リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

コロナワクチンと免疫抑制患者~副反応・原疾患再燃~

免疫抑制薬を使用しているリウマチ膠原病疾患患者では、新型コロナウイルスワクチンの副反応が強く起こる事が危惧されています。また、原疾患の再燃の懸念もあります。

 

最近これらの懸念事項に関して、少しずつ研究結果が出てきたので、代表的な論文をまとめたいと思います。

 

 

結果まとめ

●免疫抑制薬使用患者で健常者と比較して副反応が多いという事はない。

●入院を要する重症副反応は『0』。

●原疾患の再燃は多いが、ほとんどが関節痛、関節腫脹、筋肉痛などの筋骨格系の症状であり、持続期間も2週間以内。治療はNSAIDsや経口ステロイドなどが多いが、治療期間は1週間程度が多い。

 

ワクチンの副反応

ドイツの研究(2021 March)

Ulf M Geisen, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=33762264

 

対象

●26人の慢性炎症性疾患患者と42人の健常対照者。

●副作用は2回目接種14日後にオンライン調査と病歴によって評価。

 

ワクチン

 ●5人がモデルナ、21人がファイザーのワクチンを接種。

 

患者情報

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●乾癬、乾癬性関節炎を含めた脊椎関節炎や関節リウマチが最多。

●治療薬はTNF阻害薬が多い。その他IL-17阻害薬。PSL使用患者は5名しかいない。

 

結果

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●慢性炎症性疾患患者では悪寒が少ないがそれ以外の副反応は有意な差はない。

 

My comments

●サンプルサイズが少なく、統計的な有意差は取れないが、傾向として副反応が強いという事はない。

 

ドイツの研究(2021 May)

David Simon, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=33958324

 

対象

●免疫介在性炎症性疾患84名と対照健常者182名。

 

患者情報

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*Systemic lupus erythematosus, systemic sclerosis, IgG4-related disease, periodic
fever syndromes, giant cell arteritis, granulomatosis with polyangiitis and
polymyalgia rheumatic. 

†Apremilast, canakinumab and vedolizumab.
bDMARDs, biological disease-modifying antirheumatic drugs; BMI, body mass
index; csDMARDs, conventional synthetic disease-modifying antirheumatic drugs;
CV, cardiovascular; HC, healthy controls; IBD, inflammatory bowel disease; IL,
interleukin; IMIDs, immune-mediated inflammatory diseases; JAK, Janus kinase;
MTX, methotrexate; RA, rheumatoid arthritis; SpA, spondyloarthritis (including axial
spondyloarthritis and psoriatic arthritis); TNF, tumour necrosis factor; tsDMARDs,
targeted synthetic disease-modifying antirheumatic drugs.

●女性65.5%、年齢の中央値は53.1歳、BMI26.8と高め、糖尿病7.1%。

●背景疾患は脊椎関節炎32.1%、関節リウマチ29.8%。

●無治療が28.6%、csDMARDs単剤23.9%、生物学的製剤42.9%(TNF阻害薬が最多13.1%)。

 

結果

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 ●接種による各副反応の頻度はは健常者と比べて際立って高いわけではない。

 

My comments

●免疫介在性炎症性疾患患者でも特に接種による副反応が強く出るという訳ではない。むしろ少し頻度は低いか!?

●基礎疾患の再燃の割合も知りたかった。

 

イスラエルの研究(2021 June)

Victoria Furer, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34127481

 

対象

●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者686名。

●コントロールは健常者121名。

●2回目接種後、2-6週間後に採血(SARS-CoV-2三量体スパイクS1/S2糖蛋白質に対する抗IgG中和抗体価を測定)。

●有効性はワクチン接種後にPCRによって確定されたCOVID-19に感染したかアンケートまたはカルテデータレビューにて評価。

●安全性は2回目接種2週間以内、2~6週間以内に電話質問で確認。

ワクチン接種期間中はリツキシマブを遅らせる以外、全ての免疫抑制治療は継続!!

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)のみ。

 

患者情報

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●関節リウマチや乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎が多いが、SLEや血管炎もそれなりに含まれている。

 

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●全体ではグルココルチコイドの使用は2割弱、MTXは26%弱、TNF阻害薬は25%、リツキシマブは13%弱。

●本文にはPSLの使用量は6.7±6.25mg/日と記載がある。またリツキシマブの投与量は1656.1±623.6mg。リツキシマブの最終投与とワクチン接種の間隔は平均で51±83日。

 

結果

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●ワクチンの副反応は健常者と同じ。重大な有害事象はない。

●ワクチン接種群で死亡は2名で、1名は低用量PSLを使用して寛解状態のANCA関連血管炎の患者で、2回目のワクチンを受けた3週間後に劇症出血性皮膚血管炎を発症し、その後敗血症を合併し、亡くなった。もう1名は糖尿病、虚血性心疾患を含む多数の併存疾患がある乾癬性関節炎患者で、2回目のワクチン接種2か月後に心筋梗塞で亡くなった。

 

My comments

●副反応は健常者と変わらない。

●ワクチン接種後の死亡については2名(0.3%)であり、ワクチンとの直接の関連はない印象。

 

アメリカの研究(2021 August)

Caoilfhionn M Connolly, et al. Arthritis Rheumatol. 2021, PMID=34346185

 

対象

●1377名のリウマチ性筋骨格系疾患患者を対象。

●1回目と2回目の接種7日後、2回目接種1か月後にアンケート調査を実施。

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)55%、mRNA-1273(モデルナ)45%。

 

患者情報

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●年齢の中央値は47歳。女性は82%、白人9割。

●炎症性関節炎が最多で47%、次いでSLE20%、オーバーラップが20%。

●csDMARDsは26%、生物学的製剤は22%、ステロイド単剤は3%のみ、csDMARDsと生物学的製剤の併用は50%。

●56%の患者がワクチン接種6か月前までに再燃している。SARS-CoV-2既感染は3%。

 

結果

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●局所反応と全身反応の頻度は上記。

●8割が何らの副反応を示す。

●多いのは注射部位疼痛(1回目接種(D1) 87%, 2回目接種(D2) 86%)、倦怠感(D1 60%, D2 80%)。

●2回目接種後に増える症状は倦怠感(80%)、頭痛(65%)、筋肉痛(63%)、悪寒(42%)。

●日常生活に影響を与える副反応は倦怠感(19%)で最多。

●一人(0.07%)だけ接種後に下痢のために入院したと。 

 

My comments

●健常者と比較していないが、一般的なワクチン接種の副反応が出ており、特別な副反応が出ている訳ではない。

●倦怠感が日常生活に影響を及ぼす可能性があるため、十分に休養すべき。

●ワクチン毎に副反応に差があるため、分けて示すべきだと思う。

 

原疾患の再燃

ドイツの研究(2021 March)

Ulf M Geisen, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=33762264

 

対象

●26人の慢性炎症性疾患患者と42人の健常対照者。

●原疾患の疾患活動性はDAS28、PGA、PhGAを用いて評価。1回目ワクチン接種7日後、2回目接種日、その7日後、および定期的な時点で評価。

 

ワクチン

 ●5人がモデルナ、21人がファイザーのワクチンを接種。

 

患者情報

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●乾癬、乾癬性関節炎を含めた脊椎関節炎や関節リウマチが最多。

●治療薬はTNF阻害薬が多い。その他IL-17阻害薬。PSL使用患者は5名しかいない。

 

結果

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●2回目の接種後、42日後まで疾患活動性は上昇傾向は示さなかった。

 

My comments

●DAS28という客観的な指標とPGAという主観的な指標を用いて疾患活動性を評価している点が良かったが、この評価指標の項目としての腫脹関節数、圧痛関節数、CRPなどの炎症マーカー、患者VAS(患者全般評価)などはいずれもワクチンの副反応でも上昇し得る項目であるため、厳密に原疾患の再燃と区別は出来ないのではないかと思った。

●サンプルサイズが多ければ有意な差がない事を示せたと思う。

 

アメリカの研究(2021 June)

Medha Barbhaiya, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34158370

 

対象

●ワクチン接種を受けたリウマチ疾患外来患者1101名。

●自己申告による再燃は「ワクチン接種後2週間以内の関節炎の突然の悪化」と定義。

 

患者情報

●白人84.2%、女性81.8%、年齢の中央値58.7歳、BMI26.8。

●597名(54.2%)がファイザー、483名(43.9%)がモデルナ、16人(1.5%)がヤンセン、3人(0.3%)がアストラゼネカのワクチンを接種。

 

結果

●本文では165名の患者で202回の再燃が観測されたと記載あり。

→下表では117名(10.4%) 

ファイザーかモデルナを接種した方は654名(59.4%)でうち113名(17%)で再燃あり。

●26名(23%)が初回接種後のみ、48名(42.5%)が2回目接種後のみ、37(32.7%)が2回の接種後いずれも再燃した(本文記載のみ)。

ファイザーとモデルナを比較すると1回目、2回目後の再燃はそれぞれ1回目F10.3% vs M9.6%、2回目F10.9% vs M16.3%(本文記載のみ)。

●以下に層別化した表を記載。

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●再燃の重症度は1回目接種後、軽症42.7%、中等症41.9%、重症15.4%

 2回目の接種後、軽症37.7%、中等症51.8%、重症10.6%

●再燃の症状では関節痛が最多(1回目83.8%、2回目87.1%)、次いで筋肉痛(1回目48.7%、2回目56.5%)、関節腫脹(1回目47.9%、2回目44.7%)。

→倦怠感はワクチン接種の副反応であり、再燃ではない可能性もある。

●再燃は7日以内に起こる事がほとんど(1回目88.9%、2回目89.1%)。

●1回目接種後21日以降まで症状が持続する患者も15.4%いる。

●治療をしていない割り合いが1回目54.7%、2回目30.6%。治療内容はアセトアミノフェンが最多。コルチコステロイドが必要だったのは5%前後。

 

My comments

●メールでの調査であり、明確に再燃したかは不明。

●倦怠感、関節痛などはワクチン接種の副反応と区別が出来ない可能性がある。

●とはいえ、本論文での原疾患の再燃はそれほど頻度が高いわけではない。

●治療もアセトアミノフェンのみで経過を観察されているよう。

●原疾患の治療を強化する必要があったかなど、客観的情報が必要。

 

イスラエルの研究(2021 June)

Victoria Furer, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34127481

 

対象

●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者686名。

●コントロールは健常者121名。

●2回目接種後、2-6週間後に採血(SARS-CoV-2三量体スパイクS1/S2糖蛋白質に対する抗IgG中和抗体価を測定)。

●有効性はワクチン接種後にPCRによって確定されたCOVID-19に感染したかアンケートまたはカルテデータレビューにて評価。

●安全性は2回目接種2週間以内、2~6週間以内に電話質問で確認。

ワクチン接種期間中はリツキシマブを遅らせる以外、全ての免疫抑制治療は継続!!

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)のみ。

 

患者情報

f:id:tuneYoshida:20210809225553p:plain

●関節リウマチや乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎が多いが、SLEや血管炎もそれなりに含まれている。

 

f:id:tuneYoshida:20210809225748p:plain

●全体ではグルココルチコイドの使用は2割弱、MTXは26%弱、TNF阻害薬は25%、リツキシマブは13%弱。

●本文にはPSLの使用量は6.7±6.25mg/日と記載がある。またリツキシマブの投与量は1656.1±623.6mg。リツキシマブの最終投与とワクチン接種の間隔は平均で51±83日。

 

結果

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●関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、SLEのいずれもワクチン接種後は疾患活動性指標は安定していた。

●疾患活動性が上昇したのは関節リウマチや脊椎関節炎、強直性脊椎炎で2割弱

 

My comments

●原疾患の再燃がほとんどない事は重要。関節リウマチの疾患活動性であるSDAIは関節痛などが評価対象に含まれるため、ワクチンの副反応の関節痛などを含んでしまっている可能性がある。

●また、再燃の評価タイミングが明記されていない。おそらく2回目接種後2~6週間の間とかなり幅があるため、厳密には比較できない。

●原疾患の治療を有した割り合いが知りたい。実臨床では治療強化はほとんど必要ない印象。

 

アメリカの研究(2021 August)

Caoilfhionn M Connolly, et al. Arthritis Rheumatol. 2021, PMID=34346185

 

対象

●1377名のリウマチ性筋骨格系疾患患者を対象。

●1回目と2回目の接種7日後、2回目接種1か月後にアンケート調査を実施。

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)55%、mRNA-1273(モデルナ)45%。

 

患者情報・結果

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●年齢の中央値は47歳。女性は82%、白人9割。

●炎症性関節炎が最多で47%、次いでSLE20%、オーバーラップが20%。

●csDMARDsは26%、生物学的製剤は22%、ステロイド単剤は3%のみ、csDMARDsと生物学的製剤の併用は50%。

●56%の患者がワクチン接種6か月前までに再燃している。SARS-CoV-2既感染は3%。

●再燃群と非再燃群を比較すると、csDMARDsと生物学的製剤を使用している患者は非再燃群で多かった。
●csDMARDsと生物学的製剤を併用している患者は再燃群で多かった。

●ワクチン接種6か月前までに再燃している患者は再燃群で多かった。

 

再燃患者の特徴

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●1377名のうち、151名(11%)が1回目接種以降に、中央値5日で再燃を報告。

●うち90名(全体の7%、151名中では60%)が2回目接種後、中央値11日で再燃を報告。

●再燃症状の持続は10日間。

●治療はNSAIDsが全体の4%(再燃報告患者151名中50名で30%弱)、経口ステロイドが114/151(75%、全体では8%)、治療期間の中央値は7日間。

 

再燃時の症状

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●再燃の症状は今までの症状が悪化したもの(91%)と、新規に発症するもの(72%)どちらもある。

●しかし、いずれも関節腫脹や筋肉痛など、筋骨格系症状が多い。

 

基礎疾患毎に分けた再燃患者の特徴

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●再燃の治療としては経口ステロイドが5-8割。

免疫グロブリン大量療法、入院、ICU入室はいずれの疾患でも『0』。

●いずれの疾患も再燃症状として関節痛・腫脹、筋肉痛など筋骨格系の症状が多い。

●シェーグレン症候群は口渇も7割程度悪化したとの事。

 

再燃のリスク因子

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●治療が必要な再燃に関連した要因はSARS-CoV-2の既感染(IRR 2.09 95%, CI 1.21-3.60)、csDMARDsと生物学的製剤の併用療法(IRR 1.95 95% CI 1.41-2.68)。

●しかし、csDMARDs (IRR 0.52, 95% CI 0.34-0.80)または生物学的製剤(IRR 0.60,95% CI 0.39-0.93)を使用している患者では再燃リスクが低い結果であった。

 

副反応

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●局所反応と全身反応の頻度は上記。

●8割が何らの副反応を示す。

●多いのは注射部位疼痛(1回目接種(D1) 87%, 2回目接種(D2) 86%)、倦怠感(D1 60%, D2 80%)。

●2回目接種後に増える症状は倦怠感(80%)、頭痛(65%)、筋肉痛(63%)、悪寒(42%)。

●日常生活に影響を与える副反応は倦怠感(19%)で最多。

●一人(0.07%)だけ接種後に下痢のために入院したと。 

 

My comments

●再燃の症状はほとんどが筋骨格系の症状で入院を要する重度の再燃はない事は安心。

●症状の持続も10日前後で、ステロイド治療が75%とされるが、7日程度しか治療を要さない事も重要。

●csDMARDsと生物学的製剤の併用が再燃リスクと関連していたが、今回の患者群では6か月以内の再燃が多く、再燃しやすい方が併用療法が多く、その方々が再燃したため、リスク因子となったと考えられる。ワクチン接種前の疾患活動性での調整が必要。

SARS-CoV-2既感染患者も再燃リスクとなっていたが、ワクチン接種が免疫活性化にブースターをかけた可能性がある。