リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

強皮症の新しい治療ターゲット~IL-4/IL-13~

 強皮症は皮膚硬化を起こす自己免疫疾患ですが、間質性肺炎、心血管疾患、腎病変、消化管病変など様々な合併症が起こります。

 

 今までなかなか特効薬がなく、患者さんに申し訳なく思って来ましたが、病態が少しずつ解明され、新しい治療薬が出てくるようになりました。

 

 今日は簡単に線維化が起こるメカニズムと今海外で治験中の新薬についてご紹介いたします。

 

 お時間がない方はまとめをご覧ください。

 

 

強皮症とは

●皮膚、内臓に線維化を起こす自己免疫疾患。

●有病率は100万人あたり276~443人。

→日本では患者数は不明ですが、難病情報センターのHPからの情報では推定患者数は 2万人いると考えられています。

●発生率は1年あたり100万人あたり15~20件。

●男女比は1:4で、女性に多い。

●平均発症年齢は40~50歳。

●皮膚の線維化は手指、遠位四肢、顔に限局する限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)とびまん性に皮膚硬化が起こる、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)に分類される。

→ちなみに限局性強皮症は違う病気です。

 

全身性強皮症の病態

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●病相にはびまん性の血管障害、その後に自己免疫反応と軽度の炎症とそれに続く線維化が関与すると考えられている。

 

全身性強皮症におけるT細胞の役割

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●T細胞は、Th1Th2Th17TfhTregなどがあるが、全身性強皮症に関与するのはTh2である。

 

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●全身性強皮症の線維化が起こる前に、皮膚と肺の両方でTh2が優位になっている

●Th2は早期から血管周囲に存在する。

●Th2の分泌するサイトカインで重要なものはIL-4IL-13である。

●これらのサイトカインは、全身性強皮症の患者で有意に上昇している。

●また、IL-4とIL-13の産生を促進するのがCXCL4で、抗血管新生特性を持つという報告もある(PMID=24350901, NEJM 2014)。

 

インターロイキン-4(IL-4)の作用

●IL-4は強皮症以外にも心臓、肺、肝臓の線維化に関与することが知られている。

●In vitroではIL-4はヒト線維芽細胞を刺激して増殖させ、筋線維芽細胞に分化させてコラーゲンを生成する。

●IL-4はマクロファージをM2へ分化させ、さらにマクロファージにインスリン様成長因子-I(IGF-I)をSTAT6を介して分泌させることで筋線維芽細胞をアポトーシスから保護する。

●TSKマウス(全身性強皮症のモデルマウス)ではIL-4受容体αの発現が上昇しており、IL-4に反応できない遺伝的背景に戻し交配をすると皮膚硬化症が予防できる。さらにこの戻し交配はコラーゲンの長さ、皮膚の厚さ、ヒドロキシプロリン含有量を正常化し、トポイソメラーゼIに対する抗体形成を防ぐ。

●さらにこのモデルマウスでは、IL-4の中和抗体を投与する事で真皮の線維化の発症が予防され、真皮のコラーゲン量が正常化することが知られている。(PMID=9754550, Eur J Immunol 1998)。

●全身性強皮症患者では病変皮膚のCD4/CD8二重陽性T細胞が高レベルでIL-4を産生する可能性がある。

●IL-4は全身性強皮症患者の単球でa-smooth muscle actin(a-SMA)の発現を誘導し、これにより、筋線維芽細胞への単球の成熟が増加する。

●IL-4はコラーゲン遺伝子発現の転写調節に影響し、コラーゲンmRNAの安定性と転写を増加させるk十により、線維芽細胞におけるコラーゲン蛋白質の生合成を促進する。

 

インターロイキン-13(IL-13)の作用

●IL-4と合わせて、IL-13も様々な線維症に関連する。

●IL-13は線維芽細胞の増殖と分化を直接活性化し、I型コラーゲンと他の重要な線維症関連遺伝子(a-SMAなど)の発現を誘発する。

●マウスモデルでは、IL-13の過剰発現は肺線維症を引き起こすが、IL-13の遺伝子欠損では肺線維症の程度は弱まる。

●住血吸虫症によって誘発される実験的な肝線維症の発症は、IL-13阻害剤によって阻止することができる。

●IL-13は筋線維芽細胞の増殖を刺激するが、この活動は喘息の気道リモデリングにおいてSTAT6に依存している。

●さらに、IL-13は、JAK/STAT6シグナル経路を活性化してPDGFを生成し、rxtracellular signal-regulated kinase(ERK)1/2 mitogen-activated protein kinase(MAPK) signalingの活性化により、培養マウス気道線維芽細胞におけるコラーゲンI産生を刺激することがわかった。

●IL-13とIL-4は、TGF-β依存性とTGF-β非依存性の両方で線維症を誘発するよう。

●IL-4と同様に、IL-13もマクロファージのTGF-β産生を刺激することにより線維化効果を発揮する。

●全身性強皮症では、血清と病変組織のIL-13値が上昇している。

●IL-13は線維芽細胞を刺激して、細胞外マトリックスを増殖と合成をする。

●CD8陽性細胞障害性Tリンパ球は、高いレベルのIL-13を分泌する細胞型であり、全身性硬化症の患者の皮膚線維症を媒介することが示された。

●実際、IL-13を産生するCD8陽性T細胞は、全身性強皮症患者の皮膚にホーミング受容体を持つことが示されている。

●健康な皮膚線維芽細胞とのインキュベーションにより、これらの細胞から細胞外マトリックス(ECM)が上昇し、T細胞と線維症の間の機能的リンクが示される。

●また、全身性強皮症患者からのIL-13を分泌するCD3陽性T細胞を健康なドナーの皮膚線維芽細胞と一緒にインキュベートすると、コラーゲン遺伝子の発現が上昇することもわかった。これは抗IL-13​​抗体で減らすことができる。

●主にSTAT3を介して信号を送るIL-6とは対照的に、IL-13の下流の信号メカニズムは主にSTAT6によって媒介される。

 

全身性強皮症の治療

●現在使用される薬剤としては、血管拡張薬(カルシウム拮抗薬、プロスタノイド、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、内皮受容体拮抗薬)、免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、シクロホスファミド、コルチコステロイド、IVIGなど)が含まれる。

●しかし、満足できるものはなく、①血管障害、②炎症、③線維化の病相のいずれかに作用するのみである。

●初期のびまん性皮膚硬化型全身性強皮症におけるメトトレキサートや、間質性肺炎に対するPOCYやIVCYが有効であることはいくつかのRCTで示されている。

●ミコフェノール酸モフェチルは肺線維症の第一選択薬としてますます使用されている。

●自家造血幹細胞移植は臓器不全のリスクがあり、免疫抑制薬に治療抵抗性の進行性疾患患者にとって良い選択肢である。

●近年、標的治療が試されている(TNFα阻害薬、抗CD20薬、抗BAFF薬、アバタセプト、抗TGF-β薬、抗IL-6薬、イマチニブ、ニロチニブなど)。

●可能性のある新しい治療ターゲットは上記の病態に基づいて仮説を立てることができる。

●例えばIL-4やIL-13が新たな治療ターゲットになり得る。

 

全身性強皮症の新たな治療ターゲット

●以下にIL-4とIL-13シグナル伝達経路とその阻害薬の候補を示す。

・抗IL-4/IL-13抗体(SAR156597)

・抗IL-4受容体抗体(デュピルマブ)

・JAK阻害薬(バリシチニブ)

 

IL-4/IL-13阻害薬~ロミルキマブ~

 上記でIL-4とIL-13が線維化に関与することを示しましたが、これを中和する人工ヒト化二重特異性免疫グロブリンG4抗体であるロミルキマブの第IIa相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(NCT02921971)の結果が2020年のEULARで発表されました。まだ論文化されていないため、学会発表の抄録だけご紹介します。

 

方法

●免疫抑制療法の背景の有無にかかわらず、びまん皮膚硬化型全身性強皮症患者(疾患期間36か月以上、mRSS 10-35)を対象。

●患者をランダムに皮下ロミルキマブ200mgまたはプラセボを24週間投与する群に、全身性強皮症性間質性肺疾患の病歴に基づいて層別化。

●主要エンドポイントは、ベースラインから24週目までのmRSSの平均変化で、副次的評価項目はFVC(努力肺活量)/DLco(肺拡散能)HAQ-DI

●すべての分析は、片側p値<0.05を採用。

 

結果

●治療選択(プラセボ59.2% vs ロミルキマブ52.1%)を含む背景で、同様のベースライン特性(Table 1)を持つ97人の患者がランダム化された。

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プラセボ群で6人(12.2%)とロミルキマブ群で4人(8.3%)の患者は、早い段階で試験治療を中止。

 

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 ●主要エンドポイントであるmRSS(皮膚硬化スコア)は、プラセボ群とロミルキマブ群のmRSS(皮膚硬化スコア)はそれぞれ-2.45(0.85)、-4.76(0.86)低下しており、ロミルキマブ群で-2.31(1.219の差で有意に低下していた(p=0.029)(Table 2)。

●階層化基準に基づくサブグループ分析では、有意差はなし(p=0.731)。

●両治療群に基づくサブグループ分析は同様の治療効果を示し、プラセボ群を差し引いたmRSSの差は-2.69(1.83)および-2.38(1.59)であり、背景治療とロミルキマブ群の間の相加効果を示唆(Table 2)。

●副次的評価項目では、ロミルキマブ群とプラセボ群間に統計的に有意差はなかったが、ロミルキマブを使用した群ではFVCの減少は数値的に少なかった(Table 2)。

全体的な疼痛、レイノー症候群、手指潰瘍、およびEQ-5D-5L(健康関連QOL測定スコア)ではロミルキマブ使用群で低い傾向(Table 2)。

有害事象両群で有意差なし(プラセボ群 83.7% vs ロミルキマブ群 83.3%)。

プラセボ群とロミルキマブ群で重篤な有害事象が認められた患者はそれぞれ5人と4人。

●両群で1人ずつ死亡例が発生した(プラセボ群-心筋症、ロミルキマブ群-強皮症腎クリーゼ)。

 

まとめ

●全身性強皮症の病相にはびまん性の血管障害、その後に自己免疫反応と軽度の炎症とそれに続く線維化がある。

線維化にはTh2から産生されるIL-4IL-13が関与する。

●IL-4とIL-13を中和する人工ヒト化二重特異性免疫グロブリンG4抗体であるロミルキマブの第IIa相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験の結果、皮膚硬化スコアは有意に低下、肺活量肺拡散能全体的な疼痛、レイノー症候群、手指潰瘍、およびEQ-5D-5L(健康関連QOL測定スコア)はロミルキマブ使用群で低い傾向。なお、有害事象はプラセボ群と同等で比較的安全。

●その他、IL-13の細胞内シグナル伝達経路はJAK/STAT6であるため、一部の患者ではJAK阻害薬も有効かもしれない。

 

【参考文献】

●Yannick Allanore, et, al. Nat Rev Dis Primers . 2015 Apr 23;1:15002. "Systemic Sclerosis" 

→全身性強皮症のReview

●Giulia Gasparini, et al. Cytokine . 2020 Jan;125:154799. "Interleukin-4 and interleukin-13 as Possible Therapeutic Targets in Systemic Sclerosis" 

→今回の論文『インターロイキン4と13が全身性強皮症の炎症と線維化に関与する』

●Jörg H W Distler, et al. Nat Rev Rheumatol . 2019 Dec;15(12):705-730. "Shared and Distinct Mechanisms of Fibrosis" 

→Nature Reviewの論文『線維化のメカニズムに関連する免疫細胞について』