リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

あなたの診断したそのPMR…本当にPMR?~有病率から再考する~

PMRの有病率ってどのくらいか分かりますか?

 

『日本は超高齢化社会だから、多いに決まっている!』と言う方もいるかもしれません。

 

とある病院では、たった2か月のうちにPMR、RS3PEを5人も診断された先生もいるとお聞きするぐらいです。

 

しかし、本当にそんなに多いのでしょうか?

 

本日は、PMRの本当の有病率は実際にどうなのか、文献的に検討してみたいと思います。

 

 

世界の有病率

英国の報告によると、2013年時点で55歳以上の方のPMR有病率は0.91~1.53%です(1)。

 

一方、米国の報告では、2015年時点で50歳以上の方のPMR有病率は0.7%でした(2)。

 

結構有病率のばらつきがありますが、これはその地域の高齢化率なども関係してくるのかもしれません。

 

日本の有病率

一方、日本の有病率に関する報告はほとんどなく、唯一あったものは、2012年に旭川医大の総合診療部で実施された調査のみです(3)。

 

これによると、6年間で外来を受診した6868人の患者のうち、PMRと診断されたのは10名だったそうです。

 

単純に計算するとPMRの割合は0.15%になります。

 

ただし、PMRは基本的には50歳以上で生じる疾患であるので、受診患者さんの年齢を50歳以上で区切ると、患者さんは3347人になり、そのうちの10人ですので、割合は0.3%に上昇します。

 

この“割合”は特定の病院の特定の外来を受診した患者のうちのPMR患者数の比であって、ランダムに抽出された旭川の一般人口のうちのPMR患者の数を示したものではないため、素直に『有病率』とするのには抵抗があります。

 

しかし、仮に一般人口を分母とした場合、このパーセントはおそらくさらに下がるのではないでしょうか。

 

他の疾患の有病率

PMRの有病率が他の疾患と比べてどうかを検討してみます。

まずはリウマチ膠原病疾患で最も有病率が高いと言われている関節リウマチ。

 

関節リウマチ

日本人の関節リウマチの最新の有病率は2020年に報告されています(4)。

 

これによると16歳以上の関節リウマチの有病率は0.75%になります。しかし、これでは50歳未満の患者の割合も含まれてしまうので、単純には比較出来ません。

 

そこで提供されているSupplement dataを見てみました。

f:id:tuneYoshida:20210212153630p:plain

太文字の部分を見てみると、男性の50歳以上の補正人口は26745人でその内関節リウマチは179人になります。一方女性は補正人口31455人中561人となりました。

 

これより、男女の関節リウマチの有病率はそれぞれ0.67%1.78%でした。

 

全体では50歳以上で関節リウマチの有病率は1.27%となり、これは先のPMRの"有病率"の4倍にあたります。

 

痛風

2014年の日本大学からの報告では、平均年齢78.3±10.7歳(52~103歳)の膝608検体を調べると、79検体でピロリン酸結晶が沈着していたそうです(PMID=24814686)。

 

こちらも正確な有病率とは言えませんが、割合は13%になり、PMRよりも圧倒的にCommonな疾患である事が分かります。

 

RS3PE

先の旭川医大の報告では、RS3PEは50歳以上の外来患者3347人中3人しかいなかったそうです。単純に計算するとRS3PEの外来患者での割合は0.09%となり、PMRよりも圧倒的に少ない事が分かります。

 

結論

 

日本では疫学的なデータが圧倒的に足りません。もちろん今回ご紹介した単施設のデータを持ってPMRの有病率を語る事は到底出来ませんが、PMRの有病率が関節リウマチや偽痛風のそれを超える事は可能性が低いと考えられます。

 

『PMR!』だと思ったら、今一度、立ち止まって見てください。

 

自分の診断したPMRの数は関節リウマチの数や偽痛風の数よりも多くなっていないか、を常に自分に問いかけてみましょう。

 

RS3PEもそうですね。

 

【参考文献】

(1) Max Yates, et al. BMC Musculoskelet Disord. 2016 Jul 15;17:285. "The prevalence of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica in a UK primary care population" PMID=27421253

(2) Cynthia S Crowson, et al. Semin Arthritis Rheum. 2017 Oct; 47 (2): 253-256. "Contemporary prevalence estimates for giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica, 2015" PMID=28551169

(3) Toshikatsu Okumura, et al. Rheumatol Int. 2012 Jun; 32 (6): 1695-9. "The rate of polymyalgia rheumatica (PMR) and remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE) syndrome in a clinic where primary care physicians are working in Japan" PMID=21431946

(4) Masayo Kojima, et al. Mod Rheumatol. 2020 Nov; 30 (6): 941-947. "Epidemiological characteristics of rheumatoid arthritis in Japan: Prevalence estimates using a nationwide population-based questionnaire survey" PMID=31625435

(5) K Ryu, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2014 Jul; 22 (7): 975-9. "The prevalence of and factors related to calcium pyrophosphate dihydrate crystal deposition in the knee joint" PMID=24814686