リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

コロナワクチンと免疫抑制患者~免疫原性~

免疫抑制薬を使用している患者では、新型コロナウイルスワクチンの免疫原性が低下する事が危惧されています。

 

最近少しずつこれに関して研究結果が出てきたので、その代表的な論文をいくつかまとめたいと思います。

 

 

結果まとめ New!! 2021.08.11 updated

●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者では健常者と比較するとワクチン2回接種による抗体陽性率はやや低い(80%程度)。

●抗体価も健常者と比較すると低いが、中和抗体を有するとされる15U/mlよりは数倍高い値となる上、中和能力のある抗体が8割得られる報告もある(スイスの研究(2021 July))。

●一方、ワクチン接種によってIgA抗体が誘導されるという報告がある(ドイツの研究(2021 March))。

●薬剤毎ではリツキシマブ使用患者では多くの文献で抗体の陽転化率が低い事、抗体価が低い事が指摘されている。

●一方でリツキシマブ使用患者でも末梢血B細胞が少しでもあれば抗体価が上昇する可能性が示唆されている(オーストリアの研究(2021 July))。

●またリツキシマブ使用中でも、T細胞による細胞性免疫は保たれる事が示されている(オーストリアの研究(2021 July)・イギリスの研究(2021 August))。

●MTXに関しても使用患者では統計学的に抗体陽転率の減少と関係したという研究(アメリカの研究(2021 May)・オランダの研究(2021 August))としなかったという研究(イスラエルの研究(2021 June))がある。全体として抗体の陽転化率と抗体価は健常者と比較すると低いと考えられるが、中和抗体が得られる抗体価の数倍には上昇する事が考えられる。さらには細胞性免疫も保たれている。

●その他の薬剤の免疫原性についてはデータは十分ではない。

●現時点で免疫抑制療法の減量、中止、延期を指南出来るデータは揃っていない。

SARS-CoV-2既感染患者では1回目の接種後より抗体産生が著明に上昇する。感染がブースター効果を示している可能性が示唆されている(オーストラリアの研究(2021 July))

●リツキシマブ使用患者での研究では、抗体価や細胞性免疫は少なくとも5-6週間維持されることが示されている(オーストラリアの研究(2021 July))が、長期的にどのくらい持続するかは現時点で不明。

●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者においてワクチン接種による感染・重症化・死亡への影響については現時点でまだ報告されていない。

 

感想 New!! 2021.08.11 updated

●ワクチン接種による中和抗体を含む抗SARS-CoV-2IgG抗体の抗体価の陽転化は、健常者と比較すると低下しているものの、8割近くは得られる。抗体価は低いが、それでも既感染患者で陽性となる値よりは十分高いのでやはり接種が望ましい。

●アバタセプト、ミコフェノール酸モフェチル使用で抗体陽転化率、タクロリムス使用で細胞性免疫が低下する事が示唆されているが、データが不十分で、治療の中止や延期に直結するものではない。

●また、抗体産生が抑制されていても細胞性免疫が保たれていたり、細胞性免疫が抑制されていても抗体産生が保たれていたりと、必ず補完があると考えられる。

SARS-CoV-2既感染患者では抗体価が有意に上昇する傾向からは、ワクチンにおいても3回目以降の追加接種が有効の可能性がある。

●個人的には中和抗体などの推移を見ながら、3回目以降の追加接種を検討するストラテジーがあると良いと思う。

ファイザーのワクチンのデータが多く、日本で主流のモデルナ、今後導入される予定のアストラゼネカのデータも欲しい。

●今までの既報は、抗体価や細胞の活性化を客観的に見ているデータが多いが、重要なアウトカムは実際の重症化、死亡率などで、今後、データの追加が待たれる。

  

ドイツの研究(2021 March)

Ulf M Geisen, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=33762264

 

対象

●26人の慢性炎症性疾患患者と42人の健常対照者。

●副作用は2回目接種14日後にオンライン調査と病歴によって評価。

 

ワクチン

 ●5人がモデルナ、21人がファイザーのワクチンを接種。

 

患者情報

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●乾癬、乾癬性関節炎を含めた脊椎関節炎や関節リウマチが最多。

●治療薬はTNF阻害薬が多い。その他IL-17阻害薬。PSL使用患者は5名しかいない。

 

結果

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A:2回目接種7日後の抗SARS-CoV-2IgG抗体価は健常者(HCo)と比較して有意に低値。

B:2回目接種0日と7日では抗SARS-CoV-2IgG抗体価は上昇し、カットオフ値を超える。

 

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C:2回目接種7日後の中和抗体も健常者(HCo)と比較すると有意に低い。

D:2回目接種7日後の中和抗体は上昇を認めるが、HCoよりも低い。

 

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E:2回目接種7日後の抗SARS-CoV-2IgA抗体価は健常者(HCo)よりも有意に高値。

→慢性炎症性疾患患者、健常者の何人かは上昇している。

F:抗SARS-CoV-2IgA抗体も2回目接種7日後では上昇傾向を示している。

 

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G:年齢ごとに比較すると健常者との抗SARS-CoV-2IgG抗体価の差は見られなくなる。

→慢性炎症性疾患患者でも健常者でも年齢が上がるにつれて抗体価は低下する傾向。

H:中和抗体も同様に年齢による健常者との抗体価の差はなくなっている。

 

My comments

●サンプルサイズが少ないため、参考にしかならないが、最も驚いたのはワクチンによって抗SARS-CoV-2IgA抗体が上昇する事。IgAは粘膜免疫で重要な役割を果たす抗体であるため、ワクチン接種によって、SARS-CoV-2の侵入を抑制できる可能性が示唆された。

●TNF阻害薬とIL-17阻害薬が使用されているが、抗体産生に関与するB細胞を枯渇させるリツキシマブなどの使用例がない事が難点。

 

アメリカの研究(2021 May)

Rebecca H Haberman, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34035003

 

対象

●メトトレキサートまたは生物学的製剤、または両者を使用している免疫性炎症性疾患患者51名。対照は健常被験者26名。

●Validation cohortにはドイツから健常者182名、免疫性炎症性疾患患者31名が取り組まれた。

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)。

 

患者情報

●メトトレキサート使用の有無で群分けして検討している。

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●本文より免疫性炎症性疾患患者のほとんどは乾癬・乾癬性関節炎と関節リウマチであった。

●MTXを使用している患者は有意に高齢。

●MTXの平均値は15.7±5mg→日本人よりも多い。中央値ではない点に注意。

 

結果:液性免疫

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●免疫性炎症性疾患患者でMTXを使用している患者では、していない患者、健常者と比較して抗SARS-CoV-2IgG(S)抗体が有意に低下。

→ただし、ワクチン接種後、いつの時点で評価しているか不明。

 

結果:細胞性免疫

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●ベースラインおよび2回接種後の採血。

●スパイク蛋白特異的B細胞(A)、Tfh(B)、活性化CD4陽性T細胞(C)、HLA-DR+CD8陽性T細胞(D)のいずれも健常者、MTXを使用していない免疫性炎症性疾患患者、MTXを使用している患者でワクチン投与後に有意に上昇している。

●活性化CD8陽性T細胞(D→E?)、グランザイムB産生CD8陽性T細胞(E→F?)はMTX使用患者ではワクチン接種後に有意に上昇していない。

→Dが二つあるが誤植。

 

My comments

●この研究ではMTX使用患者では非使用患者と比較して抗体産生、細胞性免疫が低下する事が指摘されているが、サンプルサイズが少ない事が難点。

●誤植もあるが、いち早くデータを出さなければならないという執念を感じた。

→UpDate版が現在出されており、まだ査読されていない様子。

→普通なら取り下げするのが筋だが、UpDateという形をとる裏ワザ。

●また、最大の欠点が、ワクチン接種の何日後に血液検査を実施したのかわからなかった点。

→この期間は重要で、バラバラの期間であれば結果の解釈が変わる可能性が高い。

●個人的には参考にならない研究。

 

イスラエルの研究(2021 June) New!! 2021.08.09 updated

Victoria Furer, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34127481

 

対象

●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者686名。

●コントロールは健常者121名。

●2回目接種後、2-6週間後に採血(SARS-CoV-2三量体スパイクS1/S2糖蛋白質に対する抗IgG中和抗体価を測定)。

●有効性はワクチン接種後にPCRによって確定されたCOVID-19に感染したかアンケートまたはカルテデータレビューにて評価。

●安全性は2回目接種2週間以内、2~6週間以内に電話質問で確認。

ワクチン接種期間中はリツキシマブを遅らせる以外、全ての免疫抑制治療は継続!!

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)のみ。

 

患者情報

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●関節リウマチや乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎が多いが、SLEや血管炎もそれなりに含まれている。

 

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●全体ではグルココルチコイドの使用は2割弱、MTXは26%弱、TNF阻害薬は25%、リツキシマブは13%弱。

●本文にはPSLの使用量は6.7±6.25mg/日と記載がある。またリツキシマブの投与量は1656.1±623.6mg。リツキシマブの最終投与とワクチン接種の間隔は平均で51±83日。

 

結果

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●自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者でも86%に抗体の陽転化が見られる。

●炎症性筋疾患やANCA関連血管炎では3割と低めであった。

 

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●TNF阻害薬、IL-6阻害薬(トシリズマブ)、IL-17阻害薬を使用している患者では健常者と比較して遜色ない高い抗体陽転化率を示した。TNF阻害薬とMTXを併用しても陽性率は93%と保たれている。

●MTX使用患者では抗体陽転化率が84%、ミコフェノール酸モフェチルは64%とやや低下した。

●アバタセプトはMTXと併用すると抗体の陽性率が40%まで低下する。

●リツキシマブは単独でも4割程度まで抗体の陽性率が低下するが、MTXと併用すると36%まで低下する。

 

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●リツキシマブの最終投与とワクチン接種のタイミングを見ると、最終投与から6か月以内にワクチン接種をすると、陽性率は20%未満、1年経過していると50%弱まで上昇した。

 

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●多変量解析では年齢(>65歳)、原疾患が関節リウマチ、炎症性筋疾患、ANCA関連血管炎、リツキシマブ療法、グルココルチコイド療法、アバタセプト+MTX、ミコフェノール酸モフェチルが抗体陽性率の低下と関連した(調整因子は年齢、背景疾患、MTX、リツキシマブ治療)。

●データは示されていないが、グルココルチコイド、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブ、アバタセプトの免疫原性への影響は他のDMARDs使用とは独立していた。 

●なお、ワクチン接種をした自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者686名はフォローアップ期間中、誰もCOVID-19に罹患しなかった。

 

My comments

●抗体の陽転化率を健常者と比較して有意差がある事を示したのみで、細胞性免疫については触れられていない。新型コロナウイルスワクチンは細胞性免疫も惹起するため、抗体が産生されないからと言って必ずしも効果がないとは言えない

●フォローアップ期間中にCOVID-19に誰も罹患しなかったとの事は朗報だが、期間の詳細は記載して欲しかった。

●この研究ではMTXの使用は抗体陽性率にあまり関係しないという結果。

●リツキシマブ投与が6か月以内だと抗体陽性率がやはり低い。1年に延長すると上昇するが、それでも5割弱。新しい戦略が必要。

●多変量解析をする際に用いる独立変数が多く、サンプルサイズが解析に足るものか疑問に思った→統計学的手法に問題がないか、統計専門家の意見求む。

 

スイスの研究(2021 July)

Andrea Rubbert-Roth, et al. Lancet Rheumatol. 2021, PMID=34124693

 

対象

●DMARDs使用中の関節リウマチ患者53名と健常比較対照者20名。

●最初のワクチン接種3週間後と2回目のワクチン接種2週間後に採血。

 

ワクチン

●9名はmRNA-1273(モデルナ)、その他はBNT162b2 mRNA(ファイザー)。

 

患者情報

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●女性54.7%、年齢の中央値は64.6歳。

●MTXの中央値は15mg(本文に記載)。

●csDMARD単剤30.2%、生物学的製剤47.2%(うち単剤は36%)、JAK阻害薬22.6%(うち単剤は41.7%)、プレドニゾン32.1%(平均5±1.9mg/日)。

 

結果

 図サムネイルgr1

●健常者と比較すると劣るが、関節リウマチ患者でも2回目のワクチンを接種する事で中和能力のある抗体価が得られることがわかった。

●本文にはcsDMARDs使用でも81%、生物学的製剤使用でも94%、アバタセプト使用でも80%、JAK阻害薬使用では67%、2回のワクチン接種により、中和能力のある抗体価が得られたとされている。

 

My comments

●サンプル数が少なく、評価タイミングが2回目接種後2週間と短期だが、免疫抑制薬使用中の患者でも健常者と比較すると低いが、抗体価が十分(およそ8割)に上がる事は重要である。

 

オーストリアの研究(2021 July) New!! 2021.08.10 updated 

Daniel Mrak, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34285048

 

※リツキシマブ使用患者に特化した研究

 

対象

●リツキシマブ使用患者74名。

 

ワクチン

●mRNA-1273(モデルナ)13名、BNT162b2 mRNA(ファイザー)61名。

●2回目接種後に平均21.9日(範囲:7~49日)後に採血。

 

患者情報

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●平均年齢61.7歳、女性が77%。

●疾患は関節リウマチが44.6%、結合組織病が29.7%、血管炎が23%。

●末梢血でB細胞が同定できたのは51.4%。

●リツキシマブとワクチン接種の間隔の平均が6.9か月。

●何らかのDMARDs使用患者は56.8%、うちメトトレキサートが最多(32.4%)、プレドニゾンは29.7%。

●本文より観察期間中にSARS-CoV-2感染の既往、または新規感染患者はいないと。

 

結果

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●リツキシマブ使用患者では29名(39%)で抗体の陽転化を認める。

●陽転化群では末梢血で同定できるB細胞が有意に多く、リツキシマブ投与からワクチン接種までの期間が有意に長い傾向。

 

結果:液性免疫

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A:健常者ではワクチン接種により抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体が上昇する。

B:リツキシマブ使用患者では末梢血にB細胞が検出されていない患者では1名を除いて抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価は上昇しなかった。一方で末梢血でB細胞が検出された患者では74%が抗体価の陽転化を認めた。

C:末梢血でのB細胞の割合と抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体の抗体価は相関する。

D:末梢血のB細胞の割合が0~1%でも45%に抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体の陽転化が見られた。

 

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A:リツキシマブ投与からワクチン接種までの期間は末梢血B細胞の値に相関する。

B:リツキシマブ投与からワクチン接種までの期間は抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価に相関する。

 

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ロジスティクス回帰分析では末梢血B細胞数が抗体陽転化に関連する。

 

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リツキシマブ使用患者におけるcsDMARDsの併用は抗体価の増減に関連しない。

 

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上記は36名の血清で比較

A:抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体(SC)陽性患者では中和抗体(NT)も陽性だが、陰性の場合は中和抗体も陰性。

B:中和抗体価と抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価には相関関係がある。

 

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上記は36名の血清で比較

C:1名を除いて末梢血B細胞がない患者では中和抗体も陰性。

D:末梢血B細胞の割合と中和抗体価は相関する。

 

結果:細胞性免疫

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上記は45名の末梢血で比較

A:パンデミック前の血清(健常者)ではS1/S2蛋白に反応するT細胞はないが、ワクチンを接種した場合、健常者でもリツキシマブ使用患者でもS1/S2蛋白に反応するT細胞が検出される。

B:S1/S2蛋白でT細胞を刺激すると、健常者では反応するT細胞の割合が上昇する。

C:抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体(SC)の有無で反応するT細胞の割合は変化しない。

D:抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価と反応性T細胞の割合との間に相関関係はない。

リツキシマブ使用患者でも抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価に無関係でT細胞は活性化。

 

結果:液性免疫と細胞性免疫の時間的変化

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A:t1は2回目接種後平均15日後、t2は37日後に測定された抗体価(42名)。

→少なくとも接種後5週間は抗体価は低下しない。

B:t1は2回目接種後平均15日後、t2は42日後に測定された反応性T細胞の割合(9名)。

→少なくとも6週間はT細胞応答が持続する。

 

My comments

●データ多すぎ。あまり重要でないSupplementの表を2つほど省略しております。

●リツキシマブに特化した研究で面白かった。

●抗SARS-CoV-2(S-RBD)抗体価は末梢血B細胞の割合に相関するが、1%でもあれば抗体が産生される事が判明した点は面白い。リツキシマブ使用患者で末梢血B細胞の測定がワクチン接種のタイミングを規定する可能性が出てくる(例えば1%超えてから接種など)。

●また抗体産生とは無関係に反応性のT細胞ができる点でやはり液性免疫だけでなく、細胞性免疫がワクチンによって誘導される事を証明するものであった。

 

イギリスの研究(2021 August)

Maria Prendecki, et al. Ann Rheum Dis. 2021, PMID=34362747

 

まとめ

●初回後、28.6%(34/119)で抗体が陽転化、26%(13/50)がT細胞応答を示した。

●2回目接種後、59.3%(54/91)で抗体が陽転化、82.6%(38/46)がT細胞応答を示した。

●リツキシマブによるB細胞枯渇は抗体産生低下に関与するが、T細胞応答は保たれる。

●タクロリムス療法はT細胞応答の低下に関与。

●抗体産生もT細胞応答もなかった患者はわずか8.7%(19/140)のみ。

 

対象

●140人の免疫抑制を受けている患者(糸球体腎炎、血管炎)。

●初回接種28日(中央値)後に最初の採血、103人が2回目のワクチンを接種。

●その21日後に2回目の採血。

●健康なボランティアや医療従事者が比較対照に。

 

ワクチン

●BNT162b2 mRNA(ファイザー)とChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ)

 ※アストラゼネカも含めて初回接種後、中央値30日で2回目接種している。

 

患者情報

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●男性53.6%、年齢中央値52歳、アジア人は27.9%

●ANCA関連血管炎/抗GBM抗体型腎炎が最多(36.4%)、次いで膜性腎症(MN)が22.1%、微小変化型糸球体腎炎(MCD)/巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)が21.4%、SLEが15.7%

●リツキシマブ過去の使用歴が82.1%過去(6か月以内が56.1%、ワクチン接種時B細胞が枯渇していたのは60.5%)、現在の治療ではプレドニゾロンが42.1%、ミコフェノール酸モフェチルが16.4%、タクロリムスが16.4%

 

結果:液性免疫

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A:投与前、初回、2回目投与後と、経時的に抗スパイク蛋白抗体IgGが有意に上昇。

→82.6%で反応あり。

B:過去6か月以内にリツキシマブを投与している患者(B細胞枯渇患者)では抗体は上昇傾向を示すも、枯渇していない患者と比べると有意に抗体価が低い。

→多変量解析でもリツキシマブによるB細胞枯渇と抗体価の非上昇は関連(OR 0.3, p=0.03)。

 

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C:BNT162b2 mRNA(ファイザー)とChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ)を比べると、ファイザーのワクチンで2回目接種後に有意な抗体価の上昇が見られた。

D:健常者(HV)比較すると抗体価は1回目、2回目接種後ともに有意に低い。

→年齢をマッチさせたコホートでもこの有意差は残存。

 

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E:抗体価とB細胞数には一定の相関関係あり。

F:SARS-CoV-2感染の既往がある方ではB細胞の枯渇の有無に関わらず、1回目のワクチン接種後に有意な抗体価の上昇が見られた。2回目の接種後、さらに抗体価は上限を超えて上昇。

 

結果:細胞性免疫

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A:投与前、初回、2回目投与後と、経時的にT細胞応答率が有意に上昇した。

B:タクロリムス使用患者ではT細胞応答が有意に低下した。

 

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C:BNT162b2 mRNA(ファイザー)とChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ)を比べると、アストラゼネカのワクチンでT細胞応答が1回目接種後有意に上昇。

D:健常者(HV)と比較すると、1回目接種後はT細胞応答率が有意に低いが、2回目接種後は遜色ない反応率となっている。

 

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E:抗スパイク蛋白抗体が陽性になった方となっていない方を比較してもT細胞応答に有意な差はなかった→抗体ができなくてもT細胞応答が得られる

F:年齢とT細胞応答に相関関係はなかったが、T細胞応答が得られない方では唯一年齢がパラメータであった。応答があった年齢の中央値は51.9歳、なかった年齢の中央値は61.5歳。

 

 My comments

●対象が腎疾患に限られている事に注意。

SARS-CoV-2に対する免疫では抗体だけでなく、T細胞性免疫も重要な役割を果たす。

●健常者と比較する低いが、免疫抑制療法を受けていても2回ワクチンを接種したら、抗体価上昇、T細胞免疫はそれぞれ6割、8割得られる。

●リツキシマブ投与によってB細胞が枯渇していても、T細胞免疫は得られる。

●B細胞が枯渇していても既感染者ではワクチン接種により抗体価が上昇していた事より、3回目以降の追加接種も検討しても良いかもしれない。

アストラゼネカのワクチンは初回接種後、8週間以降に2回目を接種する事で最も効果が得られるとのことである。今回の試験ではおよそ4週間後に2回目接種を受けているため、推奨の通りに接種する事でより、抗体価、T細胞性免疫が上がった可能性は否定できない。

●接種後1か月での抗体価、T細胞免疫の評価であり、より長期の評価が待たれる。

 

 

オランダの研究(2021 August) New!! 2021.08.11 updated

The Lancet Rheumatology, Available online 6 August 2021

『Antibody development after COVID-19 vaccination in patients with autoimmune diseases in the Netherlands: a substudy of data from two prospective cohort studies』

→まだPubmed収載されていない。

 

対象

●2つの前向きコホートの患者(リウマチ性疾患患者3682名、多発性硬化症患者546名)。

●健常対照者1147名。

●血液検査は自己免疫疾患の患者(632名)と健常被験者(289名)からワクチン1回目接種後(患者507名、健常被験者239名)、2回目接種後(患者125名、健常被験者50人)に採取された。

●19各は、ワクチンの1回目または2回目の投与後に採血。採血のタイミングは1回目後14日から2回目の投与後3日までと、2回目接種後少なくとも7日後。

●疾患活動性はRAPID3(問診だけで得られる疾患活動性指標)、HAQ2(機能評価指標)を用いて関節リウマチ患者のみ評価。

→いずれも質問票に基づく。

●強直性脊椎炎ではBASDAIを使用。

 

ワクチン

 ●ChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca)、BNT162b2(tozinameran; Pfizer-BioNtech)、CX-024414(elasomeran; Moderna)、およびAd.26.COV2.S(Janssen)。

●うちAd.26.COV2.S(Janssen)は1回接種。

●1回目と2回目の投与間隔はChAdOx1 nCoV-19で12週間、BNT162b2で6週間、CX-024414で4週間。

 

患者情報

 

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 ●最終的にリウマチ性疾患574名、多発性硬化症58名、健常被験者289名。

 

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●平均年齢63歳、女性67%、BMI26。

●関節リウマチ41%で最多、その他脊椎関節炎など。SLEや血管炎は少ない。

●無治療20%、csDMARDs50%(うちMTX35%[半数以上が15mg/週以上])。

●生物学的製剤32%、うちTNF阻害薬22%、リツキシマブ4%。

●プレドニゾン17%。

SARS-CoV-2感染確定15%、血清学で陽性11%、PCRで陽性8%。

 

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アストラゼネカのワクチン接種が多い!(欧米だからか…)

●1回目接種後の血清は接種後中央値34日で80%得られ、2回目接種後中央値38日で20%得られた。
 

結果

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SARS-CoV-2感染の既往がない場合は健常者では1回目接種後73%、2回目接種後95%抗体が陽性になる。

●リウマチ性疾患患者、多発性硬化症患者全体では1回目接種後49%と低いが、2回目接種後92%抗体が陽転化する。しかし、抗体価の中央値は健常者の約半分(48.6AU/ml)。

●MTXを使用していても2回接種で抗体は高率に陽転化する(78%)が、抗体価の中央値は健常者のおよそ半分程度。

●リツキシマブ使用患者では2回目接種後も抗体陽性率が低く(43%)、さらに抗体価も著明に低い。

 

SARS-CoV-2感染の既往があると、健常者では1回目接種で抗体の陽転化率が上昇するが、2回目接種で陽転化率はやや低下する。しかしこれはおそらく陰性から陽性への変化の率が低いのであり、実際の抗体価の数値は高い水準を維持している。

●リウマチ性疾患患者や多発性硬化症患者でも同様の傾向が見られる。

SARS-CoV-2既感染のMTX使用患者では2回目接種後に何故か抗体価がやや減少する。

●リツキシマブ使用患者はデータが不十分。

 

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SARS-CoV-2感染の既往がない場合、MTX単剤使用、TNFと併用、リツキシマブ使用では1回目接種後(一番上)、2回目接種後(真ん中)、いずれでも抗体価が低い事が分かる。

●しかし、SARS-CoV-2既感染では1回目接種後リツキシマブ使用患者以外は抗体価が上昇している事が分かる。

 

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●抗体上昇と負の関係にある因子としてはリウマチ性疾患・多発性硬化症疾患、MTX使用(用量に関わらず)、リツキシマブ使用が挙げられた。

 

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SARS-CoV-2感染の有無で分けた場合に、非感染最初のワクチン接種を受けた場合にはMTXは抗体価の非上昇に関連するが、2回目接種後は関連しなくなっている。

SARS-CoV-2既感染患者ではMTXは抗体価の非上昇と関連しない。

 

My comments

SARS-CoV-2感染既往の有無に分けていたことが面白い。感染者は1回目の接種で抗体の陽転化と抗体価の著明な上昇が見られており、感染がブースター効果を表している事が考えられる。

SARS-CoV-2非感染患者ではMTXは1回目、2回目接種ともに抗体価の上昇は健常者よりも低いが、いわゆる中和抗体が獲得できるとされる15U/mlよりも3倍近く高いため、それほど心配はないのではないかと思う。

●また、既感染患者ではMTXを使用していようがいまいが、抗体価は2回接種で著明に上昇する(ただし15mg未満)。この事はワクチン3回目以降の接種で同様に抗体価が上昇する可能性を示唆していると思う。