免疫抑制薬を使用している患者さんにとって、ワクチンの有効性が低下するかどうかは大きな懸念事項です。
とある勉強会で紹介された最新の論文で、今までの免疫抑制薬とワクチンの免疫原性についての研究をまとめたReviewがあったため、本日簡単にご紹介させて頂きます。
この分野はまだまだ研究が追い付いていない事が多く、欧州リウマチ学会(EULAR)から推奨が出されていますが、エビデンスのレベルはまだまだ低いです。臨床では手探りで行くほかない事が多いですね…
免疫抑制薬によるワクチンの免疫原性への影響
インフルエンザワクチン
接種の推奨
●免疫抑制の有無に関わらず、全ての成人は毎年1回は組換えワクチンまたは不活化ワクチンを接種するべき。
●細胞培養ベースのワクチンが利用可能であるため、卵アレルギーは絶対禁忌でない。
免疫抑制薬の免疫原性への影響
●リツキシマブではワクチンの免疫原性は大幅に減少するため、ワクチン接種は次のリツキシマブ投与2週間前に行うべき。
●メトトレキサート(MTX)も免疫原性を多少低下させるが、リツキシマブほどではない。
→韓国の小規模RCT研究では、接種前後2週間のMTX休薬で、ワクチンの有効性が向上。
さらに15mg/week以上の患者ではMTX少量投与と比較してワクチンの効果が低下するも、一般的な量ではワクチンの免疫原性に対する影響は最小限(PMID=28468794)
●ただし自己免疫疾患があったとしても、ワクチン接種により、以下のリスクが軽減される事が示されている
・インフルエンザ様症状 (調整ハザード比[aHR] 0.70, 95%CI 0.54-0.92)
・肺炎による入院 (aHR 0.61, 95%CI 0.50-0.75)
・慢性閉塞性肺疾患悪化による入院 (aHR 0.67, 95%CI 0.46-0.99)
・肺炎による死亡 (aHR 0.48, 95%CI 0.44-0.71)
肺炎球菌ワクチン
接種の推奨
●全ての自己免疫疾患患者は19歳から肺炎球菌ワクチン接種が推奨されている。
●免疫不全の人は最初にPCV13(プレベナー®)を単回接種し、少なくとも8週間後にPPSV23(ニューモバックス®)を接種すべき。2回目のPPSV23(ニューモバックス®)は5年後が推奨される。3回目以降は不要。
●何らかの適応症のために65歳以前にPPSV23を接種した場合、少なくとも5年後に2回目の接種を受ける必要がある。
●PCV13の前にPPSV23を接種した場合、少なくとも1年後にPCV13を接種するべき。
免疫抑制薬の免疫原性への影響
●メトトレキサートとリツキシマブは肺炎球菌ワクチンの体液性免疫を低下させる。
→ただし、免疫原性への影響を調べた研究は、それぞれの薬剤で2つずつしかなく、免疫原性の低下は肺炎球菌6Bと23Fという血清型で見られたに留まる…
●明確な答えはないが、リツキシマブで使用中では次のリツキシマブ投与にできるだけ近い方が良い(例として次の投与2週間前など)。
●トファシチニブもPPSV23の体液性免疫を低下させるが、トファシチニブとバリシチニブのいずれを使用していても、PCV13を接種した場合、高い割合で免疫応答が得られる。
帯状疱疹ワクチン
接種の推奨
●一般集団において帯状疱疹ワクチンは50歳から組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の2回接種を推奨する。
●米国では組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の有効性のため、帯状疱疹生ワクチン(ゾスタバックス®)は2020年7月に中止となった。
●少なくとも50歳以上の関節リウマチ患者では帯状疱疹の発生率が増加する事が知られているため、帯状疱疹ワクチンの接種が勧められる。米国リウマチ学会の2015年の推奨では生ワクチン接種の推奨があるが、組換えワクチンについてはまだデータが十分ではなく、推奨事項が出ていない。
●組換えワクチンは免疫応答を刺激するためにアジュバンドが含まれており、それによる原疾患の再燃の懸念はあるが、関節リウマチ患者403人を対象とした研究では、ワクチン接種12週以内に再燃したのは6.7%で、帯状疱疹を発症したのは3例(0.7%)と、再燃率は他の臨床試験と比べてそれほど高くなく、高い予防効果が確認できたという(PMID=32412669)。
●ちなみに生ワクチンの禁忌は以下の通り
・プレドニゾロン2mg/kg以上、または20mg/day以上
・メトトレキサート0.4mg/kg/week
・アザチオプリン3mg/kg/week以上
・6-メルカプトプリン1.5mg/kg/day以上
・いずれの生物学的製剤
→コルチコステロイドの関節、嚢胞内、腱周囲の注射は問題ない
免疫抑制薬の免疫原性への影響
●帯状疱疹生ワクチン、不活化ワクチンの免疫抑制薬による長期的な免疫原性への影響については研究は十分ではない。
B型肝炎ワクチン
接種の推奨
●小児期に接種を受けなかった人でB型肝炎ワクチン接種はアメリカでは成人リウマチ性疾患患者には日常的に推奨されている訳ではないが、以下の感染リスクが高まる特殊な状況では推奨される。
・C型肝炎ウイルス重複感染
・その他の慢性肝疾患
・ハイリスクの性行動
・注射器による違法薬物使用
・経皮的、粘膜曝露
・投獄
免疫抑制薬の免疫原性への影響
●DMARDsのB型肝炎ワクチンの免疫原性への影響はほとんど分かっていない。
●TNF阻害薬とウステキヌマブはワクチンの免疫原性を減少させることが示されている。
→B型肝炎ワクチンに対する応答は、T細胞活性化に依存するがTNF阻害薬やウステキヌマブによりT細胞応答が障害されると考えられている。
●B型肝炎ワクチンの免疫応答を改善させるためには繰り返し接種する事、皮内ワクチンを接種する事、新しいアジュバンドを開発する事、高用量ワクチンを接種する事など、いくつかの戦略が必要となる場合がある。
●臨床医はB型肝炎ワクチン接種後に抗体価を評価する必要がある。通常10 mIU/ml以上として定義されている。
ヒトパピローマウイルスワクチン
接種の推奨
●米国では26歳までの全ての成人でワクチン接種が推奨されているが、初回接種は11歳または12歳で推奨されている。希望があれば27歳から45歳までの年齢でも接種できる。
●子宮頸癌はほとんどはHPV16型または18型が原因で引き起こされる。
●免疫不全状態のために、ワクチンの接種スケジュールを変更する事は推奨されない。
●自己免疫疾患の女性や免疫抑制薬を使用されている女性ではHPVに感染して悪性度の高い子宮頸部異形成や子宮頸癌になるリスクが高いと言われている。しかしワクチンの接種率は低い事が現状。
免疫抑制薬の免疫原性への影響
●HPVワクチンの免疫原性と免疫抑制薬の影響を調べた研究はほとんどない。
【参考文献】
Alvin Lee Day, et al. Cleve Clin J Med. 2020 Nov 2; 87 (11): 695-703. "The effect of disease-modifying antirheumatic drugs on vaccine immunogenicity in adults" PMID=33139263