軽症のSLEはどれくらい重症化するか?
様々な薬剤が登場してきたおかげで全身性エリテマトーデス(SLE)患者さんの生命予後は著明に改善しました。現在では生命予後の改善から生活の質(QOL)の改善へ目標が移行して来ていると言っても過言ではありません。
しかし、生命予後は改善しているものの、重症病型がなくなったわけではありませんし、軽症と考えていた患者さんが重症病型に移行する事もあります。
どんな患者さんが、どのくらい重症化するかは臨床医にとってとても関心のある情報ですが、データが不足しています。最近、軽症のSLE患者さんがどれくらい重症に移行するかについて研究した報告がありましたので、ご報告します。
Patients & Methods
●ギリシャ(アテネ)のAttikon大学病院(三次医療センター)からの報告。
●Attikon lupusコホートに含まれる罹病期間が1年以上の462人のSLE患者さんを対象。
●対象期間は2014年1月から2019年1月。
●SLEはACRまたはSLICCの分類基準を満たすものとした。
●ループス腎炎はSLE分類基準または腎生検に従って分類された。
●NPSLEはACRの定義を用いて、二人の専門医師(DTB, AF)が分類した。
●神経精神症状が発症した後にコホートに登録された患者の場合、症状がSLEに起因するかどうかは病歴、リスク因子(抗リン脂質抗体、以前の神経精神症状、全身の疾患活動性)などを参考に判断した。
●小児発症SLEの年齢のカットオフ値は17歳とした。
●晩期発症SLEの年齢のカットオフ値は50歳とした。
●重症度は初診時と最終診察時の2つのポイントで(1)BILAGと(2)治療内容によって軽症、中等症、重症に分類された。
●重症:(1)BILAGで少なくとも1つの臓器の重症症状
(2)疾患の経過中の任意の時点でシクロホスファミドまたはリツキシマブ
(関節炎以外の症状に対して)を使用
●軽症:(1)BILAGで軽症
(2)主要な臓器病変がない
(3)最大の治療が経口グルココルチコイド≤10mg/日(PSL相当)または筋注
ヒドロキシクロロキン
●中等症:軽症と重症の間
●重症のループス腎炎は除外されている。
Results
患者背景
●総患者数462人、診断時平均年齢37.3(SD 15,2)歳、女性:男性=9:1
●最終フォローアップまでの中央期間は36(IQR 120)か月。
●50人(10.8%)が小児発症SLE、98人(21.2%)が晩期発症SLEと診断された。
●最も多い症状は炎症性関節炎(72.7%)、次いで急性皮膚ループス(63.2%: 主に蝶形紅斑、日光過敏)、白血球減少(22.5%)、非瘢痕性脱毛症(22.5%)。
●ループス腎炎は44人(9.5%)の患者で発症時に出現したが、61人(13.2%)の患者が追跡中に腎障害を発症し、全体の有病率は22.7%に達した。
●86人の患者(18.6%)で112の神経精神症状を認めた。
●NPSLE患者の約60%(86人中51人)は診断時に少なくとも1つのSLE関連の神経精神症状を呈しており、35人(39.7%)の患者はフォローアップ中にNPSLEを示した。
※診断時の症状で多いのは関節炎、蝶形紅斑、日光過敏あたりのようです。ループス腎炎やNPSLEはこのコホートでは10人に1人ぐらいの頻度の様です。診断時の白血球減少は2割、低補体価は4割、抗ds-DNA抗体/抗Sm抗体/抗リン脂質抗体の陽性率は5割弱のようです。検査所見はあまり過信してはいけません。
●治療に関してはヒドロキシクロロキンが95%、経口グルココルチコイドが98.3%。
時間経過に伴う重症度の推移
●最初に軽症と分類されたのは患者の56.5%(261/462人)。
●最終的にその中で50.2%(131/261人)が軽症と分類され、残りは重症度が変化した。
→29.1%(76/261人)が中等症、20.7%(54/261人)が重症へと変化した。
●最初に中等症と分類されたのは23.6%(109/462)人。
→最終的に29.4%(32/109人)が重症へ変化した。
●最初に重症と分類されたのは19.9%(92/462人)。
軽症から中等症へ移行する予測因子
●最初に軽症と分類された患者261人が中等症へ移行する予測因子を解析。
●単変量解析、多変量解析の両方で罹病期間、抗ds-DNA抗体陽性が中等症へ移行する事に関連していた。
●単変量解析のみ有意だが、晩期発症SLEでは中等症へ移行しにくい傾向が見られた。
軽症・中等症から重症へ移行する予測因子
●最初に軽症または中等症と分類された患者が重症へ移行する予測因子を解析。
●多変量解析では男性(OR4.53, 95%CI1.23~16.60)、罹病期間(OR1.09, 95%CI1.04~1.14)、初発時の神経精神症状(OR6.33, 95%CI1.11~32.67)が重症への移行に関与していた。
●抗ds-DNA抗体はわずかに統計的有意差が見られなかった。
●単変量解析のみ有意だが、晩期発症SLEでは重症へ移行しにくい傾向が見られた。
小児発症・晩期発症SLEの重症度の推移
●小児発症SLEはループス腎炎での発症が一般的に2倍であった(42% vs 20.6% p=0.001)。
●小児発症SLEでは最終的に重症への移行が54.1%であったのに対して、晩期発症SLEでは43.6%であった(統計的有意差なし)。
●重症度、SDI、主要臓器病変のパターンに関して両群で有意差なし。
●晩期発症SLEでは診断時の中等症/重症の割合が多く(56.2% vs 40.3% p=0.005)、より重症へ移行する割合が低かった(19.7% vs 50.7% p<0.001)。
※晩期発症SLEが重症へ移行する割合が低いのは、最初から重症が多いからなのかもしれません。
経過中の臓器障害の発生
●16.5%(76人)の患者では診断から6か月以内に何らかの臓器障害が確立していた(上記図のSLICC Damage Indexが1以上の割合)。
●以下に6か月以内に臓器障害に至ったSLE患者の初発時の症状を列挙する。
神経精神症状や血栓症が多かった。
●なお、罹患期間の中央値3年を経ても、52.2%(241人)の患者はまだ臓器障害を受けていなかった(SDI=0)。
●ただし、3年を経ると、8.6%(40人)の患者では臓器障害度数が高値であった(SDI>3)。
臓器障害の予測因子
●臓器障害発生の予測因子を評価するために単変量解析、多変量解析が行われた(n=462)。
●単変量解析で臓器障害発生予測に有意な項目は高血圧症、脂質異常症、肥満などの併存疾患だったが、多変量解析では診断年齢、特に罹患期間、重症度の変化が臓器障害発生予測因子として挙げられた。
●抗リン脂質抗体陽性も臓器障害発生のリスクとなり得る。
重症度の移行と臓器障害の関係
●罹病期間が3年未満でも重症度の移行(より重症に移行)がある場合は臓器障害の発生リスクが高いが、罹病期間が3年以上の患者では、重症度がより重症に移行した場合、臓器障害のリスクは23倍になる。
まとめ
●60%の患者が軽症で発症するものの、その内の約50%が中等症や重症に移行する。
●罹病期間が長い患者、抗ds-DNA抗体陽性例では軽症で発症したとしても中等症へ移行するリスクあり。
●男性、罹病期間が長い患者、初発症状が神経精神症状の場合、軽症や中等症で発症したとしても重症へ移行するリスクあり。
●晩期発症SLEは診断時の中等症/重症の割合が多く、より重症へ移行する割合が低い。
●小児発症SLEは54.1%が重症へ移行する。
●52.2%の患者は3年経過しても臓器障害が発生しない。
●罹患期間が長い患者、重症度の変化がある患者は臓器障害発生のリスクがある。
●神経精神症状、血栓症が初発症状の場合、6か月以内に臓器障害を起こす可能性がある。
My comments
●”60%の患者が軽症で発症するものの、その内の約50%が中等症や重症に移行する”というのは、驚きの数字です。ただし、このコホートはギリシャの白人を対象とした研究なので、日本で同じ事が言えるかどうかは分かりません。日本のデータは当施設から出そうと思います。
●また重症度をBILAGで行っている点も注意が必要です。疾患活動性の評価には様々な指標がありますが、これが最も良い!と断定できるものはなく、どれも一長一短のような気がしますが、一般的にはSLEDAIを用います。今回使用されたBILAGは86項目を評価するので、外来で実施する事は難しいのではないでしょうか…
●ただし、これだけ重症度が変化する可能性がある事が分かったので、プライマリでSLEかな?と思われた患者さんは是非専門医にご紹介下さい!!。
●どのくらいで中等症や重症に移行するのか、期間の情報がもう少しあっても良いかなと思いました。
●あともう少し長期(少なくとも5年)の重症度の変化の追跡は必要かと思いました。
【参考文献】
Dionysis S Nikolopoulos, et al. Lupus Sci Med . 2020 Jun; 7 (1): e000394. "Transition to severe phenotype in systemic lupus erythematosus initially presenting with non-severe disease: implications for the management of early disease" PMID=32601172