ANCAを測定すべき状況と検査の感度・特異度~2017年国際的コンセンサスステートより~
ANCAの測定方法にはいくつかの方法があり、どの方法を選択すれば良いのか皆さん悩まれるかと思います。また、どのような状況でANCAを測定すべきか悩まれることもあるかもしれません。
ANCA関連血管炎以外でANCAが陽性になる疾患は意外と多いので、むやみに提出する事で誤診に繋がってしまうかもしれません。
そこで本日は、2017年に改訂されたANCA測定に関する国際的コンセンサスステートをご紹介致します。
これは、ヨーロッパの4つの研究所の専門家グループが作成したで、4大陸16人の専門家に、結果を吟味してもらったものです。
- 検査が確立していった歴史
- 間接蛍光抗体法(IIF)とELISA法
- 年代別IIF法とELISA法の精度の推移
- ELSIA法と間接蛍光抗体法の精度の比較
- ANCAの測定についての2017年の推奨事項
- 2020年国際的コンセンサス
まずANCA測定の歴史についてです。検査が誕生していった歴史を見て行くと、どのように検査の精度が上がっていったか分かると思います。
検査が確立していった歴史
●ANCAは1959年に慢性炎症性疾患患者で最初に発見されましたが、1982年に初めて血管炎(特に糸球体腎炎)と好中球の細胞質成分と反応する自己抗体との関連について明らかになりました。
●その後1985年に間接蛍光抗体法(IIF)によってc-ANCA(細胞質染色パターン)が同定されました。後に対応抗原としてPR3が同定されます(1989年)。
●MPOが抗原として同定されたのは1988年でPR3よりも1年早いです。その翌年に間接蛍光抗体法(IIF)でp-ANCA(各周囲染色パターン)と対応されました。
●その後1990年になってから今でも使われているANCA抗体価が分かるELISA法が商業化しました。第1世代のELISAはDirect法というもので、その後、1998年にはCapture法(第2世代)、2007年にAnchor法(第3世代)が誕生し、どんどん精度が上昇していきました。
●ELSIAだけでなく、間接蛍光抗体法(IIF)も2009年にBioChip IIF、2014年にCytobead IIFと改良がなされ、精度が上がっています。
●IIFやELISA以外にもドット・ラインイムノアッセイ、光酵素免疫アッセイ(FEIA)、Addressable Laser-Based イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ(CLIA)などの測定方法が発展していきました。
●ANCAの病原性については2002年にまずはMPO-ANCA、10年遅れて2012年にPR3-ANCAの病原性が証明されました。
●2010年にはEULARが分類基準にANCAを含むことを検討しており、2012年のCHCC(Chapel Hill Consensus Conference)で血管炎の命名法にANCAが用いられるようになりました。
●ANCA測定に関しては1999年に国際的なコンセンサス が出されましたが、この度、2017年に改訂されています。
間接蛍光抗体法(IIF)とELISA法
良く見る測定方法には間接蛍光抗体法(IIF)とELISA法があります。以下に簡単に違いをお示しします。
間接蛍光抗体法(IIF)
●間接蛍光抗体法は抗体の蛍光パターンを直接観察する事で、細胞質が染色されるcytoplasmic pattern(c-ANCA)と核周囲が染色されるperinuclear pattern(p-ANCA)とに分ける方法です。
※https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/search/detail/2300.htmlより引用改変
ELISA法
※Clin Rev Allergy Immunol. 2012 Dec; 43 (3): 211-9.より引用(PMID=22669754)
●先に示した通り、第1世代(Direct法)、第2世代(Capture法)、第3世代(Anchor法)になるにつれて徐々に精度が上昇していきます。
年代別IIF法とELISA法の精度の推移
※Hagen: 1998年(PMID=9507222), Damoiseaux: 2017年(PMID=27481830)
●ここでは年代別に2つのコホート研究における間接蛍光抗体法とELISA法の感度と特異度を示しています。
●Hagenらの1999年代はELISA法に関してはまだ第2世代(Capture法)しかありませんでした。Damoiseauxらの研究が報告された2017年は第3世代(Anchor法)が登場しています。また、間接蛍光抗体法(IIF)に関しても2009年にBioChip IIF、2014年にCytobead IIFと新しい方法が登場しています。
●これを見ると、特異度に関しては2017年になってから間接蛍光抗体法でもELISA法でも上昇している事が分かります。
●新規に診断されたGPAに関しては、間接蛍光抗体法におけるc-ANCAの感度は軽度上昇しておりますが、ELISA法におけるPR3-ANCAの感度は10以上上昇している事が分かります。
●新規に診断されたMPAに関しては、間接蛍光抗体法におけるp-ANCAの感度の大幅な上昇が見られます。またELISA法におけるMPO-ANCAの感度も大幅に上昇している事が分かります。
※まとめると、時代の変遷に伴い、新たな方法が生み出されてから検査の精度がどんどん良くなってきたことが分かります。
では、ELISA法と、間接蛍光抗体法ではどちらが優れた検査でしょうか?
以下にお示しします。
ELSIA法と間接蛍光抗体法の精度の比較
●2016年の多施設EUVUS評価におけるPR3-ANCAとMPO-ANCAのELISA法と、いくつかの間接蛍光抗体法(IIF)のROC曲線の比較が上図です。
●これを見ると、ELISA法は、どの間接蛍光抗体法(IIF)よりROC曲線が左上隅を通っており、感度、特異度が高い事が分かります。(※もちろん両検査毎に患者対象が異なるため、単純比較ができず、この数字も参考値であると考えるべきですが…)
●また、一部の患者ではELISA法はIIFで見逃している抗体を検出する可能性があるのと同時に、その逆もあり得る事に注意が必要です。
ANCAの測定についての2017年の推奨事項
推奨のアルゴリズム
●1999年のコンセンサスでは間接蛍光抗体法とELISA法を組み合わせて検査する方法が理想的で、そうでなくても、まずは間接蛍光抗体法でスクリーニングをしてその後にELISA法でPR3-ANCA、MPO-ANCAを測定する事が推奨されてきました。
●しかし、上述した通り、ELISA法が間接蛍光抗体法よりも感度、特異度とも優れている可能性が示されました。そのため、2017年のANCA測定に関する推奨では、ANCA関連血管炎が疑われる患者では、まずはELISA法によりPR3-ANCA、MPO-ANCAを測定し、それらが陰性で、かつ血管炎が疑わしい場合、またはELISA法で低陽性の場合は、他のPR3-ANCA、MPO-ANCAの測定系または間接蛍光抗体法を行う事が推奨されています。
詳細な推奨文
●上記より、まずはELISA、陰性または低値であれば間接蛍光抗体法を含めた他の測定方法を実施することが推奨されています。
●ANCAの陽性陰性によってANCA関連血管炎は診断も除外もできない事には注意してください!!
ANCA測定が推奨される患者
●上記がANCAを推奨されているANCAを測定すべき状況、患者になります。
2020年国際的コンセンサス
●最後に2020年の国際的コンセンサスの推奨文も記載します。ここでは主に他の疾患の患者でANCAを測定する意義について言及されています。
●他疾患ではELISA法によるMPO-ANCAやPR3-ANCAよりも間接蛍光抗体法によるp-ANCA、c-ANCAの検出率が有意の様です。
→MPO-ANCAやPR3-ANCAは対応抗原がそれぞれMPO、PR3である1つの抗体を示しますが、c-ANCAやp-ANCAは蛍光のパターンがそれぞれ細胞質パターン、各周囲パターンと、直接観察したものであり、該当する抗原、抗体は多数存在します。研究が進めば、それぞれのパターンに合致する新たな抗体などが見つかるかもしれません。
ASCA: 抗Saccharomyces cerevisiae抗体, LoA: 一致レベル
スコア1: まったくそう思わない, 2: そう思わない, 3: 未定, 4: そう思う, 5: 非常にそう思う
【参考文献】
(1) Xavier Bossuyt, et al. Nat Rev Rheumatol. 2017 Nov; 13 (11): 683-692. "Position paper: Revised 2017 international consensus on testing of ANCAs in granulomatosis with polyangiitis and microscopic polyangiitis" PMID=28905856
(2) Sergey Moiseev, et al. Autoimmun Rev . 2020 Sep; 19 (9): 102618. ”2020 international consensus on ANCA testing beyond systemic vasculitis” PMID=32663621