リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

リウマチ膠原病疾患毎のニューモシスチス肺炎発症リスク

ニューモシスチス・イロベチイ肺炎(PJP)はリウマチ膠原病疾患の治療を行う上で、常に考慮しなければならない真菌性肺炎です。

 

HIV患者での発症が有名ですが、リウマチ膠原病疾患を含めたnon-HIV患者の方が、一般に急速に進行し、予後不良と言われています(PMID=25148074)。

 

多くのリウマチ膠原病疾患で使用されるステロイドは、特に20mg以上を4週間以上使用する場合に、PJPの高リスクと言われています(PMID=28134084)が、疾患毎のリスクというのは、今まで言われておりませんでした。

 

今回は、まとめど先生(@tsukuchip)に教えて頂いたChestの論文をご紹介したいと思います。疾患はもちろん、治療薬毎のPJPリスクについても少し言及します。

 

 

疾患毎のPJPの発生率

f:id:tuneYoshida:20210214201005p:plainSLE: 全身性エリテマトーデス, RA: 関節リウマチ, GPA: 多発血管炎性肉芽腫症, PAN: 結節性多発動脈炎,

PM/DM: 多発筋炎/皮膚筋炎,

a) エビデンスレベルC: 専門家のコンセンサスまたは小規模の後ろ向き研究

b) CD4+<250/mm3のときに予防

c) 患者が次のスコアで5点以上の時に予防

→65歳=1点, 2種類以上の免疫抑制=1点, MTX≥6mg/週=1点, グルココルチコイド≥5mg=3点

 

上記表は過去のリウマチ膠原病疾患の臨床試験でPJPの発生率をまとめた表です。

各々の試験でPJP予防がされていたかは右端の列に示しております。

 

表からはSLERAなどでもそれほどPJPの発生率が高くない事がわかりますね。

 

しかし、発症した場合の死亡率は恐ろしい数字となっています…

 

興味深いのは、上の表には載っていないのですが、同じくステロイドを長期に使用する血管炎でも、巨細胞性動脈炎(GCA)ではPJPの発症リスクがそれほど高くないという事です。

 

ある7543人のGCA患者を含む研究では、PJPは7人(0.09%)にのみ発症しました(PMID=21240966)。

 

しかし、うち4人(57%)がICUに入室し、3人(43%)が人工呼吸器を要し、2人(29%)が死亡しており、罹患率自体は低いかもしれませんが、これも予後は決して良いとは言えない事が分かります。

 

別件ではサルコイドーシス585人の患者を含む後ろ向きコホート研究では3人(0.5%)だけPJPを発症しました(PMID=29245251)。

 

同じ膠原病・血管炎でステロイドを使用していても(予防あり)、PJPの発生率に差がある事は、原疾患の炎症などがPJP発症に関与している可能すら考えられますね。

 

治療薬のPJP発症リスク

グルココルチコイドと免疫抑制薬

免疫抑制薬の使用とPJP発症に関しては、興味深い報告があります(PMID=30639289)。

無治療、グルココルチコイド単独、免疫抑制薬単独、グルココルチコイド+免疫抑制薬でそれぞれのPJP発症率は以下の通りだったそうです。

 

CS: グルココルチコイド, IS: 免疫抑制薬

 

これを見ると、無治療よりも何らかの免疫抑制療法をしているとPJP発症率は上昇(CS alone: 0.01%, IS alone: 0.01%)しますが、グルココルチコイドと免疫抑制薬をそれぞれ単独で使用した場合では発生率は変わらず、両者を併用した場合にはPJP発症率が大きく上がる(CS+IS: 0.20%)事が分かります。

 

一方で、免疫抑制薬であるミコフェノール酸モフェチル(MMF)については、PJPに対してむしろ保護的な作用がある可能性が示唆されています(PMID=19497072/12060875)。

 

SLE患者でPJP罹患率が低い理由にMMFの使用があるのかもしれませんね。

 

生物学的製剤

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また、この論文では各疾患毎で使用された生物学的製剤のランダム化比較試験(RCT)でのPJP発生率についてもまとめてくれています。

 

これを見ると意外と生物学的製剤を使用していても、PJP予防をしていなくても、PJPの発生率がほとんどない事が分かります。

 

一番上だけPJPが大変多く発生しておりますが、これはAAVの寛解維持療法におけるリツキシマブとアザチオプリンを比較したMAINRITSAN1試験です。

 

したがって既にステロイドを大量に行かれた後だから仕方ない、と思っていましたが、実はこの表で黄色の所は新規発症の患者ではなく、長期に疾患を罹患している患者を対象とした試験なのです。

 

もちろん罹病期間はバラバラですが、SLEやRAでは全然PJPが発生していない事が分かります。RAではステロイドの使用量が少ないと考えられますが、SLEで予防していないのにも関わらず、全然PJPを発症していないのはやはりMMFのおかげなのでしょうか…

 

その他のリスク

リンパ球減少症

AIDS患者ではリンパ球数がPJPの予測因子として有名ですが、リウマチ膠原病疾患ではそれほど多く報告はありません。

 

かなり古い報告ではSLEで総リンパ球数350/mm3をカットオフ値として提案するケースシリーズ(PMID=1404153)もあれば、GPAでは治療前のリンパ球数が800/mm3未満と治療3か月後のリンパ球数が600/mm3未満がPJP発症リスクという小規模な後ろ向き研究もあります(PMID=8546533)。

 

リンパ球のサブセットに関してはAIDS患者ほど有用ではないようです。
 

間質性肺疾患

SLEと皮膚筋炎・多発筋炎患者では総リンパ球数に加えて、間質性肺病変がPJP発症予測因子になるという小規模な後ろ向き研究があります(PMID=8823690)。

 

関節リウマチではメトトレキサート療法に加えて、65歳以上肺疾患がリスク因子として報告されています(PMID=28925305)。

 

また別の報告でも高齢に加えて、肺の構造異常がある場合にPJP発症リスクが高まる事が報告されています(PMID=23212592)。

 

驚くべきことに、上記の2つの報告はいずれも日本からの報告であり、RAでは基本的にPJP発症リスクは高くないと考えられますが、日本では報告が目立ちます。

 

結局PCP防をどうするか

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筆者らは上術の結果をもとに独自に上記の様な推奨を出しています。
 

SLEでは PJPのリスクは高くない上、スルファメトキサゾール-トリメトプリム(ST)の副作用が高率である事が知られています。2016年の報告では抗SSA抗体が陽性の患者では副作用の発生率が高い事も知られています(PMID=26587755)。

 

MMFがPJP発症予防効果があると言われているので、もしかするとそれほど予防しなくても良いかもしれませんが、起こったときのアウトカムはあまり良いものではないので、やはり予防ができるのであればした方が良いですかね。

 

【参考文献】

Amine Ghembaza, et al. Chest. 2020 Dec; 158 (6): 2323-2332. "Risk Factors and Prevention of Pneumocystis jirovecii Pneumonia in Patients With Autoimmune and Inflammatory Diseases" PMID=32502592

SLEの新しい診断ツール~SLEリスク確率指数(SLERPI)とは~

最近、SLEらしさがスコアリングで分かる指標が発表されました。

 

802人のSLE患者コホートから、例によって機械学習によってSLEに関連の強く因子に抽出し、重み付けをしてモデルを作成しています。

 

以下にお示しします。

 

 

SLE関連因子の抽出

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これが面白いなと思いました。項目自体はACR/EULAR2019と変わりませんが、

 

同じ血球減少症でも白血球減少よりも血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血がよりSLEらしいという事が分かります。血液内科の先生方、仲良くしてください。

 

また皮疹がACR/EULAR2019同様かなり重要視されていますが、中でも頬部紅斑斑状丘疹様紅斑が重要である事が分かります。皮膚科の先生方、仲良くしてください。

 

これらの項目から重み付けを考慮し、以下のSLERPIが作成されました。

 

SLERPI

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※重要な事はSLEの臨床的疑いがある患者に適応する事

※薬剤性、感染症、悪性腫瘍、その他の疾患は除外する事

※7点以上で感度94.2%特異度94.4%正確率94.2%

 

既存の分類基準との比較
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既存の分類基準と比較しても高い感度, 特異度, 正確率を示しています。

 

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 さらにSLEの罹患期間に関わらず、高い感度を有している事が分かります。

 

検証コホートでの感度, 特異度, 正確率

SLE患者512人、対照群143人のコホートで検証が行われました。

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ここでも高い感度と特異度、そして正確率を示しました。 

 

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 注目すべきは、SLEの様々なサブグループでも高い感度を示しているという事です。

 

最後に

こういうモデルが出るたびに思う事は『当てはめ診療をしない』という事です。

分類基準のスコアは『スタンプラリー』ではありません。

ただし、点数が高い項目に注目すると『SLEらしさ』がどんなものか見えてくるかと思います。

 

 

【参考文献】

Christina Adamichou, et al. Ann Rheum Dis. 2021 Feb 10 ;annrheumdis-2020-219069. "Lupus or not? SLE Risk Probability Index (SLERPI): a simple, clinician-friendly machine learning-based model to assist the diagnosis of systemic lupus erythematosus" PMID=33568388

あなたの診断したそのPMR…本当にPMR?~有病率から再考する~

PMRの有病率ってどのくらいか分かりますか?

 

『日本は超高齢化社会だから、多いに決まっている!』と言う方もいるかもしれません。

 

とある病院では、たった2か月のうちにPMR、RS3PEを5人も診断された先生もいるとお聞きするぐらいです。

 

しかし、本当にそんなに多いのでしょうか?

 

本日は、PMRの本当の有病率は実際にどうなのか、文献的に検討してみたいと思います。

 

 

世界の有病率

英国の報告によると、2013年時点で55歳以上の方のPMR有病率は0.91~1.53%です(1)。

 

一方、米国の報告では、2015年時点で50歳以上の方のPMR有病率は0.7%でした(2)。

 

結構有病率のばらつきがありますが、これはその地域の高齢化率なども関係してくるのかもしれません。

 

日本の有病率

一方、日本の有病率に関する報告はほとんどなく、唯一あったものは、2012年に旭川医大の総合診療部で実施された調査のみです(3)。

 

これによると、6年間で外来を受診した6868人の患者のうち、PMRと診断されたのは10名だったそうです。

 

単純に計算するとPMRの割合は0.15%になります。

 

ただし、PMRは基本的には50歳以上で生じる疾患であるので、受診患者さんの年齢を50歳以上で区切ると、患者さんは3347人になり、そのうちの10人ですので、割合は0.3%に上昇します。

 

この“割合”は特定の病院の特定の外来を受診した患者のうちのPMR患者数の比であって、ランダムに抽出された旭川の一般人口のうちのPMR患者の数を示したものではないため、素直に『有病率』とするのには抵抗があります。

 

しかし、仮に一般人口を分母とした場合、このパーセントはおそらくさらに下がるのではないでしょうか。

 

他の疾患の有病率

PMRの有病率が他の疾患と比べてどうかを検討してみます。

まずはリウマチ膠原病疾患で最も有病率が高いと言われている関節リウマチ。

 

関節リウマチ

日本人の関節リウマチの最新の有病率は2020年に報告されています(4)。

 

これによると16歳以上の関節リウマチの有病率は0.75%になります。しかし、これでは50歳未満の患者の割合も含まれてしまうので、単純には比較出来ません。

 

そこで提供されているSupplement dataを見てみました。

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太文字の部分を見てみると、男性の50歳以上の補正人口は26745人でその内関節リウマチは179人になります。一方女性は補正人口31455人中561人となりました。

 

これより、男女の関節リウマチの有病率はそれぞれ0.67%1.78%でした。

 

全体では50歳以上で関節リウマチの有病率は1.27%となり、これは先のPMRの"有病率"の4倍にあたります。

 

痛風

2014年の日本大学からの報告では、平均年齢78.3±10.7歳(52~103歳)の膝608検体を調べると、79検体でピロリン酸結晶が沈着していたそうです(PMID=24814686)。

 

こちらも正確な有病率とは言えませんが、割合は13%になり、PMRよりも圧倒的にCommonな疾患である事が分かります。

 

RS3PE

先の旭川医大の報告では、RS3PEは50歳以上の外来患者3347人中3人しかいなかったそうです。単純に計算するとRS3PEの外来患者での割合は0.09%となり、PMRよりも圧倒的に少ない事が分かります。

 

結論

 

日本では疫学的なデータが圧倒的に足りません。もちろん今回ご紹介した単施設のデータを持ってPMRの有病率を語る事は到底出来ませんが、PMRの有病率が関節リウマチや偽痛風のそれを超える事は可能性が低いと考えられます。

 

『PMR!』だと思ったら、今一度、立ち止まって見てください。

 

自分の診断したPMRの数は関節リウマチの数や偽痛風の数よりも多くなっていないか、を常に自分に問いかけてみましょう。

 

RS3PEもそうですね。

 

【参考文献】

(1) Max Yates, et al. BMC Musculoskelet Disord. 2016 Jul 15;17:285. "The prevalence of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica in a UK primary care population" PMID=27421253

(2) Cynthia S Crowson, et al. Semin Arthritis Rheum. 2017 Oct; 47 (2): 253-256. "Contemporary prevalence estimates for giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica, 2015" PMID=28551169

(3) Toshikatsu Okumura, et al. Rheumatol Int. 2012 Jun; 32 (6): 1695-9. "The rate of polymyalgia rheumatica (PMR) and remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE) syndrome in a clinic where primary care physicians are working in Japan" PMID=21431946

(4) Masayo Kojima, et al. Mod Rheumatol. 2020 Nov; 30 (6): 941-947. "Epidemiological characteristics of rheumatoid arthritis in Japan: Prevalence estimates using a nationwide population-based questionnaire survey" PMID=31625435

(5) K Ryu, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2014 Jul; 22 (7): 975-9. "The prevalence of and factors related to calcium pyrophosphate dihydrate crystal deposition in the knee joint" PMID=24814686

MTXはむしろRAの間質性肺炎予防に有効

関節リウマチ(RA)を含めて、リウマチ膠原病疾患はしばしば間質性肺疾患(ILD)を合併します。

一方で今までそれらに使用されるメトトレキサート(MTX)も間質性肺疾患を起こす可能性があると懸念されてきました。

 

ゆえに、間質性肺炎が少しでもある関節リウマチ患者ではMTXの使用は避けられてきました。

 

2017年の小規模後ろ向きコホート研究ではMTXを使用していた方がILDによる死亡率が低くなるという結果が発表されました(PMID=28585060)。

 

この研究はコホートの規模が小さい事から、当時はほとんど無視をされておりましたが、そこから昨年にかけて大規模な後ろ向きコホート研究や前向きコホート研究がいくつも報告され、揃って『MTXの使用はRA-ILDに関連しない』ばかりではなく、むしろ『MTXがRA-ILDの発症を遅らせる』可能性すら出て来ました。

 

RAのILDは基本的には炎症がコントロールされていない事によるものと考えられ、免疫抑制効果のあるMTXはむしろ良い適応という訳です。

 

以下に2020年に報告された代表的なコホート研究の内訳をまとめました。

 

これから大きなパラダイムシフトが起こる予感がします。

 

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注意点

●これらのコホート研究では呼吸器疾患がある患者は最初から除外されているため、あくまで『もともと肺疾患がないRA患者さんでMTXを使用してもILDの発症は増えず、むしろリスクが減る』という事は言えますが、既にILDがあるRA患者さんの肺炎をMTXが治療できるという訳ではありません。というかこれはまだ分かりません。

●個人的な経験では、活動性のあるRA患者さんでILDも合併している場合で、急性期はMTXではなく、他の治療薬でRAをコントロールし、落ち着いた時にMTXを開始してもILDが悪化しない事はしばしば経験しています。

→MTXを用いないのは、MTXが間質性肺炎を悪化させるためというよりは(これは上記のコホート研究から否定的)、MTXに急性期の間質性肺炎を治療する力がないと考えられるためです。もちろん今後RA-ILDにMTXを使うという臨床試験が出てこないとは限りません。

 

【参考文献】

●Athol U Wells, Nat Rev Rheumatol. 2021 Feb; 17 (2): 79-80. "New insights into the treatment of CTD-ILD" PMID=33408337

●A Robles-Pérez, et al. Sci Rep. 2020 Sep 24; 10 (1): 15640. ”A prospective study of lung disease in a cohort of early rheumatoid arthritis patients” PMID=32973236

●Else Helene Ibfelt, et al. Rheumatology (Oxford). 2021 Jan 5; 60 (1): 346-352. "Methotrexate and risk of interstitial lung disease and respiratory failure in rheumatoid arthritis: a nationwide population-based study" PMID=32780828

●Luling Li, et al. Clin Rheumatol. 2020 May; 39 (5): 1457-1470. "A retrospective study on the predictive implications of clinical characteristics and therapeutic management in patients with rheumatoid arthritis-associated interstitial lung disease" PMID=31858341

身体所見でPMRらしさが分かるか?

リウマチ性多発筋痛症(PMR)と言えば、『両上肢挙上困難』を思い浮かべる方は多いと思います。

 

『両上肢挙上困難+CRPなどの炎症マーカー上昇=PMR』という方程式もしばしばカルテで見られます。

 

しかし本当にそれで良いのでしょうか?身体所見でPMRらしさが分かるのでしょうか?

 

本日は解剖学的視点から、PMRの病変の部位と、身体所見の着眼点、限界点などについて迫って行きたいと思います。今回は方にフォーカスを当てています。

 

 

肩関節周囲の解剖

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左図は右肩を前方から見て、三角筋前部と中部を取り除いた図です。

肩関節には肩峰下滑液包(Subacromial Bursa)三角筋下滑液包(Subdeltoid Bursa)という大きな滑液包が2つあります。

 

滑液包は上肢を外転する際に、上腕骨頭と肩峰が摩耗する事を防ぐ役割があります。

 

この2つの滑液包は交通しているため、最近ではこれらをいちいち区別せずに頭文字をとって『SASD』と一括りにしています。

 

普段は上記の様にはぷっくりとは見えず、関節エコーでもほとんど薄い一層にしか見えないのですが、滑液包炎がある場合は、ここが目に見えて腫脹して来ます。

 

次にもう少し筋肉を取り除いた図をお示しします。

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そうすると関節包靭帯上・中・下関節上腕靭帯などから成る関節包が見えてきます。

これらの靭帯を取り除くと、ようやく上腕骨頭と肩甲骨の関節窩の間の関節唇(軟骨)が見えてきます。

 

ここで重要なのは、上腕二頭筋長頭腱が関節包内を走行するという事です。したがって上腕二頭筋長頭腱の腱鞘は関節包と連続すると言っても過言ではありません。

 

次に、右図は右肩関節を外側から見た図を示します。

肩関節の大きな筋肉と言えば、筋肉注射の部位でもある三角筋ですが、三角筋は上腕骨の三角筋粗面という一部分にしか付着していません。

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肩甲骨の関節窩よりもはるかに上腕骨頭の方が大きいため、肩関節はぐらついて仕方ありません。それを補うためにローテーターカフと呼ばれる4つの筋肉が関節の安定性を保っています。

 

それが以下の4つの筋肉です。

棘上筋 ②棘下筋 ③肩甲下筋 ④小円筋

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上図は右肩関節を外側から見た図です。

 

これを見ると、4つの筋肉は上腕骨を様々な角度から包むように付着している事が分かりますね。

 

次にこれら4つの筋肉を含めた肩関節周囲の筋肉の作用を示します。

 

肩関節周囲の筋肉の作用

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※括弧内は補助的は役割

 

表だけでは分かりづらいかもしれませんので、特にローテーターカフを構成する筋肉の作用に着目した図を以下に示します。

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肩関節の動きとは関係ないですが、上腕二頭筋は以下のように肘の屈曲に作用します。

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PMRの障害部位

身体所見に移る前に、まずはPMRで障害がある部位について考えましょう。

PMRでは古くから肩関節の周囲の滑液包炎が有名です(PMID=9214249/11361188)。

加えて、上腕二頭筋長頭腱周囲の腱鞘滑膜炎も良く聞きますよね。

PMRの画像検査の研究では、ローテーターカフの炎症も認められると言います。

その中でも棘上筋腱(PMID=25698371)と肩甲下筋腱(PMID=28293635)周囲の炎症所見の報告があります。

 

PMRの身体所見には何があるか

PMRの障害部位を知った上で、それらの身体所見をどのように取るかを考えたいと思います。重要な事は、炎症が起こっている部位にストレスをかけて痛みが出るか意識するという事です。

 

ストレスのかけ方は、滑液包炎では圧迫させるような動き筋肉や腱ではそれらの収縮を保持させる、またはそれらを他動的に伸展させる、が理解しやすいと思います。

 

肩峰下滑液包炎の身体所見

滑液包炎のため滑液包が腫脹すると、上肢を外転していったときに肩峰と上腕骨頭(棘上筋)で滑液包が挟まれて、痛みが出ます。これは自動時痛です。

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この角度が重要で、圧迫で痛みが生じるのは60~120度の間になります。

ちなみに棘上筋腱の障害でも同じ領域で痛みが生じます。

『Painful arc test』という名前がついていますが、正直どの組織にストレスを与えているのかを理解していれば、名前は覚える必要はありません。

60度未満で痛みが出る場合は違う疾患があると考えても良いでしょう。

 

また、上肢を屈曲しただけでは、肩甲骨も動いてしまい、滑液包にストレスが十分かからないため、痛みは一般的には起こりません。そして患者さんは痛みのために逃避行動を取りがちであることにも留意が必要です。

 

したがって、普通に『両腕を挙げてください』と言うと、多くの方は両上肢を屈曲してしまう可能性があります。この時、意外と出来ていてもPMRは除外出来ません

 

次に、滑液包を他動的に圧迫する方法をご紹介します。具体的には2つの方法があります。

Neerテストは患者さんが自動的に上肢を屈曲するのとは異なり、肩甲骨を固定しています。こうする事で屈曲していったときに肩峰と上腕骨で肩峰下滑液包が圧迫されます。

 

上腕二頭筋長頭腱腱鞘滑膜炎炎の身体所見

炎症がひどい場合は肘関節の屈曲だけでも痛みは生じます。

 

他動的に痛みを生じさせるには、以下があります。

上腕二頭筋長頭腱を意識すると、この徒手テストが何をしているのか理解できるかと思います。 

 

棘上筋腱炎の身体所見

自動時痛は先の『Painful arc test』でも誘発されますが、その他にも以下のような誘発テストがあります。

Empty can testは缶を空にするイメージで前腕を回内させますが、回内させないで水平屈曲30度で肩関節を外転させるFull can testというのもあります。

棘上筋腱にストレスがかかっているのがイメージ出来ますでしょうか。

 

肩甲下筋腱炎の身体所見

肩甲下筋腱炎の身体所見は以下の通りです。

Lift off test(別名: Internal rotation lag test)は肩甲下筋を伸展させるような動きですね。

Belly press testは肩甲下筋の作用である内旋をさせたときに痛みが出るかを見たものです。これがかなり有効だという論文もあります(PMID=22773322)。

 

なお、徒手テストの画像は『Reha of Passion』さんから許可を頂き、掲載しました。

作業療法士のYudaiさんがまとめているブログで、かなり勉強になります!!

 

ローテーターカフ障害に有用な身体所見

PMRではローテーターカフの障害が起こると言い、代表的な身体所見を上述しましたが、実はまだまだ沢山の身体所見があるのです。

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上記は2013年のJAMAからの『ローテーターカフ障害の身体所見』についてのまとめですが、同論文で有用な身体所見について以下の通り示しています(PMID=23982370)。

 

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これによると、黄色マーカーで示した5つが比較的特異度が高い身体所見になります。

 

この中でPainful arc testは肩峰下滑液包炎や棘上筋腱炎の身体所見でしたね。

Drop arm testは棘上筋腱炎、Internal rotation lag testは肩甲下筋腱炎の身体所見です。

 

残るのはExternal rotation lag testとExternal rotation resistance testですが、これらはPMRとはあまり関係のない棘下筋の身体所見になります。

 

External rotation lag testとは以下の通りですが、炎症のために棘上筋と棘下筋の収縮を保持できないという原理です。

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External rotation resistance testは以下の通りです。これは棘下筋を収縮させるような動きです。

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身体所見でPMRと診断できるか?

以上、色々な徒手テストがありますが、それぞれの筋肉の作用を知っていれば、そんなに難しいものではありませんね。

 

ここからは本題に入ります。

これらの身体所見で本当にPMRが診断できるのでしょうか…

 

勘の良い方はお分かりかもしれませんが、これらの身体所見はあくまでも肩峰下滑液包炎ローテーターカフ障害の身体所見です。

 

肩峰下滑液包炎やローテーターカフ障害は、当然炎症性や非炎症性を含めてPMR以外の疾患でも生じるので、これらの所見はPMRに全然特異度という訳ではありません!!

 

上腕二頭筋長頭腱の腱鞘滑膜炎について言い忘れましたが、これは上述した通り、上腕二頭筋長頭腱腱鞘は肩関節包と連続するため、肩関節炎を反映しています。

つまりは大関節型の関節リウマチ結晶性関節炎でも普通に認められる所見なのです。

 

色々と書きましたが、『PMRの身体所見はPMRに特異的ではない』という事を最後にお伝えするのは本当に心苦しいです。

 

しかし、『PMRを疑う時には、やはり関節リウマチや結晶性関節炎を考えなければいけないな』と改めて考えて頂けるきっかけになれば幸いです。

 

最後に"自論"ですが、PMRの炎症は肩関節の上部(滑液包、棘上筋)前部(肩甲下筋)に多く、後部(小円筋、棘下筋)の炎症はあまり言われていません。また肩関節炎自体はあったとしても軽症であると言われています。

 

以下の解剖図(右上腕環状断を尾側より見ている図)を見ると、上腕二頭筋長頭腱は肩甲下筋やその他の靭帯に覆われているようにも思います。上腕二頭筋長頭腱周囲の腱鞘滑膜炎もそれらの炎症が波及したものなのかもしれません。

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Subscapularis:肩甲下筋、LBT上腕二頭筋長頭腱、SGHL:上関節上腕靭帯、LCHL:外側烏口上腕靭帯、MCHL::中側烏口上腕靭帯

 

なかなか難しい特異性にかける身体所見ですが、敢えてPMRらしさを上げるとするならば、以下の①②がある事を確認すると良いかもしれません。ついでに画像検査などで③も確認するとよりPMRらしさが上がるかもしれません。

 

①肩関節上部(滑液包、棘上筋)・前部(肩甲下筋)の炎症が目立つ

②後部(小円筋、棘下筋)の炎症が目立たない

③肩関節炎もそれほど強くない

 

まとめ

●PMRでは肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭腱の腱鞘滑膜炎、棘上筋腱炎、肩甲下筋腱炎が起こる。

●それぞれの障害部位の身体所見は以下の通り。

-肩峰下滑液包炎:Painful arc test>>Hawkins test、Neer test

-上腕二頭筋長頭腱の腱鞘滑膜炎:Yergason test、Speed test

-棘上筋腱炎:Painful arc test、Drop arm test>>Empty can test(Full can test)

-肩甲下筋腱炎:Internal rotation lag test、Belly press test

●PMRの身体所見は滑液包炎や腱炎を反映したものであるが、これらの所見はPMRに特異的という訳ではない。

上腕二頭筋長頭腱の腱鞘は関節包と連続する。したがって関節炎を反映しているため、PMRに特異的という訳ではない。

●PMRの炎症は肩関節の上部や前部に多いが、後部はなく、肩関節炎もあったとしても軽症が多い。

●以下の場合は少しPMRらしさが上がるかもしれない(自論)。

①肩関節上部(滑液包、棘上筋)・前部(肩甲下筋)の炎症が目立つ。

②後部(小円筋、棘下筋)の炎症が目立たない。

③肩関節炎がそれほど強くない。

 

【参考文献】

●Job Hermans, et al. JAMA. 2013 Aug 28; 310 (8): 837-47. "Does this patient with shoulder pain have rotator cuff disease?: The Rational Clinical Examination systematic review" PMID=23982370

→ローテーターカフ障害の身体所見に関するReview

●Giorgio Tamborrini, et al. Ultrasound Int Open. 2017 Jun;3 (3): E107-E116. "The Rotator Interval - A Link Between Anatomy and Ultrasound" PMID=28845477

→肩関節前部の解剖とエコー所見についての論文

●画像『Thanks to @visiblebody

リウマチ膠原病疾患患者におけるCOVID-19関連死亡リスク

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が大流行して1年が過ぎました。

 

リウマチ膠原病疾患では、根底に自己免疫の異常があるため、当初感染によって起こる炎症が強く出るのではないか、はたまた免疫抑制薬やステロイドを使用しているため、感染症が重症化するのではないか、など様々な憶測が飛び交いました。

 

特に『死亡』という転機については、疾患の種類や治療の多様のため、交絡因子が多く、正確な情報はありませんでした。

 

本日は『死亡』という最大の転帰に関連するリスク因子に関して多国で集計された結果をご紹介したいと思います。

 

 

概要

これはCOVID-19グローバルリウマチアライアンス(C19-GRA)という2020年3月24日より開始されたレジストリーです。

 

主な参加国はフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国、米国などです。

 

患者を炎症性関節炎(IJD)、結合組織病/血管炎、それ以外の結合組織病などに分けてサブグループ解析もされています。言葉の定義は以下の通りです。

f:id:tuneYoshida:20210202163016p:plain

 

早速結果です。

 

患者の特徴

●COVID-19が①検査などで確認された、または②症状のみで推定されたリウマチ膠原病患者3729人を対象としている。

 

●平均年齢57(±15.7)歳で、ほとんどの患者は65歳以下(2586/3729、69.3%)、および女性(2534/3729、68%)だった。

 

●多かったリウマチ膠原病の内訳は以下の通り。

-関節リウマチ:37.4%(1394/ 3729)

-SLE以外の結合組織病:14.3%(533/3729)

-SLE:10.5%(391/3729)

-乾癬性関節炎:11.8%(440/3729)

-その他の脊椎関節炎:11.6%(431/3729)

 

●死亡は10.5%(390/3729)で発生し、患者の68.7%(268/390)は65歳以上であった。

 

併存症

●全患者のうち69.8%(2582/3700)では少なくとも1つの併存疾患があり、20.5%(760/3700)には3つ以上の併存疾患があった。

 

●最も頻度が高かったのは以下の通り。

-高血圧:35.3%(1307/3700)

-慢性肺疾患:19.4%(719/3700)

-肥満(BMI≥30):16.1%(597/3700)

-糖尿病:13.6%(505/3700)

-その他の心血管疾患:11.9%(442/3700)

-慢性腎臓病:7.0%(258/3700)。

 

●死亡した患者の中で、併存疾患のある患者の割合は高く、42.7%(165/386)が3つ以上の併存疾患を持っていた。内訳は以下。

-高血圧症:54.9%(212/386)

-慢性肺疾患:35.8%(138/386)

-糖尿病:24.6%(95/386)

-その他の心血管疾患:32.1%(124/386)

-慢性腎臓病:19.9%(77/386)

 

治療

●COVID-19の診断時に40.6%(1514/3729)の患者はcsDMARD、免疫抑制薬、またはこれらの組み合わせの治療のみを受けていた。

●35.7%(1331/3729)が生物学的製剤(bDMARDs)を受け、3/9%(147/3729)がJAK阻害薬またはアプレミラスト(tsDMARDs)を受けていた。

●19.8%(739/3729)が上記のDMARDsや免疫抑制薬による治療を受けておらず(グルココルチコイド治療を除く)、この割合は死亡した患者で高かった(124/390, 31.8%)。

●DMARDsや免疫抑制薬による治療を受けていない患者のうち、39.8%(290/729)がグルココルチコイド治療を受けており、9.8%(70/712)がPSL10mg>日投与されていた。

 

死亡リスク因子の解析

f:id:tuneYoshida:20210202165643p:plain

 

f:id:tuneYoshida:20210203005303p:plain

●多変量解析では66~75歳の患者は65歳以下の患者よりも死亡リスクが高かった(OR3.00、95%CI 2.13~4.22)。この関連性は75歳以上でさらに顕著でした(OR6.18、4.47~8.53 vs 65歳)。

男性も死亡率の上昇と関連していた(OR1.46、95%CI 1.11~1.91)

現在または以前の喫煙関節リウマチ患者でのみ死亡率の上昇と関連(OR1.45、95%CI 1.02~2.04)

●併存疾患では慢性肺疾患(OR1.68、95%CI 1.26~2.25)高血圧症と心血管疾患の組み合わせ(OR1.89、95%CI 1.31~2.73)が死亡率の上昇と関連していたが、高血圧症や心血管疾患単独では死亡率の有意な増加とは関連せず。

慢性腎臓病結合組織病または血管炎の患者では死亡率の上昇と関連(OR2.30、95%CI 1.37~3.88)。

●治療ではDMARDsを受けていない患者は全てのサブグループでメトトレキサート単剤療法と比較して死亡率の上昇と関連(OR2.11、95%CI 1.48~3.01)。

●メトトレキサート単剤治療と比較してリツキシマブは全てのサブグループで死亡率の上昇と関連(OR4.04、95%2.32~7.03)。

●またスルファサラジンも死亡率の上昇と関連していた(OR3.6、95%CI 1.66~7.78)。

免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミコフェノール酸またはタクロリムス)は結合組織病および血管炎のサブグループで死亡率の上昇と関連していた(OR2.44、95%CI1.06~5.65)。

高用量のグルココルチコイド治療(PSL>10mg/日)結合組織病および血管炎のサブグループでは死亡率の上昇と関連していた(OR1.69、95%CI1.18~2.41)。

●COVID-19診断時に、原疾患のより高い疾患活動性は全てのサブグループで死亡率の上昇と関連していた(OR1.87、95%CI1.27~2.77)。

 

まとめ

●リウマチ膠原病患者さんでCOVID-19関連死亡のリスク因子となるのは以下の通り。

-高齢:全てのサブグループでリスク上昇

-男性:Totalではリスク上昇(サブグループでは有意なリスク上昇なし)

-高血圧と心血管疾患の組み合わせ:全てのサブグループでリスク上昇

-慢性肺疾患:関節リウマチを除く全てのサブグループでリスク上昇

-疾患活動性が高い患者:全てのサブグループでリスク上昇

-DMARDs治療を受けていない患者:全てのサブグループでリスク上昇

-スルファサラジン治療:炎症性関節炎・関節リウマチのサブグループでリスク上昇

-免疫抑制薬の使用:結合組織病・血管炎のサブグループでリスク上昇

-リツキシマブ治療:全てのサブグループでリスク上昇

-PSL10mg以上のステロイド治療:結合組織病・血管炎のサブグループでリスク上昇

 

My comments

●日本が含まれておらず、罹患率や死亡率が極端に高い欧米の国を対象とした研究ですので、あくまでも参考程度のデータです。

●死亡率10%はやや高いですね。しかしこの研究では死亡率を正確に推定するために設計されておらず、報告バイアスもありますので、この数値は参考値にもなりません

リウマチ・膠原病疾患の種類は死亡リスクとは関係がないようです。

●高齢や慢性肺疾患などは死亡率の上昇と関連する事は理解できますが、リツキシマブ治療が有意に死亡リスクに関連していたのは意外でした。筆者らはB細胞を枯渇させるために、SARS-CoV-2に対する抗体産生が阻害されるのではないかと推察しています。あと、リツキシマブ治療開始後にどのくらいでSARS-CoV-2に感染したのか示されておらず、感染急性期にステロイドパルスが重なったためとも考えられます。

●免疫抑制作用がほとんどないはずのスルファサラジンが死亡率の上昇と関連していました。筆者らの追加解析では、スルファサラジン使用患者では喫煙者が多く、スルファサラジンの死亡率の上昇は喫煙者に限られるという結果が得られました。またスルファサラジンが比較的安全に使用できる観点から、肺疾患、喫煙、再発性胸部感染症でなどのリスクが高い患者で使用されていた可能性もあります。

DMARDs無治療疾患活動性が高い患者はむしろ死亡率の増加と関連しており、PSL10mg以上の使用も死亡率の上昇と関連しています。ステロイドを安易に増やすよりもしっかりDMARDsを継続する事が重要かと思います。

●一方で免疫抑制薬の使用に関しては死亡率の上昇と関連していますが、結合組織病・血管炎のサブグループに限定されております。本当は個々の免疫抑制薬でデータを出して頂きたかったですが、Supplement dataを見ると、数が足りず、おそらくは統計解析ができなかったのだと思います。免疫抑制薬は感染時には一時中止する事は国内外のリウマチ学会でも推奨されています。

 

改訂

#1. 2021.02.02 『My comments』免疫抑制薬の死亡リスクについて追記

 

【参考文献】

Anja Strangfeld, et al. Ann Rheum Dis. 2021 Jan 27; annrheumdis-2020-219498. "Factors associated with COVID-19-related death in people with rheumatic diseases: results from the COVID-19 Global Rheumatology Alliance physician-reported registry" PMID=33504483