リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

私のリウマチ膠原病診療13か条 ver.1

最近心躍る面白い論文をご紹介する機会が少なくなってしまったので、代わりに私のリウマチ膠原病診療への心構えをご紹介したいと思います。

 

どこかの原稿に載るかもしれませんし、載らないかもしれません。どこかに載せても良いよという編集者・出版社さんがおられましたらご連絡下さると幸いです。半分くらい精神論な気がしますが、そこはご愛嬌。

 

納得できるご指摘があれば加筆する可能性があり、『ver.1』としています。

 

それではご笑覧下さいませ。

 

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①リウマチ膠原病はレア疾患。まずはコモンな非リウマチ膠原病疾患を考える。

 関節リウマチなどの一部の疾患を除き、リウマチ膠原病疾患はほとんどが頻度が低いレア疾患です。成人Still病やTRAPS症候群、TAFRO症候群がそんなにしょっちゅう現れる事はありません。『蹄の音を聞いたらシマウマではなくまずは馬を考える』様に、レア疾患よりもコモンな感染症や薬剤性を考えましょう。リウマチ性多発筋痛症を疑ったら、まずは結晶性関節炎を考えましょう。

 

②リウマチ膠原病は自己抗体の有無、種類ではなく臨床症状で診断する。

 基礎研究の発展のおかげで様々な症状の組み合わせの”症候群”から疾患に関連する自己抗体が数多く同定されてきました。また、後方視的研究のおかげで一部の自己抗体は特徴的な臨床像と関連する事も分かってきました。しかしこれはその抗体がある臨床像を取りやすいというだけで100%ではありません。いくらでも例外はあるものです。抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1γ抗体、抗MDA5抗体が陰性だからといって皮膚筋炎は否定できません。外注検査の会社毎のELISAの検査感度の問題もあります。

 また、現在の抗体で全てだろうと思われているSLEの自己抗体でさえ、新たな特異抗体が発見される可能性が浮上しています。現在同定されている自己抗体は全てを捉えられている訳ではなく、日々新たな自己抗体が同定される可能性があります。

 一方で臨床症状の重要性は自己抗体が同定されていなかった時代と全く変わっていません。検査できる自己抗体が無数にある今だからこそ、それらがなかった時代の先駆者たちに倣い、自己抗体の有無、種類に依存した診療ではなく、今一度臨床症状を重視しましょう。

 

③『分類基準』のスタンプラリー診療をしない。

 分類基準の中には疾患の特徴をよく捉えており、診断に用いても良いと思えるものもありますが、あくまでも既にその疾患と診断された患者をその後の研究に組み入れるために作られた症状や検査所見の鋳型(クッキーを作るときの型のよう)です。各々の疾患の中核的な症状・所見を除いて、鋳型の辺縁の症状は非特異的で他疾患でも容易に陽性になる恐れがあります。典型的なものは成人Still病の山口分類です。この分類基準はほとんどの感染症が満たしてしまいます。だからこそ除外が重要なのです。

 最近は欧米を中心に点数でスコア化された分類基準が続々登場しておりますが、『〇点以上で○○と診断』『〇点未満のため○○は除外』などというスタンプラリー診療は控えましょう。あくまでも臨床症状・所見を大切にしましょう。


④診断に固執するあまり適切な治療時期を逸しない。常に最悪の事態を考え行動する。

 リウマチ膠原病疾患は多彩な症状で難解であるゆえに、『○○』と診断できると気分が良いです。しかし、診断は患者さんのためであり、医師の自己満足のためではありません。目の前の患者さんの状況を顧みない『診断の亡者』になってはいけません。常に致死的予後、不可逆的な臓器障害に思いを巡らせ、時には『診断的治療』『治療先行後の軌道修正』も考慮しなければなりません。不明熱の患者さんを1か月先のPET-CTまで無治療で経過を見てはいけません。

 診断が分からない事もしばしばありますが、そのような時には最悪の事態に備えて対処するようにします。『ステロイドを入れると症状がマスクされてしまう』などと躊躇してはいけません。まだSLEの診断がついていなくても心不全徴候があれば、頻度は高くなくても心膜炎によるタンポナーデ、心筋炎を考慮して介入を検討します。命と重要臓器は取り返しがつきません。想定する疾患や病態によって、時には血漿交換を躊躇わない勇気も大事です。まだその時ではないと言った翌日に患者さんを失う事もあります。

 

⑤障害臓器に応じて早期より治療強化し、機会があれば減薬、退薬を試みる。

 炎症を早期に鎮静化する事は後の不可逆的な臓器障害の減少に繋がります。様々な疾患のランダム化比較試験でも早期に強化免疫療法がなされ、凄まじい勢いで減薬をしています。重要臓器障害があれば躊躇なく高用量ステロイドを使用し、寛解に達したら状態に応じて早めに減量します。寛解達成のためにSteroid sparing drugを早期より併用します。『とりあえず中等量から』などと中途半端な治療を行うと、不十分な抗炎症、免疫抑制により増悪を繰り返し、薬剤による様々な合併症を誘発し、結局は患者さんと自分の首を絞めることになります。

 ステロイドは良薬ですが、少ないに越した事はありません。PSL10mgで安定しているからと漫然と継続してはいけません。寛解に達し、必要十分な期間それを維持できた場合、迷わず減薬、退薬を試みます。医師が減薬しなければいつまでも薬はなくなりません。Drug free寛解は高い理想ですが、理想を現実にする努力は怠ってはいけません。

 

⑥治療や薬剤の選択は患者さんの理解と同意のもとで行う。

 当たり前ですが、治療法や薬剤の選択は患者さんに十分説明してから行います。不十分な説明と理解では自己中断を含めたトラブルのもとになります。『Shared decision making』という言葉が重要視されているように、患者さんと治療方針を共有する事が大切です。聞いている、聞いていないもトラブルのもとになるので、渡せる資料があるのであれば積極的に活用します。妊娠可能年齢の女性に妊娠希望を聞かずにパンフレットも渡さず、メトトレキサートを処方してはいけません。

 新しい薬に次々と出現しており、目が飛びつきますが、良く知られている既存の薬でコントロールできるのであればそれに越した事はありません。新薬は発表されてからの動向を良くチェックし、使用する場合でも製薬会社、使用経験者に使い勝手、注意点を聞き、十分把握してからにしましょう。患者さんはモルモットではありません。

 

⑦患者さんが自身の疾患、活動性の指標、治療のゴールを理解するようサポートする。

 疾患の症状、注意点を患者さん自身が理解している事は非常に重要です。有事の際の早めの受診に繋がり、適切なタイミングでの介入を可能にします。疾患活動性の指標を理解し、医師の判断と患者さんの判断が非常に均衡していれば、外来で多くの時間を要さなくても、患者さんに聞くだけで適切な活動性評価を実現する事ができます。活動性評価のプロの患者さんにおいて、私の仕事は、まとめて頂いたノートのコピーをカルテに取り組む事です。

 治療のゴールを早期より示し、理解して頂く事も重要です。多くのリウマチ膠原病疾患は『不治の病』という印象を持たれています。終わりの見えない戦いには誰も参加したくはありません。どのくらいOn drug寛解、Drug free寛解を達成できるのかをなるべく明確化し、患者さん毎にゴールを設定する事でより治療に積極的に臨む事ができます。

 

⑧医学的適応だけでなく、社会的側面、心理的側面を考慮して治療を行う。

 同じ疾患でも患者さん毎に症状の出方、併存疾患が異なるため、医学的な適応は異なりますが、それ以上に異なるのは社会的側面、心理的側面です。治療費を捻出できない場合も少なくありません。家で自身で注射製剤を打つ事ができないのかもしれません。薬剤の工夫・併用も大事ですが、取得できる疾患では特定医療費、収入によっては高額医療費制度、障害の程度によっては障害者手帳など、社会リソースを十分に活用しましょう。高齢の場合は要介護認定の申請も忘れてはいけません。

 心理的に薬剤に対する不安があったり、認知面で服用スケジュールを遵守出来ない可能性もあります。これらを考慮して治療選択をしていかなければなりません。メトトレキサート12mgでコントロール不良の高齢関節リウマチ患者さん(コンサルト症例)がいたら、生物学的製剤を導入する前にちゃんと内服できているか確認しましょう。残薬整理を時々行いましょう。認知症の早期発見に繋がる事があります。

 

⑨原疾患だけでなく、禁煙、節酒、生活習慣病の是正、予防を徹底する。

 外来時間との相談になりますが、可能であれば生活習慣病にも積極的に介入していくべきです。脂肪細胞からは炎症性サイトカインが放出されていますし、体重の減量は決して悪い事ではありません。ループス腎炎の再燃と思っていた蛋白尿の悪化も血圧をコントロールするだけで容易に改善する事がしばしばあります。 多くのリウマチ膠原病が合併する間質性肺炎にとって禁煙は必要不可欠な行為ですし、節酒する事は薬剤性の肝障害を助長する要因を減らす事に繋がります。リウマチ膠原病外来は、原疾患だけでなく、併存する生活習慣病を是正する良いチャンスです。リウマチ膠原病をきっかけに健康を強く意識して頂くようにします。もちろん、可能な限り費用をかけない事が重要です。不要な健康食品、器具の購入はやめて有酸素運動を積極的に勧めます。

 

⑩活動性を見極め、時にはムンテラマイシンを駆使する。最大の治療薬は『自分』。

 様々な症状が出ていて不安がある患者さんも少なくありません。適切な治療を行っていても症状は残るかもしれません。治療薬の選択を華麗に行う事も大切ですが、疾患の活動性を適切に見極め、関連しないと判断した場合、十分な傾聴が最もよい治療になる事もしばしばあります。疼痛持続を訴え、様々な専門医を受診し、エコー、MRIで活動性がないと言われ続けるも、複数の生物学的製剤、JAK阻害薬を試してきた関節リウマチ患者さんも、治療を変えずに考え方を変えるだけで、疼痛と共存して生活を送る事ができる場合があります。診療枠の最後に来ていただき、処方したのは『15分間のおしゃべり』だけです。最大の治療薬はBioでもJAK阻害薬でもなく、『医師自身』かもしれません(By 萩野先生)。

 

⑪他科、他院からの紹介、相談には真摯に対応する。

 突拍子もない的外れな相談は少なくありません。それだけリウマチ膠原病疾患は浸透していないためです。そのような時に一番言ってはいけないのは『うちの科の疾患ではありません』という事です。関節リウマチを含めてほとんど全てのリウマチ膠原病疾患はある日突然発症する事はありません。多くの場合、前病期間があり、徐々に発症する事が多いです。その時点で特定の疾患の分類基準を満たさなくても、その後発症しない事を保証するものではありません。『当科疾患ではありません』と前医で断られて、時間をおいて再度受診して診断がついた症例はいくつもあります。可能性が低くても低頻度で良いのでしばらく併診する事が重要です。リウマチ膠原病科医にとっては疾患の成り立ちや自然経過を知る良い機会でもあります。外来がパンクしそうならば『こういう時は再診、再度紹介』と具体的なプランを明記しましょう。

 紹介状、コンサルトの返書は絶好の教育機会です。『的外れなコンサルトをしやがって』と思う暇があったら、『どのように考えているのか』自分の頭の中を開示しましょう。『関節痛の患者さんです。御高診お願いします』という紹介状に対しては『関節痛の一般的な考え方』『関節リウマチの早期分類基準』について返書します。すると次回からは『早期分類基準を満たすのですが、関節リウマチの可能性はありますでしょうか』となります。適切な情報提供は、適切なコンサルトに繋がります。

 

⑫自分で分からない事があれば他科、上司、同僚、部下関係なく相談する。

 一人のリウマチ膠原病科医で全ての病態を把握する事は不可能です。教科書的に知っていたとしても一生で一度だけ、ないしは全く出会う事がない疾患も多数存在します。私は色素絨毛結節性滑膜炎もクリオピリン関連周期熱症候群もVEXAS症候群も見たことがありません。疑問を感じたら自身で抱え込まずに積極的に他者に相談します。この時のために他科からのコンサルトは平時よりないがしろにしないでいるのです。ただし他科の医師の意見をその科の意見に置き換えてはいけません。納得が出来ない点があれば直接会って相談します(十分なソーシャルディスタンスを保ちつつ)。自分が初めて出会う事が他科の先生にとっても初めての事も十分あり得えます。

 自科内で相談する事も大事です。同じリウマチ膠原病科医でも皆が各々得意な守備範囲が異なります。ちなみに私は再発性多発軟骨炎、クリオグロブリン血症性血管炎が得意(好き)です。目の前の不明疾患が先週後輩が参加した勉強会の症例提示と同じである可能性もあります。国家試験上がりの学生さんが最も良く知っている疾患もあります。そこに年齢、学年は関係ありません。

 

⑬人間らしく。無理をしない。自分で完結すると思わない。

 医者も人間です。自分の感情を押し殺せるほどの聖人君主は一部の除いてなかなかいません。嬉しいときは喜び、悲しいときは悲しいと言えるようになりたいものです。患者さんの妊娠報告には一緒になって喜び、逆に理不尽な怒号に対しては悲しさを伝えるべきです。リウマチ膠原病診療は医師と患者さんの長い付き合いになる事がほとんどですので、お互い我慢する事は良くありません(我慢するのは外来の長い待ち時間のみで十分)。変に媚びへつらえば、そのうちバレますし、何より体が持ちません。万一合わないと思われて違う医師のもとへ行ったのならばそれもそれで結構。自分だけで完治を目指すのではなく、どこかで適切な治療がなされれば良いのです。その際、恨みや妬みはなしです。疾患の改善を祈りましょう。