EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)④~治療と予後~
最後になりましたが、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の治療と予後についてまとめます。
分類基準についてはごちら。
病因・組織病理についてはこちら。
症状と鑑別についてはこちら。
【ポイント】
・EGPAの治療のゴールドスタンダードはグルココルチコイド
・Five factor scoreで重症であればシクロホスファミドを併用することも有効
・寛解導入や寛解維持には免疫抑制薬の併用が重要だが、どの免疫抑制薬を使用するかについては議論の余地が残る
・慢性の残存する末梢神経障害に対してはIVIGが有効
・遺伝的解析により、EGPAの治療は2群に分けられる可能性が示唆されている
・ANCA陽性群ではリツキシマブ(自己抗体を産生するB細胞枯渇療法)、ANCA陰性群ではメポリズマブ(IL-5抑制を介した好酸球抑制療法)が有効
【治療】
・EGPAは稀な疾患で好酸球が関与するなど、独特な特徴があるため、ほとんどのANCA関連血管炎のランダム化比較試験から除外されている
・そのため、EGPAの治療に関して信頼できる根拠は限られており、現在、強力な推奨事項はない
・寛解導入療法には通常グルココルチコイドが使用される
・グルココルチコイドは直接・間接的に好酸球を減少させる
・グルココルチコイドに併用して免疫抑制薬がしばしば使用される
・予後因子としてはFive factor score(FFS)が有名(以下の表)
・FFSが高い重症のEGPAでは寛解導入期にシクロホスファミドを使用すると死亡率が改善するという報告がある
《表:改訂Five Factor Score》
・多くのEGPA患者では寛解導入に成功するが、しばしば再発する事が知られている
・再発予防にもやはり免疫抑制薬が併用されるが、免疫抑制薬の維持療法の有効性については議論の余地が残る
・ある報告ではEGPAのアザチオプリンが維持療法として有効であったとされているが、一方でアザチオプリンが有効でなかったという報告もある
・インターロイキン-5(IL-5)は好酸球活性化に重要なメディエーターだが、それに対する抗体製剤であるメポリズマブは2017年に報告されたMIRRA試験でEGPAにおいて有効性が示された(※しかし、本試験での患者群はANCA陰性のEGPAが主であることに注意するべし)
・本試験でメポリズマブは副作用の観点からも有効性が示されたため、EGPAに承認された
・ただし、メポリズマブ単独またはPSL4mg/日以下では難治性・再発性EGPA患者で持続的寛解に達する事が難しい
・事後調査ではメポリズマブ使用群でPSL7.5mg/日以下で寛解に達する割合(実質臨床的寛解)はメポリズマブ使用群で有意に高かった
・メポリズマブはANCA陰性のEGPAでステロイド減量目的で使用する有効な薬剤として使用されている
・現在他の抗IL-5モノクローナル抗体製剤:reslizumab(臨床試験番号NCT02947945)、抗IL-5受容体モノクローナル抗体:benralizumab(臨床試験番号NCT03010436)が臨床試験に入っている
・B細胞によって産生される病原性自己抗体ANCAの存在もANCA関連血管炎の重要な特徴の一つであるため、抗CD20モノクローナル抗体(B細胞抑制性)であるリツキシマブによるB細胞枯渇療法はMPA、GPAの両方の標準治療として既に確立されている
・後方視的研究ではEGPAにもリツキシマブが有効であるという報告がある
・リツキシマブはANCA陰性のEGPAよりもANCA陽性のEGPAの患者でより効果的であるという
・現在フランスのグループでは2つの無作為化プラセボ対照試験(REOVAS試験[NCT02807103]とMAINRITSEG試験[NCT03164473])が施行中で、シクロホスファミドと比較したリツキシマブの寛解導入療法の有効性、アザチオプリンと比較したリツキシマブの寛解維持療法の有効性を評価している
・その他、IFN-αはTh2に拮抗するが、小規模の研究ではEGPAの寛解導入と寛解維持の両方で有効性を示す報告がある
・しかし、副作用のため、使用は制限される
・抗IgEモノクローナル抗体のオマリズマブはEGPAに時々使用される
・抗IgEモノクローナル抗体はEGPA患者の喘息に有効だが、EGPA自体への影響は不明
・重症EGPAの寛解導入に高用量の静脈内免疫グロブリン療法(IVIG)が有効であるという報告もある
・日本では2010年に難治性のEGPAに対してIVIGが保険適応となった
・日本の報告ではIVIGは慢性の残存する末梢神経障害に有効であったが、サンプルサイズが小さかった(n=23)
・IVIGが神経障害に有効なメカニズムは不明
・GWAS(遺伝子調査)ではANCA陽性と陰性に分けて治療戦略を変える必要がある可能性が示唆された
→ANCA陽性ではリツキシマブ(自己抗体を産生するB細胞枯渇療法)、ANCA陰性ではメポリズマブ(IL-5抑制を介した好酸球抑制療法)が有効
【Outcome】
・グルココルチコイドにより寛解導入によってほとんどの場合、寛解達成は可能であるので、予後は良好
・5年生存率、10年生存率はそれぞれ88-97%、78-89%
・EGPAによる死亡は稀だが、高齢発症、心不全は死亡率の危険因子として知られる
・しかし、ステロイド減量中に再発する事がしばしば報告される
・再発の回数が多いほど、累積する臓器障害が増える
・発症5年後の累積無再発生存率は54-64%
・発症時に好酸球数が低いことが複数の報告で再発のリスクと言われている(機序不明)
・グルココルチコイド減量中に喘息が再発した場合も再発リスクが高いことを示す兆候とみなされる
・気管支喘息による持続的な気道閉塞を除いて、神経障害はEGPA患者の約40%で認められる最も頻度の高い後遺症
・単独の神経障害は生存率に影響を与えないが、身体機能、生活の質を顕著に低下させる
・IVIGが慢性の残存する末梢神経障害に有効である可能性あり
【参考文献】
● Furuta S, et al. Allergol Int. 2019 Jun 29. pii: S1323-8930(19)30081-4. Update on eosinophilic granulomatosis with polyangiitis.