リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

混合性結合組織病(MCTD)の新しい診断基準 2019年版

混合性結合組織病 (MCTD)の診断基準が2019年に改訂されていました。

改訂に関わった当院の医局員の先生からのお知らせで知りました。

 

2004年から15年ぶりに改訂になります。混合性結合組織病は日本で主に知られている概念ですので、この純国産の診断基準は知っておきたいところです。

 

簡単に和訳・意訳しておきます。

 

 

2019年版診断基準

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診断
 以下の全てを満たしている場合に混合性結合組織病と診断する

1つ以上1の所見、かつ2の所見、および1つ以上3の所見

1つ以上1の所見、かつ2の所見、および4のA、B、Cのうち2つ以上の所見

 

小児では、1つ以上1の所見、かつ2の所見、および4のA、B、Cのうち1つ以上の所見

 

※抗U1-RNP抗体の測定方法は二重免疫拡散法または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)

※二重免疫拡散法が陽性であり、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)が陰性の場合、二重免疫拡散法の結果を優先する

※無菌性髄膜炎の場合、感染性(ウイルス性)、薬剤誘発性、腫瘍関連などを除外する

※鑑別について不明な点がある場合はリウマチ専門医に相談する。

※なお、以下の抗体が陽性の場合には混合性結合組織病の診断は慎重に行う。

-抗Sm抗体

-抗ds-DNA抗体

-抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)

-抗RNAポリメラーゼIII抗体

-抗ARS抗体→もともとは抗Jo-1抗体だったが、抗ARS抗体に含まれるため変更

-抗MDA5抗体

 

2020年12月時点で、特定疾患の申請は未だに2004年の診断基準のままですので、ご注意下さい!!

 

 

変更点

Major

●肺動脈性高血圧症は一般的症状と見なされていたが、有病率が10~20%であるため、除外された。

●[3]の特異的症状が新設され、[4]の全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎の重複症状がなくても、MCTDと診断できるようになった。

●小児ではなかなか複数所見が揃わないため、[4]の全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎所見のうち2項目以上ではなく、1項目以上でも診断できるようになった。

 

Minor

強皮症様症状

●「肺線維症」を「ILD(間質性肺疾患)」の表記とした。

●「拘束性換気障害(%VC=80%以下)」の項目は削除した。

→呼吸機能検査における拘束性換気障害の感度が低いため。

●「肺拡散能低下(%DLco=70%以下)」の項目は削除した。

一酸化炭素の拡散能の低下は進行してしまった間質性肺疾患、肺動脈性高血圧症を示唆するため。

●手指潰瘍や爪郭毛細血管異常は全身性強皮症の診断において重要な項目であるため、含まれなかった。

 

多発性筋炎・皮膚筋炎様症状

●「多発性筋炎様所見」が「多発性筋炎・皮膚筋炎様所見」に変更となった。

●「CK」の表記を削除し、「筋原性酵素」のみとなった。

→CK以外にも筋原性酵素があるため。

●ゴットロン徴候、ヘリオトロープ疹は皮膚筋炎の特徴的な皮疹であり、本基準の感度の上昇に寄与しなかったため含まれなかった。

 

その他

●「他のリウマチ性疾患に特異性が高い自己抗体が陽性の場合は、診断を慎重に行う事」が追記された。

→他のリウマチ性疾患との合併はこれまで通り否定はしていない。

 

 

改訂後検証

MCTD66例と2008年に厚生労働省MCTD研究委員会が蓄積した51例の独立した検証コホートで新しい診断基準を検証した所、2004年の診断基準を満たさず、2019年の新診断基準を満たす症例が1例のみ存在した。この症例では重複症状がないにも関わらず、特徴的な肺動脈性高血圧症を有していた。

 

感度・特異度

2004年の診断基準では感度88.7%特異度98.4%であったが、

2019年の新診断基準では感度90.6%特異度98.4%であった。

 


作成に至った背景を以下に示します。

 

背景

●MCTDは1972年にSharpらによって全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発筋炎の重複する臨床症状、高力価の抗U1リボ核蛋白質(U1-RNP)抗体を特徴とする疾患として混合性結合組織病が提唱された(PMID=4621694)。

●以前は全身性強皮症のサブタイプと考えられていたが、肺動脈高血圧症、無菌性髄膜炎、三叉神経症などと関連性を持つことから臓器病変の観点から独立した疾患として認識されている。

●1986年にMCTD基準は混合性結合組織病と抗核抗体に関する国際シンポジウムで、日本の厚生省のMCTD研究委員会の代表として、粕川らによって最初に提案された(PMID=10397074)。

●本邦では1993年に厚生労働省から特定疾患に指定された。

●現在、登録患者11,000人が罹患している特定疾患である。

●しかし、欧米では、MCTDの病気の概念が十分に認識されていない場合がある。

●また、長期間経過を見たときに、病態が変化した場合、どの程度までMCTDの概念に含まれるか、SLEとMCTDの重複症状が許容できるかコンセンサスは得られていない。

●今回、1996年と2004年に厚生労働省の研究委員会から発行されたMCTDの診断基準を更新するために、新たな診断基準が作成された。

 

My comments

●MCTDの概念は未だにつかめないところが多く、欧米ではその存在自体を否定するリウマチ膠原病専門医もいるくらいです。

●しかし肺高血圧症や無菌性髄膜炎、三叉神経障害など、特徴的な臓器病変を呈する事もあり、無視はできない概念であるとは思います。ただしこれらの有病率は10~20%程度…

●抗U1-RNP抗体(抗RNP抗体)が陽性でもすぐにMCTDに飛びつかず、上記に示している特異的自己抗体ぐらいは提出して、それらが陽性ならば、各対応疾患を検索する方が良いかもしれません。

●他の疾患とのオーバーラップがあるかについてはなかなか判断が難しく、多彩な症状を呈する場合は、「これはSLEで、これはMCTDが併存している!」などと診断に固執するのではなく、障害されている臓器に着目し、治療戦略をどうするか考える方が良いと思います。

●MCTDの概念が確立されているわけではないため、治療方法を検討した論文が少なく、現時点では各膠原病に準じた治療を行うわけですが、ここでもやはり障害されている臓器が何か、という視点が重要かと思います。

●MCTD自体の予後は、肺高血圧症を覗いてSLEや間質性肺疾患を伴う多発性筋炎・皮膚筋炎よりも良好の様です。

 

【参考文献】

Yoshiya Tanaka, et al. Mod Rheumatol. 2020 Jan 7; 1-5. "2019 Diagnostic criteria for mixed connective tissue disease (MCTD): From the Japan research committee of the ministry of health, labor, and welfare for systemic autoimmune diseases" PMID=31903831