リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

炎症性貧血Review NEJM2019

 つい最近のNEJMで炎症性貧血についてReviewが出されておりました。真新しい事はないかと思いますが、分子機序が割と細かく、復習に良いかもしれません。まとめてみたので、二次利用などにご活用ください。

 

【ポイント】

ヘプシジン合成亢進

・炎症が起こるとTNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γが分泌亢進するが、特にIL-6の分泌により、JAK2-STAT3を介して、ヘプシジン合成が亢進する。

・ヘプシジンは血漿鉄を血漿に輸出する唯一のトランスポーターであるフェロポーチンを抑制する。

・これは十二指腸細胞、マクロファージ、肝細胞に存在しているため、抑制されることで、十二指腸細胞での鉄吸収が抑制され老化した赤血球を貪食し、鉄をリサイクルするマクロファージからの鉄放出の低下や③鉄を貯蔵する肝細胞から血漿への鉄の放出の低下が起こる。

・その結果、血漿鉄が低下し、貯蔵鉄が増加する。

・マクロファージと肝細胞はフェリチンという形で貯蔵された鉄を分泌する。

骨髄

・さらに炎症サイトカイン(TNF-α、IFN-γなど)により、骨髄で白血球系の分化が亢進するため、赤血球系の分化が抑制される。

赤血球寿命

・炎症状態ではマクロファージが活性化し、貪食により、赤血球の寿命が短縮する。

・その他の要因と合わせて、赤血球寿命は120日から90日に短縮する。

エリスロポエチン

・炎症によって腎間質細胞でのエリスロポエチンの産生も低下する。

・炎症によって赤血球前駆細胞エリスロポエチン受容体数の減少が起こり、エリスロポエチン抵抗性も増加する。

 

【導入】

・炎症性貧血は60年以上前から認識されている軽度から重度の貧血(Hb7-12g)である。

・赤血球の産生、赤血球寿命の減少を伴う。

・鉄欠乏性貧血同様、血清鉄が低いが、貯蔵鉄は高値であり点で異なり、鉄分布障害を示唆する。

・MCV、MCHCは正常に見えるが鉄欠乏症が合併する場合は低下する。

・赤血球の寿命は約120日であるため、炎症で赤血球の寿命が減少したとしても、臨床的に有意な減少は通常、背景の炎症性疾患が発症してから数週間から数か月経過しないと起こらない。

・しかし重症患者では集中治療室に1週間入室しているだけで急速に炎症性貧血が進行する可能性がある。

・そのような患者では貧血は失血や溶血などにより、貧血が進行している可能性がある。

・炎症性貧血は関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、結核HIV、ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫、サイトカイン産生性血液腫瘍、固形癌(卵巣癌や肺癌など)、慢性腎不全、慢性心不全慢性閉塞性肺疾患嚢胞性線維症など多岐の疾患で起こる。

 

【炎症】

・微生物や有害物質が体内に入ると最初にToll様受容体、Nod様受容体、マンノース結合レクチンなどの分子センサーによって認識される。

・これにより最終的に様々な炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γ)が炎症発症の数時間以内に産生される。

・これらの炎症性サイトカインは直接的、間接的に赤血球産生を抑制し、赤血球寿命を短縮する。

 

【鉄代謝

・正常では血漿鉄値は10-30μMの範囲を維持されている。

・貯蔵鉄は0.3-1.0gを維持する(生食年齢の女性は正常範囲下限となる)。

・血清鉄の調整は肝細胞が産生するヘプシジンとヘプシジン受容体であるフェロポーチンによって行われる。

・フェロポーチンは鉄が血漿に移動するための唯一の輸出体である。

・ヘプシジンはフェロポーチンの鉄輸出活性を阻害し、それにより十二指腸細胞での鉄吸収老化した赤血球を貪食し、鉄をリサイクルするマクロファージや③鉄を貯蔵する肝細胞から血漿への鉄の移動を制御する。

血漿鉄は輸送タンパク質トランスフェリンに結合しており、これはヘムとヘモグロビンを合成する骨髄赤芽球へ搬送する事が目的。

・肝臓でのヘプシジン合成は貯蔵鉄と血漿鉄の両者からフィードバックを受ける(鉄が豊富の場合はヘプシジン合成は増加し、鉄欠乏時はヘプシジン合成は亢進する)。

血漿鉄のセンサーはトランスフェリン受容体1と2であるが、二鉄トランスフェリンを検知する。一方、貯蔵鉄のセンサーは特定されていない。

・炎症ではヘプシジン合成が著明に増加する。

・これは主にIL-6JAK2-STAT3(ヤヌスキナーゼ2シグナル伝達転写因子3の活性化因子)を介して、肝細胞でのヘプシジン遺伝子の転写を増加させるためである。

・肥満などの軽度の全身性炎症状態でも血清ヘプシジンが増加する。

・敗血症患者では血清ヘプシジン値が10倍以上に増加する。

 

【赤血球生成】

・赤血球は骨髄の造血幹細胞から生成される。

・造血幹細胞は顆粒球・マクロファージ系にも巨核球・赤芽球系にも分化できる前駆細胞となるが、その後、PU.1を多く発現すると顆粒球・マクロファージ前駆細胞(顆粒球・単球)に分化し、GATA1を多く発現すると血小板、赤血球)に分化する。

 

《参考》

(※九州大学医学部 第一内科HP

http://www.1nai.med.kyushu-u.ac.jp/professional/stem.phpより転載)

 

・巨核球・赤芽球前駆細胞はさらに巨核球コロニー形成細胞と赤芽球バースト形成細胞(BFU-E)に分かれる。

・赤芽球バースト形成細胞(BFU-E)は赤芽球に分化する最初の前駆細胞である。

・その後、BFU-Eからさらに分化したものが赤芽球コロニー形成細胞(CFU-E)である。

・赤芽球コロニー形成細胞(CFU-E)はさらに分化し、前赤芽球となる。

・前赤芽球はさらに4回または5回の分裂をし、ぞれぞれ成熟ヘモグロビン合成赤芽球となり、脱核して網状赤血球を経て、成熟赤血球となる。

・CFU-Eから初期赤芽球の生存率はエリスロポエチンによる。

エリスロポエチンはアクチビン様のTGF-βファミリーである。

 

【病因】

進化の視点

・炎症が起こると、白血球の産生のため、上記機序で赤血球の産生が犠牲となる。

・マクロファージが活性化し、赤血球の寿命も短くなる。

 

低鉄血症

・低鉄血症は感染または炎症イベントの最初の数時間以内に起こる。

・鉄はグラム陰性菌の病原性を刺激するものとして考えられているため、血漿鉄濃度とトランスフェリン飽和の減少は非トランスフェリン結合鉄の生成を防ぐのに役立つ可能性がある。

・IL-6により高濃度産生されたヘプシジンは鉄の供給源であるマクロファージと肝細胞から鉄の放出を抑制する。

・鉄を放出できないマクロファージと肝細胞はフェリチンを大量に分泌する。

・赤血球生成は低鉄血症により抑制される(トランスフェリン飽和15~20%程度で)が、血漿鉄の低下による影響は少ない。

 

骨髄の再プログラミング

・炎症の初期では白血球産生の増加のため、骨髄内での顆粒球・マクロファージ前駆細胞の数が増加する(顆粒球・マクロファージ前駆細胞:巨核球・赤芽球前駆細胞>4:1)。

・骨髄の再プログラミングは炎症サイトカイン(TNF-α、IFN-γなど)により起こる。

・骨髄球やリンパ球の分化を促進する転写因子PU.1を活性化させる。

・BFU-Eがより分化した赤血球細胞を生成する能力も炎症サイトカインによって阻害される。

・炎症によって腎間質細胞でのエリスロポエチンの産生も低下する。

・炎症によって赤血球前駆細胞エリスロポエチン受容体数の減少が起こり、エリスロポエチン抵抗性も増加する。

 

赤血球寿命の短縮

・赤血球寿命は炎症状態では120日から90日に短縮している。

・マクロファージによる貪食に加えて複数の因子によって赤血球破壊が起こる。

・高炎症状態での抗体や補体の沈着、微小血管フィブリン鎖による損傷でも溶血が起こる。

 

【診断】

・臨床的に鉄欠乏性貧血との鑑別が重要。

 

《炎症性貧血と鉄欠乏性貧血の鑑別》

・炎症性貧血に鉄欠乏性貧血が合併するときには、上記の指標が役に立たず、判断が難しくなる。

・歴史的に骨髄に染色可能な鉄が存在しないことが鉄欠乏の診断基準として使用されてきたが、侵襲的であり、病理学者の解釈の問題もあり、推奨されない。

・臨床的には炎症性貧血患者で鉄欠乏を診断する際には消化管出血があるかどうか、医原性出血があるかどうかを検討すべき。

・必要であれば鉄剤の補充を行う。

・経口よりも経静脈的投与の方が安全で炎症性貧血に合併した鉄欠乏の改善が見込める。

・Fe必要量(Fe=(16-Hb)×体重×2.2)の半分量を静脈内投与してみて、4週間以内に反応するか見る。

 

【治療】

・炎症疾患の根本治療は大事だが、常に実行可能ではない。

・キャッスルマン病に対して抗IL-6抗体薬、リウマチ患者に対して抗TNF-α薬、巨細胞性動脈炎患者に対するステロイド治療を行った場合、2週間以内にヘモグロビンが上昇する。

・貧血を呈する結核に対して抗結核薬を使用すると、1か月で約3分の1、2か月で半分の患者で貧血が解消される。

エリスロポエチン誘導体が開発されているが、腎代替療法を必要としないCKD患者では血中Hb値が改善する報告があるが、腎代替療法を必要とするCKDの疾患進行に対して有効ではなかった。

・炎症性貧血の新しい治療が開発途中である。

 

《開発途中の薬剤》

・ヘプシジンに対する薬剤はフェロポーチンへの作用を阻害する可能性がある。

・プロリルヒドロキシラーゼ阻害薬はエリスロポエチンの産生を刺激し、腸粘膜に直接作用して鉄の吸収を増加させる可能性がある。

 

【予後】

・高齢患者(60歳以上)の炎症性貧血では生存率の低下と健康関連のQOLの低下、身体機能の低下と関連していた。

 

【参考文献】

 Ganz T. N Engl J Med. 2019 Sep 19;381(12):1148-1157. Anemia of Inflammation.