リウマチ膠原病疾患へのアプローチ
リウマチ膠原病は多彩な症状を呈し、非典型例も多いため、苦手とする方も多いかもしれません。リウマチ膠原病診療への苦手意識をなくすには、文献的学習だけではなく、可能な限り多くの疾患を診る事に限ると思いますが、初見で診断する事は難しい事も少なくありません。
どうにかリウマチ膠原病診療の苦手意識をなくすことが出来ないか、専門医が偏在する地域で診療に当たる先生方に考え方を共有出来ないか、と考え、私なりにリウマチ膠原病疾患へのアプローチをまとめてみました。
最初は何の事か分からないかもしれませんが、反復してトレーニングすると、見えてくるものがあるかと思います。皆様のお役に立てれば幸いです。
リウマチ膠原病疾患への4ステップ
Step 1:主たる症状、障害臓器を同定
Step 2:リウマチ膠原病疾患・クラスターの同定
Step 3:他の症状、身体所見の吟味
Step 4:疾患に特異的な検査を実施
Step 1:主たる症状、障害臓器を同定
まず何よりも大事なのは、目の前の患者さんの症状、障害臓器が何なのか、どこなのかを同定する事です(例:皮膚なのか、肺なのか、腎臓なのか)。
ここでは可能な限り臓器毎に漏れなく抽出しましょう。
Step 2:リウマチ膠原病疾患・クラスターの同定
次に、その症状を呈するリウマチ膠原病疾患・クラスターを同定します。
クラスターというのは以下の5つのグループです。これは聖路加の岡田先生らが提唱するものを改変したものです。より日常診療で間違えやすい疾患群をまとめました。
SLE:全身性エリテマトーデス、APS:抗リン脂質抗体症候群、PM:多発筋炎、DM:皮膚筋炎、MCTD:混合性結合組織病、SSc:全身性強皮症、SjS:シェーグレン症候群、RA:関節リウマチ、Crystal:痛風・偽痛風、OA:変形性関節症、PMR:リウマチ性多発筋痛症、SpA:脊椎関節炎、AAV:ANCA関連血管炎、GCA:巨細胞性動脈炎、TA:高安動脈炎、PN:結節性多発動脈炎、CV:クリオグロブリン血症性血管炎、IgA:IgA血管炎、BD:ベーチェット症候群、AOSD:成人Still病、FMF:家族性地中海熱、TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群、CAPS:クリオリピン関連周期熱症候群、IgG4RD:IgG4関連疾患、RP:再発性多発軟骨炎、CD:Castelman病
症状から疾患クラスターあるいは疾患を同定するには、リウマチ膠原病疾患症状早見表を活用すると良いでしょう。
当該症状の行を横に見て行きながら、該当するクラスター・疾患を同定します。
例えば、肺胞出血を起こしやすいのは、抗核抗体関連疾患と血管炎と、クラスターを同定する事が出来れば十分ですが、余裕があれば、クラスター内の各疾患まで絞れると良いでしょう。
Step 3:他の症状、身体所見の吟味
さらに目の前の患者さんの主要症状、障害臓器に該当するクラスター・疾患があった場合、表を縦に見て行き、他の症状や身体所見がその疾患に該当するか検討します。
より当てはまる症状・障害臓器が多い疾患をピックアップします。
専門医の場合は、ここまでを無意識に行っている事が多いように思います。
この無意識にやっている事を言葉にすると以下のようになります。
Step 4:疾患に特異的な検査を実施
疾患ないしクラスターが絞れたら、そのクラスターに関連のある検査を実施します。
症状によっては複数のクラスターで認め、分類が難しい場合があるかと思います。
また、クラスターから疾患まで絞れない場合もあるかもしれません。
その場合は、該当するクラスターの検査を広めに実施する事も許容されます。
リウマチ膠原病疾患クラスター毎の特徴
リウマチ膠原病疾患のクラスター毎にいくつかの特徴があります。
思いついたものを以下にまとめます。 徐々に改変していく可能性があります。
抗核抗体関連疾患
・抗核抗体関連疾患は全身の臓器に症状を来します。
・抗核抗体が身体の至る所で免疫複合体を形成し、細胞・臓器を傷害する事をイメージすると良いでしょう。
・クラスター内の疾患はオーバーラップをする事が多く、一つを疑った場合はその他の合併も考えます。
・このクラスターと血管炎は多くの症状を共有しますが、鑑別点にはレイノー症候群、皮疹のパターン、造血器官の異常(リンパ節腫脹、血球異常)があります。
・レイノー症候群は疾患特異性こそありませんが、このクラスターとの親和性は非常に高く、スクリーニング症状として有用です。
・多くの疾患で爪周囲の紅斑や爪上皮下出血斑が見られます。皮膚筋炎のゴットロン徴候やSLEの蝶形紅斑など特徴的なものもあります。
・リンパ節腫脹や血球減少などはこのクラスターの特徴的所見ですが、薬剤性やウイルス性を除外しなければいけません。
・抗核抗体の染色パターンが特異抗体と対応している事が多いです。
滑膜・腱・滑液包疾患
・滑膜・腱・滑液包疾患はリウマチ膠原病疾患の中で最も頻度が高いです。
・骨関節症状は他疾患でも認めるため、他疾患を疑う併存症状がない時に初めて本クラスターを考えます。関節以外の症状の念入りな問診と身体所見が重要です。
・滑膜・腱・滑液包疾患はさらにRA/PMR、結晶性、SpA/SAPHO群に分けられます。
・結晶群は急性発症し、発熱を伴う事が特徴的であります。
・SpA/SAPHO 群は皮膚、付着部、眼、消化器、泌尿生殖器症状に着目します。
血管炎
・血管系のサイズによって大きく症状の出方が異なります。
・大血管炎は頭頚部と四肢に虚血症状を起こしますが、小血管炎は全身の臓器に症状を起こします。
・抗核抗体関連疾患と障害臓器の分布は似ますが、レイノー症候群、皮疹のパターン、造血器官の異常(リンパ節腫脹、血球異常)が鑑別点です。
・クリオグロブリン血症性血管炎を除いて原則レイノー症候群は起こしません。
・皮疹も小血管炎で点状の紫斑、中血管炎で潰瘍や結節性紅斑などと、皮疹の性質も異なります。
・EGPAでの好酸球増多を除いて著明な血球異常を起こすことも多くありません。
・特徴的な症状としてはEGPAにおける心筋症には注意が必要です。
自己炎症関連疾患
・自己炎症関連疾患はそれ自体が多くないので、まず疑う必要はありません。
・ベーチェット症候群と成人Still病は一般内科で最初に診る事も多い疾患であり、押さえておく必要があります。
・ベーチェット症候群は皮膚、眼、粘膜、関節に症状を起こすため、全ての症状が揃えば診断はそれほど難しくありませんが、実際は不全型が多く、ヘルペスウイルス感染症との鑑別を要します。
・神経、腸管、血管病変は特殊型と呼ばれ、特に注意が必要です。
・成人Still病も山口分類が診断に用いられることがありますが、多くの感染症が満たし得る基準で、除外診断が基本です。
・自己炎症症候群は発熱が遷延し、その他の疾患が除外されている時のみ疑います。
その他
・キャッスルマン病とIgG4関連疾患はともにリンパ節が腫れる疾患ですが、前者は著明な炎症所見や発熱を呈する事が多いです。また特徴的な症状の組み合わせにより、TAFRO症候群やPOEMS症候群などの派生疾患があります。
・再発性多発軟骨炎は見慣れないと診断が難しいです。発熱に加えて、耳、鼻、気管軟骨の病変に注意が必要です。
代表的症状から迫るリウマチ膠原病疾患
発熱
・発熱を来す膠原病は多いため、鑑別に有用な症状ではありません。
・考える順番:血管炎、抗核抗体関連疾患>>自己炎症関連疾患
・血管炎、抗核抗体関連疾患は他の症状が前面に出る事が多く、その組み合わせで診断します。
・鑑別が難しい場合は両クラスターの自己抗体を提出します。
・両クラスターともらしさがない場合に、自己炎症関連疾患を考えます。ベーチェット症候群や成人Still病はその他の症状が前面に出る場合が多いですが、自己炎症症候群は発熱が前面に出て、その他の症状が付属する場合が多いです。付属するパターンで鑑別します。
眼病変
・眼症状はその種類によってある程度、疾患への絞り込みが可能です。
・結膜炎は一般的に見られる症状です。シェーグレン症候群で見られる乾燥性角結膜炎を除いて膠原病に特異的という訳ではありません。
・一方でぶどう膜炎と強膜炎は膠原病の可能性を一気に上げます。前者は抗核抗体関連疾患、血管炎、脊椎関節炎で見られます。
・強膜炎は関節リウマチと再発性多発軟骨炎だけ覚えておけば良いです。
・自己炎症症候群でもぶどう膜炎などが見られる事もありますが、このカテゴリーは最後に考えます。
・眼球運動障害や視力障害は大血管炎をまず考えます。
耳病変
・外耳に問題が生じるのは再発性多発軟骨炎のみ。内耳中耳は血管炎を想起します。
鼻病変
・代表的な鼻病変を来す疾患は多発血管炎性肉芽腫症と再発性多発軟骨炎。
口腔・上気道病変
・難治性口内炎で考えるのは全身性エリテマトーデスとベーチェット症候群。
・シェーグレン症候群の口腔乾燥はしばしば見逃されやすいです。
肺病変
・間質性肺炎と言えば、抗核抗体関連疾患、血管炎を考えます。
・抗核抗体関連疾患では皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病が圧倒的に多いです。
・血管炎はANCA関連血管炎を考えます。
・間質性肺炎が先行する場合もあるため、これらの自己抗体を全て提出します。
・滑膜・腱・滑液包疾患では関節リウマチが間質性肺炎を起こしますが、関節症状が前面に出るため、迷う事は少ない印象です(例外は間質性肺炎が先行する場合)。
心病変
・心病変はどの膠原病でも起こって良いですが、頻度が低く、初発症状で見られることは多くありません。
・しかし、心不全徴候が見られる場合は致死的であるため、抗核抗体関連疾患、血管炎の抗体を網羅的に提出し、早期治療に踏み切る事が多いです。
・好酸球疾患は心筋障害の頻度が高く、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では特に注意が必要です。
消化器病変
・消化管出血・潰瘍では抗核抗体関連疾患、血管炎、ベーチェット症候群を考えます。
・胆管炎・膵炎などはIgG4関連疾患をまず考えます。
腎病変
・抗核抗体関連疾患、血管炎をまず考えます。
・腎後性腎不全ではIgG4関連疾患をまず考えます。
骨・関節病変
・ほとんど全てのカテゴリーの疾患が骨・関節症状を呈するため、鑑別に有用ではありません。
・頻度としては滑膜・腱・滑液包主体疾患が圧倒的に多いですが、これらは脊椎関節炎やSAPHO症候群を除いてほとんど他の部位の障害を認めないため、全身の臓器障害の有無を評価してから考えます。
・全身のその他の症状がある場合は抗核抗体関連疾患や血管炎などを疑います。
皮膚病変
・ほとんど全ての膠原病は皮膚症状を有します。
・ただし、皮膚症状のパターンが異なり、診断に有用である場合が多いため、成書をご覧ください。
動静脈病変
・このカテゴリーは抗核抗体関連疾患、血管炎、ベーチェット症候群を考えます。
・レイノー症候群は抗核抗体関連疾患が圧倒的に多く、その他ではクリオグロブリン血症性血管炎を考えます。
神経病変
・末梢神経障害では抗核抗体関連疾患、血管炎の中でもANCA関連血管炎、結節性多発動脈炎を考えます。
・中枢神経障害はクラスターによって症状の出方が異なります。抗核抗体関連疾患では脳髄膜炎を呈する事がありますが、小血管炎では肥厚性硬膜炎が多いです。
・大血管炎では脳梗塞を起こします。