リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

ITPはSLE発症のハイリスクである

 本日ご紹介するのは、免疫性血小板減少減少性紫斑病(ITP)と全身性エリテマトーデス(SLE)の関係について考察した短い論文です。

 

 結論から申し上げますと、ITPはSLE発症のハイリスクであるため、ITPの診断の入り口である血液中の先生とリウマチ内科医が協力しなければならないという事です。

 

 広範に免疫性血小板減少性紫斑病を見たときにどのようにSLEを精査するかについてアルゴリズムがございます。

 

 

 免疫性血小板減少性紫斑病(以下ITP: Immune thrombocytopenic purpura)は、以前は特発性血小板減少性紫斑病(ITP: idiopathic thrombocytopenic purpura)として知られていました。同じITPという略語が少しややこしいです。

 

 ITPは一過性または持続的な血小板数減少と、出血リスク(血小板減少の程度に応じて)が上昇する後天性免疫介在性疾患です。

 

 脾臓濾胞ヘルパーT細胞の異常反応、自己反応性B細胞の分化と増殖と抗血小板自己抗体の産生脾臓でのマクロファージによる貪食(抗原提示細胞としても機能)が主病態です。巨核球に対する免疫反応によって、不適切な骨髄産生も血小板減少に寄与します。一方で巨核球の成長因子である循環トロンボポエチンの低下も見られます。

 

 遺伝子解析ではヘルパーT細胞の活性化と分化、自己抗体反応、補体活性化に関与する遺伝子異常が見られます(PMID=23138397/23303824)。

 

 血小板抗原に対する自己抗体はITPの診断に特徴的ですが、患者の50%にしか検出されないようです。

 

 ほとんどの血小板抗原は細胞内由来で、アクチン細胞骨格と重要な関係があり、アポトーシスを制御するものです(PMID=26628061)。

 

 ITPの病因発生メカニズムは全身性エリテマトーデス(SLE)の発生メカニズムと類似していると考えられます。

 

 実際、血小板減少症はSLEの一般的な臨床症状の一つであり、有病率は20%もあり、血液学的な分類基準にも含まれております。

 

 最近の平均罹病期間が3年未満のSLE患者のコホートでは15.2%の患者に血小板減少が見られ、4.6%の患者で重症(Plt≤20000/μl)であったとの事です(PMID=31704720)。他のコホート(Attikonコホート)ではSLEの診断時12%累積では16%と決して少なくない頻度です(PMID=32106788)。

 

 古い研究ではSLE患者の12%までの患者が最初の診断がITPだったと言います(PMID=9150074)。

 

 平均80か月の追跡調査の結果ではITP患者のSLEの新規発症リスクが25.1倍(本文では26.8倍と書かれておりましたが、元論文は25.1倍でした)と非常に高い値となりました(PMID=32241798)。(その他のSLE新規発症リスクは性別が女性、シェーグレン症候群の合併などがあります)

 

 これらの所見は、ITP患者(特に抗核抗体が陽性の患者)は、ITPの診断後、2~5年以内はSLEの有無を注意深く観察し、リウマチ専門医によって血液学以外の徴候や症状を評価しなければならない事を意味します。

 

 血小板減少症はSLEの予後不良因子である事がいくつかの研究で示されておりますが、SLE(特にループス腎炎)に早期に気が付き、マネジメントする事が重要です(PMID=12393658/16100344)。

 

免疫性血小板減少性紫斑病のマネジメントアルゴリズム

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 小児の慢性ITP患者は小児リウマチ専門医によるルーチンのSLEの評価を受ける事が推奨されます。

 

 ITPとSLEは最初は同じ治療薬(ステロイド)で管理されますが、SLEを意識する事で、難治性のITPで脾臓摘出を遅らせる事ができリツキシマブやIVCY(シクロホスファミド静脈投与)などのSLEの治療を考慮する事が出来ます

 

 ITP患者で抗核抗体が陽性であったり、SLEの分類が不十分(不完全型SLE)の患者はヒドロキシクロロキンによる治療を検討しても良いかもしれません。

→これを調べたフランスの小規模な報告があります(PMID=24254965)。

 

 この研究では抗核抗体が陽性で血小板数が5万未満で初期ステロイド治療に反応しないITP患者28名とSLEとITPを合併した患者12名にヒドロキシクロロキンを投与した所、副作用による中断はなく、40名中24名(60%)に治療効果が得られたとの事です。SLE+ITP患者の方が治療反応は良かったものの(83% vs 50% p<0.05)、抗核抗体が陽性のITP患者でもヒドロキシクロロキンの効果が半分には見られたという貴重な報告でした。

 

 SLEに関連した免疫性血小板減少か、純粋な免疫性血小板減少性紫斑病かは遺伝的背景でわかるかもしれません。

→SLEで特異的なI型インターフェロンplasmablastの遺伝子異常(PMID=27040498/31167757)は純粋な免疫性血小板減少性紫斑病では見られない可能性があります。これは今後の研究に期待です。 

 

【参考文献】

Fanouriakis A, et al. Ann Rheum Dis. 2020 Apr 20. pii: annrheumdis-2020-217356. "Population-based studies in systemic lupus erythematosus: immune thrombocytopenic purpura or 'blood-dominant' lupus?"