リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

どれを使う?~SLEの活動性評価~

SLEの活動性の評価方法は複数あります。そのどれも優劣があります。

今回は様々な活動性評価方法を比較してみます。

 

【改訂】

 第2版: 2019-11-13(青字部分)

 

【ポイント】

・再燃を評価できるのはPGA、BILAG、SELENA-SLEDAI

・主観的な評価項目が含まれるのはPGA、BILAG、SLAM(-R)、ECLAM

・SELENA-SLEDAIのみ過去10日以内、BILAG、SLAM(-R)、SELENA-SLEDAIは1か月以内の各種項目の評価

・血清学的活動性マーカーが含まれるのはSELENA-SLEDAI、ECLAM

・SRIは3つの評価方法を利点を組み合わせた評価方法だが、臨床で使用するには不便

・現時点でSLEの活動性の評価に適した指標はないが、総合評価したSLEDAIや臓器ごとに評価したBILAG、それらを組み合わせたSRIが有効かもしれない

 

こちらもご覧ください。

 

 

【SLE評価法の3つの大きなカテゴリー】

①Global measures(総合的に評価する指標)

・SLEDAI, SLEDAI-2K, SELENA-SLEDAI

・SLAM, SLAM-R

・ECLAM

 

②Organ specific indices(臓器ごとに評価する指標)

・BILAG, BILAG2004

・CLASI

・Renal activity score

 

③Patient-reported outcome

・SF-36

・SSC

・Lupus Pro

 

《Physician Global Assessment: PGA

・医師による疾患活動性の評価

・0~3点の3段階に分けて、医師が評価した箇所に印をつける

・ベースラインからの0.3点以上の増加は疾患活動性の悪化を示唆する

・欠点は評価する医師間で点数が変わる可能性があること

・正確性や信頼性、再現性を保つためには医師の判断に影響を与え得るその他のスコア(SELENA-SLEDAI、BILAGなど)をつける前にPGAを付けるべき

 

《The British Isles Lupus Assessment Group: BILAG》

・1988年にイギリスより提唱された活動性評価項目

・過去1か月以内の8種類の臓器病変について86項目を評価

・いずれの臓器もA~Eの5段階で重症度が評価される

・A(最も活動的)、B(中等度の活動性)、C(軽度の活動性)、D(安定)、E(今まで認めない)

・さらにA=9点、B=3点、C=1点、D=0点、E=0点と点数化

・最大点数は72点(BILAG-1988)、81点(BILAG-2004)

〈利点〉

・各項目の有無だけでなく、その項目が2か月前と比較して①新規のものか、②悪化しているか、③改善しているか、④今まで存在しないのかを評価できる

 →再燃を評価できる

・1988年の報告当初は眼病変と消化器病変は含まれていなかったが、2004年に改訂(BILAG-2004)されてから含まれるようになった

〈欠点〉

・評価項目が多いため、時間を要する、外来診療に向かない

・主観的な評価項目が含まれる(倦怠感)

・血清学的活動性マーカーは含まれない

・過去1か月との変化率に重きを置くため、同じ活動性でも過去との変化率が変わる可能性がある

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《The Systemic Lupus Activity Measure: SLAM》

・1989年に初めて報告され、2001年にSLAM-Rに改訂された

 →SLAM-Rでは評価の難しい強膜炎、心膜炎、肺臓炎が削除された

・過去4週間の活動性を評価する

・31項目、最大84点

〈利点〉

・SLEDAIよりも広くSLE病態を網羅している

疲労度なども評価できる

〈欠点〉

・SLEDAIやECLAMと比べて血清学的活動性マーカーが評価項目に含まれない

・BIRAGやELCAM同様、主観的な項目(倦怠感など)が含まれる

レイノー現象や血圧など活動性と関係の薄い項目が多い

 →これらの項目もウエイトが重要臓器病変と同程度

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《The Systemic Lupus Erythematosus Disease Activity Index: SLEDAI》

・1992年に米国とカナダから報告され、2000年に改訂された(SLEDAI-2k)

・24項目について評価する

・合計点数は0~105点

・活動性なし(SLEDAI=0)、低疾患活動性(SLEDAI=1~5)、中等度疾患活動性(SLEDAI=6~10)、高疾患活動性(SLEDAI=11~19)、非常に高い疾患活動性(SLEDAI=20以上)

・SLEDAIスコアの増加>3を“再燃”、スコア減少>3を“改善”、スコアの±1~3の変化を“持続的に活動性を有する"、0を“寛解”と定義

厚生労働省特定疾患の申請の際にも用いられる

〈利点〉

・臨床で容易に用いやすい

・血清学的マーカーである抗ds-DNA抗体や補体価を含むのが特徴

・レトロスペクティブな研究でも使用可能

〈欠点〉

・蛋白尿、皮疹、脱毛、粘膜病変に関しては新規または再燃した場合はカウントできるが、慢性的に持続するものはカウントできない

 ・どのバージョンでも軽度な改善や増悪は特定できない

・過去10日以内の疾患活動性を評価するが、それ以前から出現し持続あるいは悪化している症状や徴候については評価対象に含まれない点が問題

・各項目の評価がある・なしのみで重症度を反映しない

・臓器病変によって点数に偏りがある(CNSループス、ループス頭痛に点数が偏り、ループス腎炎や血球異常は点数が低くなりがち、膿尿や血尿も活動的なくても4点)

腸炎、溶血性貧血、肺胞出血、肺高血圧症、横断性脊髄炎は評価対象外

「SLEDAI」の画像検索結果

《SELENA-SLEDAI》

・2005年に報告された

・過去10日以内の9臓器、24項目について評価

・合計点数は0~105点

〈利点〉

・皮疹、脱毛、粘膜病変が慢性的に持続するものでも評価できるよう改良

・蛋白尿について新規発症だけでなく、再燃・悪化を含めるために>0.5g/日の増加を項目に含めている

・再燃が細かく定義されている(Severe, mild ore moderate)

・主観的な評価項目が含まれない

〈欠点〉

・痙攣を加齢に伴う不可逆性の中枢神経障害によるものを除き、視覚障害については強膜炎、上強膜炎を含め、中枢神経障害についてはめまいを含めている、脳血管障害については高血圧性のものを除外している

・臓器病変によって点数に偏りがある(CNSループス、ループス頭痛に点数が偏り、ループス腎炎や血球異常は点数が低くなりがち)

 

《SLEDAI, SLEDAI-2K, SELENA-SLEDAIの比較》

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《The European Consensus Lupus Activity Measurement: ECLAM》

・1992年に初めて報告された

・1か月以内の15の臨床項目と血清学的項目をそれぞれ有無の二択で評価

・合計点数は0~10点

・他の評価項目との相関係数は0.63~0.92と中等度から高度の相関を示す

〈利点〉

・Pediatric versionがある

・大規模の実際の患者を用いた研究から作られた

・レトロスペクティブな研究でも使用可能

・SLEDAIになかった腸炎、溶血性貧血、肺病変が評価可能

・新規腎症、皮膚症状は、新規 or 悪化時に+2点と出来る

〈欠点〉

・関節痛や倦怠感など主観的な項目が含まれる

・再燃を評価できない

・各臓器病変の重症度は評価できない

・肺高血圧症、横断性脊髄炎あ評価対象外

・腎症のウエイトが0.5点と倦怠感と同じ(臓器の重みづけに疑問あり)

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《Systemic Lupus Erythematosus Responder Index: SRI》

PGAとSELENA-SLEDAIとBILAGを合算したもの

・SELENA-SLEDAIが全般的な疾患の改善をカバーし、BILAGが臓器特異的な疾患の増悪、改善をカバー、PGAは二つの方法の保険

・改善の定義は以下、これら3つすべて満たすものが『レスポンダー』

 ①SELENA-SLEDAIがベースよりも4点以上改善

 ②PGAの悪化がない(0.3点以上の増加

 ③BILAGでカテゴリーAの悪化臓器がない、カテゴリーBの悪化臓器が2つ以上ない

・SRIから抗ds-DNA抗体、低補体(C3/C4)を除いたmodified-SRIがより有効

・この指標を用いたおかげで臨床試験でベンリスタの有効性が示された

〈利点〉

・3つの評価方法の利点を組み合わせているため、他の評価方法よりも優位

〈欠点〉

・3つの評価項目をすべて評価しなければならないため、時間がかかる

・SLEDAIの弱点が出やすい

・BILAGの欠点である経過途中での関節炎や一過性の蛋白尿(>0.5g/日)、膿尿(WBC>5/hpf)、血尿(RBC>5/hpf)などで容易に再燃されやすい

・血球減少中心の病態には点数が低くなりがちで不向き

・SLEDAIの非常に高い患者では4点の改善は比較的容易であり、BILAGとPGAの悪化なければ、活動性が実際あっても寛解達成となってしまう

 

《各評価項目の比較》

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《Systemic Lupus International Collaborating Clinics Damage Index: SDI》

・SLE発症後の不可逆的な臓器障害の発生を評価

・厳密には活動性の評価ではない

・12臓器、41項目を評価、少なくとも6か月間存在する障害臓器を評価する

・スコアは全て1点

・少なくとも6か月以上間隔を空けて反復して認められた場合にはスコアを2とする

・同一病変はスコア2としない

・スコアの合計が患者の障害度、最大47点

〈利点〉

・点数が予後不良や死亡率の増加に関連

 

【参考文献】

・Luijten KM, et al. Autoimmun Rev. 2012 Mar;11(5):326-9. The Systemic Lupus Erythematosus Responder Index (SRI); a new SLE disease activity assessment.

・Lam GK, et al. Clin Exp Rheumatol. 2005 Sep-Oct;23(5 Suppl 39):S120-32. Assessment of systemic lupus erythematosus.

・天野浩文, リウマチ科, 43(6): 585-592, 2010

・図はhttps://gskpro.com/ja-jp/disease-info/sle/score/#link06より引用