リウマチ膠原病疾患患者におけるCOVID-19関連死亡リスク
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が大流行して1年が過ぎました。
リウマチ膠原病疾患では、根底に自己免疫の異常があるため、当初感染によって起こる炎症が強く出るのではないか、はたまた免疫抑制薬やステロイドを使用しているため、感染症が重症化するのではないか、など様々な憶測が飛び交いました。
特に『死亡』という転機については、疾患の種類や治療の多様のため、交絡因子が多く、正確な情報はありませんでした。
本日は『死亡』という最大の転帰に関連するリスク因子に関して多国で集計された結果をご紹介したいと思います。
概要
これはCOVID-19グローバルリウマチアライアンス(C19-GRA)という2020年3月24日より開始されたレジストリーです。
主な参加国はフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国、米国などです。
患者を炎症性関節炎(IJD)、結合組織病/血管炎、それ以外の結合組織病などに分けてサブグループ解析もされています。言葉の定義は以下の通りです。
早速結果です。
患者の特徴
●COVID-19が①検査などで確認された、または②症状のみで推定されたリウマチ膠原病患者3729人を対象としている。
●平均年齢57(±15.7)歳で、ほとんどの患者は65歳以下(2586/3729、69.3%)、および女性(2534/3729、68%)だった。
●多かったリウマチ膠原病の内訳は以下の通り。
-関節リウマチ:37.4%(1394/ 3729)
-SLE以外の結合組織病:14.3%(533/3729)
-SLE:10.5%(391/3729)
-乾癬性関節炎:11.8%(440/3729)
-その他の脊椎関節炎:11.6%(431/3729)
●死亡は10.5%(390/3729)で発生し、患者の68.7%(268/390)は65歳以上であった。
併存症
●全患者のうち69.8%(2582/3700)では少なくとも1つの併存疾患があり、20.5%(760/3700)には3つ以上の併存疾患があった。
●最も頻度が高かったのは以下の通り。
-高血圧:35.3%(1307/3700)
-慢性肺疾患:19.4%(719/3700)
-肥満(BMI≥30):16.1%(597/3700)
-糖尿病:13.6%(505/3700)
-その他の心血管疾患:11.9%(442/3700)
-慢性腎臓病:7.0%(258/3700)。
●死亡した患者の中で、併存疾患のある患者の割合は高く、42.7%(165/386)が3つ以上の併存疾患を持っていた。内訳は以下。
-高血圧症:54.9%(212/386)
-慢性肺疾患:35.8%(138/386)
-糖尿病:24.6%(95/386)
-その他の心血管疾患:32.1%(124/386)
-慢性腎臓病:19.9%(77/386)
治療
●COVID-19の診断時に40.6%(1514/3729)の患者はcsDMARD、免疫抑制薬、またはこれらの組み合わせの治療のみを受けていた。
●35.7%(1331/3729)が生物学的製剤(bDMARDs)を受け、3/9%(147/3729)がJAK阻害薬またはアプレミラスト(tsDMARDs)を受けていた。
●19.8%(739/3729)が上記のDMARDsや免疫抑制薬による治療を受けておらず(グルココルチコイド治療を除く)、この割合は死亡した患者で高かった(124/390, 31.8%)。
●DMARDsや免疫抑制薬による治療を受けていない患者のうち、39.8%(290/729)がグルココルチコイド治療を受けており、9.8%(70/712)がPSL10mg>日投与されていた。
死亡リスク因子の解析
●多変量解析では66~75歳の患者は65歳以下の患者よりも死亡リスクが高かった(OR3.00、95%CI 2.13~4.22)。この関連性は75歳以上でさらに顕著でした(OR6.18、4.47~8.53 vs 65歳)。
●男性も死亡率の上昇と関連していた(OR1.46、95%CI 1.11~1.91)
●現在または以前の喫煙は関節リウマチ患者でのみ死亡率の上昇と関連(OR1.45、95%CI 1.02~2.04)。
●併存疾患では慢性肺疾患(OR1.68、95%CI 1.26~2.25)、高血圧症と心血管疾患の組み合わせ(OR1.89、95%CI 1.31~2.73)が死亡率の上昇と関連していたが、高血圧症や心血管疾患単独では死亡率の有意な増加とは関連せず。
●慢性腎臓病は結合組織病または血管炎の患者では死亡率の上昇と関連(OR2.30、95%CI 1.37~3.88)。
●治療ではDMARDsを受けていない患者は全てのサブグループでメトトレキサート単剤療法と比較して死亡率の上昇と関連(OR2.11、95%CI 1.48~3.01)。
●メトトレキサート単剤治療と比較してリツキシマブは全てのサブグループで死亡率の上昇と関連(OR4.04、95%2.32~7.03)。
●またスルファサラジンも死亡率の上昇と関連していた(OR3.6、95%CI 1.66~7.78)。
●免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミコフェノール酸またはタクロリムス)は結合組織病および血管炎のサブグループで死亡率の上昇と関連していた(OR2.44、95%CI1.06~5.65)。
●高用量のグルココルチコイド治療(PSL>10mg/日)は結合組織病および血管炎のサブグループでは死亡率の上昇と関連していた(OR1.69、95%CI1.18~2.41)。
●COVID-19診断時に、原疾患のより高い疾患活動性は全てのサブグループで死亡率の上昇と関連していた(OR1.87、95%CI1.27~2.77)。
まとめ
●リウマチ膠原病患者さんでCOVID-19関連死亡のリスク因子となるのは以下の通り。
-高齢:全てのサブグループでリスク上昇
-男性:Totalではリスク上昇(サブグループでは有意なリスク上昇なし)
-高血圧と心血管疾患の組み合わせ:全てのサブグループでリスク上昇
-慢性肺疾患:関節リウマチを除く全てのサブグループでリスク上昇
-疾患活動性が高い患者:全てのサブグループでリスク上昇
-DMARDs治療を受けていない患者:全てのサブグループでリスク上昇
-スルファサラジン治療:炎症性関節炎・関節リウマチのサブグループでリスク上昇
-免疫抑制薬の使用:結合組織病・血管炎のサブグループでリスク上昇
-リツキシマブ治療:全てのサブグループでリスク上昇
-PSL10mg以上のステロイド治療:結合組織病・血管炎のサブグループでリスク上昇
My comments
●日本が含まれておらず、罹患率や死亡率が極端に高い欧米の国を対象とした研究ですので、あくまでも参考程度のデータです。
●死亡率10%はやや高いですね。しかしこの研究では死亡率を正確に推定するために設計されておらず、報告バイアスもありますので、この数値は参考値にもなりません。
●リウマチ・膠原病疾患の種類は死亡リスクとは関係がないようです。
●高齢や慢性肺疾患などは死亡率の上昇と関連する事は理解できますが、リツキシマブ治療が有意に死亡リスクに関連していたのは意外でした。筆者らはB細胞を枯渇させるために、SARS-CoV-2に対する抗体産生が阻害されるのではないかと推察しています。あと、リツキシマブ治療開始後にどのくらいでSARS-CoV-2に感染したのか示されておらず、感染急性期にステロイドパルスが重なったためとも考えられます。
●免疫抑制作用がほとんどないはずのスルファサラジンが死亡率の上昇と関連していました。筆者らの追加解析では、スルファサラジン使用患者では喫煙者が多く、スルファサラジンの死亡率の上昇は喫煙者に限られるという結果が得られました。またスルファサラジンが比較的安全に使用できる観点から、肺疾患、喫煙、再発性胸部感染症でなどのリスクが高い患者で使用されていた可能性もあります。
●DMARDs無治療や疾患活動性が高い患者はむしろ死亡率の増加と関連しており、PSL10mg以上の使用も死亡率の上昇と関連しています。ステロイドを安易に増やすよりもしっかりDMARDsを継続する事が重要かと思います。
●一方で免疫抑制薬の使用に関しては死亡率の上昇と関連していますが、結合組織病・血管炎のサブグループに限定されております。本当は個々の免疫抑制薬でデータを出して頂きたかったですが、Supplement dataを見ると、数が足りず、おそらくは統計解析ができなかったのだと思います。免疫抑制薬は感染時には一時中止する事は国内外のリウマチ学会でも推奨されています。
改訂
#1. 2021.02.02 『My comments』免疫抑制薬の死亡リスクについて追記
【参考文献】
Anja Strangfeld, et al. Ann Rheum Dis. 2021 Jan 27; annrheumdis-2020-219498. "Factors associated with COVID-19-related death in people with rheumatic diseases: results from the COVID-19 Global Rheumatology Alliance physician-reported registry" PMID=33504483