リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

ビタミンD欠乏は自己免疫性疾患を引き起こす

 ビタミンD欠乏が低カルシウム血症や骨粗鬆症だけでなく、自己免疫疾患と関係する事は昔から少しずつ知られておりました。

 

 全身性エリテマトーデス(SLE)でもビタミンD欠乏が様々な自己免疫反応を起こすことが言われております。

 

 今回は少し古いですが、SLE患者と健常者でのビタミンD値を比較した論文をご紹介致します。

 

 

Introduction

ビタミンD欠乏症は多発性硬化症、関節リウマチ、1型糖尿病、炎症性腸疾患、混合性結合組織病、自己免疫性甲状腺疾患、強皮症、全身性エリテマトーデスと関連すると言われてきた。

ビタミンD値は未分化の結合組織疾患患者の方が対照群よりも低く、結合組織疾患が進行した群では進行しなかった群よりもビタミンD値が低いという報告がある。

ビタミンDの補充は多発性硬化症、関節リウマチ、1型糖尿病、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスのマウスモデルの疾患を改善する事が示されている。

●ある報告ではSLEのモデルマウスにビタミンDを投与すると皮膚症状が改善し、蛋白尿が減少、生存率が向上したという。

●SLE患者では約3分の2の患者にビタミンD欠乏症があり、約5分の1が重度の欠乏症(<10ng/ml)である。

●血清ビタミンD値は疾患活動性と反比例することも示されている。

ビタミンDはBリンパ球と免疫グロブリン産生に抑制的効果を示す。

●また、単球、マクロファージ、樹状細胞、活性化T細胞・B細胞にはビタミンD受容体が含まれており、ビタミンDを活性型に変換するための酵素(1α-ヒドロキシラーゼ、CYP27B1)が必要。

●SLE患者の末梢血から採取された末梢血単核細胞(PBMC)を1,25(OH)2ビタミンDやその合成類似体と共培養すると、細胞増殖、ポリクローナルIgG、抗ds-DNA抗体の産生が有意に減少するという報告がある。

●1,25(OH)2ビタミンDは活性化B細胞のアポトーシスを誘発し、制御性T細胞を誘発する事が示されている。

●Toll様受容体(TLR)を介して細菌に反応する単球やマクロファージはビタミンD受容体を発現し、1α-ヒドロキシラーゼの両者を局所的に導入する事で、25(OH)ビタミンDによって刺激されるという報告がある。

●SLEの病因に重要なサイトカインであるインターフェロンα(IFNα)は、SLEの疾患活動性と関連するが、核酸を含む免疫複合体によるTLRの刺激から誘導される。

●In vitroでは免疫グロブリンインターフェロン(IFN)に対するビタミンD抑制作用が実証されてきたが、SLE患者でのビタミンD値の関連性について報告はなかった。

●この研究では抗核抗体(ANA)陽性の健常コントロールと陰性の健常コントロールとSLE患者でビタミン欠乏症の程度を調べた。

●また、ビタミンD値とB細胞活性化、自己抗体産生、SLEおよび健常者のIFNα活性を含む相互関連経路との関係も評価した。

 

Materials and methods

調査対象母集団

●対象はSLE患者32人と対照患者32人。

●SLEはACRの分類基準の少なくとも4つを満たすものと定義した。

●人種、性別、緯度による25(OH)ビタミンD値の変動を最小限にするためにオクラホマ在住のヨーロッパ系アメリ人女性のみがエントリーさせた。

●SLE患者と健常コントロールの年齢(±5歳)、人種、性別を一致させた。

 

25(OH)ビタミンD

●20ng/ml未満をビタミンD欠乏症と定義した。

 

SLE関連自己抗体

●抗核抗体はHEp-2間接免疫蛍光抗体法を用いて検出した。

●抗ds-DNA抗体はCrithidia luciliae間接蛍光抗体法を用いて検出した。

●抗核抗体は1:120以上の希釈で、抗ds-DNA抗体は1:30以上の希釈で検出された場合は陽性と判断した。 

 

Results

健常者とSLE患者の血清ビタミンD

●健常者32人、SLE患者32人の血清ビタミンD値を測定した。

●健常者32人のうち、14人に抗核抗体(ANA)が陽性であった。

●14人のANA陽性健常者の平均年齢は、ANA陰性健常者よりも有意に高かった(54.1対42.8歳、p=0.029)。

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●図Aより、血清ビタミンD(25(OH)ビタミンD)値の平均は、以下の通りであった。

 -SLE患者:17.3(11.9~21.2) ng/ml

 -ANA陽性健常者:17.4(14.5~25.8) ng/ml

 -ANA陰性健常者:29.4(19.0~36.3) ng/ml

ANA陽性健常者とSLE患者では有意差はなかったが、ANA陰性健常者では前両者と比較して有意に25(OH)ビタミンD値が高かった

●ロジスティック回帰モデルでは年齢はビタミンD欠乏を予測しなかったが、ANA陽性は有意に予測因子となり得た(p=0.025)。

●図Bより、SLE患者、ANA陽性健常者はANA陰性健常者と比較して、ビタミンD欠乏症の可能性が高かった

 -SLE患者:69%(OR7.7, 95% CI 2.0 to 29.4, p=0.003)

 -ANA陽性健常者:71%(OR8.8, 95% CI 1.8 to 43.6, p=0.011)

 -ANA陰性健常者:22%

●SLE患者で25(OH)ビタミンD欠乏患者(n=22)は非欠乏患者(n=10)と比較して、ACR分類基準、疾患活動性スコア(SLEDAI、SLAM、PGA)、BMI、薬剤の間で統計的有意差は認められなかった。

●SLE患者の内、25(OH)ビタミンD欠乏患者(n=22)と非欠乏患者(n=10)の治療薬は以下。

 -アザチオプリン:23% vs 20%(p=1.000)

 -ヒドロキシクロロキン:77% vs 60%(p=0.407)

 -ミコフェノール酸モフェチル:23% vs 10%(p=0.637)

 -メトトレキサート:23% vs 10%(p=0.637)

●免疫抑制療法中のビタミンD欠乏患者の割合と非欠乏患者の割合は有意差がなかった。

ビタミンD欠乏患者ではACR分類基準の項目数が多かった(6.4 vs 5.3, p=0.026)。

 

SLE患者でのB細胞活性化と25(OH)ビタミンD値の関係

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●pERK1/2は分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼであるが、B細胞でこれを測定することで、B細胞の分裂を評価する事ができ、B細胞の活性化を示すマーカーとなる。

●図Aより、SLE患者ではB細胞が活性化(pERK1/2が上昇)するほど、25(OH)ビタミンD値が低下していた(r=-0.40, p=0.03)。

●図Bより、25(OH)ビタミンD値が20ng/mlよりも高い場合、B細胞がより活性化(pERK1/2が上昇)していた(p=0.045)。

●ここでは示されておりませんが、ビタミンD欠乏患者では非欠乏患者と比較して抗SS-A/Ro抗体が陽性となる傾向があった(59% vs 20%)。

●抗SS-A/Ro抗体陽性患者では陰性患者よりも光線過敏症が少ない傾向だった(60% vs 77%)。

●その他のSLE関連自己抗体(ds-DNA、SS-B/La、Sm、nRNP、リボソームP、aPL)に有意な傾向はなかった。

 

SLE患者でのインターフェロンα(IFNα)値と25(OH)ビタミンD値の関係

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●図Aより、25(OH)ビタミンD値<20ng/mlのSLE患者では血清IFNα活性が有意に高かった(平均値3.53 vs 0.34, p=0.02)。

●図Bより、高IFNα活性のSLE患者では、低IFNα活性患者よりも特異的自己抗体の陽性数が多かった(2.1 vs 0.9, p=0.002)。

●抗SS-A/Ro、ds-DNA、nRNP抗体は高いIFNα活性と相関関係を認めた。

●単一予測ロジスティック回帰モデルでも25(OH)ビタミンD(p=0.033)と特異的自己抗体陽性数(p=0.047)の両者がIFNα活性と有意に関連する。

 

ビタミンD欠乏による自己免疫疾患発症メカニズムの仮説

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●まず遺伝的要因(感受性が高い遺伝子)や他の環境要因があり、それにビタミンD欠乏が被ると、B細胞が活性化する。

●B細胞は自己核酸に対する抗体(抗核抗体)を産生し、核酸と自己抗体の免疫複合体を形成する。

●その中に含まれる核酸はToll様受容体を活性化する事が出来、SLE患者の形質細胞様樹状細胞(pDC)からIFNα産生を促進する。

ビタミンDは形質細胞様樹状細胞に存在するビタミンD受容体に結合し、IFNα産生に影響を与える可能性があるが、1,25(OH)ビタミンDの使用でIFNαの産生に影響を与えなかった。

●しかし、ビタミンDは骨髄由来樹状細胞のIFN発現を抑制する事が分かっている。

●ちなみに1,25(OH)ビタミンDは実験レベルではT細胞コンパートメントをより抗炎症性、抑制性状態に傾け、Th1とTh17細胞に対する阻害作用とCD4 CD25 Foxp3+制御性T細胞(Treg)の発達を促進する事が示されている。

ビタミンDはTreg細胞を炎症部位への動員を促進する免疫寛容性樹状細胞を動員する事も示されている。

 

まとめ 

●SLE患者では抗核抗体陰性の健常者よりも血清ビタミンD値が有意に低かった。

●加えて、抗核抗体陽性健常者でも抗核抗体陰性健常者よりも血清ビタミンD値が有意に低かった。

●血清ビタミンD値が低いSLE患者ではB細胞の活性化し、インターフェロンα活性が上昇している。

 

コメント

●本実験では上記のまとめ以上の事は言えません。

●SLE患者だけでなく無症状の抗核抗体陽性の健常者でも、ビタミンD欠乏が認められていたので、もともとSLEになりやすい人(遺伝的要因)が、SLE発症の前段階の時点で環境因子としてビタミンD欠乏が何らかの影響を与えている可能性があれば面白いなあと思います。

●その機序が、B細胞が活性化し、自己抗体産生が亢進するというメカニズムもマウスモデルなどで証明出来たら面白いですね。

●まだまだ分からない事ばかりですが、この論文が出た後に、SLE患者にビタミンDを補充したらどうなのか実験する流れが出来ました。PMID=27371107にビタミンD補充試験がまとめてあります。

→現時点ではビタミンD補充は副作用がなく、SLEの疾患活動性に対して多少の効果があるのではないかと考えられております。

●一方で、抗核抗体陽性の健常者の段階からビタミンDを補充する事で、SLEの発症が抑制できるかどうかは、わかっておりませんが、外来でビタミンD内服を積極的に促進する根拠として応用できるかもしれません。

 

【参考文献】

Ritterhouse LL, et al. Ann Rheum Dis. 2011 Sep; 70 (9): 1569-74. "Vitamin D deficiency is associated with an increased autoimmune response in healthy individuals and in patients with systemic lupus erythematosus."