脊椎関節炎でも抗CCP抗体は高い陽性率を示す
先日、他院で『関節リウマチ』として治療されている患者さんが、小生の一般内科外勤に降圧薬の処方と、ついでに関節痛の増悪を訴えて来院されました。
もともと『抗CCP抗体強陽性』のため、関節リウマチと診断されたとの事ですが、診察すると足関節炎、肘関節炎に加えて、『指炎』『pitting nail』『アキレス腱炎』『膝の落屑を伴う紅斑』を認め、乾癬性関節炎が疑われました。
抗CCP抗体は関節リウマチに特異的と言われて来ましたが、様々な疾患で偽陽性になる事が分かっており、乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎患者でもしばしば陽性となる報告がされています。
その陽性率を調べてみると、つい最近、日本から乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎における抗CCP抗体の陽性率について報告した論文が見つかりました。
今まで乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の抗CCP抗体陽性率について調べた論文はありましたが、この論文では脊椎関節炎を細かく分類し、それぞれの疾患における抗CCP抗体の陽性率を比べたところに新規性があるので、以下にまとめたいと思います。
My Comments
●単施設の後ろ向き研究ですが、日本からのこういう情報はとても大事だと思います。
●脊椎関節炎でも抗CCP抗体が陽性となる事は良く聞きますが、脊椎関節炎患者の15%が抗CCP抗体陽性というのは意外に多いなと思いました。
●強直性脊椎炎は抗CCP抗体陽性がほとんどなく、一方で、乾癬性関節炎は3割を超える高い陽性率で驚きました。
●乾癬性関節炎の皮疹が出ていない初期には抗CCP抗体が陽性というだけで関節リウマチと誤診されている方も多いかもしれません。
→初期治療はメトトレキサートなので間違いではありませんが、その後の治療が若干変わります。
●この研究では関節リウマチの1987年のACR分類基準を満たす患者は除外されていますが、2010年のACR/EULARの早期関節リウマチの分類基準は用いていません。もしかしたら、研究に含まれている患者の中で、こちらを満たす患者はいるのかもしれません。
●また、抗CCP抗体が陽性の脊椎関節炎患者を長期的にフォローアップしたら、関節リウマチを発症するかどうかは興味がある所です。
●せっかくならば、抗CCP抗体の抗体価まで比較して欲しかったです。
●あと、もとサイトを見ても、Supplementがなぜが見れない状態でした。
Results
SpA患者の疾患の特徴と分布
●109名の脊椎関節炎患者のうち、強直性脊椎炎、SAPHO、乾癬性関節炎、分類不能脊椎関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎と診断されたのはそれぞれ39.5%、11.9%、18.4%、24.8%、2.7%。
●ASは女性の割合が低く、他の疾患に比べて罹患期間が長く、発症年齢も若かった。●PsA群は他の群の平均年齢に比べて比較的高齢であった。
脊椎関節炎における抗CCP抗体陽性率
●脊椎関節炎における抗CCP抗体陽性率は15.3%(16/109)。
●各疾患における抗CCP抗体の検出率は以下。
AS: ankylosing spondylitis; SAPHO: synovitis, acne, pustulosis, hyperostosis, and osteitis syndrome; PsA: psoriatic arthritis; uSpA: undifferentiated spondyloarthritis; ReA: reactive arthritis; IBD: inflammatory bowel disease-associated spondyloarthritis.
●陽性率が最も高かったのは乾癬性関節炎、次いで炎症性腸疾患関連、SAPHO、分類不能脊椎関節炎。
→炎症性腸疾患関連関節炎は患者数が少ないので、ここでは参考程度にとどめるべきでしょう。
●強直性脊椎炎では抗CCP抗体陽性率は低い。
→反応性関節炎でも陽性は0ですが、患者数が3人しかいないので参考底後にとどめるべきです。
●ノンパラメトリック多重比較分析により、強直性脊椎炎と乾癬性関節炎の抗CCP抗体の陽性率に有意差を認めた(P<0.01)。
●統計的に有意差はなかったが、SAPHO(P=0.058)、分類不能脊椎関節炎(P=0.22)では強直性脊椎炎と比較して抗CCP抗体陽性率が高かった。
抗CCP抗体陽性と臨床的特徴の関係
●抗CCP抗体の有無に関する臨床的特徴の分布を上記Table 2に示す。
●抗CCP抗体陽性群と陰性群の間で、年齢、発症年齢、ESR、RF、ACRスコア、3関節以上の関節炎、手関節炎、RF陽性率に有意差を認めた。
●上記の因子のロジスティック線形回帰分析を行うと、脊椎関節炎患者において、抗CCP抗体の陽性と、手関節炎、ESRが有意に関連していることがわかった(それぞれP=0.005, P=0.033)。
→この解釈はどうするべきか検討がつきません。
Patients and Methods
●1993年から2018年までに雪岡病院で追跡調査を行った合計111人のSpA患者を対象。
●それぞれの患者は以下の診断基準を満たすか、リウマチ専門医によって診断。
●診断基準
・強直性脊椎炎:修正ニューヨーク基準
・SAPHO症候群:Benhamouらの基準
・乾癬性関節炎:CASPER基準
・末梢性/体軸性SpA, 分類不能脊椎関節炎, 反応性関節炎, IBD関連:ASAS分類基準
※SAPHO症候群は脊椎関節炎以外に分類されることが多いですが、この研究では脊椎関節炎の一部として取り入れています。
●関節リウマチの1987年ACR分類基準を満たす患者は除外。
→これにより2人の患者が除外され、最終的には合計109人の解析となった。
●抗CCP抗体はSRLの酵素結合免疫吸着方(ELISA)を用いて測定。カットオフ値4.5 U/ml。
●抗CCP抗体と臨床的特徴との相関を評価するために、カルテよりCRP、ESR、RF、MMP-3、RA criteria scoreなどを抽出。
●基本的特徴の統計は、Studentt検定またはFisher検定を用いた。
●疾患サブグループ間の抗CCP抗体陽性の有病率の比較には、ノンパラメトリック多重比較検定であるSteel法を用いた。対照群として抗CCP抗体価が比較的低いことが知られている強直性脊椎炎患者を含めた。
●抗CCP抗体陽性と検査データとの相関を確認するために、まず各変数についてカイ二乗検定を行い、その後ロジスティック線形回帰分析を行った。
●統計ソフトはJMP Pro version 3.1を用いた。
【参考文献】
Yamazaki H, et al. Mod Rheumatol. 2020 Apr 28:1-13. "Prevalence of anti-cyclic citrullinated peptide antibodies in patients with spondyloarthritis: a retrospective study"