1990年代以降では90%以上に改善しております。しかし、その数少ない死亡をさらに減らすべく、そのリスク因子を統計的に解析したものが今回の結果です。上のリスクががあるかと言って、死亡する確率が高いというわけではないので、過度な心配はご無用です。

 

【参考文献】

Irene E M Bultink, et al. Rheumatology (Oxford) . 2020 Jul 12;keaa267. "Mortality, causes of death and influence of medication use in patients with systemic lupus erythematosus vs matched controls"