どう違う?~SLEの分類基準~
SLEの2大分類基準としてACR1997とSLICC2012があります。今回はこれらの特徴や違い、使い分けについてまとめたいと思います。最後に2019年にACRとEULARから提唱された新しい分類基準についても触れています。いずれの分類基準も臨床でSLEを診断する事を目的とした診断基準ではなく、研究の際に効率良くSLE患者を分ける目的の分類基準であることに注意が必要です。
こちらもご覧ください。
【ACR criteria 1997(1)】
※観察期間中, 経時的あるいは同時に11項目中4項目以上存在すればSLEと分類する
〈特徴〉
・日光過敏は患者の病歴でも良いが、口腔潰瘍は医師の観察によるもの
・関節炎は2箇所以上で末梢関節に限定、非びらん性であることも強調
・漿膜炎は胸膜炎と心膜炎のみ
・血球異常は白血球とリンパ球減少は2回以上必要
・抗核抗体は蛍光抗体法で、どの時点で陽性でも良い
〈欠点〉
・頬部発疹と光線過敏症などの皮膚ループス症状が重複し、過剰に評価されている
・早期のSLEに対しては感度が低い
・一部のループス腎炎は診断出来ない
・神経ループスが痙攣と精神症状のみ
・活動性の指標としての低補体血症が含まれない
そして、ACR分類基準1997年で不足している点を追加し、改良したものが以下のSLICC2012の分類基準です。
【SLICC 2012(2)】
〈特徴〉
・臨床項目と免疫項目のそれぞれから少なくとも1項目以上、計4項目以上陽性を必要とする
・腎生検でループス腎炎の所見(国際腎臓学会2003年分類に従う)を認めれば、抗核抗体陽性、あるいは抗ds-DNA抗体が陽性であればSLEと診断可能
・皮膚ループスはそれぞれ急性と慢性に分けられた
・脱毛が1項目として加わった
・口腔内潰瘍は『通常無痛性』の記載が除外され、口内炎を呈する他の疾患が除外項目として挙げられた
・関節炎は非びらん性関節炎と定義されていたが、びらんを呈するSLE関節炎も存在するため、『非びらん性』が消された
・関節の圧痛と30分以上のこわばりが関節炎とみなした
・線維筋痛症とSLEのオーバーラップもあるため、びまん性疼痛ではなく、関節のラインでの圧痛を確認することが必要
・蛋白尿はテステープ測定ではなく、スポット尿(蛋白尿/尿クレアチニン比)、あるいは蓄尿測定による定量が必要となり、円柱は赤血球円柱に限定された
・神経症状として脊髄炎や末梢神経炎も加えられた
・1項目だった血球異常は溶血性貧血、白血球減少、血小板減少として独立した3項目とされた
・リンパ球減少は1500/mm3未満が1000/mm3未満とされ、白血球減少とともに2回以上の異常が、少なくとも1回でよく、他の疾患を除外することとなった
・免疫項目は抗核抗体と抗ds-DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体のいずれかの2項目のみであったが、後の3項目は独立し、さらに低補体と直接クームス陽性が加わり、合計6項目となった
・抗ds-DNA抗体はELISA法では特異性が低いため、基準範囲の2倍を超えることとしている
・抗リン脂質抗体については抗β2GP1抗体が加わった
・抗カルジオリピン抗体の定義は非特異的な『低値』は除外された
・抗β2GP1抗体と抗カルジオリピン抗体についてはIgG/IgMに加えてIgAも追加された
・直接クームスに関しては臨床項目の溶血性貧血を満たす場合は重複を避けるため、『溶血性貧血がない場合』としている
〈欠点〉
・早期発症のSLEの診断には依然不利
《ACR1997とSLICC2012の感度、特異度》
SLICC2012の元論文(2)では感度、特異度は以下の通りでした
・ACR1997:感度83%、特異度96%
・SLICC2012:感度97%、特異度84%
→ACR1997は“誤診断”が少ない分、“見逃し”が多い
→SLICC2012は“見逃し”が少ない分、“誤診断”が多い
(※ちなみにSLICC2012はUCTD(特定できない結合織病)に対して用いた際に誤診が多い傾向です)
→実臨床ではどちらか一方を使用するのではなく、両方とも使用します
また最近のメタ解析(3)では成人と若年のSLEでACR1997とSLICC2012の感度、特異度が若干異なるようです
成人
・ACR1997:感度89.6%、特異度98.1%
・SLICC2012:感度94.6%、特異度95.5%
若年
・ACR1997:感度84.3%、特異度94.1%
・SLICC2012:感度99.6%、特異度82.0%
→メタ解析の結果だと、成人ではSLICC2012の特異度がACR1997よりも低いものの、上昇していることが驚きです、成人ではSLICC2012単独の使用でも十分有用かもしれません
→一方、若年SLEではACR1997の方が圧倒的に特異度が高いことがわかります、成人と若年のSLEで分類基準を使い分けても良いかもしれません
SLE mimickerを除外し、より真の自己免疫疾患に焦点を当て、さらに若年発症のSLEとSLICCでカバーできない早期のSLEに適応できるように2019年にACRとEULARから新しい分類基準が発表されました。
【ACR/EULAR 2019(4)】
・臨床項目7つと免疫項目3つで合計22項目にそれぞれ点数化されており、合計点数10点以上でSLEと分類する
〈特徴〉
・抗核抗体の陽性(HEp-2細胞に対して少なくとも80倍以上)が必須項目となっている
・発症早期に比較的頻度が高い『発熱』が項目として追加されている
・SLICC2012を踏襲し、腎生検でclass IIIまたはIVであれば診断確定
・感度96.1%、特異度93.4%とSLICC2012公開当初よりも特異度が高くなっている
・ただし、この分類基準もあくまでも『研究目的』であり、診断は常に臨床医の中にあることを意識することが重要
【参考文献】
(1) Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1725. Updating the American College of Rheumatology revised criteria for the classification of systemic lupus erythematosus.
(2) Petri M, et al. Arthritis Rheum 2012; 64 (8): 2677-86. Derivation and validation of the Systemic Lupus International Collaborating Clinics classification criteria for systemic lupus erythematosus.
(3) Hartman EAR, et al. Autoimmun Rev. 2018 Mar;17(3):316-322. Performance of the 2012 Systemic Lupus International Collaborating Clinics classification criteria versus the 1997 American College of Rheumatology classification criteria in adult and juvenile systemic lupus erythematosus. A systematic review and meta-analysis.
(4) Dörner T, et al. Lancet. 2019 Jun 8;393(10188):2344-2358. Novel paradigms in systemic lupus erythematosus.