血管炎の寛解導入にはしばしばエンドキサン(シクロホスファミド)が用いられますが、高齢患者の血管炎患者ではエンドキサンを標準量(500mg/m2)で投与すると感染症のリスクが上がる心配があります。それを考慮して減量して投与することも多いのですが、今回ご紹介するCORTAGE試験(1)は65歳以上の高齢血管炎患者に対して標準量と500mg/bodyの減量量を比較した試験です。
【ポイント】
・IVCY500mg/bodyとIVCY500mg/m2を比較したときに寛解導入失敗率や重篤な副作用の罹患率の観点からは前者に軍配が上がるが、再発の観点では従来のIVCY500mg/m2の方が良いかもしれない
・ただし、IVCY500mg/bodyではステロイドの減量スピードが急速なので、副作用の減少も再発の増加も、その影響は否定できない
《対象》
・65歳以上の全身性壊死性血管炎(非HBV-PAN、EGPA、GPA、MPA)
・ステロイド使用歴が1か月以内
・シクロホスファミドを含む免疫抑制薬の使用がある場合は除外
《介入群》
・IVCY500mg/body2週間毎に3回、その後寛解まで3週間毎に投与(合計で最大6回まで)
・寛解導入後、アザチオプリンまたはメトトレキサート、MMFで最低18か月寛解維持
・PSL1mg/kg(mPSL1-3日も可)を3週間後、速やかに減量し、7週で30mgに、6か月には7mg/日に、9か月で中止
《比較群》
・IVCY500mg/m2を2週間毎に3回、その後寛解まで3週間毎に投与(合計で最大6回まで)
・寛解維持は介入群と同様
・PSL1mg/kg(mPSL1-3日も可)後、緩徐に減量し、26か月で中止
・PANとEGPAはFive factor score1996で少なくとも1つ有する場合、CYを併用
・PANとEGPAでFive factor scoreが0の場合はIVCYを行わず、ステロイドのみ
・ステロイドの減量は最初の3週間は介入群と同じ、その後7週時点で30mgに、6か月時点で12.5mg、26か月後に中止
※ちなみにFive factor score(FFS)は1996年にGuillevinらによって提唱されたPANとEGPAの予後不良因子(2)であり、以下の内、診断時に2項目以上ある場合には予後不良と言われます。
①血管炎関連心筋症(心筋炎や心不全を併発する重症の心病変)
②中枢神経病変
③重症消化器疾患
④クレアチニン値>1.58mg/dl(Cr>140μmol/L)
⑤蛋白尿>1.g/日
FFS1996はPANとEGPAしか含まれていなかったため、Guillevinらは2009年にMPA、GPAを加えた再解析をし、FFS2009を発表しました。この中でFFS1996の①③④に加えて、新たに年齢と耳、鼻、のどの症状を有さないが追加となりました。
①血管炎関連心筋症(心筋炎や心不全を併発する重症の心病変)
②重症消化器病変
③クレアチニン値>1.70mg/dl(Cr>150μmol/L)
④年齢65歳以上
⑤耳、鼻、喉の症状を有さない
《Outcome》
Primary
・3年間で1回以上の重篤な副作用(生命にかかわる可能性の副作用:①入院または入院延長を要するもの、②有意な身体障碍を起こすもの、③死亡例))の発生件数
Secondary
・寛解(BVAS=0が1か月以上持続)
・再発
・生存率(重篤な副作用がなく、6週時点での寛解導入失敗や原疾患の悪化のない)
《結果》
キャラクター
・年齢は介入群、比較群ともに75±6歳
→日本の高齢者の血管炎患者でも適応できそうですね
・介入群ではGPAが、比較群ではMPAがやや多い
→日本人に多いMPAが4割も含まれているのは良いですね
・介入群でやや喫煙者が多い
・耳、鼻、喉の病変は介入群で多く、心病変は比較群で多い、Cr値>1.58mg/dlや血尿は介入群で多い
・なお、本文には介入群のシクロホスファミド(CYC)の累積使用量が2688mgであるのに対して比較群は5586mgと約2倍の差がありました
Outcome
・3年時点で重篤な副作用は介入群32例(60%) vs 比較群40(78%)
・重篤な副作用はほとんどが最初の1年で起こる
・死亡は介入群で9例(17%)、比較群で12例(24%)、主な死因は敗血症やコントロール不良な血管炎
・寛解導入失敗は介入群6例(11%) vs 比較群7例(14%)
・再発は介入群で44%、比較群で29%
・3年時点での再発なしの生存率は介入群で47%、比較群で60%
→介入群では死亡を含めた重篤な副作用は少なく、寛解導入失敗も少なかった。しかし、再発は介入群で多かった
・本試験ではQ-TWiST(Quality-adjusted time without symptoms and toxicity)という症状も薬剤の毒性もない期間の解析がされております
・Q-TWiSTは重篤な副作用のイベントを少なくとも1つ以上経験する期間(Toxicity; TOX)と症状・薬剤の毒性がない期間(TwiST)、疾患活動的な期間(activity; PROG)の3つの要素からなる解析方法のようです
・Q-TWiST=(uTox ✖ TOX) + TWiST + (uProg ✖ PROG)という式がなりたつそうです
・結果ですが、介入群では重篤な副作用の罹患期間が0.39月短く、疾患活動的な期間は3.06か月長い、また、症状・薬剤の毒性がない期間は0.72か月少ない
→Q-TWiSTでは介入群で重篤な副作用の罹患期間はやや短いものの、有意な結果は得られませんでした。逆に疾患活動的な期間は長いという結果が得られました
《Supplementary data》
PAN、MPA、EGPAで予後不良因子であるFive Factor Scoreのありなしで比較した結果
※GPAは除かれています
・予後不良因子FFSがない場合(比較群ではステロイド単剤のみの治療)、介入群(IVCY500mg/body)では再発率が低いですが、寛解導入失敗率、死亡率が高いことがわかりますが実数が少ないため、有意かどうかは言えません
・予後不良因子が1つ以上の場合(比較群ではステロイドに加えてIVCY500mg/m2)、介入群で寛解導入失敗率が低く、死亡率が低いですが、再発率が高いことがわかります
→ここが本当の意味でのIVCY500mg/bodyとIVCY500mg/m2の比較ですね
疾患毎の比較
・PANでは介入群で重篤な副作用、死亡が少ない
・MPAでは介入群で寛解導入失敗、死亡が少ないですが、再発が多い
・GPAでは介入群で重篤な副作用が少ないですが、再発が多い
・EGPAでは介入群で再発が多い
《本試験でのステロイドの減量スケジュール》
・介入群は割と早いスピードでステロイドを減量しているため、累積ステロイド量は比較群よりも3000mg(5152.5mg vs 8305mg)も低いです
・比較群のステロイド減量スピードは割と臨床的感覚に近いです
【参考文献】
(1) Pagnoux C, et al: Arthritis Rheumatol. 2015 Apr;67(4):1117-27. "Treatment of Systemic Necrotizing Vasculitides in Patients Aged Sixty‐Five Years or Older: Results of a Multicenter, Open‐Label, Randomized Controlled Trial of Corticosteroid and Cyclophosphamide–Based Induction Therapy"
(2) Guillevin, et al. Medicine 1996; 75(1): 17-28. "Prognostic factors in polyarteritis nodosa and Churg-Strauss syndrome. A prospective study in 342 patients."
(3) Guillevin L, et al. Medicine. 2011 Jan;90(1):19-27. "The Five-Factor Score revisited: assessment of prognoses of systemic necrotizing vasculitides based on the French Vasculitis Study Group (FVSG) cohort."