リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

レイノー現象

"Raynaud's Phenomenon" 

Wigley FM et al. N Engl J Med. 2016 Aug 11;375(6):556-65.

 

レイノー現象の患者さんをどのようにマネジメントしていますか?上記の論文がかなりまとまっていますのでご紹介します。NEJMは相変わらず図が綺麗です。

時間がある方は本文を、時間がない方は図や表だけでもご覧ください。

 

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A: レイノー現象の虚血相  B: レイノー現象のチアノーゼ相

 

【診断と臨床的特徴】

・有病率は性別、地域、環境、職業によって変わるが、おより3-5%

原発レイノー現象二次性に分けられるが、違いは以下に記載

・二次性レイノー現象の多くに結合組織病、特に強皮症を認める

・ある原発レイノー現象と診断された3029人の内、37.2%に結合組織病を認めたという報告あり

・ACR2013年の強皮症の分類にレイノー現象が含まれており、診断に有用

・最近の報告では40歳以上でレイノー現象を発症した場合、発作頻度が高い場合、爪郭毛細血管異常を認める場合、結合組織病の可能性がある、早期の強皮症の診断にも有用

原発レイノー現象の299人の追跡調査では爪郭毛細血管異常がなく、強皮症の抗体が陰性であれば強皮症になる確率は2%以下

・強皮症様または非特異的爪郭毛細血管異常(血管湾曲、拡張、出血、血管減少)は皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、未分化結合組織病、混合性結合組織病にも見られる

原発性と二次性の鑑別にはCapillaroscopyが有用

 

原発レイノー現象の特徴》

・二次性と異なり15-30歳とやや若年で起こる

・母指は罹患しにくい

・二次性の疾患、末梢血管疾患、指端虚血、爪郭毛細血管異常(下記写真)を認めない

原発性の30-50%は一親等にも同じ症状の方がいるが遺伝的感受性は未だに不明

 

※かつては赤沈正常が鑑別として採用されていたが、現在は除外されている

※抗核抗体も40倍程度なら原発性であっても良い

 

[爪郭毛細血管異常] 

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C: 正常, D: 毛細血管ループが拡張

 

《実際のアプローチ》

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【病態】

レイノー現象は手指、足趾、鼻尖部、耳の動脈血流に影響を与える

・上記組織は他の部位と比較して構造的も機能的にも体温調整能が異なることがわかっている

・上記組織では動静脈吻合が発達しており、毛細血管をバイアスする

・動静脈吻合は体温調整には寄与するが、毛細血管が関与する皮膚の栄養には寄与しない

・動静脈吻合は寒冷刺激で収縮し、温暖刺激で拡張する

・血管の収縮は交感神経反射によるもので、寒冷刺激自体が交感神経反射を増幅させる

・動静脈吻合は豊富な交感神経に支配されており、安静時で常温環境でも交感神経により血管が収縮しているが、ストレスや寒冷刺激では交感神経による血管収縮が増加する

・動静脈吻合があると血流が変動するが、毛細血管は通常交感神経による血管収縮の影響を受けない

レイノー現象の患者では手指、足趾、鼻尖部、耳の領域はもともと交感神経刺激が強く、範囲も広い

・寒冷刺激ではより上流の動脈、動静脈吻合、栄養を供給する動脈が収縮する

・栄養動脈は通常寒冷刺激誘発の交感神経性血管収縮から守られているが、原発レイノー現象ではそれがやや障害されており、強皮症などの二次性レイノー現象ではその障害が重篤(二次性レイノー現象では血管内皮細胞の機能障害があるため)

・血管内皮細胞の機能障害があると血管拡張機能、NO、プロスタサイクリンが減少し、血栓や炎症反応が増加、血管収縮作用のあるエンドセリン-1産生が増加する

・栄養血管の血流は上流動脈の内皮細胞の活動に伴う血管拡張により保証されるが、強皮症患者ではこれが制限されているため、栄養血流が足りずに指尖部潰瘍をきたす

レイノー現象は血管平滑筋のα2アドレナリン受容体活性化により仲介される

・α2アドレナリン受容体による血管収縮は寒冷刺激で増強する

レイノー現象の発作時の蒼白は動脈や動静脈吻合の強い収縮と静脈流による

・青色変化や赤色変化は動脈、静脈、動静脈吻合のバラバラな血管運動によって起こる

 

【一般的なマネジメント】

・症状が軽い場合は寒冷刺激やストレスを回避することで避けられる

・443人のレイノー現象の調査報告では64%が自身の発作をコントロール出来ていない、16%しか内服薬が有効であると信じていない

QOLの低下は二次性レイノー現象で強い

・バイオフィードバック、針灸、レーザー治療、漢方などのエビデンスは乏しい

・原疾患に関わらず、寒冷刺激を避けることが全レイノー現象の治療において最も有効

・全身と局所を温めることが皮膚血流増加に効果的

・全身の加温は重ね着、手袋、帽子など

・急激な温度変化を避ける(エアコンの効いた場所に急に移動するなど)

・手袋やお湯の中で手を擦ったりすることは発作の予防に加えて素早い回復にも効果的

・典型的な発作は復温後、15-20分で改善する

 ・効果的な教育と明快な説明は不安を減らし、重症度を緩和させる

・喫煙や交感神経作動薬、ADHD治療薬、片頭痛治療薬などの悪化因子を避ける

エストロゲン、カフェイン、非選択的β遮断薬などは悪化因子と考えられているが避けるべき明確なエビデンスはない

 

【薬物治療へのアプローチ】

・寒冷刺激とストレスを避けることがレイノー現象で最も重要

原発性はこれで大部分が治療できる、二次性でも重要な要因

・非薬物療法が効果なかった時に薬物療法を開始する

薬物療法原発性でも二次性でも質の高いエビデンスが乏しいのが現状

・二次性ではカルシウム拮抗薬やプロスタサイクリンアナログを使用するが確固たるエビデンスはない

・実臨床では性持続ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の単剤を副作用が出ない極量まで増量する

・361人のメタ解析ではレイノー現象の発作を2.8-5回/週減少させたという報告あり

・コクランレビューではカルシウム拮抗薬は原発レイノー現象の発作減少効果は小さいことを報告(1.72回/週)

・カルシウム拮抗薬は二次性レイノー現象には中等度の効果があるようである

・カルシウム拮抗薬が高価不十分または副作用のため継続困難な場合はPDE-5阻害薬、局所硝酸薬を単剤またはカルシウム拮抗薬と併用する

SSRIARBもある程度エビデンスがある様子

・あるOpen label crossover研究では6週間のSSRI(フルオキセチン20mg)とカルシウム拮抗薬(ニフェジピン40mg)治療では原発性、二次性ともにフルオキセチンが勝ったという

ARB(ロサルタン50mg)とニフェジピン40mgを15週間比較した研究では原発性、二次性ともにARBの方が重症度が低く、発作頻度も少なかった

・その他、プラゾシン(α1アドレナリン受容体拮抗薬)やペントキシフィリン(キサンチン誘導体)、シロスタゾール(PDE-3阻害薬)、Nアセチルシステイン(抗酸化物質)などが選択肢として挙げられる

・治療抵抗性のレイノー現象の最も一般的治療は血管拡張薬を増強または模倣し、内皮細胞由来の一酸化窒素の活動性を保護すること

・経皮硝酸薬(パッチ、クリーム、ゲル、軟膏)が原発性、二次性レイノー現象の発作頻度、重症度を減らす、ただし長期の有効性は不明

・一酸化窒素はグアニル酸シクラーゼを刺激し、cGMPを増加させることによって血管拡張を起こし、PDE酵素によって分解させる

・PDE阻害薬はレイノー現象の発作頻度、重症度を減少させる

・カルシウム拮抗薬が無効の場合、PDE阻害薬を追加するか変更する

・プロスタサイクリンは血管収縮、血栓形成、炎症、血管のリモデリングを抑え、内皮細胞由来の一酸化窒素の放出を刺激する

・二次性レイノー現象でプロスタサイクリンアナログの点滴が発作頻度や重症度を減らし、手指虚血潰瘍の予防や治癒を促進する

・経口プロスタサイクリンは肺高血圧症には有効だが、レイノー現象にはエビデンス不足

・致命的な虚血や治療抵抗性の手指潰瘍、血管拡張薬による血流増加がすぐに得られない時、手指の交感神経切断術(近位の胸郭ではなく)が行われる

・重症の手指虚血と大血管疾患が併存する際、閉塞性大血管疾患の治療は重症の二次性レイノー現象の治療の選択肢となり得る

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【新しい選択肢】

・栄養血流を保つことが二次性レイノー現象で重要

・上流の動脈の拡張によって動静脈吻合が拡張すると発作は減るが栄養血流は増えない

・これは内皮細胞が障害されており、微小血管の栄養血流が寒冷刺激の際に重度に制限される強皮症で特に重要

・進行期の強皮症では血管は自己調整能を欠いた管の様

・このような状態で血管拡張薬を使用すると栄養血流はさらに減少するため、注意が必要

・血管拡張だけでなく、収縮抑制、炎症抑制、血栓予防が必要

 

エンドセリン-1阻害薬

・エンドセリン-1は強力な血管収縮、炎症誘発、線維促進物質

・血管内皮細胞でのエンドセリン-1産生は原発レイノー現象では見られないが、強皮症患者では亢進している、さらに表在微小血管に優位である

・これはエンドセリンが強皮症患者において栄養血管に病理学的な役割を果たしていることを示す

・エンドセリン-1ETA/ETB受容体拮抗薬(ボセンタン)は発作頻度は減少させなかったが、新規の手指潰瘍を予防する

・エンドセリン-1が強皮症患者で栄養血流減少に関連

・エンドセリン-1阻害薬はヨーロッパでは手指潰瘍がある場合は推奨されるがレイノー症候群単独では推奨されない

・なお、他のエンドセリン-1阻害薬(macitentan)は潰瘍予防効果はなく、選択的ETA阻害薬(ambrisentan)は手指の血流を増やさなかった

 

スタチン

・スタチンはLDLを減少させることと別に血管保護作用を有する

・スタチンはさらに他の血管疾患の血管内皮細胞障害を回復させ、一酸化窒素の産生を増加させ、エンドセリン-1の産生を減少させる

・スタチンは二次性を含むレイノー現象で有効な治療効果が期待される

・発作頻度、潰瘍の数、新規潰瘍形成を減少させ、機能を回復させる研究あり

・スタチンの直接的血管保護作用はRhoやRhoキナーゼシグナリングを抑制することで発揮される

・このシグナリングは一酸化窒素の活性の低下、寒冷によるα2アドレナリン受容体活性の増強を含む血管内皮細胞の障害に寄与する

・先行研究ではRhoキナーゼ阻害薬は寒冷刺激後の皮膚温度の回復には寄与しなかったが、健常者では寒冷による血管収縮の抑制効果を示した

 

可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬

・可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬はcGMP上昇させ、一酸化窒素とは別に血管拡張をさせるが、レイノー現象では研究段階

 

α2アドレナリン受容体遮断

・寒冷刺激による皮膚血管収縮は寒冷感受性α2受容体によって仲介される

・二次性レイノー現象では内皮細胞メディエーター活性によってこれが増強されるため、交感神経の抑制が微小血管収縮に有効かもしれない

・しかし中枢/末梢の節前寒冷感受性α2アドレナリン受容体の遮断は交感神経性血管収縮を引き起こしてしまった

・最近の研究ではα2cアドレナリン受容体をターゲットにしたが失敗だった

・ボツリヌス毒素が交感神経活動を抑制するという限られた研究がある

 

抗血小板薬・抗凝固薬

アスピリン、ジピリダモールなどの抗血小板薬、抗凝固薬が使用されてきたが、有効性は確かめられていない

・しかし血栓リスクがある二次性レイノー現象ではしばしば使用される

・過凝固状態でない場合に長期の抗凝固薬の使用は推奨されない

・しかし小規模のプラセボ比較試験では低分子ヘパリンを使用した重症レイノー現象患者で4週と20週で重症度が低下したという

 

抗炎症薬・免疫抑制薬

・血管炎などに使用される抗炎症薬・免疫抑制薬がレイノー現象にも高価があるかは不明