病棟でも外来でも手足が痺れる患者さんは少なくありません。
今回は多発神経障害(ポリニューロパチー)の考え方をまとめてみました。
【ポイント】
・多発神経障害(ポリニューロパチー)は意外と多い
・手袋靴下型の神経障害では多発神経障害を疑う
・症状は神経の長さに依存することが多く、つま先から始まる
・手の症状は下腿の症状が膝まで達したら起こる
・多発神経障害を疑った時には症状と身体所見から大径線維障害か小径線維障害か区別する
・ 大径線維障害では触覚・位置覚・振動覚の障害が出る、小径線維障害では温痛覚障害が出る
・小径線維障害では灼熱感のような疼痛が特徴的
・神経伝導検査では大径線維障害のみ異常となる
・異常となるパターンは軸索障害が最も多い
・多発神経障害の原因で最も多いのは糖尿病で多くて半数を占める、次いでアルコール性など(ビタミンB群欠乏も多いという報告あり)
《多発神経障害の疫学》
・ポリニューロパチーは一般人口では2-3%, 55歳以上では8%以上の有病率があると言われております(Lancet. 2004 Jun 26;363(9427):2151-61.)
《多発神経障害の特徴》
・どんな患者さんでポリニューロパチーを疑うかというと
以下のように神経障害が左右対称性で手袋靴下型の場合に考えます
・一般に症状は長い神経ほど早く発症(length-dependent)しますので、両下腿のつま先から発症します
・両上肢(特に手指)までの神経の長さはおおよそ両膝までの神経の長さと等しいため、両上肢の痺れは、下腿の痺れが膝に達してから発症します(2)
・多発神経障害はさらに神経の太さにより、大径線維ニューロパチー、小径線維ニューロパチーに分けて考えるとわかりやすいです
・運動神経は大径線維に分類される
・感覚神経では触覚/振動覚/位置覚は大径線維に分類され、
温痛覚/自律神経は小径線維に分類されます
大径線維と小径線維の神経障害は以下の通り鑑別します
・多くの場合は問診と身体所見である程度どちららしいか目星をつけます
・疾患によっては大径線維障害と小径線維障害が混在することがあります
・小径線維の神経障害の場合, 痛覚を司るため, “焼けるような痛み”を訴える患者さんが特徴的です
・神経伝導検査で脱髄や軸索障害などの障害パターンを示すのは大径線維のみということがポイントです
・神経伝導検査が正常であっても小径線維の神経障害は否定できません
以下に多発神経障害のアルゴリズムをお示しします
・神経伝導検査で軸索障害または脱髄所見があれば大径線維ニューロパチーを疑い、正常であれば小径線維ニューロパチーを疑います、小径線維ニューロパチーの診断には皮膚生検で小径神経線維が消退していることを確認することが重要です
・なお、皮膚生検の診断率は24-94%と言われております
大径線維と小径線維に分けるメリットはそれぞれで若干鑑別が変わるためです
《多発神経障害の鑑別(1)》
・上記にお示ししている通り、多発神経障害は多くの場合は軸索障害を示していることが多いです、これは神経伝導検査で検出できる障害であるとも言えます
一方、小径線維ニューロパチーの鑑別は以下の通りになります
《小径線維ニューロパチーの鑑別(2)》
・小径線維ニューロパチーの場合、特発性が半数と言われております
・また糖尿病は大径線維ニューロパチーも起こしますが、小径線維ニューロパチーの3-5割を占める重要な疾患です
・興味深いのは糖尿病の前段階である耐糖能異常の状態でも小径線維ニューロパチーが起こりえるということです
・さらに高トリグリセリド血症でも糖尿病と関係なく、小径線維が障害されるそうです
”こんなに多くは覚えられないよ!”という方には以下の2つのカテゴリーの暗記をお勧めします
《多発神経障害の検査》
神経伝導検査で障害されている神経と障害パターンがある程度わかったら追加検査を実施します
【参考文献】
(1) Azhary H, et al. Am Fam Physician. 2010 Apr 1;81(7):887-92. "Peripheral neuropathy: differential diagnosis and management.“
(2) Terkelsen AJ, et al. Lancet Neurol. 2017 Nov;16(11):934-944. "The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes"