リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

SLEの予防と治療戦略~Nature Review Rheumatology 2019~

2019年はSLE関連の論文が刷新された記念すべき年でした。

 

SLE、抗リン脂質抗体症候群に対するEULARのRecommendationも改訂され、さらにLancetやNature Review Rheumatologyなどの有名雑誌からもSLEの予防や治療戦略についての総説が続々と発表されました。

 

その中でも特に秀逸であったNature Review Rheumatology 2019SLEの予防と治療戦略の総説を以下にまとめました。

 

EULARのRecommendationでも書かれていなかった、予防や寛解後の薬剤の中止基準などが書かれており、日常診療の助太刀になる事間違いなしです。

 

なお、EULAR Recommendation 2019についてはこちらをどうぞ。

 

分類基準

 

 

 

 

早期診断の重要性

●SLEの発症から診断までの遅延時間は1980年以前50か月までだったが、抗核抗体(ANA)アッセイが利用できるようになってから、2000年には6~25か月と短縮している。

●しかし、自己免疫学的異常(自己抗体)は臨床的にSLEが発症する10年前から出ることがあり、診断の遅延に関わる(★PMID=14561795)。

●特異的な抗体(抗ds-DNA抗体など)はあるが、感染症や悪性腫瘍、高齢者集団で偽陽性になる可能性があるため、注意が必要である。

●SLEの早期診断ができると、患者の予後改善のために適切な時期に治療を行う事ができ、治療に対して早期反応が得られる事で、臓器障害の程度を最小限にし、疾患の進行を弱める事が出来るため、重要である。

●9000人以上のSLE患者の後方視的なコホート研究では発症6か月以内に診断された患者群では、再発の頻度入院の頻度SLEに関連した費用は発症後診断まで6か月以上かかった患者よりも低かったという報告がある(PMID=24573911)。

●ループス腎炎では腎生検が遅れると、その結果、治療が遅れ、腎不全や死亡を含む腎有害事象のリスクが上昇する事が分かっている。

●臨床的SLEになる前のIL-5、IL-6、IFNγ、IFNαなどのサイトカインは、将来の疾患発展を予測するものではないため、測定の意義は限られている。

●早期であるほど、疾患特異的な要素が少なくなるため、SLEのmimicker(以下)を除外する事が大事。

 

※ここではSLEの早期診断がいかに大事であることを謳っておりますが、発症の10年前から自己抗体の出現を認め、特異抗体と言えども、他の状態で陽性になるため、注意が必要であると喚起しています。以下のSLE mimickerの検討が必須です。

 

SLEのmimicker

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予防戦略

●早期診断、早期治療に加えて、予防戦略はSLEを発症するリスクがある個人に適応されるべきである(1次予防)。

●また、SLEと既に診断された患者では疾患の増悪(2次予防)や進行(3次予防)を予防する必要がある。

併存疾患は最終的な死因の一部になるため、これらに対する治療も、最も重要な事項の一つである。

 

SLE予防戦略の全体像

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●2次予防、3次予防はSLE患者だけでなく、不全型SLE(診断基準は満たすが、分類基準は満たさない)患者に対しても行う。以下に詳細を示す。

併存疾患の予防はSLEの診断がついた時から始めるべきである。

●早期に予防戦略をとる事で臓器障害の進行を避ける事が出来る。

 

※SLEは分類基準こそ3つありますが、診断基準はないように思います。ここで言う診断基準はACR1997年や2012年SLICCの分類基準を指すものと考えられます。同じ年に2019年の分類基準も出ました。

 

1次予防

無症候性患者に対する追加検査と予防

●無症候性でも自己抗体が陽性の患者を他のリスク因子(高γグロブリン血症やC3、C4値低下またはSLEの家族歴)に応じて層別化する事は疾患の進行の可能性を評価するために有効かもしれない。

●低力価のANA陽性者では追加の精査は必ずしも必要はない。

持続する高力価のANA陽性者(>1:80)特異的な自己抗体(抗ds-DNA抗体、抗U1-RNP抗体、抗リボソームP抗体、抗Sm抗体)が陽性の方、特にSLEを発症するリスクがある患者(例えば妊娠中の女性)では注意深くモニタリングする。

●無症候性の血清学的異常のみの患者で1次予防をするかどうかについては、ほとんどがエキスパートオピニオンレベルであり、医師は患者個人の特異的な背景に基づいて対策を実行するか判断すべき。

●同様に、潜在的なSLEのリスクがある無症候性の患者をスクリーニングする意義があるかどうかは不明確。

●SLEにおける予防措置はリスク(日光暴露、喫煙、薬剤)の除去を含む。しかし、これらはまだコンセンサスが得られていない。

ビタミンD補充は有害事象なく、潜在的な免疫調整効果をもたらすため、無症候性の個人に勧められる。

 

ビタミンDの免疫調整作用に関してはproとconsがありますが、現時点では大きな有害事象はなく、わずかに効果が認められているため、処方する事は認められています。

 

ANAが陽性のみではヒドロキシクロロキンは不要かもしれないが、血清学的異常(抗ds-DNA抗体、抗ENA抗体が陽性の場合)、低補体価の患者ではANA陽性のみの患者と比べて、疾患の進行リスクが高くなっているため、使用される可能性がある。

 

抗リン脂質抗体陽性患者に対する1次予防

●1次予防のもう一つの側面は抗リン脂質抗体(APL)陽性血栓症の既往がないSLE患者の血栓塞栓イベントのリスクに関するものである。

●SLE患者は一般集団と比べて血栓症リスクが高く、喫煙、遺伝的凝固異常、腎疾患、糖質コルチコイド使用などの血栓形成促進リスク要因によって悪化する可能性がある。

●上記のリスクはSLEの診断時に評価され、可能ならば取り除かれるべきである。

●無症候性でも、抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗CLβ2GPI抗体)が陽性になればなるほど(2つまたは3つとも)、APL陽性患者は塞栓症のリスクが上昇するため、低用量アスピリンの予防投与の勧められる。

●しかし、上記の予防投与は無作為比較試験では無症候性のAPL陽性患者で塞栓症の予防効果は示さなかった。

●筆者の見解では、妊娠長期の臥床または手術などの促進要因が存在する場合、患者が一つだけだが持続する高力価のAPLを有する場合では、予防戦略が必要と考える。

 

※日本人では欧米人ほど、血栓のリスクはないのではないかという見解もあります。よって低用量アスピリンが必ず必要かについては注意深く検討されるべきでしょう。

 

2次予防と3次予防

●SLE患者では臓器機能を保ち、不可逆的な障害(ループス腎炎による末期腎不全、神経精神医学的な後発症、瘢痕性脱毛症または皮膚萎縮、拡張型心筋症)を避けるために疾患の進行と再発を予防する事が大事である。

重篤な症状が発生する事は疾患の予後を悪化させ、疾患関連の医療費を増加させる可能性がある。

●2018年の観察研究では、1970年から2016年の間に診断されたループス腎炎患者499人(追跡中央期間10.6年)の症状(重症度)は、診断された時代が最近であるほど、軽かったという(★PMID=29730634)。

→興味深い事に、SLE発症からループス腎炎が発症するまでの時間は1970年から2016年にかけて延長している(1.3±1.3年から4.6±6.3年)。

●これは世界的にSLEの緻密なサーベイランスによる早期診断が可能になり、ループス腎炎への進展を抑制するマラリア薬(ヒドロキシクロロキン)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)生物学的製剤などによる十分な治療介入がなされた結果かもしれない。

●ただし、SLEの診断時から強化免疫抑制療法を行う事で、ループス腎炎の発症を予防できるかは分かっていない。

 

※発症前の予防についてはまだ確定的なものではありませんが、臓器障害の進展に対する2次、3次予防は重要です。それができるようになり、少なくともループス腎炎の重症度は年々低下してきているというのが、上記のデータです。適切な免疫抑制薬の使用に加えて、ループス腎炎などでは蛋白尿に対するACE阻害薬、ARBなどの使用も重要であると思います。

 

SLEの併存疾患に対する対策

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※SLEでは疾患そのものに加えて、様々な併存疾患によって、生命予後が規定されます。診断時より、これらの併存疾患の評価と対策が必要であることが謳われています。

 

治療目標

Treat-to-targetアプローチ

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●関節リウマチでTreat-to-target(T2T)アプローチが謳われるようになってから、SLEでも寛解や低疾患活動性を治療のターゲットにすることが提案されてきた。

●重要な事は、寛解や低疾患活動性に達した患者では、次なる目標は寛解の維持(再燃の回避など)に変わる事である。

●SLEのT2Tアプローチではまず、臨床的寛解を目指し、次にPSLを可能な限り減量または中止する事を目指す。

 

※上の図はまさにSLEの治療戦略の概略と言っても過言ではありません。『初期では集学的な治療で早期に臨床的寛解、低疾患活動性を目指す。それが達成できた場合は、まずグルココルチコイドを漸減・中止する、それでも維持ができれば、免疫抑制薬を漸減・中止する』これを常に意識しなければなりません。特にSLEではステロイドによる合併症が多くありますので、常にステロイドは最小量、なかなか難しいですが、可能であれば中止を目指します。

 

寛解と低疾患活動性の定義

寛解

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寛解基準は2016年に開発されたDORISの基準を含めて4つ報告されている。

●上記にそれぞれの基準に含まれる要素(臨床症状、血清、医師評価、薬剤など)を示す。

●4つの基準とも、寛解を2つのサブタイプに分けている。

 -完全寛解:血清学的異常がない、または、臨床的活動性がない

 -臨床寛解:臨床的に疾患活動性が停止している、血清学的異常は許容する

寛解の基準はさらに疾患活動性の指標と使用されている治療薬によっても異なる

●20年前と比較すると、寛解達成する割合は増えているが、数年前までは寛解の報告があまりなかった。これは知識と治療が刷新されたことに加えて、寛解の基準が新しく定義されたためと考えられる(PMID=★10501419/★26554745/★16078321/8606630)。

●van Vollenhoven(DORIS)の基準はZenの基準は似ているが、Zenの基準は観察者間で変動性がある医師によるPhysician Global Assesment(PGA)を含んでいない。

→この指標は医師が検査結果を見る前と見た後で変わると言われています。

●しかし、これらの制限があるものの、PGAはSLEDAI-2Kで評価できない所を埋め合わせられると言う研究者もいる。

→SLEDAI-2Kは溶血性貧血、脊髄炎、胃腸症状の活動性を評価できません。

寛解基準でSLEDAI-2Kに"治療(PSL5mg/日以下で免疫抑制薬が安定量)"の項目を加えたことで、SLEDAI-2K単独ではカバーしきれなかった活動性のある患者を除外する事が出来た。

→治療が最小限である項目を設けた事により、より厳密な寛解基準を作成できた。

●Zenの基準とvan Vollenhoven(DORIS)の基準では大きな違いとしてPGAの有無があったが、別々のコホート研究ではそれぞれの基準における寛解達成率と寛解時における障害進行予防効果は同等であった。

→これは寛解においてPGAよりも血清学的異常を除くSLEDAI-2=0の達成が重要である事を示唆している

PGAは臨床的疾患の活動性を評価するのには重要だが、SLEDAI-2K=0などの活動性がない事を示唆するような他の評価項目が存在場合は不要かもしれない。

●なお、寛解の定義に持続期間は含まれていないが、より長い寛解の持続は臓器障害に対して保護効果がある事が知られている。

→293人のSLE患者のコホート研究では、臓器を障害から保護するためには2年間の寛解維持が必要であることが証明された(★PMID=27884821)。

●重要な事は、寛解を維持するために長期的にグルココルチコイドを使用する必要がある事を考慮する。

PSL<5mg/日の低用量の場合、臓器障害の発生に寄与する可能性がある。

寛解基準を満たす要件を以下に示す。

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寛解の基準はいくつかあります。いずれも臨床症状、血清学的異常、医師の評価、薬剤の使用などの項目を考慮して寛解基準を定めています。具体的には臨床的な活動性、血清学的な活動性については、SLEDAI-2Kを用いており、医師の評価(PGA)を含むか含まないかの違いがややあります。一方で上記でPGAを含む基準も含まない基準もそれほど臓器障害の進展予防効果に変化がなかった事が分かっています。注意すべきなのは、SLEDAI-2Kでは溶血性貧血、脊髄炎、胃腸症状は評価できない点です。もう一つ特徴的なのは、プレドニゾロン、抗マラリア薬、免疫抑制薬の使用について明確に基準が設けられている事です。条件を見ると、プレドニゾロンは5mg/日未満となっています。これは重要で、同じくSLEDAIが0点でもPSL30mg内服している患者と5mg内服している患者では全く意味合いが異なるからです。ただし、PSL5mg/日という量は正直達成がかなり厳しい基準です。一方で抗マラリア薬や免疫抑制薬は併用していても良いとされています。この寛解の基準も2年以上達成が維持される事が重要とされています。

 

低疾患活動性

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●過去数年間の報告より、寛解だけでなく、低疾患活動性を達成する事は短期的なアウトカムの改善につながる事が分かっている。長期的なアウトカムの改善につながるかどうかについては指標が登場したばかりであり、まだ結果が出ていない。

●低疾患活動性は3つの定義がある。どれが良いという事はないが、Franklynらの定義を適用する研究が増えており、Lupus LDA state(LLDAS)と呼ぶ。

●LLDASは様々なコホート研究でしばしば達成され(38.2~64.5%)、50%以上の患者がLLDASを維持する(★PMID=26458737/27803306)。

LLDASが観察期間の50%以上で達成される事が続いている場合臓器障害のリスクが低下する。

→これは1356人のコホート研究でも証明された(★PMID=29806142)。

→LLDASが2年以上持続する場合新規の臓器障害に対する予防因子となる事も示された(★PMID=28970217)。

●一方で6か月以内にLLDASを達成できない場合は、早期の臓器障害の独立した予測因子である(PMID=20375124)。

●臨床的寛解の達成期間が観察期間の25%未満である場合でも、臓器障害に対して保護的な効果が得られた事より、LLDASよりも寛解の方が臓器障害の進行予防に有効であることがわかる(★PMID=29806142)。

●PolachekらのLDAの定義はSLEDAI-2Kの代わりに臨床的SLEDAI-2Kを考慮しているため、他の新しい二つの定義と異なる。抗マラリア薬を除き、SLEの治療薬を用いた場合は、この定義は満たさなくなる。

→2年間の追跡調査ではこのLDAの定義は疾患の良好なアウトカムと関連した。

●筆者談では、LDAや寛解の定義は、臨床的な概念であるため、臨床症状が血清学的な異常よりも考慮されるべきであると。

●この点に関して、FranklynによるLLDASの定義には、SLEDAI-2K≦4であり、臨床的SLEDAI-2K≦4ではないという制限があり、SLEDAI-2Kでスコアが1または2であったとしても、抗ds-DNA抗体陽性と血清補体価低値の両方があれば、臨床症状の種類にかかわらずLLDASの達成を妨げることを意味する。 

●特に、中等度以下の疾患活動性を捉えるために、LDAの定義に組み込む疾患活動性の測定は連続的に行われるべきであり、例えばSLEDAI-2KやSELENA-SLEDAIのように、ある項目が『あるかないか』などの分類的になってはいけない。

●LDAは軽度のループス症状に対応するだけでなく、症状の種類に関係なく個人のLDAを識別する必要がある

→例えば、持続的蛋白尿や関節炎などはそれだけで4点となり、症状は軽度でも低疾患活動性を達成できなくなってしまいます…

●SLEDAI-2Kの様な『あるかないか』の2択の指標では疾患の特定の臓器の活動性を捉える事は出来ない。

→例えば、関節炎も1つの関節なのか、多関節炎なのか、血小板減少症の程度も10万未満なのか、2万未満なのかは全然意味合いが違いますが、『あるかないか』のSLEDAI基準ではすべて同じく『あれば〇〇点、なければ0点』にされてしまいます…

→SLEDAI-2Kは臓器別の重症度は区別できる(例えば、腎や中枢病変は重症)が、同一障害臓器内で疾患活動性の程度は区別出来ない(蛋白尿の程度で活動性を規定しているわけではないため)。

●ここをPGAは幾分か制限はあるものの、補完する可能性がある。

PGAのカットオフ値はvan Vollenhovenらによる寛解の定義(0.5未満)とFranklynらのLLDAS(1以下)とで異なる。

●しかし、van Vollenhovenらによる寛解の定義の臨床的SLEDAIのカットオフ値0点が、FranklynらのLLDASの定義であるSLEDAI≤4と一致するため、必ずしも異なるという訳ではない。

●したがって、寛解とLDAは概念的に異なる2つの目標ではなく、2つの異なるレベルの寛解としてとらえるべき(つまりは寛解="疾患活動性の消失"とLDA="疾患活動性の低値が持続"として考えるべき)。

●これらの2つの目標は"寛解"と"LDA"と名づけられているが、同じ測定項目を用いて定義される場合(van Vollenhovenらによる寛解基準とFranklynらのLLDAS)、これらは治療反応に対する連続するステップと考えられる。

SLEで欠けているのは関節リウマチのDAS28の様なLDAから高疾患活動性、寛解まで連続的に評価できる指標である

 

寛解の基準は達成がかなり厳しいと上でお伝えしました。特にPSL5mg/日以下はかなり難しい条件です。それを達成しなくても、もう少し緩い基準がないかという要望に応える形で生まれたのが、低疾患活動性(LDA)という基準です。この中でもFranklynらの定義が最も引用されており、それがLupus LDA state(LLDAS)と呼ばれている基準です。ただし、この概念は2016年に発表されたばかりで、短期的なアウトカムに寄与はしますが、長期的な臓器障害の予防に寄与するかはまだ分かっていません。また、活動性の評価はSLEDAI-2Kが4点以下となっていますが、この中には抗ds-DNA抗体高値や低補体価も含まれるため、臨床症状が弱くても、血清学的異常が持続すれば、LLDASを達成できないという制約があります。またSLEDAI自体にも上記の通りいくつかの問題点がある事は理解しておかなければなりません。

 

疾患活動性については過去の記事もご覧ください。

 

 

 

腎病変の転帰

●EULAR/ERA-EDTAのRecommendation 2019によると、治療の目標は3か月までに蛋白尿が25%以上減少、6か月までに50%減少、12か月までに尿蛋白クレアチニン比(UPCR)500~700mg/g以下を達成する事。

※本文ではRecommendation 2012が書かれておりましたが、UpDateされたため、そちらに差し替えました。

随時尿蛋白クレアチニンは24時間蓄尿による蛋白尿と近似し、代替になり得る。

●良好な腎予後を予測できる蛋白尿の閾値は0.7~0.8g/day(PMID=25605554/26629352)。 血清クレアチニンや尿沈査を追加してもこの評価は改善されない(PMID=25605554)。

●ある試験では蛋白尿は長期的な腎機能(7年後の血清クレアチニン値1mg/dl以下)の予後と関連していた(PMID=25605554)。

→しかし、7年という期間は若年者にとっては短いかもしれなく、より長い予後の評価が求められる。

●腎病変はサイレントに進行する可能性があるが、治療の効果判定目的で繰り返し腎生検をすることに関しては議論の余地がある(PMID=27923701/27349351)。

→筆者らは臨床的に悪化していなければ、現時点では推奨していません。

●活動性のあるループス腎炎患者の治療目標は蛋白尿0.7g/日以下に到達させるべきで、発症から治療開始までの間隔が長くなると予後が悪化するため(PMID8961908)、好ましいのは発症3~5か月以内に治療開始すべきである。

●腎病変の治療に対する反応、すなわち蛋白尿の正常化には増殖性ループス腎炎の場合、数か月かかる場合があるため(PMID24429170/)、適切なフォローアップ期間は治療方針の決定をする上で重要である。早すぎても、遅すぎてもいけない。

 

Treat-to-targetアプローチに最適な治療法

●SLEでは『初回に適切な治療を行う』事が重要コンセプトである。

●早期に十分で強力な治療を行い、早期に寛解を達成する事が、長期的な治療成績の向上につながり、早期に治療に反応する事は長期的に良好な治療成績の維持にもつながる事が分かっている。

●ただし、依然として初期治療に反応せず、より強力な治療を要する患者がいる事も事実である。

●以下に初期治療で利用する薬剤について表記する。適切な量を用いて過剰な治療にならないようにしながら治療目標を達成する事も重要である。

 

グルココルチコイド

●60年前からグルココルチコイドはSLE患者の治療の柱となっている。

ステロイドの増量が長期的に安定した効果をもたらすエビデンスがなかったものの、疾患活動性が上昇した時にしばしば増量されていた。

●また、注目すべきは、グルココルチコイドは、ループス腎炎や神経精神医学的SLE(NPSLE)のような重篤な症状に適応があるが、臨床現場で使用される治療期間や投与量はランダム化比較試験で確立されていない事である。

→確立されていない≠意味がない。疾患の多様性ゆえにランダム化比較試験を組みにくい事が問題点…

●興味深い事に多くの研究では、ループス腎炎を含む様々なSLEの症状に対して導入療法や維持療法で高用量のグルココルチコイドを投与しなくても差がなかったことが報告されている(PMID=3318723/22984276/28564619/21976398)

→これらの試験では高用量と低用量のステロイド(3g/dayから20mg/day未満までの範囲)を導入で使用し、腎病変の反応性を見たが、効果6~12か月時点で同等で、低用量ステロイド群の方が安全性が高かった(PMID=28564619)。

ステロイドを含まない維持レジメンの効果に関する長期データはRITUXILUP試験(Trial of Rituximab and Mycophenolate Mofetil Without Oral Steroids for Lupus Nephritis)から入手可能。

→これは、寛解導入でリツキシマブ1gとmPSL500mg 2週間に1回静脈内投与を比較した試験で、寛解導入に続き、MMFなど(ステロイドなし)で維持療法を行った患者では1年時点で52%の患者が完全寛解し、34%の患者が部分寛解していた(PMID=23740227)。5年後には80%以上の患者が完全寛解しており、77%がグルココルチコイドをしていなかった。

RituxiRescue試験では、RITUXILUP試験と同様の治療プロトコール(リツキシマブとMMFで治療するという点で)が用いられたが、すでにグルココルチコイド維持療法を受けていて、導入療法中にmPSL静脈内投与を受けていない患者も対象となった。

→この研究では、既知のプラクティス(PMID=19617257)に従ってグルココルチコイドは経時的に積極的に減少した。

→特筆すべきは、このレジメンで治療された患者の76.3%が5年後に腎病変の反応(完全または部分的)に達し、63.2%の患者はこの時点までにステロイドを中止していたか、最小限の1日投与量を投与されていたことである(PMID=19617257)。

寛解導入におけるステロイドを含まないレジメンに対する上記のようないくつかの研究があるが、現時点でエビデンスは不足している。

●長期的なグルココルチコイドの投与量を減らすためにも併用療法(MMFやカルシニューリン阻害薬)を行うか生物学的製剤を使用する必要がある。

●低用量の経口グルココルチコイドは全身性の活動性腎外病変の治療においては高用量(≥30mg/day)と同等の効果が得られる(PMID=26044819)。

→治療介入のグルココルチコイド量は日常的に下げされる可能性があるため、臨床医は患者の評価にグルココルチコイド量の再評価をすべきである。

●たとえ、治療に反応したとしても減量を4か月以上の間隔ですべきではない。

→これは、軽症または非活動性患者の血液検査などのフォローアップタイミングは3~4か月毎にすべきという研究に基づきます(★PMID=23457385)。

●最後に、最も重要な事は、再発寛解を繰り返す患者や、5mg/day以上のPSLを使用している患者では背景の治療を修正し、とりあえずグルココルチコイドを増量するだけで疾患活動性をコントロールしようとする姿勢を正すべきである。

 

マラリア

●ヒドロキシクロロキンやクロロキンなどの抗マラリア薬は軽症から中等症のSLEの症状、特に皮疹関節炎に推奨されている。

●ある研究ではこれらの薬剤は疾患活動性血栓症を減少させ(PMID=19103632)、さらには生存期間を延長させることが示唆されている(PMID=29931367/17389655)。

●抗マラリア薬治療においてアドヒアランスが重要である。アドヒアランスが不良である事は、他の薬物のアドヒアランス不良にも関係し、疾患のアウトカムに影響を与える。

アドヒアランス不良は疾患活動性の誤った解釈をさせ、不必要な治療の変更につながる可能性がある。

●患者のコンプライアンスを高めるためにはカウンセリング戦略が勧められる。

●抗マラリア薬の服用はループス腎炎患者における腎障害の低下に関連する。

→ある報告ではヒドロクロロキンを投与すると尿細管間質の炎症が治まる事が示唆されている(PMID=29851285)。

●抗マラリア薬は軽症から重症のSLE患者の治療で定期投与されるべき。

血中濃度の測定は一般的ではないが、アドヒアランス不良が疑われる場合は、治療法の変更をする前に検討しても良い。

 

免疫抑制薬

●SLEで用いる免疫抑制薬にはアルキル化剤(シクロホスファミド)、イノシン一リン酸脱水素酵素(IMPDH)阻害剤(MMF、ミコフェノール酸)、プリンまたはピリミジン合成の選択的阻害剤(アザチオプリン、メトトレキサート)、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン、タクロリムス)などがある。

→これらは特定の分子を標的とせずに選択的に様々な細胞プロセスを抑制するが、リンパ球(形質細胞を除く)は増殖性が高く、IMPDH阻害薬などの免疫抑制薬が標的とする代謝経路を優先的に利用するため、影響を受ける主要な細胞群である。

免疫抑制薬の併用療法は単独療法よりも効果が優れている

●カルシニューリン阻害薬であるタクロリムスとMMFの併用の有効性に関するデータは、ループス腎炎患者の導入療法の6か月間に限定されている。

→タクロリムス+MMFはIVCYよりも腎病変の寛解が早く、高確率であった(6か月時点で46% vs 26%)(PMID=25383558)。しかし併用療法では有害事象(重篤感染症、水痘帯状疱疹の再活性化)が増加した。

●上記試験の続きで維持期にタクロリムス+MMFはそのまま、IVCYはアザチオプリンに変更した場合の18か月後の腎病変の再発率は同等であった(PMID=28760751)。併用療法はアザチオプリン単独群と比較して有害事象(特に白血球減少症、肝機能障害)の発生率が低下していた。

寛解導入で有害事象が多く、維持療法で有害事象が少なかったという矛盾に関しては、寛解導入で用いたタクロリムス量が多いためと考えられる。SLEでは4~6ng/mlに維持されるべき(PMID=22438027)。

●低用量、または高用量のVoclosporin+MMFMMF単独療法の有効性を比較した試験では併用群の方が6か月後と12か月後の寛解率が高かった(ACR2016 Annual meeting)。しかし、Voclosporinは死亡者数が増加(低用量群で10名)し、医薬品の安全性に懸念がある(PMID=30420324)。

 

生物学的製剤

●現在、SLEで使用されているのはベルムマブ(抗リンパ球刺激薬:BLyS、別名TNDSD13B)とリツキシマブ(抗CD20抗体)である。

 

リツキシマブ

●SLEのRCTでリツキシマブによる治療が失敗したにも関わらず、臨床では使用されており、欧米の難治性ループス腎炎やNPSLEのRecommendationにも含まれている。

●エキスパートオピニオンになるが、グルココルチコイド依存性の難治性の疾患(血小板減少症、皮膚病変)にもリツキシマブが推奨される。

 

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●リツキシマブのRCTにはEXPLORER(2010)試験LUNAR(2012)試験があります。

 

 EXPLORER(2010):中等度~重症SLEを対象

         GC+1種類以上の免疫抑制薬+RTX vs GC+1種類以上の免疫抑制薬

         →BILAGの活動性スコアに有意差を認めず。

 

 LUNAR(2012):MMF+RIX+GC VS MMFGC

        →RTX投与で1年後の腎予後の改善なし。

 

※これらの試験では対照群でも標準治療が有効であった結果、リツキシマブの効果がそれほど現れなかったのではないか、と考えられています。

 

※ただし、LUNAR試験の追跡試験では、B細胞の完全な枯渇は78週時点での腎病変の寛解と関連していました(PMID=30089664)。

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●免疫抑制薬を使用する前にリツキシマブを投与する研究のほとんどはループス腎炎患者を対象にしたもの(PMID=23740227/19617257/21385860)で、非ループス腎炎患者を対象にした研究はほとんどない(PMID=28243455)。

●ループス腎炎患者において、免疫抑制薬使用前にリツキシマブを投与する事はステロイド減量効果を示した(PMID=19617257)。しかし臨床的反応を維持する効果は、コホート研究の結果によって異なる。

 

ベリムマブ

●SLEで唯一承認されている生物学的製剤。

●静脈内投与または皮下注射製剤があり、疾患活動性を低下させて、再燃を防ぐ可能性があるエビデンスが増加している。

●投与後の臓器障害の増加は抑えられ、2年後のSLICC/ACR Damage Indexは悪化しなかったという報告がある(PMID=27390293/26936891)。

→これらの試験は非対照試験であるため、解釈には注意が必要だが、異なるコホートでも一貫性が認められ、結果は有望と考えられる。

●難治性SLEではリツキシマブとベリムマブの併用療法がおこなわれる。

→これらはB細胞枯渇療法を行った後に、血清BLyS値が上昇するという根拠に基づく。

●現在第III相試験が進行中(NCT03312907)。

●ベリムマブの大きな問題が費用の問題である。

 

生物学的製剤開始のタイミング

●従来の免疫抑制薬に治療抵抗性を示す症例で生物学的製剤が使用される傾向があったため、早期のSLEに対するベリムマブの効果が評価されない可能性があった。

●非ループス腎炎を対象とした2つのRCT(PMID=22127708/21296403)では、50%以上の患者で免疫抑制薬を服用していないため、ベリムマブの開始基準に、必ずしも過去に免疫抑制薬による治療失敗が必要である訳ではない。

●中等度SLEに対しては、グルココルチコイド、や抗マラリア薬を標準治療として、生物学的製剤を追加することも考えられる。

●シクロホスファミドやMMFに抵抗性のある重症のSLE患者では生物学的製剤(リツキシマブ)の使用も推奨されているが、B細胞枯渇療法はアルキル化剤や抗メタボローム剤に比べて効果発揮までに時間がかかる。

●ベリムマブの早期の使用は、費用対効果の高い国では『活動性があり、生命を脅かすような症状を伴わない患者』では望ましい。

 

T2T試験デザインの重要な側面

●SLEでは、治療目標に達していない場合にどの薬を投与するか、あるいは薬を切り替えるかを明確にする適切な治療戦略はまだ定義されていない。

●この問題はT2T戦略の専用RCTで検討することができるが、患者管理の不均一性のためにそのような試験の設定は困難。

●T2T試験を設定する際には、患者選択の方法評価する治療の種類アウトカム指標などの問題点が生じる。

→このような問題はこの分野で広く議論されており、様々なSLE試験の失敗の原因の少なくとも一部と考えられている。

●患者選択に関しては、それが寛解導入が必要な急性期の患者か、寛解維持が必要な慢性期の患者か、によって試験の対象が変わってくる。前者は寛解を指標とし、後者は再発を指標とする。

●治療に関しては、ループス腎炎は、2019年のEULAR/ERA-EDTAのRecommendationでは3か月までにタンパク尿が25%以上減少、6か月までに50%減少、12か月までにUPCR値500-700mg/g以下を達成できない場合は治療法を変更することが考慮される、と明記されている。

→※本文では2012年のRecommendationの記載でしたが、2019年に差し替えています。

 

 ループス腎炎 EULAR/ERA-EDTAのRecommendation 2019

 

●ここでは、MMFやシクロホスファミドによる治療で有効性が得られなかったり、副作用のため継続できない場合は、MMFからシクロホスファミドへシクロホスファミドからMMF、あるいはリツキシマブを投与すべきとされる。

●また、再発率の高さから、維持療法の漸減を考慮するのは寛解維持が少なくとも3~5年持続する場合と明記されている。

●一方、非ループス腎炎の寛解や低活動性を達成するための治療法は今のところ普遍的に認められていない。

●ループス腎炎の戦略を非ループス腎炎に移行するにはいくつかの理由で困難がある。

①腎病変の反応性(尿蛋白量など)とは異なり、非ループス腎炎では、寛解と低疾患活動性などの定義は疾患活動性(SLICCなど)、治療内容、医師の評価(PGA)などを総合的に評価したものである点

→これらは数値化された定量的なものよりも、『あるかないか』の定性的寄りです。

②臓器特異的な目標の改善(例えば関節炎や皮疹の消失)は全身的な寛解の達成を保証するものではない点。

寛解や低疾患活動性が達成されたとしても、その維持は長期間に渡って評価されなければならない(臓器障害の進行があるかどうかは、少なくとも2年以上の観察期間が必要)。

 

治療の漸減と中止

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●上記に薬剤の漸減、中止の戦略を示す。

●グルココルチコイドについては漸減中止について有効性が証明されているが、抗マラリア薬や免疫抑制薬については漸減、中止の十分なエビデンスがない。

●治療の漸減、中止の経過中は十分な観察が必要である。

●患者には非活動性の状態でも定期的な検査や評価が必要であると伝える。

 

※上記のストラテジーは秀逸です。今まで、治療薬でどの順番に減薬すべきか、Recommendationでも明記されておりませんでしたが、あくまでも一案として、寛解突入したら、①ステロイド、②免疫抑制薬、そして最後には③抗マラリア薬まで記載されております。

 

グルココルチコイド

●SLEの維持治療には疾患のコントロールをするために必要最低限のグルココルチコイドを投与し、可能な限り中止すべきである。しかし、いつ完全に中止できるかについてはさらなる研究が必要。

●PSL5mg/日投与をしていたSLE患者のレトロスペクティブ研究では688人中377人(55%)が少なくとも1年間はPSL5mg/日以下に漸減できた(PMID=23708944)。

→この研究では疾患活動性が低い患者、皮膚・筋骨格系の活動性がない患者がPSLの減量に関連していた。また、2000年以降ではそれ以前と比べてPSL漸減に成功率が上がっている。これはステロイドの長期副作用が認識され始めたためと考えられる。

●グルココルチコイドの完全な休薬には完全寛解が必要か、臨床的寛解や低疾患活動性で十分かは明らかにされていない。これに関しては試験がない。

●長期的なグルココルチコイド治療患者では、SLEの活動性が持続していないにもかかわらず、グルココルチコイド休薬の困難さを経験することがある。

→このような場合には隔日投与ゆっくりした減量レジメンが有効かもしれない。

  

マラリア

寛解を維持する事に対する抗マラリア薬の寄与に関するデータはほとんどなく、SLE再燃に対する抗マラリア薬の予防効果はまだ明らかにされていない。

●ヒドロキシクロロキンの漸減効果に関する唯一のRCTは、1991年のカナダからの報告で、病状が安定している患者におけるヒドロキシクロロキンの中止は、新規症状、以前の症状の増悪、再燃の相対的リスクが2.5倍になった(PMID=1984192)。

●ある研究では血清ヒドロキシクロロキン濃度が低いほど、SLEの疾患活動性が高いと報告されている(PMID=17009263)。

寛解期の73名の患者を対象とした縦断解析ではベースラインでヒドロキシクロロキン濃度>500ng/mlの患者群はそうでない患者群と比べて疾患活動性や再発頻度が低い傾向にあった(有意差なし)(PMID=26749299)。

●別の報告ではループス腎炎でヒドロキシクロロキン濃度が600ng/ml以上に維持することで再発を予防できることが示唆されている(PMID=29186572)。ただしこの研究はのレトロスペクティブ観察研究である…

●SLE寛解期における抗マラリア薬の長期使用には程度は様々であるものの、脂質低下作用・糖質低下作用・血栓塞栓症予防効果があり、妊娠中も安全に使用

できる(PMID=19103632)。ループス腎炎では腎障害の進行を遅らせられる効果もある(PMID=19479701)。

●このように抗マラリア薬の利益を考慮すると寛解期の全てのSLE患者で考慮すべき安全な治療であり、長期治療として継続できることが示唆される

●抗マラリア薬の中止に関する研究は現時点で利用可能なものはない。完全に寛解している患者では中止可能の可能性があるが、中止すべきかの判断は患者の病歴、併存疾患の有無、障害の有無、寛解の期間、患者の嗜好に基づいて行われるべき。

 

免疫抑制薬

寛解期のSLE患者(特に非ループス腎炎患者)での免疫抑制薬の休薬効果に関するデータはほとんどない。

●1996年のある研究では非ループス腎炎患者667人のうち、156人(23.4%)が少なくとも1年以上無投薬の臨床的寛解を達成している(★PMID=8606630)。

●しかし、2009年に報告された別のコホートでは417人の患者のうち、147人(35.3%)が1年で少なくとも1回の再発エピソードがあり、218人(52.3%)が持続的活動性を有し、長期的な寛解の達成が稀であると示している(PMID=19714602)。

→この研究結果はSLEの早期診断、症状に合わせた治療法の開発など、エビデンスに基づく推奨事項など、SLEの管理戦略が改善されてきた事を考えれば、今現在のSLEに適応できるとは限らない。

●ループス腎炎における免疫抑制薬の中止についてはいくつかのデータがある。

●ループス腎炎IV型の患者11人を対象とした研究では完全寛解2年後にシクロホスファミドを中止したところ、36%で再発を認めた(PMID=8016586)。

●別の研究ではシクロホスファミド(750mg/m2を0, 0.5m, 1.5m, 2,5m, 3,5m, 4,5m, 合計6回)とグルココルチコイド(mPSL1g/m2 3回後3か月後まで4~8mg/日に減量)を使用後に免疫抑制薬を中止したIV型ループス腎炎患者33人中15人(45%)が再発した(PMID=11341101)。

●ある研究ではループス腎炎患者73人を対象に最初に免疫抑制薬を中止、その後にグルココルチコイドを漸減したところ、52人(71.2%)で治療を完全に中止でき、32人の患者で追跡期間中央値101.8か月間で再発しなかったという(PMID=24129143)。

※免疫抑制薬を減量し、その後にグルココルチコイドを減量する事は副作用の観点からはあまり一般的ではないかと思います。

→再発しなかった患者は中止前の治療期間と寛解期間が長く、クロロキンの併用治療を受けていた。

→治療中止後に再発を経験した20人中10人は、追跡期間中央値286か月後には免疫抑制薬とグルココルチコイドを中止できた。

※重要なことは、この研究では治療を漸減している間や、中止後もクローズフォローアップを推奨している点です(具体的には免疫抑制薬とステロイドを中止後、最初の2か月は2週間ごと、その後6か月は毎月、その後は2~3か月ごとのフォローアップ)

●免疫抑制薬の中止には病歴、臓器障害の種類と重症度、治療に対する反応性(寛解が急速に達成できたか)、過去の再発回数、免疫抑制薬の使用回数、寛解達成までに必要な免疫抑制期間などを考慮して、各患者に合わせて慎重に評価が必要である。中止の前に十分な寛解期間が必要で、厳密なフォローアップと中止後も定期的なフォローアップの重要性を患者に伝えるべき。

 

個別化医療

●長年の研究の発展により、Omicsデータ(ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオミクス、メタボロームデータなど)に基づいたテーラーメイド医療ができる可能性がある。

●SLEでは臨床的な薬剤反応の予測因子と効果的な患者層別化の方法が必要とされる。

●例えばエプラツズマブ(抗CD22抗体)の臨床試験は失敗に終わったが、post hoc解析ではSLEとシェーグレン症候群の両方を有する患者はシェーグレン症候群を伴わないSLE患者よりも疾患活動性(BILAGとBICLA)の反応性が良かったことが示されている(PMID=29381843)。

●SLE患者を症状別に層別化した2つの第II相試験では有望な結果が得られている。

 ①Ustekinumab(抗IL12/23抗体) (PMID=30249507)

 ②Baricitinib(JAK1/2阻害薬) (PMID=30129462)

●SLEでは感受性遺伝子(PMID=29224672/29938934)、エピゲノムデータ(PMID=23623029/21436623)、トランスクリプトームデータ(PMID=29224672/24644022)、プロテオームデータ(PMID=29863906)を考慮したいくつかのレベルでの層別化が可能であるが、メタボロームデータは限られている。

●SLEの遺伝的多様性は大きく、遺伝子マイクロアレイ研究では治療標的が多数示唆されている(PMID=12642603)。しかしながら、遺伝的層別化は世界的には臨床応用はまだ限られている。

●遺伝子発現の調整に関わるエピジェネティックなメカニズムが大きく変化しており、環境因子の役割はまだ明確ではない。

●SLEではいくつかの遺伝子領域が広範囲に低メチル化されていることが多く、その結果、通常では制御されている遺伝子、特にインターフェロン経路(PMID=25638528)やB細胞活性化に関与する遺伝子が過剰発現する事になる(PMID=27607472)。

●さらにヒストンアセチル化パターンの異常は主にT細胞、単球における生存因子、インターフェロン調節因子の発現の亢進を介して疾患の発症と関連している(PMID=27607472)。

●興味深いことにエピジェネティック・レギュレーターmiR-146aの活性低下、またはインターフェロン調節因子7(IRF7)の低メチル化など、いくつかのエピジェネティックな異常の存在は、疾患活動性の増加、特異的症状に対応している。

●また、注目すべきことに、抗マラリア薬や免疫抑制薬であるミコフェノール酸などの薬剤はin vitroでエピジェネティックなメカニズムを修飾することができる(例えば、microRNAの発現やヒストンアセチル化パターンに影響を与えることによって)(PMID=25791245/24121037)。

●そしてエピジェネティック修飾剤であるトリコスタチンA(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬)をマウスに投与すると、regulatory T細胞数が増加し、ループスモデルマウスで自己免疫を修飾することができる(PMID=18650065)。

●これらの結果は、遺伝子発現を変化させるメカニズムを調節することが可能なアプローチが存在する事を示唆している。

●SLE患者の層別化に関するほとんどのエビデンスはInterferon signatureに基づく患者のグループ化に関係する(このSignatureは他の自己免疫疾患にも存在するが)。

●2016年にSLE患者の血液トランスクリプトームプロファイルの最初の縦断的解析が行われ、158人の小児SLE患者をトランスクリプトームプロファイルに従って層別化した結果、5つのSignatureと7つのサブグループが同定された(PMID=27040498)。

→この5つのSignatureのうち、Interferon signatureと好中球signatureの存在は疾患活動性やループス腎炎の発症と強く相関していた。

→特に活動性腎炎への進行中に好中球転写物の濃縮が検出され、Interferon signatureと好中球signatureの両方がMMF治療によって、特に増殖性ループス腎炎患者において減少する可能性が示唆された。

●特筆すべきは、研究者らはループス腎炎患者の糸球体で亢進している転写物の量や種類に違いがある事を報告しており、患者間や患者内でのばらつきが大きい可能性がある。

→この複雑性を考慮したうえで、個別化された治療戦略を行うべきであり、さらなる研究が必要とされる。

●過去数年でシグナリングリンパ球活性化分子受容体の遺伝子発現の変化(PMID=28387859)や尿中CD4細胞の濃縮(PMID=23475982)など、T細胞の異常がループス腎炎患者で確認されており、難治性の疾患表現型と関連している可能性が考えられている。

●興味深いことにSLE患者の血液中の好中球関連遺伝子の発現の増加は腎炎と関連している(PMID=28031441/29742110)。

●ここ数年SLE患者の層別化がI型インターフェロン阻害薬の臨床試験で試みられており、患者はインターフェロン依存性遺伝子のレベルに応じてグループ化されている(PMID=27009916/24951103)。

●注目すべきは、Interferon αを潜在的な治療ターゲットとして同定したゲノム及びプロテオーム研究において、BLyS、TWEAK(TNF-related weak inducer of apotosis)、APRIL(a prolififeration-inducing ligand)のような他の潜在的な治療バイオマーカーも同定されたことである。

●BLySとAPRILの両方をターゲットとするataciceptによる治療が失敗した(PMID=22325903/27390168)にもかかわらず、ADRESS II試験の結果を用いたサブグループ解析ではベースラインのBLySやAPRIL値が高いほど、52週目のataciceptに対する治療効果(再発率低下)が高いことが示唆された(PMID=28130918)。

 

まとめ

●全身性エリテマトーデス(SLE)の転帰の改善には早期診断と早期治療が必要。

●疾患の進行、悪化を最小限に抑えるために、疾患の経過のどの段階でも予防戦略をとる必要がある。

潜在的な併存疾患はSLEの治療開始から予防する必要がある。

●SLE管理では臨床的寛解の達成とグルココルチコイドの漸減、中止が望まれる。

寛解が得られない場合でも、短期的なアウトカムに関連する低疾患活動性を保つ必要がある。

●治療に対して安定した反応が得られ、注意深いモニタリングできる時、治療を漸減する必要がある。

●患者に合わせた治療戦略では、免疫学的背景、臨床的特徴、回復の現実的な可能性、各患者の期待を考慮する必要がある。

●Omicsに基づく個別化医療はまだ普及していないが、患者に合わせた治療を行うことで、疾患をコントロールする可能性を高め、患者のアドヒアランスを促進する可能性がある。

 

【参考文献】

Gatto M, et al. Nat Rev Rheumatol. 2019 Jan; 15 (1): 30-48. "New therapeutic strategies in systemic lupus erythematosus management."