リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

日本リウマチ学会 関節リウマチ診療ガイドライン2020

2021年4月に日本リウマチ学会より関節リウマチ診療ガイドライン2020が発刊となりました。2014年から6年ぶりの改訂になります。

 

今までは米国リウマチ学会や欧州リウマチ学会のガイドラインを参考にしていた方も多いかと思いますが、これから数年はこちらを参考に診療をすると良いです。

 

以下にアルゴリズムとクリニカル・クエスチョンをまとめますが、詳細は本書をご覧下さい。3300円と決して高くありませんが、学会員はなんと今回無料でもらえました!!

是非入会もご検討下さい!!

 

 

薬物療法アルゴリズム

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手術療法のアルゴリズム

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クリニカル・クエスチョン

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私のリウマチ膠原病診療13か条 ver.1

最近心躍る面白い論文をご紹介する機会が少なくなってしまったので、代わりに私のリウマチ膠原病診療への心構えをご紹介したいと思います。

 

どこかの原稿に載るかもしれませんし、載らないかもしれません。どこかに載せても良いよという編集者・出版社さんがおられましたらご連絡下さると幸いです。半分くらい精神論な気がしますが、そこはご愛嬌。

 

納得できるご指摘があれば加筆する可能性があり、『ver.1』としています。

 

それではご笑覧下さいませ。

 

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①リウマチ膠原病はレア疾患。まずはコモンな非リウマチ膠原病疾患を考える。

 関節リウマチなどの一部の疾患を除き、リウマチ膠原病疾患はほとんどが頻度が低いレア疾患です。成人Still病やTRAPS症候群、TAFRO症候群がそんなにしょっちゅう現れる事はありません。『蹄の音を聞いたらシマウマではなくまずは馬を考える』様に、レア疾患よりもコモンな感染症や薬剤性を考えましょう。リウマチ性多発筋痛症を疑ったら、まずは結晶性関節炎を考えましょう。

 

②リウマチ膠原病は自己抗体の有無、種類ではなく臨床症状で診断する。

 基礎研究の発展のおかげで様々な症状の組み合わせの”症候群”から疾患に関連する自己抗体が数多く同定されてきました。また、後方視的研究のおかげで一部の自己抗体は特徴的な臨床像と関連する事も分かってきました。しかしこれはその抗体がある臨床像を取りやすいというだけで100%ではありません。いくらでも例外はあるものです。抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1γ抗体、抗MDA5抗体が陰性だからといって皮膚筋炎は否定できません。外注検査の会社毎のELISAの検査感度の問題もあります。

 また、現在の抗体で全てだろうと思われているSLEの自己抗体でさえ、新たな特異抗体が発見される可能性が浮上しています。現在同定されている自己抗体は全てを捉えられている訳ではなく、日々新たな自己抗体が同定される可能性があります。

 一方で臨床症状の重要性は自己抗体が同定されていなかった時代と全く変わっていません。検査できる自己抗体が無数にある今だからこそ、それらがなかった時代の先駆者たちに倣い、自己抗体の有無、種類に依存した診療ではなく、今一度臨床症状を重視しましょう。

 

③『分類基準』のスタンプラリー診療をしない。

 分類基準の中には疾患の特徴をよく捉えており、診断に用いても良いと思えるものもありますが、あくまでも既にその疾患と診断された患者をその後の研究に組み入れるために作られた症状や検査所見の鋳型(クッキーを作るときの型のよう)です。各々の疾患の中核的な症状・所見を除いて、鋳型の辺縁の症状は非特異的で他疾患でも容易に陽性になる恐れがあります。典型的なものは成人Still病の山口分類です。この分類基準はほとんどの感染症が満たしてしまいます。だからこそ除外が重要なのです。

 最近は欧米を中心に点数でスコア化された分類基準が続々登場しておりますが、『〇点以上で○○と診断』『〇点未満のため○○は除外』などというスタンプラリー診療は控えましょう。あくまでも臨床症状・所見を大切にしましょう。


④診断に固執するあまり適切な治療時期を逸しない。常に最悪の事態を考え行動する。

 リウマチ膠原病疾患は多彩な症状で難解であるゆえに、『○○』と診断できると気分が良いです。しかし、診断は患者さんのためであり、医師の自己満足のためではありません。目の前の患者さんの状況を顧みない『診断の亡者』になってはいけません。常に致死的予後、不可逆的な臓器障害に思いを巡らせ、時には『診断的治療』『治療先行後の軌道修正』も考慮しなければなりません。不明熱の患者さんを1か月先のPET-CTまで無治療で経過を見てはいけません。

 診断が分からない事もしばしばありますが、そのような時には最悪の事態に備えて対処するようにします。『ステロイドを入れると症状がマスクされてしまう』などと躊躇してはいけません。まだSLEの診断がついていなくても心不全徴候があれば、頻度は高くなくても心膜炎によるタンポナーデ、心筋炎を考慮して介入を検討します。命と重要臓器は取り返しがつきません。想定する疾患や病態によって、時には血漿交換を躊躇わない勇気も大事です。まだその時ではないと言った翌日に患者さんを失う事もあります。

 

⑤障害臓器に応じて早期より治療強化し、機会があれば減薬、退薬を試みる。

 炎症を早期に鎮静化する事は後の不可逆的な臓器障害の減少に繋がります。様々な疾患のランダム化比較試験でも早期に強化免疫療法がなされ、凄まじい勢いで減薬をしています。重要臓器障害があれば躊躇なく高用量ステロイドを使用し、寛解に達したら状態に応じて早めに減量します。寛解達成のためにSteroid sparing drugを早期より併用します。『とりあえず中等量から』などと中途半端な治療を行うと、不十分な抗炎症、免疫抑制により増悪を繰り返し、薬剤による様々な合併症を誘発し、結局は患者さんと自分の首を絞めることになります。

 ステロイドは良薬ですが、少ないに越した事はありません。PSL10mgで安定しているからと漫然と継続してはいけません。寛解に達し、必要十分な期間それを維持できた場合、迷わず減薬、退薬を試みます。医師が減薬しなければいつまでも薬はなくなりません。Drug free寛解は高い理想ですが、理想を現実にする努力は怠ってはいけません。

 

⑥治療や薬剤の選択は患者さんの理解と同意のもとで行う。

 当たり前ですが、治療法や薬剤の選択は患者さんに十分説明してから行います。不十分な説明と理解では自己中断を含めたトラブルのもとになります。『Shared decision making』という言葉が重要視されているように、患者さんと治療方針を共有する事が大切です。聞いている、聞いていないもトラブルのもとになるので、渡せる資料があるのであれば積極的に活用します。妊娠可能年齢の女性に妊娠希望を聞かずにパンフレットも渡さず、メトトレキサートを処方してはいけません。

 新しい薬に次々と出現しており、目が飛びつきますが、良く知られている既存の薬でコントロールできるのであればそれに越した事はありません。新薬は発表されてからの動向を良くチェックし、使用する場合でも製薬会社、使用経験者に使い勝手、注意点を聞き、十分把握してからにしましょう。患者さんはモルモットではありません。

 

⑦患者さんが自身の疾患、活動性の指標、治療のゴールを理解するようサポートする。

 疾患の症状、注意点を患者さん自身が理解している事は非常に重要です。有事の際の早めの受診に繋がり、適切なタイミングでの介入を可能にします。疾患活動性の指標を理解し、医師の判断と患者さんの判断が非常に均衡していれば、外来で多くの時間を要さなくても、患者さんに聞くだけで適切な活動性評価を実現する事ができます。活動性評価のプロの患者さんにおいて、私の仕事は、まとめて頂いたノートのコピーをカルテに取り組む事です。

 治療のゴールを早期より示し、理解して頂く事も重要です。多くのリウマチ膠原病疾患は『不治の病』という印象を持たれています。終わりの見えない戦いには誰も参加したくはありません。どのくらいOn drug寛解、Drug free寛解を達成できるのかをなるべく明確化し、患者さん毎にゴールを設定する事でより治療に積極的に臨む事ができます。

 

⑧医学的適応だけでなく、社会的側面、心理的側面を考慮して治療を行う。

 同じ疾患でも患者さん毎に症状の出方、併存疾患が異なるため、医学的な適応は異なりますが、それ以上に異なるのは社会的側面、心理的側面です。治療費を捻出できない場合も少なくありません。家で自身で注射製剤を打つ事ができないのかもしれません。薬剤の工夫・併用も大事ですが、取得できる疾患では特定医療費、収入によっては高額医療費制度、障害の程度によっては障害者手帳など、社会リソースを十分に活用しましょう。高齢の場合は要介護認定の申請も忘れてはいけません。

 心理的に薬剤に対する不安があったり、認知面で服用スケジュールを遵守出来ない可能性もあります。これらを考慮して治療選択をしていかなければなりません。メトトレキサート12mgでコントロール不良の高齢関節リウマチ患者さん(コンサルト症例)がいたら、生物学的製剤を導入する前にちゃんと内服できているか確認しましょう。残薬整理を時々行いましょう。認知症の早期発見に繋がる事があります。

 

⑨原疾患だけでなく、禁煙、節酒、生活習慣病の是正、予防を徹底する。

 外来時間との相談になりますが、可能であれば生活習慣病にも積極的に介入していくべきです。脂肪細胞からは炎症性サイトカインが放出されていますし、体重の減量は決して悪い事ではありません。ループス腎炎の再燃と思っていた蛋白尿の悪化も血圧をコントロールするだけで容易に改善する事がしばしばあります。 多くのリウマチ膠原病が合併する間質性肺炎にとって禁煙は必要不可欠な行為ですし、節酒する事は薬剤性の肝障害を助長する要因を減らす事に繋がります。リウマチ膠原病外来は、原疾患だけでなく、併存する生活習慣病を是正する良いチャンスです。リウマチ膠原病をきっかけに健康を強く意識して頂くようにします。もちろん、可能な限り費用をかけない事が重要です。不要な健康食品、器具の購入はやめて有酸素運動を積極的に勧めます。

 

⑩活動性を見極め、時にはムンテラマイシンを駆使する。最大の治療薬は『自分』。

 様々な症状が出ていて不安がある患者さんも少なくありません。適切な治療を行っていても症状は残るかもしれません。治療薬の選択を華麗に行う事も大切ですが、疾患の活動性を適切に見極め、関連しないと判断した場合、十分な傾聴が最もよい治療になる事もしばしばあります。疼痛持続を訴え、様々な専門医を受診し、エコー、MRIで活動性がないと言われ続けるも、複数の生物学的製剤、JAK阻害薬を試してきた関節リウマチ患者さんも、治療を変えずに考え方を変えるだけで、疼痛と共存して生活を送る事ができる場合があります。診療枠の最後に来ていただき、処方したのは『15分間のおしゃべり』だけです。最大の治療薬はBioでもJAK阻害薬でもなく、『医師自身』かもしれません(By 萩野先生)。

 

⑪他科、他院からの紹介、相談には真摯に対応する。

 突拍子もない的外れな相談は少なくありません。それだけリウマチ膠原病疾患は浸透していないためです。そのような時に一番言ってはいけないのは『うちの科の疾患ではありません』という事です。関節リウマチを含めてほとんど全てのリウマチ膠原病疾患はある日突然発症する事はありません。多くの場合、前病期間があり、徐々に発症する事が多いです。その時点で特定の疾患の分類基準を満たさなくても、その後発症しない事を保証するものではありません。『当科疾患ではありません』と前医で断られて、時間をおいて再度受診して診断がついた症例はいくつもあります。可能性が低くても低頻度で良いのでしばらく併診する事が重要です。リウマチ膠原病科医にとっては疾患の成り立ちや自然経過を知る良い機会でもあります。外来がパンクしそうならば『こういう時は再診、再度紹介』と具体的なプランを明記しましょう。

 紹介状、コンサルトの返書は絶好の教育機会です。『的外れなコンサルトをしやがって』と思う暇があったら、『どのように考えているのか』自分の頭の中を開示しましょう。『関節痛の患者さんです。御高診お願いします』という紹介状に対しては『関節痛の一般的な考え方』『関節リウマチの早期分類基準』について返書します。すると次回からは『早期分類基準を満たすのですが、関節リウマチの可能性はありますでしょうか』となります。適切な情報提供は、適切なコンサルトに繋がります。

 

⑫自分で分からない事があれば他科、上司、同僚、部下関係なく相談する。

 一人のリウマチ膠原病科医で全ての病態を把握する事は不可能です。教科書的に知っていたとしても一生で一度だけ、ないしは全く出会う事がない疾患も多数存在します。私は色素絨毛結節性滑膜炎もクリオピリン関連周期熱症候群もVEXAS症候群も見たことがありません。疑問を感じたら自身で抱え込まずに積極的に他者に相談します。この時のために他科からのコンサルトは平時よりないがしろにしないでいるのです。ただし他科の医師の意見をその科の意見に置き換えてはいけません。納得が出来ない点があれば直接会って相談します(十分なソーシャルディスタンスを保ちつつ)。自分が初めて出会う事が他科の先生にとっても初めての事も十分あり得えます。

 自科内で相談する事も大事です。同じリウマチ膠原病科医でも皆が各々得意な守備範囲が異なります。ちなみに私は再発性多発軟骨炎、クリオグロブリン血症性血管炎が得意(好き)です。目の前の不明疾患が先週後輩が参加した勉強会の症例提示と同じである可能性もあります。国家試験上がりの学生さんが最も良く知っている疾患もあります。そこに年齢、学年は関係ありません。

 

⑬人間らしく。無理をしない。自分で完結すると思わない。

 医者も人間です。自分の感情を押し殺せるほどの聖人君主は一部の除いてなかなかいません。嬉しいときは喜び、悲しいときは悲しいと言えるようになりたいものです。患者さんの妊娠報告には一緒になって喜び、逆に理不尽な怒号に対しては悲しさを伝えるべきです。リウマチ膠原病診療は医師と患者さんの長い付き合いになる事がほとんどですので、お互い我慢する事は良くありません(我慢するのは外来の長い待ち時間のみで十分)。変に媚びへつらえば、そのうちバレますし、何より体が持ちません。万一合わないと思われて違う医師のもとへ行ったのならばそれもそれで結構。自分だけで完治を目指すのではなく、どこかで適切な治療がなされれば良いのです。その際、恨みや妬みはなしです。疾患の改善を祈りましょう。

"偽痛風"の非典型的な臨床像

 ”偽痛風”ことピロリン酸カルシウム結晶沈着症 (calcium pyrophosphate dehydrate deposition disease: CPPD)は身体の色々な部分に沈着します。

 

痛風を疑った時に撮影するX線部位としては、以下の3部位が有名です。

 

 両手関節(特にTFCC領域)

 両ひざ関節

 恥骨結合

 

特に手関節や膝関節の急性単関節炎を起こしますが、その他の部位にも沈着し、多関節炎など、非典型な臨床像を呈する事があります。

 

本日はそんな非典型な臨床像をPubmedで文献を500件ほどReviewし、なるべく臨床写真を閲覧でき、かつ病理組織学的に証明されたものを中心に集めてみました。数字はPMIDです。ご参考になれば幸いです。

 

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Crowned dens 症候群はもはや有名な臨床像ですが、ありとあらゆる部位に結晶が沈着を起こすので、こうして見ると『過去に”Seronegative”だったあの人やこの人が、もしかしたらCPPDだったかも…』と思えてきますね…

 

特に神経の通り道に結晶が沈着すると、神経障害を起こすことに注意したいですね。

 

ちなみに、EULARはCPPDの臨床像を以下の4種類に分類しています(PMID=21216817)。

 

無症候性CPPD (asymptomatic CPPD)

急性結晶性関節炎 (acute CPP crystal arthritis=かつての偽痛風)

CPPDを伴う変形性関節症 (osteoarthritis (OA) with CPPD=かつての偽性OA)

慢性結晶性炎症性関節炎 (chronic CPP crystal inflammatory arthritis=かつての偽性RA)

 

この中でも、慢性結晶性炎症性関節炎は関節リウマチに似た臨床像を呈し、かつては偽性RAとも呼ばれていたため、"Seronegative RA"だと思っても石灰化をしっかりとX線で評価した方が良いかもしれません。


注意点はX線で写らない石灰化もあるため、エコーも実施した方が良い点です。慣れた技師でないと見逃す可能性もあり、レポートだけでなく、しっかり元画像も見るようにしましょう。

免疫抑制薬の各種ワクチンへの影響

免疫抑制薬を使用している患者さんにとって、ワクチンの有効性が低下するかどうかは大きな懸念事項です。

 

とある勉強会で紹介された最新の論文で、今までの免疫抑制薬とワクチンの免疫原性についての研究をまとめたReviewがあったため、本日簡単にご紹介させて頂きます。

 

この分野はまだまだ研究が追い付いていない事が多く、欧州リウマチ学会(EULAR)から推奨が出されていますが、エビデンスのレベルはまだまだ低いです。臨床では手探りで行くほかない事が多いですね…

 

 

 

免疫抑制薬によるワクチンの免疫原性への影響

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インフルエンザワクチン

接種の推奨

●免疫抑制の有無に関わらず、全ての成人は毎年1回は組換えワクチンまたは不活化ワクチンを接種するべき。

 

●細胞培養ベースのワクチンが利用可能であるため、卵アレルギーは絶対禁忌でない。

 

免疫抑制薬の免疫原性への影響

●リツキシマブではワクチンの免疫原性は大幅に減少するため、ワクチン接種は次のリツキシマブ投与2週間前に行うべき

 

●メトトレキサート(MTX)も免疫原性を多少低下させるが、リツキシマブほどではない。

→韓国の小規模RCT研究では、接種前後2週間のMTX休薬で、ワクチンの有効性が向上。

  さらに15mg/week以上の患者ではMTX少量投与と比較してワクチンの効果が低下するも、一般的な量ではワクチンの免疫原性に対する影響は最小限(PMID=28468794)

 

●ただし自己免疫疾患があったとしても、ワクチン接種により、以下のリスクが軽減される事が示されている

・インフルエンザ様症状                    (調整ハザード比[aHR] 0.70, 95%CI 0.54-0.92)

・肺炎による入院                               (aHR 0.61, 95%CI 0.50-0.75)

慢性閉塞性肺疾患悪化による入院  (aHR 0.67, 95%CI 0.46-0.99)

・肺炎による死亡                               (aHR 0.48, 95%CI 0.44-0.71)

 

肺炎球菌ワクチン

接種の推奨

●全ての自己免疫疾患患者は19歳から肺炎球菌ワクチン接種が推奨されている。

 

●免疫不全の人は最初にPCV13(プレベナー®)を単回接種し、少なくとも8週間後にPPSV23(ニューモバックス®)を接種すべき。2回目のPPSV23(ニューモバックス®)は5年後が推奨される。3回目以降は不要。

 

●何らかの適応症のために65歳以前にPPSV23を接種した場合、少なくとも5年後に2回目の接種を受ける必要がある。

 

●PCV13の前にPPSV23を接種した場合、少なくとも1年後にPCV13を接種するべき。

 

免疫抑制薬の免疫原性への影響

●メトトレキサートとリツキシマブは肺炎球菌ワクチンの体液性免疫を低下させる。

→ただし、免疫原性への影響を調べた研究は、それぞれの薬剤で2つずつしかなく、免疫原性の低下は肺炎球菌6Bと23Fという血清型で見られたに留まる…

 

●明確な答えはないが、リツキシマブで使用中では次のリツキシマブ投与にできるだけ近い方が良い(例として次の投与2週間前など)。

 

●トファシチニブもPPSV23の体液性免疫を低下させるが、トファシチニブとバリシチニブのいずれを使用していても、PCV13を接種した場合、高い割合で免疫応答が得られる。

 

帯状疱疹ワクチン

接種の推奨

●一般集団において帯状疱疹ワクチンは50歳から組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の2回接種を推奨する。

 

●米国では組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の有効性のため、帯状疱疹生ワクチン(ゾスタバックス®)は2020年7月に中止となった。

 

●少なくとも50歳以上の関節リウマチ患者では帯状疱疹の発生率が増加する事が知られているため、帯状疱疹ワクチンの接種が勧められる。米国リウマチ学会の2015年の推奨では生ワクチン接種の推奨があるが、組換えワクチンについてはまだデータが十分ではなく、推奨事項が出ていない。

 

●組換えワクチンは免疫応答を刺激するためにアジュバンドが含まれており、それによる原疾患の再燃の懸念はあるが、関節リウマチ患者403人を対象とした研究では、ワクチン接種12週以内に再燃したのは6.7%で、帯状疱疹を発症したのは3例(0.7%)と、再燃率は他の臨床試験と比べてそれほど高くなく、高い予防効果が確認できたという(PMID=32412669)。

 

●ちなみに生ワクチンの禁忌は以下の通り

プレドニゾロン2mg/kg以上、または20mg/day以上

・メトトレキサート0.4mg/kg/week

・アザチオプリン3mg/kg/week以上

・6-メルカプトプリン1.5mg/kg/day以上

・いずれの生物学的製剤

→コルチコステロイドの関節、嚢胞内、腱周囲の注射は問題ない

 

免疫抑制薬の免疫原性への影響

帯状疱疹生ワクチン、不活化ワクチンの免疫抑制薬による長期的な免疫原性への影響については研究は十分ではない。

 

B型肝炎ワクチン

接種の推奨

●小児期に接種を受けなかった人でB型肝炎ワクチン接種はアメリカでは成人リウマチ性疾患患者には日常的に推奨されている訳ではないが、以下の感染リスクが高まる特殊な状況では推奨される。

C型肝炎ウイルス重複感染

・その他の慢性肝疾患

HIV感染症

・ハイリスクの性行動

・注射器による違法薬物使用

・経皮的、粘膜曝露

・投獄

・高リスクまたは中等度リスクのB型肝炎蔓延国への渡航

 

免疫抑制薬の免疫原性への影響

●DMARDsのB型肝炎ワクチンの免疫原性への影響はほとんど分かっていない。

 

●TNF阻害薬とウステキヌマブはワクチンの免疫原性を減少させることが示されている。

B型肝炎ワクチンに対する応答は、T細胞活性化に依存するがTNF阻害薬やウステキヌマブによりT細胞応答が障害されると考えられている。

 

B型肝炎ワクチンの免疫応答を改善させるためには繰り返し接種する事、皮内ワクチンを接種する事、新しいアジュバンドを開発する事、高用量ワクチンを接種する事など、いくつかの戦略が必要となる場合がある。

 

●臨床医はB型肝炎ワクチン接種後に抗体価を評価する必要がある。通常10 mIU/ml以上として定義されている。

 

ヒトパピローマウイルスワクチン

接種の推奨

●米国では26歳までの全ての成人でワクチン接種が推奨されているが、初回接種は11歳または12歳で推奨されている。希望があれば27歳から45歳までの年齢でも接種できる。

 

●子宮頸癌はほとんどはHPV16型または18型が原因で引き起こされる。

 

●免疫不全状態のために、ワクチンの接種スケジュールを変更する事は推奨されない。

 

●自己免疫疾患の女性や免疫抑制薬を使用されている女性ではHPVに感染して悪性度の高い子宮頸部異形成や子宮頸癌になるリスクが高いと言われている。しかしワクチンの接種率は低い事が現状。

 

免疫抑制薬の免疫原性への影響

●HPVワクチンの免疫原性と免疫抑制薬の影響を調べた研究はほとんどない。

 

【参考文献】

Alvin Lee Day, et al. Cleve Clin J Med. 2020 Nov 2; 87 (11): 695-703. "The effect of disease-modifying antirheumatic drugs on vaccine immunogenicity in adults" PMID=33139263

患者毎に乾癬性関節炎の生物学的製剤の種類を選択できるか?

乾癬性関節炎は皮膚病変である乾癬に加えて、爪病変、末梢関節炎、付着部炎、指炎、さらには体軸関節炎、ブドウ膜炎まで多彩な臨床像を引き起こします。

 

病態には、2種類のヘルパーT細胞、Th1とTh17が活性化し、IL12, 17, 22とTNF-αを産生する事が関わるとされています(PMID=28273019)。

 

また機械的なストレスや腸内細菌のdysbiosisに伴うIL23の産生も重要です。

 

そのため、それらのサイトカインをブロックする様々な生物学的製剤が登場して臨床応用されています。

 

しかし、同じ薬剤でも患者毎に反応性が異なり、治療抵抗性の方もおられ、どの生物学的製剤をどの患者に使用するべきか、明確には分かっておりません。

 

そこでより精密な治療(Precison medicine)を行うべく、末梢血のヘルパーT細胞の表面抗原の違いによって4つのサブグループに分け、それに応じて治療を変更した場合、EULARやGRAPPAの推奨に基づく標準治療よりも、有効性が高かったという研究が産業医大から出されております(PMID=29618121)。

 

図1

 

同じような研究が関節リウマチや全身性エリテマトーデスでもなされており、今後さらに個別化医療、精密医療が進むか、静かに見守りたいと思います。

 

【参考文献】

Ippei Miyagawa, et al. Curr Rheumatol Rep. 2019 Mar 20; 21 (5): 21. "Optimal Biologic Selection for Treatment of Psoriatic Arthritis: the Approach to Precision Medicine" PMID=30891646

 

いつやめる?ニューモシスチス肺炎の予防

ニューモシスチス肺炎の予防はリウマチ膠原病疾患ではしばしば重要な検討事項です。

 

しかし、一度予防投薬を開始すると『いつ止めるか』という事が頭を悩ます問題になります。

 

予防の中止に関してはHIV患者ではCD4陽性リンパ球数などを参考に行っている報告はいくつもありますが、リウマチ膠原病疾患ではほとんど報告がありません。

 

本日ご紹介するのは、米国感染症学会(IDSA)のメンバーの先生方にニューモシスチス肺炎の予防に関して取ったアンケート調査の論文です。

 

特に感染症の先生が『リウマチ膠原病疾患でいつ予防をやめるか』についても統計を取られており、今後の参考になるかもしれません。

 

 

Background

このアンケート調査の詳細な内容は以下の7つの質問です。2016年9月7日から2016年10月3日までの間に新興感染症ネットワーク(EIN)の感染症科医メンバーに対してメールで送られたものになります。

 

このEINはアメリカ、プエルトリコ、カナダの米国感染症学会のメンバーで構成されるネットワークだそうです。

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Result

回答者の背景

1264人にアンケート調査メールが送られ、631人(50%)が回答しました。この中で非HIV患者に対してPJP予防をすると答えた感染症科医は362人(57%)のみでした。

以下に回答をした631人、回答しなかった633人、PJP予防をすると答えた362人のCharacterを示します。

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回答者の感染症フェローシップ終了後のキャリアですが、5-14年目、25年以上と割とベテランが多い印象でした。これはPJP予防を行うと回答した医師でも同じ傾向です。

一番多かった職場は大学や医学部でした。病院のタイプも大学病院が多かったです。

 

どの膠原病疾患にPJP予防をする?

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『予防をする 』と回答した362人の感染症科医に『20mgのプレドニゾロンを最低3か月以上使用する場合にPJP予防を行う疾患』について質問した結果が上になります。複数選択できるので合計は100%を超える場合があります。

 

半数を超えるのは多発血管炎性肉芽腫(GPA)だけです。ループス腎炎も4割を超えていますが、その他は3割台と、意外と予防しないのだと分かります。

 

どの疾患でも予防しないという医師も7%いる事に驚きましたが、93人(26%)は全ての疾患で予防を行うと回答しました。なお分からないと回答したのは127人(35%)と最多でした。

 

どの免疫抑制療法ならPJP予防をする?

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続いて『どの免疫抑制療法ならPJP予防を行うか』という質問に対して回答したものが上になります。

 

プレドニゾロン20mg以上を3か月以上ならば9割近い感染症科医はPJP予防を行うようです。しかし、興味深いのはそのステロイド量と免疫抑制薬を併用した時にはPJP予防を行うと回答した感染症科医の割合が減少している事が分かります。

 

ただし、一番多い回答のパターンは『高用量プレドニゾロンを含むすべての免疫抑制療法』でこれは回答者の49%(179人)だったようです。

 

これは、プレドニゾロン単独や免疫抑制薬単独よりも両者を併用した方がPJPの発症リスクが高いという報告に矛盾しません(PMID=30639289)。

 

PJP予防の判断に血液検査を用いるか?

報告によっては膠原病疾患でも総リンパ球数がPJP発症の予測因子になるというものがありますが、本アンケート調査では79%の感染症科医は総リンパ球数やCD4陽性リンパ球などの代理血液検査マーカーはPJP予防の判断に有用ではないと判断しています。

 

代理血液検査マーカーが有用だと回答した76人(21%)のうち、CD4陽性リンパ球が有用だと回答したのは48人(63%)でした。

 

PJP予防はいつになったらやめるか?

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回答者の65%がPJP予防をやめる主要な決定因子としてステロイドの用量を選択しています。用量に関しては20mg以下(16~20mg)が半数のようですが、その次には10mg未満が3割でした。

My comments

感染症科医でも意外と予防しない人が4割るいるのだと驚きました。

●疾患では以前のまとめ同様GPAやループス腎炎がやはり治療法に関わらず予防対象になりそうですね。
●『PJP予防をいつ中止するか』というのは大変興味深い質問だと思いましたが、治療法ばかりに着目した質問事項となっている印象でした。PJP予防の中止を考慮する指標としてプレドニゾロン20mg以下を選択する感染症科医が半数でしたが、他のリスクである『年齢』『肺疾患』なども考慮して欲しかったなと思いました。

ステロイドの用量だけで言えば、他にリスクがなければ15mg未満になったときにPJP予防を中止する事を提案する感染症科医もいます(PMID=29459427)。

→日本人の場合は体重が軽いので欧米での15mgではなく、10mgが一つの指標ではないかと私は思います。もちろんこれは何のリスクもない若年患者に限った事ですが。

→高齢で肺疾患がある場合はたとえPSL5mgを切ったとしてもPJP予防は続けるべきだと思います。

●このアンケート調査の個人的な最大の重要ポイントは質問7にリウマチ膠原病疾患のためのPJP予防ガイドラインは必要か?と聞いているところです。

これに対して89%の感染症科医は必要と答えています。このアンケートが実施されたのが2016年で、論文が報告されたのが2019年ですので、そう遠くないうちに予防ガイドラインが発表されるかもしれません。そのガイドラインを作成する方々はIDSAメンバーだと思いますし、少なくともこのアンケート調査でその半数はリウマチ膠原病疾患でPJP予防は不要と答えている訳です。必要と答えた先生でもPSL量を含めた治療に重きを置いています。日本では医師毎に予防に対して様々な考え方がありますが、もしPJP予防ガイドラインが出たからといって、それをそのまま日本でも適応すべきかに関しては疑問が残ります。海外でガイドラインが出たら右に倣えの日本ですが、ACR、EULARのものと同様、どこを利用し、どこは本邦ないしは自身のやり方で通すのかはしっかり定めて欲しいと思います。

 

【参考文献】

Rachel M Wolfe, et al. Open Forum Infect Dis. 2019 Jul 12; 6 (9): ofz315. "Practice Patterns of Pneumocystis Pneumonia Prophylaxis in Connective Tissue Diseases: A Survey of Infectious Disease Physicians" PMID=31660399