リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

SLEの慢性期のステロイドは中止できるか?

全身性エリテマトーデスにとってステロイド(グルココルチコイド)は不可欠な薬ですが『状態が安定した慢性期にそれを減量中止できるか』というのは永遠のテーマです。

 

多くの医師は臨床的に寛解になった状態でも、長期間のステロイド処方を好みます。

特にループス腎炎や中枢神経ループスの場合はそうです。

 

一部の患者では、長期間臨床的寛解を維持していたとしても、ステロイドを中止することで、再燃が起こったりするためです。

 

SLEのコホート研究では57-86%が長期の低用量グルココルチコイドを処方されています(PMID=22018198/10943870)。

 

しかし、ステロイドは低用量でも長期間使用する事で重篤な臓器障害を引き起こす可能性が知られています(PMID=25861455/27933196)。

 

したがって、最新のガイドラインでもステロイドは可能な限り減量・中止が推奨されています(PMID=30926722)。

 

慢性期に低用量のステロイドを継続すべきかやめるべきか、という臨床的疑問に対して今まできちんとした前向きの報告はありませんでした。今回ご紹介するのは単施設ではありますが、この難題に取り組んだ非盲検ランダム化比較試験(CORTICOLUP試験)です。

 

以下にこのブログの読み方を示します。

それぞれの項目に対象を示していますので、該当する部分だけお読みくださいね。

 

このブログの読む手順

専門医(R: Rheumatologist):概要→Patients & Methods→Results→My comments

非専門医(D: Doctor):概要→Results→My comments(→Patients & Methods)

患者さん(P: Patient):概要→My comments

 

 

本研究の概要:R・D・P

●フランスの単施設でプレドニゾン5mg少なくとも1年臨床的に寛解の状態を維持している患者をランダムに2群に分けた。一方はプレドニゾン維持群で、もう一方は突然中止群とした(副腎不全にならないよう1か月だけはヒドロコルチゾンを処方された)。

●52週間(1年間)経過を見たところ、5mgのプレドニゾンを突然の中止は、再燃リスクの4倍増加と関連していた。

●プレドニゾンを継続したことによる臓器障害や有害事象は離脱群と比べて有意差はなかった。

 

Patients & Methods:R・(D)

Patients

組み入れ基準

●2014年1月から2018年4月にかけて、パリにあるピティエサルペトリエール病院(単施設)で1年以上寛解が維持されている18歳以上のSLE患者がリクルートされた。

●SLEの分類は1997年ACR SLE分類基準を使用(PMID=9324032)。

●被験者を研究に登録し、プレドニゾン5mg/日を52週間継続するか、研究開始日(0日目)に内服を中断(プレドニゾン離脱)するようにコンピューター1: 1に割り当てた。

●プレドニゾン離脱に割り当てられた患者は、副腎不全を防ぐために、1ヶ月間ヒドロコルチゾン20mg/日を処方された。

●抗マラリア薬や免疫抑制薬を含む他のSLE治療は、治療に関連する副作用または治療の変更が必要なSLEフレアの場合を除いて、研究中は変更されなかった。

●臨床症状がない場合の抗dsDNAまたはC3の孤立した変化は、SLE治療の強化の指標としなかった。

 

除外基準

 妊娠中または妊娠を予定している患者、同意が得られなかった患者

 

寛解基準

 (1) SELENA-SLEDAIスコア≤4

 (2) BILAG 2004スコアにおいて血液系(白血球減少症、リンパ球減少症、

   クームス試験陽性)によるCスコアを除く全ての臓器においてDまたはE。

 (3) 医師全般評価(PGA)=0かつ薬剤使用の限定(プレドニゾン5mg /日。

   プレドニゾンや抗マラリア薬、免疫抑制薬は、最低1年間は同じ)

 

長期の臨床寛解の定義

過去5年間で、白血球減少症の発生、SLE治療、および血清学的活性((抗dsDNA抗体の存在、低補体血症)に関係なく、疾患活動性の臨床的徴候がない事

 

再燃の定義

SELENA-SLEDAIを用いた再燃の定義

●SELENA-SLEDAIを以下に示す。

●SELENA-SLEDAIを用いたflare index (SFI)は下記。

 

軽度または中等度:以下のうち1つ以上と定義された

 a) SELENASLEDAIスコアの変化が3点以上 (ただし12点未満)

 b) 新規または増悪した円板状ループス、光過敏性または

  その他のループスに起因する発疹(深在性狼瘡を含む、皮膚血管炎、水疱性狼瘡)

  鼻咽頭潰瘍、胸膜炎、心膜炎、関節炎、または感染に起因しない発熱

 c) プレドニゾンの増加 (ただし0.5mg/kg/日を超えない)

 d) SLE活性のためのNSAIDsまたはヒドロキシクロロキンの追加

 e) 医師全般評価(PGA)≥1 (ただし2.5を超えない)

 

重度:以下のうち1つ以上と定義された

 a) SELENASLEDAIスコアの変化が12点以上

 b) 新規のまたは悪化した以下の症状

※いずれの症状も、コルチコステロイドの投与量は倍増(最終投与量0.5mg/kg/日以上)、または入院を必要とする

 中枢神経系

 血管炎

 腎炎

 筋炎

 血小板減少症(血小板数<6万)

 または溶血性貧血(Hb値<7g/dl未満または2週間の間に3g/dl以上のHb値減少)

 c) プレドニゾンまたは同等の薬剤を1日あたり0.5mg/kgを超えて投与するか、または

 シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノレート酸モフェチル、

 メトトレキサートによる治療が必要だったいずれかの症状

 d) 活動性のために入院した場合

 e) 医師全般評価(PGA)≥2.5に増加

 

※独立した抗ds-DNA抗体や補体C3成分の変化や臨床症状がない状態での治療強化は再燃と定義していない。

 

BILAG 2004を用いた再燃の定義

●BILAG 2004を用いた再燃の定義は以下。

f:id:tuneYoshida:20210114012025p:plain

重度:いずれかの臓器で新規または悪化による1つのスコアA

中等度:いずれかの臓器で新規または悪化による2つ以上のスコアB

軽度:いずれかの臓器で新規または悪化による1つのスコアBまたはスコアC 3つ以上

再燃なし:上記以外

 

ステロイドの副作用の評価

ステロイドの副作用は複合グルココルチコイド毒性指標を用いた。

f:id:tuneYoshida:20210116205209p:plainf:id:tuneYoshida:20210116205229p:plainf:id:tuneYoshida:20210116205302p:plain

 

Outcomes & follow-up

主要評価項目

52週時点でのSELENA-SLEDAI flare index (SFI)での再燃患者の割合。

 

副次評価項目

 -再燃までの期間

 -52週時点でのSFIの軽度・中等度・重度の再燃率

 -52週時点でのBILAGスコアでの軽度・中等度・重度の再燃率

 -52週の間の血清学的な変化(抗ds-DNA抗体価、C3値)

 -52週のSystemic Lupus International Collaborating Clinics damage index(SDI)が増加した患者の割合

 -有害事象

 -ベースライン、3、6、9、12か月に評価

●再燃を疑う症状が現れた場合はすぐに医師に連絡。

●介入中断例も52週観察した。

 

統計分析 

●非活動性の長期プレドニゾン5mgを内服しているSLE患者では再燃リスクは3%と推定。再燃の割合がプレドニゾン離脱群で15%増加する事は臨床的に有意と仮定。

●この仮定のもと、80%の統計的検出力をもってプレドニゾン維持群が離脱群よりも優れているという事を結論づけるために、少なくとも62人の患者を各群に割り当てる必要があった。

●Type I error 5%

●ITTあり

●検定

 -連続変数:マンホイットニー検定

 -カテゴリー変数:フィッシャー直接確率検定 or カイ2乗検定

 -再燃までの時間:カプランマイヤー法(ログランク検定)

 -ハザード比:Cox比例ハザードモデル

 -治療効果とサブグループの相互作用:ロジスティック回帰モデル

有意水準:両側5%

●ソフト:GraphPad Prism V.5.0 (GraphPad Software, San Diego, California, USA)

      SAS V.9.4

 

Results:R・D

組み入れフローチャート

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●上記に組み入れ患者のフローチャートを示す。

●124人が登録され、61人と63人がそれぞれプレドニゾン維持群、離脱群にランダム化された。

●プレドニゾン維持群では2人が個人的理由で内服を中止。

●離脱群では4人が5mg/日のプレドニゾンを再開した。2人は個人的な理由、2人は妊娠のため。

 

患者背景

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●患者背景は上記。

維持群メトトレキサート併用率が高く離脱群ミコフェノール酸モフェチルの併用率が高かった事以外、両群で統計的有意な差はなかった。

●全ての患者はDORISの寛解基準(PMID=27884822)で『治療中の寛解』基準にあり、Zenらの定義(PMID=26223434)でも『コルチコステロイド寛解』の状態だった。

●維持群の24人(39%)、離脱群の32人(51%)は長期の臨床的に休止したSLEであった。

 

52週間の再燃率の比較

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●SFIを用いた52週での再燃を経験した患者の割合は維持群で4/61(7%)、離脱群で17/63(27%)で、維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.7, p=0.003)。

●SFIを用いた再燃の重症度解析では、軽度・中等度の再燃の割合維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.8, p=0.012)。

●BILAGを用いた52週で再燃を経験した患者の割合は維持群で4/61(7%)、離脱群で17/63(27%)で、維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.7, p=0.003)。

●BILAGを用いた再燃の重症度解析では、中等度・重症の再燃の割合維持群で有意に低かった(RR0.1, 95%CI 0.1-0.9, p=0.013)。

●なお、臓器障害の発生に関しては離脱群で3人に認められた(2つは骨粗鬆症関連骨折、1つは抗マラリア薬による網膜障害)。両群で有意差なし(p=0.244)。

 

抗ds-DNA抗体とC3の推移

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●抗ds-DNA抗体、C3値は52週間で変化していなかった。

 

累積再燃率

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●縦軸に累積再燃率を示す。

●プレドニゾン離脱群では有意に再燃している(p=0.002)。

●再燃は離脱群でおよそ50日以内に3/17(18%)、およそ100日以内に7/17(41%)起こっている。

 

サブグループ解析

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 ●サンプル数が少ないためか、特定の因子と再燃の関連付けは困難。

 

有害事象

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●52週の間に両群で発生した有害事象は稀であった。

●死亡、血栓症、悪性腫瘍、プレドニゾン中止または入院を必要とする有害事象はなかった。

●各群3人ずつ妊娠した。

●ベースラインと52週間の複合糖質コルチコイド毒性指数(GTI)の平均±SD変動は両群で同じだった(維持群3.3±13.0 vs 離脱群3.7±16.5, p=0.9)。

●ベースラインと52週間で複合GTIの悪化を経験した患者の割合も類似していた(維持群23% vs 離脱群29%, p=0.5)。

 

My comments:R・D・P

この研究ではいくつかの問題点があります。

再燃の定義の問題点

●SLEは多様性のある疾患で、活動性を表す指標に完璧なものがないのが難点です。今回の研究では再燃の基準は、その活動性指標に基づいて設けたものですので、どうしても曖昧さが残ってしまいます。

●例えば、再燃の基準として用いている活動性の指標の一つであるSELENA-SLEDAIですが、新規の血尿、蛋白尿だけで4点で再燃の定義を満たしてしまいます。再燃の指標に用いている医師全般評価も医師によって判断基準がまちまちであるため、一貫性に欠ける難点があります。

→これより、再燃が少し甘めに設定されている可能性があります。

●また、再燃時に一般的に活動性の指標となる抗ds-DNA抗体や補体が変動していないため、再燃を臨床症状だけで判断している可能性があります。

 

免疫抑制薬の使用率が低い

●『免疫抑制薬の追加』を再燃の一項と定義していますが、これはほとんどの患者ではステロイド単剤で治療されていた可能性を示唆しています。

→実際、免疫抑制薬の併用率が3割と少なく、もう少し免疫抑制薬を併用していると再燃率が低い可能性があります。

 

普通はステロイドを急に中断しない

●PSLを5mgから一気に中止する事は臨床上あり得ません。維持群と漸減中止群を比較すべきです。もちろん漸減中止すると、再燃率は低くなる可能性はあります。

●前向き試験の治療プロトコルはだいたい根拠を持って作成するものですが、今回PSLを突然中止するというのは、関節リウマチの先行研究(PMID=19074913/17963164)をもとに作られたそうです。関節リウマチとSLEではステロイドの需要がそもそも異なりますので、あまり参考にするべきではなかったのではないかと思います。

●再燃の4割が100日以内に起こっています。これは少し早すぎる印象です。Limitationにも書かれていますが、そもそも対象とした患者は医師が何らかの理由(今までに重度の再燃があった、主要臓器の病変だった、特殊なSLEだったなど)で、ステロイド1年以上減量せずに来ていた患者であるため、そのような患者でステロイドを急に中止したら、再燃するのは当たり前、と考えられます。

 

その他

●観察期間が52週=約1年でありを比較的短いです。それだけで有意差がついてしまったと言えばそうなのかもしれませんが、SLE自体がかなり長期間経過を見ないといけない疾患なので、長期的な予後は気になります。特にステロイドをずっと5mgで維持した場合に本当に問題ないのか、は重要な懸念事項です。

 

結論

●とはいえ今までSLEという多様性のある疾患の、しかも『慢性期にステロイドを中止してもいいか』という難題について挑戦した初めての前向きランダム化比較試験であり、評価に値する研究ではあります。私自身も同じような前向き試験に挑戦しようとしていた時期がありましたが、かなり大変である事を知っているので、尚更頑張ったな、とエールを送りたいですね。

●すべてのSLE患者に当てはめられるわけではありませんが、『(ステロイドだけで治療されている)寛解状態の患者ではステロイドを突然中止する事は再燃と関連する』という事は言えるのではないでしょうか。

●これは臨床で言うと、『自分で勝手にステロイドを自己中断する患者』では良い教育材料になると思います。『いくら寛解していたとしても、慢性期にステロイドを突然自己中断すると再燃率が4倍高いよ』と伝えてあげても良いかもしれません。

 

【参考文献】

Alexis Mathian, et al. Ann Rheum Dis. 2020 Mar; 79 (3): 339-346. "Withdrawal of low-dose prednisone in SLE patients with a clinically quiescent disease for more than 1 year: a randomised clinical trial" PMID=31852672

PMRにどのくらいGCAが合併する?鑑別点は?

リウマチ性多発筋痛症(PMR)と巨細胞性動脈炎(GCA)は合併すると言われています。

 

欧米では、およそPMRの10~30%GCAが合併すると言われておりますが(PMID=28774422)、日本ではもう少し頻度が低く、東北大学からの報告では、PMRの内probable GCAに分類されたのはわずか6.7%だそうです(PMID=32581186)。

 

これは、日本で欧米よりもGCAの頻度が低い事と、欧米と比べてPMRと診断される率が高いためだと考えられますが、この背景には"高齢化社会"のためPMRの罹患率が高くなっている可能性と、単に"PMRと診断しすぎ"である可能性が隠れています。

 

欧米ではエコーやPETなどの画像検査を駆使していますが、日本では身体所見炎症マーカー、そしてステロイドの反応性のみで診断する事が多いように思います。

 

”PMR”と診断される疾患の中には”他の疾患”が混じっている可能性は常に考えなければなりません。

 

さて、話は戻って”PMRと診断した患者さんがGCAを合併しているか”という事は臨床上、非常です。以下にPMRとGCAの鑑別ポイントをまとめます。

 

f:id:tuneYoshida:20210110234315p:plainAION:前部虚血性視神経症、CRAO:中枢網膜動脈閉塞症、LV-GCA:大血管型巨細胞性動脈炎、RAPD:相対求心性瞳孔欠損

 

特に身体所見が重要そうですね!!!

 

これ以外にもGCAを合併するPMRの方が血小板やESRが高く、Hbが低いなども鑑別点になります(PMID=9733456)。

 

日本ではPMRとGCAの合併率は低いですが、鑑別点をしっかり理解しておきましょう!!

 

ちなみにPMRでGCAの所見や徴候がない場合でも、1/3の方でPET-CTを撮影すると、潜在的な大血管病変が見つかるそうです(PMID=28774422)。無駄な撮影は避けましょう)!!!

 

【参考文献】

Tal Gazitt, et al. Curr Rheumatol Rep. 2020 Jun 19; 22 (8): 40. "Polymyalgia Rheumatica: a Common Disease in Seniors" PMID=32562020

シェーグレン症候群!?だけじゃない口渇の鑑別

患者さんが口渇症状を自覚し、または口腔内乾燥を指摘されて、シェーグレン症候群が疑われて紹介される事がしばしばあります。

 

しかし、なかには糖尿病だったり、高カルシウム血症だったりと、リウマチ膠原病以外の病気が隠れている場合があります。

 

本日は口渇の鑑別を一覧にまとめました。自分の備忘録用でもありますが、宜しければご活躍下さい。

 

『口渇』と言われても、それが本当に病的な口渇かを判断しなければなりません。

以下の問題がある場合は病的と捉え、鑑別をしっかり考えましょう。

 

機能上の問題

●嚥下困難

●咀嚼困難

●発話困難

●味覚の変化

 

形態学的な問題

●舌痛症

●口臭

●頬粘膜の乾燥

●舌炎

●口唇のひび割れ

●口腔カンジダ症 

 

上記の所見が多数ある場合は、病的と捉えて、以下の鑑別を行っていきます。

 

f:id:tuneYoshida:20210102182100p:plain

下線は筆者追加

 

【参考文献】

Jillian W Millsop, et al. Clin Dermatol. Sep-Oct 2017; 35 (5): 468-476. "Etiology, evaluation, and management of xerostomia" PMID=28916028

上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や滑液包炎はPMRに特異的?

リウマチ性多発筋痛症(PMR)のエコー所見と言えば、上腕二頭筋腱の腱鞘滑膜炎や肩関節の肩甲下・三角筋下滑液包炎が有名です。

 

2012年のEULAR/ACRの分類基準でもエコー所見項目が含まれているぐらいです。

 

 PMR EULAR/ACR 2012年 分類基準

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関節エコーなし:4点以上でPMRと分類

関節エコーあり:5点以上でPMRと分類

 

しかし、この上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や肩の滑液包炎は本当にPMRに特異的な所見なのでしょうか?

 

PMRの最大の鑑別と言えば、関節リウマチ、特に高齢発症関節リウマチ(EORA)です。

 

以前に両疾患の区別方法についてまとめましたが、PMRは末梢性関節炎を呈する事が少ないなどを点を除けば、これらの区別は至難の業です。

 

今回少し古いですが、PMRとEORAの関節エコーの所見の違いを比べた日本からの論文がありますので、ご紹介したいと思います。

 

 

治療開始前のPMR(2012年EULAR/ACR分類を満たす)とEORA(2010年ACR/EULAR分類を満たす)、それぞれ15名の患者(30肩)に関節エコーを当てて違いを比較した研究です。

 

この論文では肩関節炎のエコー所見はSOLARスコア(PMID=22183834)、上腕二頭筋長頭腱炎OMERACTの定義(PMID=22183834)を使用しており、滑液包炎に関しては滑膜増生は(0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度)、血流信号は(0=なしまたは最小限、1=軽度または単一の血流信号、2=中等度または合わさった血流信号、3=滑膜領域の50%を超える重度の血流信号)と主観的な指標を元に分類しています。

 

患者背景

さて、患者さんの概要が以下です。EORAでは末梢関節病変RF・抗CCP抗体陽性が多い事が分かります。またEORAの6割がPMRの分類基準を満たす事が分かります。

 

またEORAでRFまたは抗CCP抗体が陽性なのは40%で残りの60%が血清反応が陰性のSeronegative EORAという事になります。

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PMRとEORAの3種類の肩病変の血流信号と滑膜増生スコアの分布

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上記はそれぞれ15名(30肩)のPMRとEORA患者で①上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)の滑膜増生(GS)、血流信号(PD)のスコアを比較したものです。

 

これを見ると、PMRに特徴的だと言われている滑液包での滑膜増生(PD)、血流信号(GS)がEORAで有意にスコアが高い事が分かります。

 

つまりは滑液包炎はPMRに特異的な所見でないうえに、EORAの方でより重要度が高いという事です。

 

その他、上腕二頭筋腱や肩関節では有意差はありませんが、例えば滑膜増生(GS)血流信号(PD)の『スコア3(より重症)』は圧倒的にEORAで高い事が分かります。

 

PMRとEORAの肩の全滑膜病変スコアの差

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上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)は滑膜が主体の病変ですが、滑膜増生(GS)、血流信号(PD)のスコアの合計をSSS(肩滑膜炎スコア)と定め、両肩を合計したものをPSSSとしたところ、やはりEORAで肩の全滑膜病変のスコアがPMRよりも高い傾向にある事が分かります。

 

このようにEORAでより上腕二頭筋腱や滑液包、肩関節の関節エコースコアが重症なのは、関節リウマチでは滑膜増生に伴う滑膜炎が起こるのに対して、PMRでは滲出性の滑膜炎が起こるためと考えられています。

 

PMRとEORAの肩甲下筋腱の血流信号の差

次に筆者らは①上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)などの滑膜を有する部位以外の滑膜外組織の血流信号に着目しました。

 

従来より筆者らは肩甲下筋腱の前面の血流信号がPMRで目立つことに気が付いており、これがPMRの特徴的な所見になるのではないかと考えていたよう。今まで滑膜外軟部組織(肩甲下筋腱前面)の炎症を半定量するためのスコアがなかったため、独自に定めています(以下Bil-HSScTS)。

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Score 0:血流がないか、最小限

Score 1:単一の血流ドットまたは評価領域の半分の長さより短い線形信号

Score 2:長い線状信号または評価領域の半分の長さより短いゾーンのある信号

Score 3:長いゾーンのある信号

 

滑膜外軟部組織(肩甲下筋腱前面)の炎症スコア(Bil-HSScTS)を肩滑膜炎スコア(PSSS)で割ったところ、PMRで有意に高い値を示しました。

 

これはPMRで肩関節の滑膜病変のスコアよりも肩関節外の軟部組織炎症スコアが高い事を意味しています。

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 PMRでは肩甲下筋腱の血流信号がEORAよりも目立つ、すなわちPMRでは肩関節滑膜外組織の炎症が首座である可能性があるという事を示しています。

 

ちなみにMRIでPMR患者の肩関節周囲の軟部組織の炎症が顕著である事から(PMID=25698371)、炎症の首座が関節外の軟部組織であると報告しているグループもいます(PMID=11508586)。

 

My comments

●PMRの上腕二頭筋腱鞘滑膜炎や滑液包炎などのエコー所見は特異的ではありません

●2012年のEULAR/ACRの分類基準もエコー基準は関節リウマチとPMRを区別するためのものではなく、PMRと非リウマチ疾患を区別するためのものです。

●以前よりMRIなどで肩関節周囲の滑膜以外の軟部組織の炎症が関節リウマチとの大きな差であると指摘されておりました。

●今回は関節エコーでスコアを作成する事でそれを間接的に証明しております。

●ただし、PMRの炎症の首座が滑液包の滑膜なのか、それ以外の軟部組織なのかはまだ結論が出ていません。

●興味深い事は上腕二頭筋長頭腱(LHB)、②滑液包(Bursa)、③肩関節(GHJ)などの滑膜炎が関節リウマチで高い重症傾向にあるという事です。

PMRが滲出性滑膜炎であるのに対して関節リウマチが増殖性滑膜炎である事が原因と考えられておりますが、興味深いです。

『末梢性関節炎、足のMTP関節炎がある場合は、PMRよりもRAを疑う』というパールに加えて『画像所見で軟部組織(特に肩甲下筋腱前面)の炎症が強い場合はPMRを考え、滑液包や腱鞘、関節の滑膜炎所見が派手な場合はむしろRAを考える』という新しいパールができそうです。

 

【参考文献】

Takeshi Suzuki, et al. Biomed Res Int. 2017; 2017: 4272560. "Semiquantitative Evaluation of Extrasynovial Soft Tissue Inflammation in the Shoulders of Patients with Polymyalgia Rheumatica and Elderly-Onset Rheumatoid Arthritis by Power Doppler Ultrasound" PMID=28293635

関節リウマチってどのくらい治るの?~IORRA cohort 2020~

 たまに患者さんから『関節リウマチはどのくらい治るんですか』と聞かれる事があります。この寛解に関して、海外からは様々なコホート研究の結果が出されておりますが、日本人には日本のデータを示した方が良いといつも思っています。

 

 東京女子医大が運営しているIORRA cohortというものがあり、定期的に関節リウマチの治療や疾患活動性、寛解達成率のデータを出して頂いています。

 

 直近では2020年に過去20年分のデータをまとめてくれています。単施設という制限こそありますが、関節リウマチ患者さんの登録数が6000人と、日本の関節リウマチ患者の約1%を占めるビッグデータになりますので、参考になるかと思います。

 

 

薬剤使用と疾患活動性・寛解達成率の推移

早速結果ですが、以下の通りです。

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左図は使用する薬剤の推移を見ています。

 

2003年に生物学的製剤が出現してから急激に使用頻度が増えている事が分かります。また、第一選択薬であるメトトレキサーも同様に80%近くまで処方されている事が分かります。

 

他の従来のDMARDsは横ばいからやや低下傾向ですが、NSAIDsステロイドの使用頻度が低下してきていることが分かります。これは状態の改善に伴い、疼痛や抗炎症の必要性がなくなったためと考えられます。

 

しかし、欧州リウマチ学会の推奨では3か月以内、米国リウマチ学会では推奨されていないステロイドの使用が未だに3割近くある事が非常に残念です。もちろん、横断的な観察なので、その時に初発だったり、たまたま悪化して薬剤変更した際にステロイドを短期的に併用した可能性は否定できません。

 

右の図はDASという疾患活動性の指標を用いた時の疾患活動性と寛解の達成率の推移を示したものです。

 

DASは別の疾患活動性の指標であるSDAIやCDAIと比べると、寛解の割合が多くなりやすく逆に低疾患活動性の割合は少なくなる傾向があります(PMID=31475852)が、今回は経時的に同じ指標の変化を見ているので、大きな問題はないかと思います。

 

これをみると近年は、半数以上の関節リウマチ患者で寛解が達成できている事がわかります(55.9%)。また低疾患活動性20.5%と、両者を合わせると75%以上の方が臨床的に改善している事が分かります。

 

もちろん、多くの場合は薬剤を使用しながら寛解になっている訳ですが、これは決して悪い数字ではないと思います。

 

『関節リウマチは症状がコントロール出来て当たり前』の時代が来れば良いなと思います。

 

寛解達成回数と身体機能障害の進行率

関節リウマチの寛解の指標はSDAICDAI、さらにはBooleanがあります。Boolean寛解基準はさらに臨床用(Boolean practice)臨床試験用(Boolean trial)があります。

 

今回の研究では、2008年から2010年の間の2.5年の経過中に全6回、関節リウマチの疾患活動性の評価が行われておりますが、その時にこれらの基準で寛解』を達成していた回数身体機能障害スコア(J-HAQ)の進行の関係についても言及しています。

 

結果は以下になります。

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一番左の『N』は寛解を達成した回数です。横に各寛解基準が列挙されており、それぞれの基準で寛解を達成した回数ごとに、身体機能障害スコア(J-HAQ)の進行に対するオッズ比が示されています。

 

これが低ければ低いほど身体機能障害は進行しにくいと言えるわけです。

 

さて、寛解が1回ではDAS28を除き(データなし)、各寛解基準の身体機能障害スコア進行に対するオッズ比が0.5を超えている事が分かります。

 

これはつまり、経過中にBoolean trialの寛解基準を1回だけ達成した場合では身体機能障害が54%進行する可能性があるという事です。一方でSDAIを1回達成しただけでは、98%の方が身体機能障害が進行する可能性があります。

 

しかし、いずれの基準でも寛解を達成する回数が増えるほど身体機能障害の進行する確率が下がっている事が分かります。

 

6回の評価期間の時に全部寛解を達成していた場合、身体機能障害が進行するのは7~15%しかありません。

 

つまりは、寛解が達成できていればいるほど、身体機能障害が進行しにくい可能性があるという事になります。

 

身体機能障害スコアだけでなく、骨びらんの進行を含めたその他の指標との関係性も気になりますし、やや力業で出したデータのような気がしなくもないですが、これはこれで重要な情報ではないかと思います。

 

その他

このコホートから以下のように様々な研究が派生しています。

 

●生物学的製剤よる寛解を達成した後、コルチコステロイドまたはメトトレキサートの漸減が一般的に可能(PMID=28880684)。

●併存疾患は治療選択に影響を与え、不良の転帰、疾患活動性の増加、身体機能障害の進行をもたらす(PMID=25073613)。

●関節リウマチ患者の死因の最多は心血管疾患だが、生物学的製剤使用患者では悪性腫瘍、呼吸器感染症、間質性肺疾患が最多(PMID=20476859)。

→ただし、関節リウマチ患者の死亡率は一般人口と同等(PMID=23073692)

●登録されたRA患者の14%が5年間に骨折を起こした。女性は男性よりも有意に高い割合で複数の骨折を経験した。10年間にわたる非椎体骨折の発生率は、女性の年齢とともに急激に増加し、椎骨骨折の約3倍の頻度で発生した。年齢は椎骨および大腿骨近位端の骨折の頻度の増加と強く関連していた(PMID=22801953)。

●女性の75%と男性の56%でビタミンD欠乏症(血清25-OH VitD<20 ng/mL)を示し、骨粗鬆症と女性の性別、若年、身体障害、経口プレドニゾロンの使用との間に有意な相関関係がある(PMID=23423442)。

●関節リウマチの治療に関わる治療費はDAS28で評価される疾患活動性の悪化、J-HAQ-DIで評価される身体障害の増加、EQ-5Dで評価される生活の質の低下に関連している(PMID=22878927)。

→不十分なRA治療がより高い治療費と関連する傾向がある。

 

【参考文献】

Hisashi Yamanaka, et al. Mod Rheumatol. 2020 Jan; 30 (1): 1-6. "A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today's treatment options" PMID=31475852

胸や脇に痛い筋が出来る病気~Mondor病ってなに?~

Mondor病ってご存じでしょうか?読み方は”モンドール病”と言い、体表に索状の硬結が出来て痛い稀な疾患です。

 

この索状構造物は、一般的には良性の血栓性静脈炎で、特に治療せずとも、4~8週間で自然に解消します。

 

実は筆者は3回これになっていますが、今日はこの疾患についての論文をご紹介したいと思います。

 

日本人がまとめている良いReviewです。

 

概略

●最初に胸壁の索状の病変を認める症例が報告されたのは1850年代初頭ですが、1939年にフランスの外科医であるHenri Mondor先生が詳細に報告しました。

●その後腹壁、鼠径部、腋窩、陰茎に発症する索状の硬結が次々と報告されました。

●前胸腹壁概則の索状病変が狭義のMondor病とされており、陰茎や腋窩のMondor病は亜型とされています。前者は陰茎Mondor病(PMD)とされ1958年に報告されています。後者はAxillary web syndrome(AWS)として2001年に報告されています。

●一般的に表在静脈の血栓性静脈炎であるとされていますが、リンパ管炎や両者の組み合わせであるという報告もあります(PMID=18211409)。

 

疫学と病因

●稀少疾患であり、有病率は不明です。自然に改善するため、医療機関を受診していない可能性もあります。

●陰茎Mondor病は泌尿器科、胸壁のMondor病は乳腺外科を受診している可能性があります。

●乳腺クリニックの報告では、発生率は0.07-0.96%で、病変は主に片側性であり、男女比は1:9から1:14と女性に多いようです。

 

陰茎Mondor病

●陰茎Mondor病(PMD)の発生率は約1.39%と、痛みを訴えない20~40歳の男性では高リスクであるとされています。

●PMDの危険因子は以下の通り、Virchowの三要素に当てはまることがわかっています(PMID=25962547)。

 精力的な性行為

 真空勃起装置

 陰茎外傷などによる血管壁の損傷

 長時間の勃起(PDE5阻害薬の使用を含む)

 長時間の座位

 膀胱の過緊張などのうっ血

 泌尿器感染症

 前立腺生検

 血液疾患などの過凝固

 

Axillary web syndrome(AWS)

AWSに関する報告では、この疾患の発生率は手術の複雑さに伴って増加することが強調されており、例えばセンチネルリンパ節生検では6~20%、腋窩完全郭清では72%の発生率となっています(PMID=19841418)。

●ある前向きコホート研究では、術後7日目までに66.1%、180日目までに90.9%の患者に硬結が認められたと報告されています。約80%の病変は腋窩にあり、70%は触知可能でしたが、残りは超音波検査で確認されました(PMID=29045263)。

AWSの危険因子は以下の通り

 進行期乳癌

 大規模な手術(乳房切除術または腋窩リンパ節郭清)(PMID=28961070)

 若年

 低BMI

 高血圧(PMID=29045263)

 アフリカ系アメリカ人の民族性

 治癒に伴う合併症(PMID=25682072)

●スカッシュをする男性のAWSも報告されており、スポーツも診断に寄与しているかもしれません(PMID=28065989)。

 

●病因は、以下の表にまとめられており、特発性が一番多いようです。次に外傷性(過度の身体活動とタイトなブラジャーを含む)医原性(胸部外科手術、放射線、ホルモン療法を含む)が続きます。5%が乳癌とのことです。

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病態生理学

●最近開発された免疫組織化学的マーカーの応用により、ほとんどすべてのモンドール病は表在静脈の血栓性静脈炎であることが明らかになりましたが、中にはリンパ管炎によるものもあったようです(PMID=18211409)。

●リンパ管のマーカーであるヒトリンパ管内皮ヒアルロナン受容体-1(LYVE-1)に対するポリクローナル抗体と、従来の血管のマーカーであるvon Willebrand factor抗体の組み合わせは、これら2つの血管を明確に区別することができるようです。

●さらに、PMDと臨床的に同一の陰茎硬化性リンパ管炎は、CD31およびCD34に対するモノクローナル抗体を用いて、ほとんどの症例で血栓性静脈炎であることが判明したようです(PMID=16326851)。

AWSの病態生理は確立されていません。もともとは血栓性静脈とリンパ管の合併であると報告されていました(PMID=11448437)。

●表在性筋膜を伴うリンパ系の病態である、とする著者もいれば(PMID=19601943)、超音波所見から微小リンパ系のうっ血や間質空間でのフィブリンなどの蛋白質の結合である、と主張する著者もいます(PMID=25915976)。

●免疫組織化学的手法によるAWSの詳細な解析はまだ報告されていません。

●静脈炎の進行には、MDの発症のいくつかの病態生理学的段階が含まれています。

●初期段階では、患部静脈に血栓性イベントが発生し、その結果、内腔はしばしばフィブリンと炎症性細胞で閉塞します。その後、血管内に集まった結合組織が硬く索状の硬結を形成します。再灌流するまで数週間進行します(PMID=19575733)。

 

症候学

●MD病変は閉塞した皮下血管で構成されているため、急性に生じた索状の触知可能な硬結が唯一の臨床症状です。

●皮膚は十分な弾力性を示し、炎症性の変化は限られています。

●表在静脈のネットワークが垂直に発達しているため、陥凹は一般的に、前側胸腹部壁に縦方向に現れます(PMID=19575733)。

●そのため、豊胸手術の際の横方向の外科的切開やタイトなブラジャーの着用は、この静脈ネットワークシステムに影響を与え、結果として乳腺下層に硬結が生じることがあります(PMID=18626336)。

●PMDでは、腹壁の表在静脈系の下側部分が関与しているために、陰茎の背側背外側に硬結が生じます(PMID=11168662)。

●また、円周静脈も侵されることがあり、これは非定型PMDの症例であると主張する著者もいるようです(PMID=24867818)。

AWSでは、軸方向の手術痕の遠位部に硬結が生じ、上腕部中位から親指の付け根までの任意の長さに及ぶことがあります。約40%に肩関節外転の制限を伴う痛みがみられました。

●Mondor病患者の中には、疼痛、圧迫感、紅斑性皮膚変化、発熱、運動時の不快感を訴える患者もいます。また、特に陰茎に病変が発生した場合には、見慣れない外観のために不安を覚える患者もいます。

●巨細胞性動脈炎や他の血管炎などの基礎疾患に続発してMondor病が発生した場合、高熱や倦怠感などの併発症状が現れることがあります(PMID=9890866)。

 

診断

●診断は問診と身体所見で出来ます。硬結を訴える事がほとんどです。

●身体所見では数cmの硬結を触れる索状物が特徴的な所見です。

●診断後、Mondor病が一次性か二次性かを判断する必要があります。以下に二次性のMondor病の鑑別をお示しします。

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●もちろん全ての検索をする必要はなく、疑わしい場合に限り、追加で凝固検査や抗体検査を行います。※無駄な検査はやめましょう!!

 

●超音波で血栓性静脈炎を確認したり、胸壁Mondor病の場合はマンモグラフィーで乳癌を除外する必要があります。MRAも場合によっては有用です。

●生検は診断にも鑑別疾患の除外にも有用ですが、侵襲性があるため、悪性腫瘍や血管炎が疑わしい場合や、4~8週間で自然に改善しない場合に考慮します。

 

マネジメント

●基本的には自然に改善しますが、痛みが強い場合はNSAIDsを使用します。

●重度の疼痛の場合は外科的治療も考慮されます。

●抗凝固療法の有効性についてはまだ議論の余地があります。

●Mondor病自体が予後に影響を及ぼす事はありませんが、二次性の場合、背景疾患が予後を規定します。

●男性でも乳癌と関連する場合があるので注意が必要です。

●Mondor病は乳癌が小さい場合でも起こる事があるのでこちらも注意が必要です。

●PMDの場合、性行為の禁止、ヘパリン軟膏、NSAIDsなどを考慮します。それでも改善しない場合は超音波検査や生検、さらには抗凝固療法を検討します。

AWSに対しては、物理療法、可動域運動、NSAIDsなどの保存的な方法が一般的に採用されていますが、これらの方法では症状は解消されるかもしれませんが、治癒までの期間を短縮することはできません。

●しかし、2009年に「manual axial distraction」と呼ばれる方法が、効果的で非侵襲的であると報告されました(PMID=19601943)。この方法では、施術者は、索状物が裂けるまで、線維性帯上の様々な点で強い圧力を加えるというものです。

●30人のAWS患者のうち、25人(83.3%)が最初の施術で治療に成功し、残りの5人の患者は3回目の試験で治療が完了したと言います。

●すべての患者が血腫や皮膚損傷を伴わずに完全な治療を達成したとのことです。

●より重症の症例では、経皮的に針による索状物の切断と脂肪移植が代替療法としていくつかの研究で提案されています(PMID=27070684)。

 

予後

 ●長期的な予後はまだ報告されていませんが、以前の研究では、胸壁Mondor病患者4人がほぼ3年間再発することなく良好な臨床経過を示した。しかし、別の研究では胸部MD患者23人中3人が9年間再発し続けたと報告されています(PMID=22377612)。

●PMD患者の中で慢性疼痛や持続勃起症を経験する患者はごくわずかであり、ほとんどの患者は完治します(PMID=20579824)。

●Mondor病と他の表在性血栓性静脈炎との関係は不明ですが、Mondor病の病変は、全身性血栓性静脈炎の初期症状と考えられています(PMID=17544957)。したがって、二次性Mondor病の予後は、基礎疾患の予後に依存します。 


【参考文献】

Masayuki Amano, Taro Shimizu. Intern Med. 2018 Sep 15; 57 (18): 2607-2612. ”Mondor's Disease: A Review of the Literature” PMID=29780120

混合性結合組織病(MCTD)の新しい診断基準 2019年版

混合性結合組織病 (MCTD)の診断基準が2019年に改訂されていました。

改訂に関わった当院の医局員の先生からのお知らせで知りました。

 

2004年から15年ぶりに改訂になります。混合性結合組織病は日本で主に知られている概念ですので、この純国産の診断基準は知っておきたいところです。

 

簡単に和訳・意訳しておきます。

 

 

2019年版診断基準

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診断
 以下の全てを満たしている場合に混合性結合組織病と診断する

1つ以上1の所見、かつ2の所見、および1つ以上3の所見

1つ以上1の所見、かつ2の所見、および4のA、B、Cのうち2つ以上の所見

 

小児では、1つ以上1の所見、かつ2の所見、および4のA、B、Cのうち1つ以上の所見

 

※抗U1-RNP抗体の測定方法は二重免疫拡散法または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)

※二重免疫拡散法が陽性であり、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)が陰性の場合、二重免疫拡散法の結果を優先する

※無菌性髄膜炎の場合、感染性(ウイルス性)、薬剤誘発性、腫瘍関連などを除外する

※鑑別について不明な点がある場合はリウマチ専門医に相談する。

※なお、以下の抗体が陽性の場合には混合性結合組織病の診断は慎重に行う。

-抗Sm抗体

-抗ds-DNA抗体

-抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)

-抗RNAポリメラーゼIII抗体

-抗ARS抗体→もともとは抗Jo-1抗体だったが、抗ARS抗体に含まれるため変更

-抗MDA5抗体

 

2020年12月時点で、特定疾患の申請は未だに2004年の診断基準のままですので、ご注意下さい!!

 

 

変更点

Major

●肺動脈性高血圧症は一般的症状と見なされていたが、有病率が10~20%であるため、除外された。

●[3]の特異的症状が新設され、[4]の全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎の重複症状がなくても、MCTDと診断できるようになった。

●小児ではなかなか複数所見が揃わないため、[4]の全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎所見のうち2項目以上ではなく、1項目以上でも診断できるようになった。

 

Minor

強皮症様症状

●「肺線維症」を「ILD(間質性肺疾患)」の表記とした。

●「拘束性換気障害(%VC=80%以下)」の項目は削除した。

→呼吸機能検査における拘束性換気障害の感度が低いため。

●「肺拡散能低下(%DLco=70%以下)」の項目は削除した。

一酸化炭素の拡散能の低下は進行してしまった間質性肺疾患、肺動脈性高血圧症を示唆するため。

●手指潰瘍や爪郭毛細血管異常は全身性強皮症の診断において重要な項目であるため、含まれなかった。

 

多発性筋炎・皮膚筋炎様症状

●「多発性筋炎様所見」が「多発性筋炎・皮膚筋炎様所見」に変更となった。

●「CK」の表記を削除し、「筋原性酵素」のみとなった。

→CK以外にも筋原性酵素があるため。

●ゴットロン徴候、ヘリオトロープ疹は皮膚筋炎の特徴的な皮疹であり、本基準の感度の上昇に寄与しなかったため含まれなかった。

 

その他

●「他のリウマチ性疾患に特異性が高い自己抗体が陽性の場合は、診断を慎重に行う事」が追記された。

→他のリウマチ性疾患との合併はこれまで通り否定はしていない。

 

 

改訂後検証

MCTD66例と2008年に厚生労働省MCTD研究委員会が蓄積した51例の独立した検証コホートで新しい診断基準を検証した所、2004年の診断基準を満たさず、2019年の新診断基準を満たす症例が1例のみ存在した。この症例では重複症状がないにも関わらず、特徴的な肺動脈性高血圧症を有していた。

 

感度・特異度

2004年の診断基準では感度88.7%特異度98.4%であったが、

2019年の新診断基準では感度90.6%特異度98.4%であった。

 


作成に至った背景を以下に示します。

 

背景

●MCTDは1972年にSharpらによって全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発筋炎の重複する臨床症状、高力価の抗U1リボ核蛋白質(U1-RNP)抗体を特徴とする疾患として混合性結合組織病が提唱された(PMID=4621694)。

●以前は全身性強皮症のサブタイプと考えられていたが、肺動脈高血圧症、無菌性髄膜炎、三叉神経症などと関連性を持つことから臓器病変の観点から独立した疾患として認識されている。

●1986年にMCTD基準は混合性結合組織病と抗核抗体に関する国際シンポジウムで、日本の厚生省のMCTD研究委員会の代表として、粕川らによって最初に提案された(PMID=10397074)。

●本邦では1993年に厚生労働省から特定疾患に指定された。

●現在、登録患者11,000人が罹患している特定疾患である。

●しかし、欧米では、MCTDの病気の概念が十分に認識されていない場合がある。

●また、長期間経過を見たときに、病態が変化した場合、どの程度までMCTDの概念に含まれるか、SLEとMCTDの重複症状が許容できるかコンセンサスは得られていない。

●今回、1996年と2004年に厚生労働省の研究委員会から発行されたMCTDの診断基準を更新するために、新たな診断基準が作成された。

 

My comments

●MCTDの概念は未だにつかめないところが多く、欧米ではその存在自体を否定するリウマチ膠原病専門医もいるくらいです。

●しかし肺高血圧症や無菌性髄膜炎、三叉神経障害など、特徴的な臓器病変を呈する事もあり、無視はできない概念であるとは思います。ただしこれらの有病率は10~20%程度…

●抗U1-RNP抗体(抗RNP抗体)が陽性でもすぐにMCTDに飛びつかず、上記に示している特異的自己抗体ぐらいは提出して、それらが陽性ならば、各対応疾患を検索する方が良いかもしれません。

●他の疾患とのオーバーラップがあるかについてはなかなか判断が難しく、多彩な症状を呈する場合は、「これはSLEで、これはMCTDが併存している!」などと診断に固執するのではなく、障害されている臓器に着目し、治療戦略をどうするか考える方が良いと思います。

●MCTDの概念が確立されているわけではないため、治療方法を検討した論文が少なく、現時点では各膠原病に準じた治療を行うわけですが、ここでもやはり障害されている臓器が何か、という視点が重要かと思います。

●MCTD自体の予後は、肺高血圧症を覗いてSLEや間質性肺疾患を伴う多発性筋炎・皮膚筋炎よりも良好の様です。

 

【参考文献】

Yoshiya Tanaka, et al. Mod Rheumatol. 2020 Jan 7; 1-5. "2019 Diagnostic criteria for mixed connective tissue disease (MCTD): From the Japan research committee of the ministry of health, labor, and welfare for systemic autoimmune diseases" PMID=31903831

健常者で見られやすい抗核抗体~抗DFS70抗体~

血液検査で偶然『抗核抗体が陽性』になる事はしばしばありますよね。

 

専門外来でもこのようなご紹介を受ける事がしばしばあります。

 

『抗核抗体』『自己免疫疾の太鼓判』というイメージがあるかと思いますが、

無症状の場合、抗核抗体陽性のみでは、自己免疫疾患の可能性は高くありません。

 

健常人でも一定の割合で陽性になる上に、健常者の方がより陽性になりやすい自己抗体がある事も知られて来ています。

 

本日は『健常人で陽性になりやすい自己抗体~抗DFS70抗体~』という内容でお送りしたいと思います。

 

 

まず健常人でどのくらいの方が抗核抗体が陽性になるかについて以下にお示しします。

 

健常人で見られる抗核抗体の陽性率は?

これは、以前に別のページでもまとめましたが、健常者の抗核抗体の希釈倍率毎の陽性率について調べた有名な論文(1)によりますと、抗核抗体の陽性率は以下と通りです。

 

健常人での抗核抗体の陽性率

40倍希釈で31.7%

80倍希釈で13.3%

160倍希釈で5.0%

320倍希釈で3.3%

 

ここで言う倍率は、検査結果で帰って来る『抗核抗体〇〇倍』の〇〇の部分です。全身性エリテマトーデスの分類基準では80倍以上を有意と取っていますが、この結果からは、13%の健常者が80倍になる事が分かりますね。 

 

もう少し勉強したいという方は、こちらをどうぞ!!

 

さて、抗核抗体の結果で大事なことは何倍か、だけでなく、そのパターンがどんなものかも重要です。また、抗核抗体は細胞の核内の様々な物質に対する自己抗体の総称である事も理解する必要があります。

 

次の項では抗核抗体の測定方法についてご説明します。

 

抗核抗体の測定方法

まず、抗核抗体の測定方法には、大きく2つある事に注意してください。

 

①間接蛍光抗体法(FA法)

酵素結合免疫吸着法(ELISA)

 

この中で、抗核抗体のパターンが分かるのは①間接蛍光抗体法(FA法)になります。 

 

間接蛍光抗体法の原理

これは患者さんの血清を実験細胞に振りかけ、さらにそれに対する蛍光抗体を振りかけたときに、実際に実験細胞の核や細胞質の物質に対する抗体があれば、光って(=染色されて)見えるという検査になります。

f:id:tuneYoshida:20191220182406p:plain

 

光る(=染色)パターンは、およそ5つ(6つのときもある)に分けられます。

 

①Homogeneous

②Peripheral(Homogeneousと区別できず、含まれる場合もある)

③Speckled

④Centromere(Discrete speckled)

⑤Nucleolar

(⑥Cytoplasmic)

 

先ほど、抗核抗体が細胞の核内の様々な物質に対する自己抗体の総称、だと申しましたが、このパターンに対応する疾患に特異的な抗体がある程度分かっています。 

 

もっと少し細かい分類と、対応する自己抗体について勉強したい方は以下の記事もご参考にどうぞ。一番上は専門向け。下二つは一般内科医向けです。

 

その次のステップが特異的な抗体を酵素結合免疫吸着法(ELISA)で検出する事です。

 

さて、この光るパターンの中でリウマチ膠原病患者よりも、健常者で良く見られるパターンがある事が言われてきました。それがDFSパターンです。

 

健常者に見られやすいDFSパターンとは!?

20年ぐらい前から、間接蛍光抗体法で健常者に見られやすい抗核抗体の染色パターンがある事が注目されて来ましたが、その特徴に則ってDense fine speckled=DFSパターンと名付けられました。

 

実際には以下のような染色パターンになります。

f:id:tuneYoshida:20201211132957p:plain
出典:文献(2)

 

特徴は、


①間期(細胞増殖していない時期)に核全体が斑点状に光る

→全視野に写る、淡く緑色を呈しているすべての核を指します(黄色丸)。

 

②斑点の明るさ、サイズ、分布が不均一

黄色小矢印のように緑色の斑点が大小、明暗様々である事を指します。

→斑点がある所とない所があるのが分布の不均一性です。

 

③分裂中期に強い光度の斑点が集簇する

→写真で言うと、黄色太矢印を指します。

※これだけがDFSパターンではない事に注意してください!!

 

では次の写真もDFSパターンでしょうか??

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答えは、Homogeneousパターンで、Speckledパターンです。

パット見たら、全然区別がつかないですよね…

 

したがって、慣れていないと、HomogeneousパターンやSpeckledパターンに見間違えてしまう可能性がある事にご注意下さい!!

 

DFSパターンを呈する抗DFS70抗体とは?

さて、DFSパターンというのがある事は分かりましたが、このパターンに対応する抗体の90%は抗DFS70抗体です(PMID=27350273)。

 

これは健常者で陽性となりやすく自己免疫疾患ではむしろ陽性になりにくい自己抗体として有名です。

 

実はこの抗体は最初にアトピー性皮膚炎患者で発見されてからちょうど20年になります。以下、簡単な歴史になります。

f:id:tuneYoshida:20201216165229p:plain

※出典:文献(3)

 

抗DFS70抗体が認識する抗原とは?

抗DFS70抗体が認識する具体的な抗原には、

75 kDのLens epithelium-derived growth factor(LEDGF/p75)

PC4

SFRS1 Interacting protein 1(PSIP1)

が含まれます。

 

これらの蛋白質は活性クロマチンにおいて

転写複合体の形成

特定の遺伝子の転写活性化

mRNAスプライシングの調節

DNA修復

ストレスに対する細胞の生存

に重要な役割を果たしています。

 

さらに基礎を勉強したい方はこちらを論文をお勧めします!!

Greisha L Ortiz-Hernandez, Auto Immun Highlights. 2020 Feb 3; 11 (1): 3.

PMID=32127038

 

難しい話は置いておいて、抗DFS70抗体が認識する抗原は約70kDの重さのDNAに関連する蛋白質で、DNAは核内に充満しているため、抗DFS70抗体も核全体が染色されるパターン(DFSパターン)となることだけ理解しておけば良いです。

 

しかし、10%ほどDFSパターンを呈する他の自己抗体も多数あります。例えば、抗ds-DNA抗体は普段はHomogeneousパターンを呈する事で一択ですが、DFSパターンを呈する事もあります。したがって、DFSパターンを呈するから全員が健常者である、と決めつけは出来ません。

 

DFSパターンを見たときにどう考えるか?

では、間接蛍光抗体法でDFSパターンを見たときどう考えるかについて、アルゴリズムをご紹介します。

f:id:tuneYoshida:20201211143345p:plain

出典:文献(2)を参考に筆者作成

 

抗核抗体の間接蛍光抗体法で、DFSパターンを確実に読影できる技師さんがいるのであれば、アルゴリズムの右側に進みますが、先にお伝えした通り、DFSパターンを呈していても抗DFS70抗体以外の場合もあります。

 

したがって、良く間違えられるHomogeneous/Speckledパターンを呈する自己抗体を提出する事が重要です。陽性であれば、それぞれに対応する疾患を検索します。

 

陰性であれば、抗DFS70抗体が陽性である可能性が高いですが、現時点で商業ベースで抗DFS70抗体を測定する事はできませんので、『おそらくはそうであろう』として、自己免疫疾患の可能性を下げても良いと思います。

 

抗DFS70抗体はどんな場合に陽性となるの?

健常者での陽性率

健常者では、コホートによる違いはありますが、0-22%で抗DFS70抗体が陽性となる事が知られています(PMID=27350273)。

 

一方で抗核抗体が陽性の健常者では、24–54%で抗DFS70抗体が陽性になると言われています。

 

全身性自己免疫性リウマチ性疾患における陽性率

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出典:文献(4)

 

上記より、全身性自己免疫性リウマチ性疾患では陽性率が高くないように思います。

 

その他の炎症性疾患における陽性率

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出典:文献(4)

 

こうしてみると、皮膚や眼の炎症性疾患では陽性になる確率が高い事が分かります。


自己免疫性リウマチ性疾患を除いて様々な疾患で陽性になる事が知られていますが、これらの疾患は比較的臨床症状から分かりやすいかと思います。

 

したがって、臨床症状がない場合に抗DFS70抗体が陽性の場合(DFSパターンで他の抗体が陰性の場合)は、やはり自己免疫性リウマチ性疾患の可能性が低いと言えるでしょう。

 

ただし、これらの頻度は自己抗体の異なる測定方法が混じっているため、数字は疾患同士で比較は出来ません!!
 

抗DFS70抗体にまつわるあれこれ

測定方法を見極める!

抗DFS70抗体に関する論文ですが、間接蛍光抗体法(FA法)で測定しているのか、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定しているか、見極める必要があります。(※厳密に言えば、まだまだ他にも測定方法がありますが、ここでは割愛します)

 

というのも間接蛍光抗体法(FA法)で測定した場合、あくまでも見た目のパターンであるため、上述した通りDFSパターンの事を指します。

 

DFSパターンを呈する自己抗体には抗DFS70抗体以外にも他の自己抗体が含まれている可能性があるため、注意が必要です。

 

一方で酵素結合免疫吸着法(ELISA)は抗DFS70抗体そのものを測定しているので、比較的に特異的と言えます。

 

抗DFS70抗体が陽性となる患者のプロファイル

ちなみに抗DFS70抗体は女性で陽性になりやすいです(82% vs 18%)が、男性と女性では抗DFS70抗体が陽性の患者のプロファイルが少し異なるようです(PMID=30778125)。

 

男性で抗DFS70抗体が陽性の場合、他の自己抗体が陽性になる事はありませんが、女性の場合は約半数(51%)で他の自己抗体が陽性になります。

 

以下に抗DFS70抗体と一緒に陽性になった自己抗体の詳細を記載します。

甲状腺疾患に関連する自己抗体が多いですね。

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ENA: extractable nuclear antigen; TPO: thyroid peroxidase; TG, thyroglobulin; tTg, tissue transglutaminase; ASCAs, anti-Saccharomyces cerevisiae antibodies; aCL, anti-cardiolipin.

出典:文献(5)

 

抗DFS70抗体の自己免疫疾患予防効果

抗DFS抗体は自己免疫疾患を予防する役割があるかもしれないと提唱するグループもいます(PMID=31474007)。

 

ループス腎炎マウスモデルでも抗DFS70抗体を投与する事で、糸球体腎炎の進展予防と生存期間の延長が得られたという報告もあります(PMID=33175665)。

 

ただし現時点ではまだ確固たる根拠はなく、今後の動向を見て行く必要性があります。

 

【参考文献】

(1) E M Tan, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11. "Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals" PMID=9324014

(2) Maria Infantino, et al. Clin Chim Acta. 2020 Nov; 510: 157-159. "Dense fine speckled (DFS) immunofluorescence pattern and anti-DFS70 antibodies: Cleaning up the current concepts" PMID=32645389

(3) Michael Mahler, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2019 Mar; 15 (3): 241-250. ”Anti-DFS70 antibodies: an update on our current understanding and their clinical usefulness” PMID=30623687

(4) Karsten Conrad, et al. Clin Rev Allergy Immunol. 2017 Apr; 52 (2): 202-216. "The Clinical Relevance of Anti-DFS70 Autoantibodies" PMID=27350273

(5) Teresa Carbone, et al. Sci Rep. 2019 Feb 18; 9 (1): 2177. "Prevalence and serological profile of anti-DFS70 positive subjects from a routine ANA cohort" PMID=30778125

簡単!!抗核抗体の染色パターンの考え方

『抗核抗体の蛍光抗体法のパターンと対応抗体が覚えられない!!』と言う声をしばしばお聞きします。確かにそうです。

 

従来、抗核抗体は

①Homogeneous

②Peripheral(Homogeneousと区別できず、含まれる場合もある)

③Speckled

④Centromere(Discrete speckled)

⑤Nucleolar

の5つに分けられ、さらに、厳密にはに対する抗体ではないのですが、抗細胞質抗体を示す⑥Cytoplasmicも含まれる場合があります。

 

それぞれの染色パターンに対応する抗体と疾患を以下に示します。

赤字は商業ベースで測定できる項目

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AIH:自己免疫性肝炎、AIM:自己免疫性筋炎、APS:抗リン脂質抗体症候群CD:クローン病CLE:皮膚型エリテマトーデス、DIL:薬剤性ループス、GVHD:移植片対宿主病、HCV:C型肝炎ウイルスJIA:若年性特発性関節炎、LcSSc:限局型全身性強皮症、MCTD:混合性結合組織病、PBC:原発性胆汁性肝硬変、RA:関節リウマチ、SjS:シェーグレン症候群、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症


ちなみに2019年に国際分類基準が変わり、さらに細かい分類になりました…(涙)


気合を入れれば、覚えられなくはないかと思いますが、正直大変ですよね。

何か良い覚え方がないか考えましたが、そんな小手先の事はせずに、自己抗体の対応抗原が細胞内のどこにあるのか、何の役割があるのかを知ると、抗核抗体の染色パターンは簡単に理解できると思います。

 

そこで、本日は抗核抗体の蛍光抗体法における特徴的な染色パターンの成り立ちについて解説したいと思います。

 

 

まず、簡単に細胞の構造と機能について復習です。

 

細胞の構造と機能

構造

●私たちの細胞にはがあり、それ以外の部分は細胞質と呼ばれます。

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https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30131195より引用改変

核内には核小体があり、それ以外の部分はクロマチン線維で充満しています。

細胞質には蛋白質合成に関わるリボソーム粗面小胞体、エネルギー変換に関わるミトコンドリア合成された蛋白質の移送に関わるゴルジ装置、蛋白質などを分解するリソソームなど様々な細胞小器官が存在します。

 

抗核抗体についての記事なので、まずは核の話に移ります。

 

●核内には核小体を除けば、クロマチン線維で充満していると言いましたが、クロマチン線維はヌクレオソームという構造物が規則正しく凝集してできたものです。

ヌクレオソームは、いくつかのヒストンという蛋白質2本鎖DNAが巻き付いたもので、DNAがバラバラになって絡まったり、分解されたりすることを防ぐ役割を持ちます。

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※フリー素材を編集

 

 

 

細胞が分裂する時クロマチン線維はさらに凝集して、46本の染色体を形成します。

出典:https://news.mynavi.jp/article/20131113-a077/

 

●染色体の真ん中がセントロメアという部位です。

 

細胞が分裂しないとき(間期)クロマチン線維はユークロマチンヘテロクロマチンの二つの形で存在します。

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※Shelley Sazer, Traffic. 2018, PMID=29105235より引用改変

 

 

ヘテロクロマチンクロマチン線維が凝集した構造で、DNAの情報は酵素で読み取る事が出来ません。一方、ユークロマチンヘテロクロマチンが幾分か解けた状態で、DNAの情報を酵素が読み取る事が容易です。

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https://www.pinterest.com/pin/811422057833225848/より引用改変

 

ヘテロクロマチン内核膜のすぐ内側にあるのに対して、ユークロマチン核内全体を占めています。

電子顕微鏡で観察すると、以下の通りです。

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出典:http://medcell.med.yale.edu/histology/cell_lab/euchromatin_and_heterochromatin.php

 

機能

さて、続いてそれぞれの小器官の機能についてまとめたいと思います。

 

●核にはDNAという形で遺伝情報が保存されています。

●この遺伝情報から実際に蛋白質を作るわけですが、作ろうとするとしても、蛋白質を作る器官は核内にはなく、細胞質にあるリボソームまで情報を届けなければなりません。

●DNAは自由に核内から出る事ができないですが、それをメッセンジャーRNA(mRNA)の形に変えることで、核外にDNA由来の遺伝情報を伝える事ができます。この工程はDNAをmRNAに写し変えているため、転写と呼ばれます。

●ただし、DNAは2本鎖であり、一度に2本を転写する事ができないので、1本ずつに分解する必要があります。

●そこで登場するのがトポイソメラーゼIです。これはDNAを切断し、2本鎖DNAのねじれを解消させる酵素です。この2本鎖DNAを解く作業は当然、核内で行われます。

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●2本鎖を解かれたDNAはmRNAに写し変えられます(転写)が、この時に活躍するのがRNA合成酵素であるRNAポリメラーゼです。

RNAポリメラーゼは転写するものによってI型からIII型に分類されます。いずれもDNAからRNAを作るための酵素であるため、核内に存在します。

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※出典:Akihiko Yokoyama, Front Genet. 2019, PMID=30693017

 

●作られたmRNAは最初はまだ無駄が多い未熟なmRNAです。この無駄な部分を取り除く過程をスプライシングと言います。mRNAを成熟させるための過程とも言えます。

スプライシングにはU1, 2, 4, 5, 6RNA(RNP)などの蛋白質が関わっています。

●ちなみにU1RNPに対する抗体が抗U1-RNP抗体U1, 2, 4, 5, 6RNP全てに対する抗体が抗Sm抗体になります。

●ここまでが核内で起こっている出来事です。

f:id:tuneYoshida:20201203181446p:plain※出典:MBL社資料より

 

●成熟したmRNAが核外リボソームに運ばれると、初めて蛋白質が合成されます。

●このとき、具体的には、mRNAを鋳型として、トランスファーRNA(tRNA)アミノ酸を運んできて繋げて蛋白質にして行くのです。

トランスファーRNA(tRNA)は最初からアミノ酸をくっつけているわけではなく、アミノアシルtRNA合成酵素という酵素細胞質のリボソームでtRNAにアミノ酸をくっつけてあげています。

 

●ちなみにリボソームはどこから来るかと言うと、実は核小体内リボソームRNA(rRNA)から作られています。この時活躍するのが、RNAポリメラーゼIです。

●またリボソームRNAも最初は未熟のまま出来ますが、無駄な部分を取り除く蛋白質フィブリラリンです。こちらも核小体内に局在します。

 

さて、ここまで基礎を勉強してきました。何となく、こういう事か、と納得された方もいるでしょうが、いよいよ抗核抗体の染色パターンにつなげる所です。

 

抗核抗体の染色パターン

Homogeneous/Peripheral pattern

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●上記がHomogeneousパターンです。所々黒く抜けているのは核小体です。

●Homogeneousパターンを呈するのは抗ds-DNA抗体抗ヒストン抗体(商業ベースで提出出来ない)でしたね。

●細胞が分裂していないとき、DNAもヒストンも核内クロマチン線維という形で充満しているのでしたね。したがって、均一に核が染色されます。

 

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●上記がPeripheralパターンです。

●核が均一に染まっているに加えて、核の辺縁が強く染まっています。

●これはおそらくはヘテロクロマチンを反映しているのではないかと思われます。

 

Speckled pattern

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●上記がSpeckledパターンです。Homogeneousパターンよりも核に粒々が目立ちます。

●Speckledパターンには抗Sm抗体抗UNP(U1RNP)抗体抗RNPポリメラーゼIII抗体など沢山の抗体があります。

●先にお伝えした通り、RNAポリメラーゼ抗体核内のDNAからRNAを作り出す酵素であるRNAポリメラーゼに対する抗体です。また、抗Sm抗体抗UNP(U1RNP)抗体は未熟なmRNAが核外に出るため無駄な部分を取り除く(スプライシング)を行う蛋白質に対する抗体でしたね。

●つまりはこれらの抗体の染色パターンは核内になるはずです。

●ここで少しおさらいですが、DNAからRNAを作るにはDNAは解けていないといけませんでしたね。それにはまずクロマチンが凝集せずにある程度解けた形、つまりはユークロマチンでないといけませんでした。ユークロマチンの分布は核内全体に渡り、まだらに分布するため、上記の抗体たちも蛍光抗体法では斑状に見えるのだと思われます。

核小体が黒く抜けているかと思います(黄色矢印)。核小体でもRNAポリメラーゼIがあり、リボソームRNAを作っていると説明しましたが、SpeckledパターンではRNAポリメラーゼIIとIIIに対する抗体が陽性となります。

 

●ここでトポイソメラーゼIは?と思われる方もいるかもしれません。

●トポイソメラーゼIはDNAを解くための酵素でしたね。

抗トポイソメラーゼI抗体は別名抗Scl-70抗体とも呼ばれます。

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●当然核内でDNAを解かないと、RNAも作られないわけですので、抗トポイソメラーゼI抗体はSpeckledパターンを呈するはずです。

●しかし、特徴的なのは核小体の周囲が強く染色されるということです。

●2019年の国際分類基準ではこの特徴的なパターンをTOPOI-likeパターンとして、Speckledパターンから分類していますが、細かい事は実際に読影する技師さんかAIに任せれば良く、臨床ではSpeckledパターンを見たら、抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)も忘れない、という事だけ気にしてくださいね。

 

Centromere(Discrete speckled) pattern

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●Centromereパターンを呈するのはセントロメア抗体です。

セントロメアは染色体の中心部の領域であると説明しましたが、それを構成するCENP-B (80kD)CENP-A (17kD)CENP-C (140kD)という3つの蛋白質を抗原として認識するのが抗セントロメア抗体です。

 

細胞が分裂する時期にしか、クロマチン線維が凝集して染色体ができないため、細胞が分裂しない時期(間期: Interphase)にはセントロメアを構成する3つの蛋白は核内に散在しています。故に黄色丸のように核内にドットが見えます。

細胞分裂を起こしている細胞では以下のように染色体が作られ、中心部に集められます。故に細矢印のように細胞の中心に線状に抗セントロメア抗体が染色されます。

太矢印はそこからさらに分裂が進んだ状態を指しています。

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細胞分裂は全ての細胞で起こっているわけではないですが、上記の視野に特徴的なパターンが見られれば、一発診断が可能です。

 

Nucleolar pattern

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●Nucleolarパターンは言い換えてしまえば、見ての通り、核小体パターンです。

●核小体はリボソームRNAを合成するところと言いました。それに関わるRNAポリメラーゼIや、リボソームRNAの成熟に関わるフィブリラリンなどに対する抗体はこのパターンを呈します。

●興味深い事に、このパターンを呈する抗体は強皮症で見られやすいです。したがって『Nucleolarパターンを見たら、強皮症を疑う』と考えても良いかもしれませんね。ただし、残念ながら商業ベースで測定できる抗体はありません…(涙目)

 

番外編

SSA/Ro抗体、抗SSB/La抗体

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●抗SSA抗体、抗SSB抗体はそれぞれRo蛋白(52kDa, 60kDa)、La蛋白に対する抗体です。

●Ro蛋白はRNAに結合し、安定化させる作用があり、La蛋白はRNAポリメラーゼIIIの安定化に関わります。

●重要なことはこれらの蛋白質は核内にも細胞質にも存在するという事です。

●核内に存在するときはまだらに存在するためにSpeckledパターンを呈します。

●一見Centromereパターンに似ているかと思いますが、大きく異なるのは、分裂する細胞では中心に染まりを認めない事です(黄色丸)。

●Ro蛋白とLa蛋白は互いに隣接するため、SSA抗体と抗SSB抗体は一緒に陽性になる事が多いです。

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●抗SSA抗体は単独もしくは抗SSB抗体と一緒に検出されますが、抗SSB抗体だけが陽性となる事はほとんどなく、過去の大規模な試験の結果では2%前後と言われています(PMID=25735642)。

 

抗ARS抗体

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●抗ARS抗体は抗ARS抗体症候群、皮膚筋炎で陽性となる抗体です。

●ARSはアミノアシル酸トランスファーRNA合成酵素の事で、細胞質のリボソームでmRNAから蛋白質を作るときにアミノ酸を運んでくるトランスファーRNA(tRNA)にそのアミノ酸をくっつける酵素でしたね。

●従って抗ARS抗体は絶対に上記の通り、核が黒く抜けるCytoplasmic(細胞質)パターンになります。

 

 

他にも抗核抗体に属する様々な抗体がありますが、上記のように、抗原が存在する場所によって、染色パターンが決まってきます。抗ミトコンドリア抗体などは言わずともCytoplasmic(細胞質)パターンになる事はもう大丈夫ですね!?

 

丸暗記でも良いかもしれませんが、抗原の部位と機能が分かっていると、暗記する量も減るのではないかと思っています。

 

それでは!!

『朝のこわばり』は何故起こるか?~時間生物学という概念~

関節リウマチに限らず『朝のこわばり』は炎症性関節炎を示唆する特徴的な所見です。

 

『夜間にずっと動かないから、炎症を起こしている関節が固まってしまう』と教わって来ましたが、朝のこわばりが何故起こるのか、ちゃんと考えた事がありませんでした。

 

しかし、最近『概日リズムが炎症性関節炎に関係する』という論文を発見しました。

また、それらに関連して『時間生物学・時間治療』という概念がある事を知りました。

 

今回はこの『概日リズムが炎症性関節炎の関係性』から『朝のこわばりが発生する機序』そして『時間生物学・時間療法』ついて迫ってみたいと思います。

 

この概念、めちゃくちゃ面白いです!!

 

 

はじめに

●2017年のノーベル医学生理学賞は、明暗24時間周期に基づく末梢の概日リズムを調節する遺伝子やタンパク質のネットワークを発見した科学者に授与されている。

※概日リズムという言葉は良く効いていましたが、分子学的な発見は、意外と歴史が浅い事に驚きました。

 

図1:概日リズムと炎症反応

 

サーカディアンリズム(概日リズム)は、明暗24時間周期に基づいて、中枢神経系と末梢細胞内の両方に由来する。

メラトニン(暗闇で分泌される)コルチゾール(光で分泌される)は、夜間(睡眠中)の免疫炎症反応をそれぞれ活性化抑制する。

●その結果、末梢血単核球をはじめとする様々な免疫応答メディエーターやサイトカインの濃度は日々変動している。

メラトニンが免疫炎症反応を活性化するなんて、知っていました!?驚きです…

 

●ヒトでは、概日リズムは地球の一日の自転周期に同期している。分子間相互作用の複雑なシステムが細胞の24時間リズムを調節しているが、このサイクルは通常、中枢末梢の両方のメカニズムによって維持され、調整されている。

●より詳細には、概日リズムは、ペースメーカーである脳の視交叉上核(SCN)に由来し、SCNはメラノプシンを含む光感受性の高い網膜神経節細胞と直接連結している。そしてこのプロセスに沿って内部の概日リズムを形成することで、末梢に投影される(図1)。

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※上図はNat Rev Rheumatol. 2015(PMID=25800214)より引用した図ですが、要は視交叉上核がペースメーカーで、網膜神経節細胞と連携をとって概日リズムが作り、それが末梢組織に投影されているという事です。

 

●概日リズムが乱れる原因として考えられるのは、体内時計と環境(明暗)とのずれを引き起こす時差ぼけや、夜勤労働者の状態など。

●概日リズムは、睡眠摂食時間エネルギー代謝、そして重要な内分泌機能免疫機能を含むいくつかの活動を調節している。

●これらのリズムの乱れ、主に覚醒・睡眠ホルモン分泌摂食の乱れは、気管支喘息関節リウマチなどのアレルギー性疾患や自己免疫疾患だけでなく、肥満メタボリックシンドロームの発症にも関与している。最近の研究では、関節リウマチ患者の健康関連QOL(HRQoL)を予測する睡眠/覚醒リズム関連パラメータを特定することを目的としている(PMID=29374666)。

※生活リズムの乱れが生活習慣病の発症に関連する事は考えるに容易いですが、アレルギー疾患、自己免疫疾患の発症にも関連するのは興味深いです。

 

概日リズムと免疫機能

●末梢血単核球などの免疫応答メディエーターやサイトカインの濃度など、多くの免疫応答メディエーターは日々変動している(PMID=23697902)。

●さらに、造血幹細胞といくつかの成熟白血球数は、夜間に循環血液中でピークを迎え、日中に減少する(PMID=23391992)。

ほとんどの免疫細胞は概日時計遺伝子を発現しており、24時間のリズムで発現する遺伝子の幅広い配列を提示している(PMID=29846607)。

●このリズムは、サイトカインやケモカインの夜間合成と分泌を含む細胞機能に重大な影響を与えるとともに、パターン認識受容体(PRR)を介して、炎症や感染した組織への細胞移動貪食細胞溶解活性病原抗原に対する増殖反応などのサーカディアン免疫系の機能を調節しており、これらはすべて深夜にピークを迎える(★PMID=25900041/18190882)。

※ここまでで、かるくカルチャーショックを受けています。全ての免疫細胞が概日時計遺伝子を発現していて、炎症を起こす反応にリズムがあり、夜間に悪化するという事が大変面白い話です。

 

免疫系の活性化は、徐波睡眠(ノンレム睡眠)を誘発することで感染に対抗し、病原体への抵抗力を高めるとされるが、これはおそらく徐波睡眠を誘発することが知られているTNF-αIL-2、またはIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生を介していると考えられている(PMID=7795895)。

●また、グラム陰性菌の外膜の主要成分であるリポ多糖類(LPS)は、これらのサイトカインの分泌を増加させる。LPS依存性のTNF-α分泌は、昼間に比べて夜間に有意に高く、夜間ホルモンであるメラトニンによってさらに増強されるという報告がある(PMID=16014678)。

●最近、TNF-αが関節リウマチの滑膜細胞においてカルシウム依存性の二重経路を介して日時計遺伝子Bmal1の発現を誘導することが明らかになり、さらに免疫炎症応答メディエーターが概日メカニズムに影響を及ぼす事を支持している(PMID=29217191)。

●別の研究では、関節炎のマウスモデルで炎症を起こした関節内での分子時計の活性化を実証しており、線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)のような関節に常駐する炎症細胞が局所でリズムのある炎症シグナルの源となっている可能性があることを強調している(PMID=27488122)。

※前半では免疫細胞や炎症性サイトカインが概日リズムを有する事を言っていますが、後半では炎症性サイトカインなどが概日リズムに与える影響が述べられています。

 

免疫・炎症反応に対する神経内分泌系のサーカディアン制御

●中枢時計(central clock)が末梢組織に作用するメカニズムの1つには、副腎からのグルココルチコイド産生によるものがある(PMID=22018179)。

●しかし、他の多くのサーカディアンシグナル伝達メディエーターもまた、夜間神経ホルモンであるメラトニン自律神経系のように、免疫応答を調節している。

●中枢神経系は、主に視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸自律神経系を使用して、ホルモンや神経信号を含むメディエーターを介して末梢時計を同期させる(PMID=26301993)。

●主なホルモンであるグルココルチコイドカテコールアミン(エピネフリンとノルエピネフリン)は、HPA軸を介して副腎から放出されるが、ノルエピネフリンは交感神経終末からも放出される。

●HPAは、視床下部の傍室核に投射されるSCNによって制御され、これによって下垂体による副腎皮質刺激ホルモンの放出が誘導され、副腎が制御される。

●カテコラミンは、アドレナリン受容体を介して作用し、免疫細胞に多くの影響を与えるとともに、体液性免疫応答を増加させる(PMID=23391992)。

●日中は、光を誘発するシグナルがSCNを介して上頸神経節を経由して松果体に伝達される。メラトニンは概日リズムの調整を媒介する神経ホルモンであるが、夜間松果体から産生される。

●光刺激はコルチゾールセロトニンドーパミンの分泌を増加させ、一方でメラトニンノルエピネフリンアセチルコリンの分泌を抑制する。血清メラトニン濃度は通常、日中には検出されないが、夜間には光刺激がない場合には有意に高くなる(PMID=12114284)。

●健常者と比較して、関節リウマチのような慢性炎症患者では深夜のメラトニン分泌が有意に増加し、疾患期間の短い関節リウマチ患者では早朝のメラトニン血清濃度が高くなる(PMID=18556443/15647428)。

IFN-γ、IL-1、IL-6を含む炎症性サイトカインは、いずれもメラトニン刺激に反応してヒト末梢血単核球から夜間に分泌される。実際に、正常と関節リウマチの両方の滑膜組織マクロファージや体液中にメラトニン(およびその受容体)が検出されている(PMID=16014678)。

●最近では、メラトニンは、BMAL、CRYおよび/またはDEC2などの主要な概日時計遺伝子の発現の直接的/間接的な調節を介して軟骨の破壊/再生を刺激することが示されている(PMID=28585236)。

※視交叉上核が概日リズムのペースメーカーで、末梢に投影しているという事でしたが、そのメディエーターとしてグルココルチコイドやカテコラミンなどのホルモンが使われるという事です。一方で夜間に松果体から分泌されるメラトニンはIFN-γ、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインの分泌を亢進させるようです。

 

関節リウマチにおけるサイトカイン産生・生体エネルギー分布の概日リズムと臨床症状との関連性

●夜間に滑膜で上昇した炎症性サイトカインは、結果的に、朝の関節のこわばり痛みなどの関節リウマチの原因となる(PMID=21529303/16214085/25800214)。

メラトニン(およびプロラクチン)などの催炎症性ホルモンによって誘発されるサイトカインの分泌パターンと血中濃度は、1日24時間の厳密なサイクルに従っている。

●これらの催炎症性ホルモンは関節リウマチ症状の出現前に上昇し始める。炎症性疾患メディエーターと症状の流れを打ち消すために、内因性コルチゾールの合成が活性化される(PMID=17968333)(図2)。

 


図2. メラトニンによる炎症性ホルモンの分泌とコルチゾールによる抑制

 

●また、内因性コルチゾールの夜間分泌と末梢代謝のリズム変動や、不活性型から活性型コルチゾンへ変化し、滑膜細胞を活性化させる変化が、関節リウマチの病態生理において役割を果たしている可能性があることも考慮されるべきである(PMID=17968333)。

●関節リウマチ患者では、炎症プロセス全体が滑膜液組成の変化、滑膜組織と関節周囲構造の浮腫、および間質液の再分布を誘導するが、睡眠は異なるメカニズムで、朝に最も顕著な関節の臨床的こわばりに寄与している。

●いくつかの重要な概日リズムのプレーヤーの中で、エネルギー配分は生理過程の恒常的な調節に重要であり、24時間周期の間に様々な代謝活動に応じて毎日配分されている(図3)。

図3 概日リズムとエネルギー配分

 

●神経内分泌経路はエネルギー分布の観点から、エネルギー貯蔵因子(副交感神経系、インスリンインスリン様成長因子-1など)と、エネルギー消費因子(交感神経系(SNS)、HPA軸、甲状腺ホルモン、グルカゴン、成長ホルモンなど)に分類される。

●正常な状態では、エネルギー貯蔵と使用の配分はバランスがとれており、概日リズムに従って分配され、エネルギーを消費する日常の生理的活動(すなわち、筋肉および心血管機能のための日中)にリンクしている。しかし、活動性関節リウマチのような慢性炎症状態では、免疫系の夜行性亢進による大量のエネルギー使用のために、このバランスが変化する(PMID=20705130)。

●予想されるように、睡眠中は筋肉や心血管系機能などの他のすべてのエネルギー消費活動が劇的に減少するため、エネルギーは容易に細胞増殖を含む免疫系機能のために利用できるようになる。

●それにもかかわらず、エネルギー調節は慢性炎症状態では不十分であり、悪液質食思不振病的行動脂質異常症炎症組織付近の脂肪沈着インスリン抵抗性および高インスリン血症交感神経系の活性化(高血圧)軽度の高コルチゾール血症低アンドロゲン血症、ならびに慢性炎症に関連した貧血および骨減少症を含む他の多くの臨床的異常を引き起こす(PMID=29021568)。興味深いことに、これらの条件の多くがメタボリックシンドロームの原因に関与している可能性がある。

●一般的に持続的なシフト勤務は、健康に有害であり、心血管疾患過敏性腸症候群メタボリックシンドローム糖尿病癌などの慢性疾患の発生率の増加と関連している。また、2010年の研究では関節リウマチのリスクの増加と関連するとの報告もある(PMID=29225920/20237124)。

 

●結論として、関節リウマチの概日リズムに関連する症状(朝のこわばりなど)は夜間に免疫システム活性化に使用されるエネルギーが豊富である事に由来するかもしれない。

 

※この章では、概日リズムとエネルギーの配分について述べられています。正常ではエネルギーは日中の様々な活動に配分され、夜間にそれらの活動がなくなるために、エネルギーが免疫システムに配分されるため、もともと夜間に炎症が起こりやすいと言われています。確かに抗炎症作用のある生理的コルチゾールが朝に分泌されるのは、日中に炎症を起こされたら、様々な活動が出来ないから、と考えられるでしょう。しかし慢性炎症状態では、夜間にエネルギーを大量に消費するため、日中の分が減ってしまいます。これが慢性炎症疾患患者さんの活動性の低下に関わっているのかもしれません。また様々な生活習慣病にも関連する事は興味深いです。持続的なシフト勤務(当直)が概日リズムのバランスを崩すという観点から、避けた方が良いという事でしょうか。確かに医師や看護師さん達は慢性的に疲労を抱えている印象です…

 

関節リウマチにおけるコルチゾールの概日性分泌

●細菌感染などの急性炎症性イベントの存在下では、HPA軸反応が活性化され、循環ACTHおよびコルチゾールの高濃度につながる。特に、敗血症の最初の数日間のような重篤な状態では、コルチゾールの毎日の産生量が18倍に増加することがある(PMID=25543020)。

●しかし、この強い副腎刺激は数日のような短期間しか持続しない。逆に、関節リウマチのような慢性炎症の存在下での炎症に伴うHPA軸活性化は、視床下部、下垂体、副腎のすべてのレベルでHPA軸に害を与え、部分的な副腎不全を引き起こす可能性がある(PMID=9100607)。

●催炎症性サイトカインであるIL-1βTNFは、ステロイド生成のいくつかのステップを阻害する主な因子である(PMID=27042335)。

●しかし、血清コルチゾールの分泌量と分泌周期に関する概日リズムは、健常対照者と軽症から中等症の関節リウマチ患者(炎症性サイトカインが過剰の状態)では類似している。一方、IL-6の血清濃度は10倍近く高く、対照群と関節リウマチ患者では概日リズムが大きく異なっている。

●したがって、IL-6の血清濃度が上昇しているにもかかわらず、コルチゾールの概日リズムの分泌量は期待かつ要求されるようには増加しておらず、持続的に活動性のある疾患に関連した副腎の慢性ストレス下で、コルチゾールの分泌が不十分である事を示している(PMID=9100607)。

●関節リウマチ患者がグルココルチコイド治療後に臨床的に改善するのは、炎症因子の直接的な抑制に起因しているものと同時に、ステロイド環境の回復が考えられる(PMID=12508908)。

●結論として、コルチゾールは最も強力な内因性抗炎症ホルモンであるため、慢性疾患における夜間の異常な分泌量の低下は、関節リウマチ患者の早朝の関節症状を説明できる可能性があるが、対照的にメラトニンの分泌は依然として高く、夜間の炎症反応を増強する(PMID=12508908)。

 

※この章では、関節リウマチのような慢性炎症状態では、内因性のコルチゾールの分泌が低下している事が述べられています。たまに関節リウマチ患者さんでコルチゾールなどの副腎ホルモン値が低い方がおられますが、そうなのかもしれません。逆にこれを『副腎不全に伴う関節炎だ!』と言うCase reportもちらほら見られますが、むしろ慢性炎症に伴うホルモン分泌抑制がしっくりきます。正常ではもともとメラトニン分泌により夜間に炎症が惹起されやすく、関節リウマチではさらにこの炎症が強くなるのにも関わらず、コルチゾールの分泌まで低下したら、『朝のこわばり』を含めた関節症状が悪化するのは想像するに容易いですね。

 

関節リウマチにおける夜間療法とグルココルチコイド

●低用量長期グルココルチコイド治療は、内因性コルチゾール副腎産生量が減少している場合に『代替療法』として作用する可能性があるため、今日では関節リウマチにおいて推奨されている(※現在のガイドラインでは短期間に限られています)。

●実際には、外因性グルココルチコイド(すなわち治療的)と内因性グルココルチコイド(すなわち生理的)は異なる特徴を示す。

外因性合成グルココルチコイドは、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)と比較して、より選択的なグルココルチコイド/抗炎症作用(ミネラルコルチコイド作用が少ない)を示し、また、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)と比べて、異なる血漿動態生物学的半減期代謝、および高用量時の非ゲノム作用を有する。

●いずれにしても、長期的な外因性グルココルチコイドの投与は、HPA軸機能および副腎での概日性コルチゾール産生を阻害する可能性がある。

●興味深いことに、1980年から2004年の間に行われたある最近の解析では、長期の関節リウマチ治療においてグルココルチコイドの平均投与量が10.3mg/日(プレドニゾン換算で)から3.6mg/日に減少したことが観察されており、グルココルチコイドの長期使用の正しいアプローチを示している(PMID=25228430)。

●最近、グルココルチコイドが細胞免疫に重要なゲノム・エピジェネティック効果を発揮することが明らかになり、細胞の概日リズムの存在を考えると、6時から8時の間の外因性投与による夜間の免疫細胞活性の上昇(および関連するサイトカイン合成および細胞増殖の増加)を防ぐには遅すぎるため、最適ではないかもしれない(PMID=22018182/29036586)(図4)。

 


図4 グルココルチコイドの投与タイミング

 

●関節リウマチの痛み、こわばり、機能障害は早朝に最大値を示すことが確立されているため、夜間にグルココルチコイドを利用して夜間の炎症性サイトカインの上昇を防ぐことは、朝に確立された症状を治療するよりも効果的であることが明らかになっている(PMID=16126979/27042335)。

●さらに、関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症の、痛覚を代表とする中枢神経系を含む多くの炎症経路は、グルココルチコイド時間療法によってより良く制御され、その結果、睡眠の質が向上し、抑うつ症状が軽減される可能性がある(PMID=23415134)。

●加齢により、グルココルチコイドのより慎重な管理の必要性が高まる可能性さえある(PMID=11511399)。

 

※以下にいくつかの試験を述べます。

●関節リウマチにおいて、グルココルチコイドの夜間投与が朝投与よりも優位である事を示す最初の信頼性の高い臨床研究が1964年に発表された(PMID=14130037)。

 

●20年後の1984年には、低用量のプレドニゾロン(平均5.8mg/日)で治療された関節リウマチ患者41人が二重盲検クロスオーバー試験に参加し、プレドニゾロンの投与時期(朝または夜)が朝のこわばりに及ぼす影響が再検討された(PMID=6395813)。

→2種類の異なるレジメンが採用された:就寝時(22:00-23:00)と起床時(6:00-7:00)に錠剤(<5mg/日のプレドニゾロン)が投与された。ここでも夜間にプレドニゾロンを投与した場合、朝のこわばりの持続時間は朝に同じ量を投与した場合と比較して有意に短かった(P=0.0001)。

プレドニゾロン半減期は27時間前後なので、朝に内服しても、夜に内服しても、一応は1日は持つはずですが、血球濃度の上がりを考慮すると、やはり炎症が惹起される夜間の前に内服する方が効果的という事だと思いました。

※ただし、注意すべきは、朝のこわばりは患者さんの主観であるため、いつもと異なる介入をされるとそれだけでバイアスがかかってしまい、こわばりの自覚時間が短縮する恐れがあるという事です。

 

●最後に、1997年にグルココルチコイド治療を受けた関節リウマチ患者26人を無作為に2群に分け、午前2時または7時30分に低用量のプレドニゾロンを投与した(PMID=9059137)。

→午前2時に低用量のプレドニゾロン(1日5または7.5mg)を投与したわずか5日後、朝のこわばりの持続時間(P<0.001)、関節痛(P<0.001)、Lansbury指数(P<0.001)、Ritchie指数(P<0.001)、および朝の血清IL-6濃度(P<0.01)に非常に良好な効果が認められた。他の試験群(午前7時30分)では、軽度ではあったが、朝のこわばり(P<0.05)とIL-6の血中濃度(P<0.05)に限定的だが、有意な効果が認められた。

●この研究は、低用量のグルココルチコイドを、IL-6の合成亢進で定義される炎症活動の活発な時間(夜間)に先行して投与した場合に、急性関節リウマチ症状を改善できることを確認した。

 

※確かに夜間にグルココルチコイドを投与する事で、速やかに朝のこわばりを含めた症状の改善が見込まれるようです。しかし、夜中に内服する事が困難であるため、次に示す徐放剤の効果が検討されるようになったと考えられます。

 

●最近では、関節リウマチにおける低用量プレドニゾン時間療法のための最も先進的なアプローチとして、22時に投与するタイミングでプレドニゾンを放出し、さらに2時~3時頃にプレドニゾンを放出するプレドニゾン徐放剤と早朝に即時放出する通常のプレドニゾンを比較した試験(CAPRA試験、Circadian Administration of Prednisone in Rheumatoid Arthritis)が挙げられている(PMID=18207016/20542963)。

→ベースラインから終了時までの朝のこわばりの持続時間の平均相対変化は、即時放出型プレドニゾンよりもプレドニゾン徐放剤の方が有意に高いことが判明した(P=0.045)。→治療群間の絶対差は29.2分(95%CI-2.59~61.9)で、プレドニゾン徐放剤が有利であった(P=0.072)。

●興味深いことに、即時放出型プレドニゾン(朝投与)治療開始から3ヶ月間の重篤な有害事象の発生率は2.4%であったのに対し、12ヶ月間という4倍の期間の夜間プレドニゾン徐放剤投与(4時間延長)を受けた患者ではわずか3.3%であった(PMID=20542963)。

※日本ではステロイドの徐放剤はクローン病で使われるブデソニドしかありません。

 

関節リウマチにおけるその他の時間療法へのアプローチ

●炎症に関与する様々な細胞(炎症状態の間に正常な概日リズムを失う単球)は特に夜間に活性化されるため、関節リウマチで使用される他の治療法、例えばインドメタシンやアセクロフェナクなどのステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、グルココルチコイド時間療法と同じ概念に従うように合成されてきた(PMID=8977918/22974284/23537465)。

●実際のところ、関節リウマチの免疫/炎症反応に関与する細胞の概日性の活性化は、従来のDMARDsや生物学的DMARDsの優先的なターゲットであり、したがって、抗増殖薬(すなわち、メトトレキサート、レフルノミド、シクロホスファミドなど)の投与は、これらのリズムを考慮しなければならない(図4)。

●この仮説は、関節炎の動物モデルを用いたin vivo調査で検証され、TNF-αの24時間サイクルに関連した最適な投与時間が、最も効率的にメトトレキサートの抗炎症作用と最も効果的なTNF-αの減少をもたらしうることが示された(PMID=19814865)。

●さらに別の臨床研究では、メトトレキサートを就寝時(週に3回、1日1回夕方)に投与する時間療法を行うことで、現在の標準的な投与方法と比較して、関節リウマチの症状がさらに改善されることが確認されている(PMID=21452922)。

●膠原性関節炎(CIA)ラットの血漿IL-6値を調べた最近の研究では、MTXの連日投与を6週間行うことで、IL-6の概日リズム、関節炎スコア、TNF-αおよびCRP値の有意な低下という結果に基づいて、週1回の投与よりも効果的であることが示された(PMID=27900440)。

●興味深いことに、最近の研究では、滑膜線維芽細胞に対するメトトレキサートの新規の概日性の作用が示されており、サーカディアン転写因子であるプロリンと酸性アミノ酸に富む塩基性ロイシンジッパー(PAR bZIP)とサーカディアンクロック遺伝子PERIOD2(PER2)の発現が亢進され、アポトーシスが誘導されることが示されている(PMID=29566767)。したがって、メトトレキサートは、概日環境を調節し、関節リウマチの病態の新たな側面を理解する上で重要であると思われる。

 

ステロイドだけでなく、NSAIDsやcsDMARDsも夜間に投与した方が良いのではないかという事が本章では述べられています。ステロイドは不眠を誘発する可能性がある事を考慮すると、NSAIDsなどは眠前に内服しても良いかもしれませんね。今の日本の医療だと、メトトレキサートを週2日以上内服する事は禁忌の扱いですので、少量連日眠前内服などのやり方が流行るか分かりません…

 

結論

●関節リウマチ患者を特徴づける早朝の関節症状(朝のこわばり)は、免疫/炎症反応の概日性夜間活性化に関連している。免疫細胞の活性化(および関連するサイトカイン合成や他のメディエーターのフレア)の予防/治療は、外因性のグルココルチコイドが夜中に利用できるようになると、より効果的であることが示されている。

●低用量の慢性療法でプレドニゾン徐放剤を投与した関節リウマチ患者で観察された印象的な良好な結果は、NSAIDsやcsDMARDs、bDMARDsなどの他の治療薬にも適用可能であるように思われる。

●関節リウマチの疼痛、こわばり、機能障害は早朝に最大になるため、メトトレキサートの連日夜間投与で得られた良好な結果のように、夜間にグルココルチコイドを投与して夜間の炎症性サイトカインの上昇を防ぐことは、従来のNSAIDsやDMARDsで朝に既に完成してしまった症状を治療するよりも効果的であることが明らかになってきた。

●少なくとも関節リウマチ治療において最良の結果を得るためには、関節リウマチ新薬登録試験実施のためのガイドラインchronobiology/therapy(時間生物学・時間療法)の概念を早急に導入すべきであると考える。

 

My comments

●恥ずかしながら、『時間生物学・時間療法』という概念を初めて知りました。本文の引用論文を見ると、1990年代からこの概念がずっとあったようですが、なぜあまり注目されていないのか疑問です。

●時間生物学の概念を用いると、夜間の炎症細胞の活性化、そして炎症性サイトカインが上昇するために朝に症状のピークがが来て、『朝のこわばり』が起こるというのは理解しやすいです。

●ただし、注意しなければならないのは、今回の論文の筆者が単一である事です。筆者はイタリアのジェノバ大学の教授で、今までも『時間生物学・時間療法』について何度かReviewなどを書かれていますが、いずれも単一著者です。一般的に複数の著者が入る事で専門家同士の吟味ができるのですが、単一著者である場合は、持論を展開しているだけに過ぎない可能性があります。また、ジェノバ大学自体はイタリアではあまり有名ではない大学のようです。まだ、概念が十分広がっていないだけなのかもしれませんが、概念自体の信憑性に問題がある可能性も残されています。

●本文ではグルココルチコイドの夜間投与が有効であるという研究結果が紹介されていますが、リウマチ膠原病疾患でプレドニゾロン単回投与よりも3分割にする方が効果が出る実感があり、もしかすると、夜間の炎症を抑えるためなのかもしれません。

●プレドニゾン徐放剤が有効であったと紹介されていますが、日本でステロイドの徐放剤というと、クローン病などで使用されるブデソニドぐらいしかないように思います。プレドニゾロン半減期(27時間)を考えると、単に朝内服から夕食後、眠前内服に変更するだけでも効果が出るかもしれません。症状がいまいち改善しない患者さんで試してみたいな、と思いました。

●グルココルチコイドだけでなく、NSAIDsなども眠前に内服する事が良いかもしれませんね。

●メトトレキサート少量を連日夜内服が効果的、というのは週2日を超えて内服する事を禁忌とする現在の日本では、ややチャレンジングです。

 

【参考文献】

Maurizio Cutolo, et al. Joint Bone Spine. 2019 May; 86 (3): 327-333. ”Circadian rhythms and rheumatoid arthritis” PMID=30227223