骨代謝マーカーを使ってみよう!!
今まで骨粗鬆症の評価は骨密度検査のみ実施しており、骨代謝マーカーは測定したことがありませんでした。この度、骨代謝マーカーをオーダーする機会があり、骨免疫を理解するためにも勉強してみました。
【ポイント】
・骨代謝マーカーは骨吸収マーカーと骨形成マーカーに分けられる
・骨代謝マーカーは測定時点での骨の代謝状態を鋭敏に反映する指標である
・骨代謝マーカーの測定は骨粗鬆症の治療選択、薬剤の効果判定、病態把握、患者理解の促進に有用
・骨吸収マーカーはTRACP-5bが有用
・骨形成マーカーはBAP、P1NPが有用
・P1NPはテリパラチドの治療効果判定に有用である
《骨代謝マーカーの意義》
骨代謝を評価する方法として、①骨密度、②骨代謝マーカーがあります。
骨の代謝状態は日々異なるため、同じ骨密度でも病的な意義が異なる場合があります。一方、骨代謝マーカーは、測定時点での骨代謝状態を鋭敏に反映することができます。骨密度と独立した骨折の危険因子であり、測定することで骨粗鬆症治療の服薬遵守が得られるという報告もあり、骨粗鬆症ガイドラインでも測定が推奨されております。
実臨床では、以下の場合に測定すると良いでしょう。
①治療の必要性に対する患者の理解をさらに高めたい場合
②薬物治療を予定している場合
③治療薬の選択に役立てたい場合
④骨粗鬆症の病態などを評価する場合
※続いて、骨代謝マーカーの種類についてお示しします。
《骨代謝マーカーの種類》
・骨形成マーカー:骨芽細胞に関与するマーカー
・骨吸収マーカー:骨室に関与する骨マトリックス関連マーカー
・骨代謝は石灰骨を融解(骨吸収)する破骨細胞と、骨形成を行う骨芽細胞によって行われる
・骨代謝の過程で出現する様々物質(骨代謝マーカー)を測定することで骨代謝が骨吸収寄りか、骨形成寄りか把握できるようになった
・骨粗鬆症の薬剤は作用機序により骨吸収抑制薬と骨形成促進薬に分けられ、骨代謝マーカーによって薬剤の選択、治療効果判定ができるようになっている
※以下に各骨代謝マーカーを詳細にまとめて行きます。
【骨形成マーカー】
①骨型アルカリホスファターゼ:BAP
・類骨形成、石灰化作用において重要な役割を果たす酵素
②I型プロコラーゲン-N-プロペプチド:PINP
・骨芽細胞で合成・分泌されたI型コラーゲンがペプチダーゼの作用により切断・放出される代謝産物
・Intact PINP(三量体のみを測定)とtotal PINP(三量体と単量体の両方を測定)→測定値に臨床的な違いはない
【骨吸収マーカー】
①デオキシピリジノリン:DPD
・I型コラーゲンのヒドロキシピリジウム架橋
・線維原性コラーゲンの細胞外成熟中に形成され、成熟コラーゲンの分解の際に放出される
②I型コラーゲン架橋N-テロペプチド:NTX
③I型コラーゲン架橋C-テロペプチド:CTX
・I型コラーゲンは骨や皮膚などの構成蛋白で特に骨基質の90%以上を占める
・I型コラーゲンはα鎖3分子がらせん状の3本鎖ドメインを形成し、そのN末端・C末端のテロペプチドがピリジノリンまたはデオキシピリジノリンで架橋されてコラーゲン線維の構造を形成
・骨吸収によってI型コラーゲンが分化されるとテロペプチド部分は架橋されたまま断片として血中に遊離するため、破骨細胞が骨吸収する際のマーカーとなる
・骨吸収面積と相関
④酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b:TRACP-5b
・日内変動が少なく、腎機能の影響を受けない
【骨マトリックス(基質)関連マーカー】
①低カルボキシル化オステオカルシン:ucOC
・骨芽細胞から分泌される骨特異的非コラーゲン蛋白としてオステオカルシンが知られているが、分子中にグルタミン酸残基があり、この部分がビタミンK依存性カルボキシラーゼの作用によってγカルボキシル化される
・骨中のビタミンKが不足するとγカルボキシル化が十分起こらず、正常な機能を持たない低カルボキシル化オステオカルシンが生成される
・骨におけるビタミンK作用不足の指標となる
②ペントシジン及びホモシステイン
・骨コラーゲンの老化架橋
※骨粗鬆症薬を使用する際にどのマーカーを測定すべきかまとめたアルゴリズムです。
・骨形成促進作用のあるテリパラチド(PTH製剤)は骨形成マーカーであるP1NPが良いマーカーとなります
・骨吸収抑制薬は様々ありますが、下記《実際の使い方》でお示しするように、骨吸収マーカーではTARCP-5bが最も有用なマーカーです
・ビタミンKを単独で骨粗鬆症に使用することはありませんが、指標となるマーカーはucOCです
・カルシウム製剤やビタミンD製剤(エルデカルシトールはNTXやDPDで評価可能)、カルシトニンは効果判定できるような骨代謝マーカーが存在しません
※ 骨代謝マーカーの保険点数についてまとめられた表です。
・大体1項目2千円弱と決して安い項目ではありません、むやみに出すことは控えるべし
・保険点数上、骨吸収マーカーであるDPD、NTX、TRACP-5bは同時に測定できません
※各骨代謝マーカーの基準値をお示しします。
・《実際の使い方》でお示しするように治療開始前と開始3-6か月後の変化率を求め、右欄の最小有意変化を超えるかどうかで薬剤の効果があるかどうかを判断します
《骨代謝マーカー測定の基本》
①早朝空腹での検体採取を基本とする
→骨代謝マーカーは朝高く、午後低下するという日内変動がある
→ただし、BAP、P1NP、TARCP-5bは日内変動の影響を受けない
→血清CTXは食事の影響を受ける
②骨折発生24時間以内に評価
→骨折発生時、一時的に骨代謝マーカーが上昇することがあるが、骨折発生から24時間以内(平均6.8時間)であれば、骨折の影響は少ない
③前治療の影響が残っていることを考慮する
→ビタミンD、ビタミンK2、イプリフラボン、ラロキシフェンは少なくとも1か月以上の影響がある
→ビスホスホネート製剤、デノスマブ、テリパラチドは3か月以上の影響がある
④急激な生活習慣の改善があれば、安定するのを待つ
→食生活や運動習慣が大きく変化すると骨代謝マーカーも変動するため、安定してから測定することが望ましい
⑤測定機関や方法による基準値をもとに判断する
《実際の使い方》
前提
・関節炎や骨折などの局所的な骨代謝の亢進、甲状腺機能亢進症や多発骨髄腫などの続発性骨粗鬆症の除外を行う
・腎機能障害がある場合は腎排泄の骨代謝マーカーが見かけ上、上昇するため注意する
骨吸収マーカー
・骨吸収マーカーが少しでも上昇している場合は骨吸収抑制薬の積極的な投与が推奨される
・日内変動が少なく、腎機能障害の影響を受けないTRACP-5bが使いやすい
・骨吸収マーカーは治療開始前と治療開始後3-6か月を目途に2回測定し、変化率を求める
・治療開始前と開始3-6か月後の値の変化が最少有意変化(minimum significant change: MSC)を超える場合または閉経前女性の基準値ないに維持されている場合には効果ありと判定する
骨形成マーカー
・日内変動が少なく、腎機能障害の影響を受けないBAPやP1NPが使いやすい
・骨形成マーカーであるP1NPはテリパラチドの治療効果判定に使用する
・骨形成マーカーは変化がやや遅れるため、治療開始時と治療開始6か月後と2回測定する
・ただしテリパラチドではP1NPの変化が投与後1-3か月以内で著明となるため、開始時と開始後4か月で2回目を測定する
・骨形成マーカーが基準値内に収まらない場合は治療内容の変更を考慮する
・ビスホスホネート製剤の長期投与時に骨形成マーカーを測定しても良い
その他
・骨マトリックス関連マーカーである低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)は骨代謝におけるビタミンK不足の有無の判断に利用できる
※実際の骨吸収抑制薬を使用している場合の骨代謝マーカーの使用方法を示します
・骨吸収抑制薬を使用していても、長期にわたる場合は骨形成マーカーも測定し、骨吸収が抑制されているだけでなく、骨形成がされているかきちんと評価する
→骨形成がされていない場合は意味がないため、薬剤変更を考慮
《薬物治療で骨代謝マーカーが有意な変化を示さなかった時に考える原因》
・多くの場合、服薬コンプライアンスが骨代謝マーカーの有意な変化を示さなかった原因である→骨代謝マーカーの結果を示し、服薬遵守をするよう指導することも重要
《腎機能障害と骨代謝マーカー》
・骨形成マーカーではBAP、P1NPが腎機能の影響を受けない
・骨形成マーカーではTRACP-5bが腎機能の影響を受けない
【参考文献】
(1) モダンメディア 62巻9号 2016 [医学検査のあゆみ] "骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの実践的活用法について"