リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

線維筋痛症~診断基準と分類基準2019~

 線維筋痛症と言えば『圧痛点18か所!!』と一対一対応していませんか?

実はこの項目は1990年に作られた米国リウマチ学会の分類基準の項目の一つなのです。

 

 線維筋痛症の分類基準はその後、様々な検証がされ、改訂されてきました。2019年現在、かなり簡略化された別の基準が作成されました。今回は線維筋痛症の分類基準、そして診断基準とその移り変わり、新しい分類基準についてまとめたいと思います。

 

【ポイント】

●基本は米国リウマチ学会2010年, 2011年の診断基準を用いる。

●整形疾患、精神疾患の併存を疑う場合は、米国リウマチ学会1990年の分類基準も参考にする。

●2019年に別団体から、さらに簡便な診断基準が提唱された。

 

こちらもご覧ください。

 

 まずは話題の1990年の米国リウマチ学会の分類基準(1)

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 この基準の特徴は

 ①線維筋痛症の痛みが一部ではなく、広範囲である事を定めた事

 ②客観的所見として圧痛点を定めた事

 ③痛みが慢性的であると定めた事

 です。世界的には分類基準ではありますが、診断基準として用いられてきた経緯があります。

 

 海外で作られたこの分類ですが、感度、特異度はそれぞれ88.4%81.1%と比較的高値でした(1)。日本人で検証を行った所(2)感度75.9%特異度97.4%と感度が下がるものの、特異度の上昇が見られました。この違いが生じた原因として、海外では対照群としてリウマチ疾患のみでしたが、日本の検証での対照群では心療内科や精神科疾患が多く含まれていたことによるものと考えられております。

 

 この分類基準の有用度は日本人でも86.9%と極めて優れており、それが1990年の分類基準が未だに使用されている理由であると考えられます。

 

 一方、この基準にはいくつかの問題点・注意点があります。

 ①痛みが患者の症候であるにも関わらず、経験と技術を要する圧痛点の評価が重要な項目となっている点

 ②他にも様々な身体症状を併存するにも関わらず、それを加味していない点

 ③圧痛点の数は数えられるものの、経時的な変化を追いにくい点

 ④本基準では他の疾患に合併した二次性線維筋痛症も分類される点

 に注意が必要です。

 

 これら改善すべく、20年ぶりに米国リウマチ学会から線維筋痛症の新しい基準2010年版が作成されました(3)

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 この基準の特徴は

 ①分類基準ではなく、臨床で使用できるよう診断基準とした事

 ②圧痛点を削除した事

 ③疼痛部位だけでなく、併存する症候(疲労感, 認知症状 etc)や身体徴候(めまい、しびれ etc)に点数をつけることで経時的変化が追える事

 ④他の疾患の存在を認めない事

  です。

 

 この基準の感度、特異度は海外での検証(3)ではそれぞれ、88.1%90.9%と高値でしたが、日本人での多施設検証(4)では感度67.7%特異度78.1%精度72.3%すべてにおいてACR1990よりも低い結果となってしまいました。この違いも、海外では対照群として非リウマチ疾患のみ採用しておりますが、日本の検証での対照群ではリウマチ性疾患、精神疾患を含む非リウマチ性疾患が含まれていることによるものと考えられます。

 

 この診断基準にも問題点があります。

 ①既に述べましたが、有用性の検証の対象疾患に非炎症性リウマチ性疾患を用いており、炎症性リウマチ性疾患、心療内科疾患、精神疾患線維筋痛症以外の機能性身体症候群などが用いられていない点

 ②男性症例、小児科対象年齢症例が含まれていない点

 ③身体徴候が煩雑な点

 です。煩雑の割に1990年のACR分類基準よりも精度が低いのであれば使う気になりませんね。

 

 そこでより簡略したものが2011年(5)、さらには2016年の改訂診断基準です。

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 この基準では身体症候が大幅に削除されており、ありかなしかで定められています。

 

 この診断基準の検証の対照群として関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデスなどのリウマチ性疾患のみが用いられており、感度96.6%特異度91.8%精度93%と驚異の数字をたたき出しました。しかし、我が国の検証(4)では感度79.3%特異度76.1%精度74.7%と低下してしまいます。これも我が国の検証では、やはり対照群にリウマチ疾患だけでなく、非リウマチ性疾患、精神疾患が含められているためと考えられます。実際、非リウマチ性疾患や精神疾患を除外すると特異度は80~90%と上昇するようです。

 

 2016年にも基準作成者のWolfeらが診断基準(6)を改訂しております。

 

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  2016年の改訂診断基準では特徴として

 ①全身痛を強調するため、5領域中、4領域以上に疼痛がある事を必須条件付けした点

 ②身体症候それぞれの有無を点数化した点

 ③他疾患の併存は許容している点

 が挙げられます。

 

 特に、今までは疼痛の箇所が7か所以上としておりましたが、この基準ではさらに疼痛部位の分布が4領域以上と全身に及んでいることを強調しております。

 

 この診断基準の検証は(私の検索能力の問題もあるかもしれませんが)、まだ行われていないように思います。

 

 さて、日本では2009年に日本線維筋痛症学会が発足し、線維筋痛症知名度を増やすべく、ガイドラインを出してきました。

 最新の『線維筋痛症診療ガイドライン2017年』の見解では、診断基準は、まずは2010年または2011年の基準を用いて、整形外科疾患や精神疾患が鑑別に挙がる場合1990年基準で確認することを推奨されています(7)。1990年の基準は日本人に適応しても特異度、精度が保たれる点が今でも残っている理由なのでしょう。

 

 話は変わりまして、米国リウマチ学会とは別の、アメリカ食品医薬品局(FDA)やAmerican pain societyからなるグループが2019年に新診断基準を提唱しました(8)。

 

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 この基準は根本理念は米国リウマチ学会の基準と同じで、

 ①痛みが広範であることを強調している点(9領域中6領域以上に痛みあり)

 ②随伴症状として睡眠障害、倦怠感を重視している点

 ③慢性経過を重視している点

 が特徴です。

 

 まだまだ、日本人ではどうか、2016年の診断基準と合わせて検証が待たれます。

 

【参考文献】

(1) Wolfe F, et al. Arthritis Rheum. 1990 Feb; 33 (2): 160-72. "The American College of Rheumatology 1990 Criteria for the Classification of Fibromyalgia. Report of the Multicenter Criteria Committee."

(2) 松本美富士: 線維筋痛症の本邦における認知度及び米国リウマチ学会分類基準(1990)の有用性の検証に関する研究, 厚生労働省アレルギー免疫疾患予防・治療研究持病:関節リウマチ及び線維筋痛症寛解導入を目的とした新規医療薬の導入・開発及び評価に関する包括的研究 平成18年度研究報告書. 2007; p43-45.

(3) Wolfe F, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 May;62(5):600-10. "The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity."

(4) 松本美富士: 厚生労働科学研究費助成金慢性の痛み大作研究事業「線維筋痛症をモデルとした慢性疼痛機序の解明と治療薬の確立に関する研究」. 平成25年度研究報告書, 他施設協同によるアメリカリウマチ学会2010診断予備基準, 2011改訂基準の本邦症例の有用性検証と慢性疲労症候群併発頻度の検討. 2014; 16-18.

(5) Wolfe F, et al. J Rheumatol. 2011 Jun; 38 (6): 1113-22. "Fibromyalgia criteria and severity scales for clinical and epidemiological studies: a modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia."

(6) Wolfe F, et al. Semin Arthritis Rheum. 2016 Dec; 46 (3): 319-329. "2016 Revisions to the 2010/2011 fibromyalgia diagnostic criteria."

(7) 日本線維筋痛症学会, "線維筋痛症診療ガイドライン2017"

(8) Arnold LM, et al. J Pain. 2019 Jun;20(6):611-628. "AAPT Diagnostic Criteria for Fibromyalgia."