リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

胸や脇に痛い筋が出来る病気~Mondor病ってなに?~

Mondor病ってご存じでしょうか?読み方は”モンドール病”と言い、体表に索状の硬結が出来て痛い稀な疾患です。

 

この索状構造物は、一般的には良性の血栓性静脈炎で、特に治療せずとも、4~8週間で自然に解消します。

 

実は筆者は3回これになっていますが、今日はこの疾患についての論文をご紹介したいと思います。

 

日本人がまとめている良いReviewです。

 

概略

●最初に胸壁の索状の病変を認める症例が報告されたのは1850年代初頭ですが、1939年にフランスの外科医であるHenri Mondor先生が詳細に報告しました。

●その後腹壁、鼠径部、腋窩、陰茎に発症する索状の硬結が次々と報告されました。

●前胸腹壁概則の索状病変が狭義のMondor病とされており、陰茎や腋窩のMondor病は亜型とされています。前者は陰茎Mondor病(PMD)とされ1958年に報告されています。後者はAxillary web syndrome(AWS)として2001年に報告されています。

●一般的に表在静脈の血栓性静脈炎であるとされていますが、リンパ管炎や両者の組み合わせであるという報告もあります(PMID=18211409)。

 

疫学と病因

●稀少疾患であり、有病率は不明です。自然に改善するため、医療機関を受診していない可能性もあります。

●陰茎Mondor病は泌尿器科、胸壁のMondor病は乳腺外科を受診している可能性があります。

●乳腺クリニックの報告では、発生率は0.07-0.96%で、病変は主に片側性であり、男女比は1:9から1:14と女性に多いようです。

 

陰茎Mondor病

●陰茎Mondor病(PMD)の発生率は約1.39%と、痛みを訴えない20~40歳の男性では高リスクであるとされています。

●PMDの危険因子は以下の通り、Virchowの三要素に当てはまることがわかっています(PMID=25962547)。

 精力的な性行為

 真空勃起装置

 陰茎外傷などによる血管壁の損傷

 長時間の勃起(PDE5阻害薬の使用を含む)

 長時間の座位

 膀胱の過緊張などのうっ血

 泌尿器感染症

 前立腺生検

 血液疾患などの過凝固

 

Axillary web syndrome(AWS)

AWSに関する報告では、この疾患の発生率は手術の複雑さに伴って増加することが強調されており、例えばセンチネルリンパ節生検では6~20%、腋窩完全郭清では72%の発生率となっています(PMID=19841418)。

●ある前向きコホート研究では、術後7日目までに66.1%、180日目までに90.9%の患者に硬結が認められたと報告されています。約80%の病変は腋窩にあり、70%は触知可能でしたが、残りは超音波検査で確認されました(PMID=29045263)。

AWSの危険因子は以下の通り

 進行期乳癌

 大規模な手術(乳房切除術または腋窩リンパ節郭清)(PMID=28961070)

 若年

 低BMI

 高血圧(PMID=29045263)

 アフリカ系アメリカ人の民族性

 治癒に伴う合併症(PMID=25682072)

●スカッシュをする男性のAWSも報告されており、スポーツも診断に寄与しているかもしれません(PMID=28065989)。

 

●病因は、以下の表にまとめられており、特発性が一番多いようです。次に外傷性(過度の身体活動とタイトなブラジャーを含む)医原性(胸部外科手術、放射線、ホルモン療法を含む)が続きます。5%が乳癌とのことです。

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病態生理学

●最近開発された免疫組織化学的マーカーの応用により、ほとんどすべてのモンドール病は表在静脈の血栓性静脈炎であることが明らかになりましたが、中にはリンパ管炎によるものもあったようです(PMID=18211409)。

●リンパ管のマーカーであるヒトリンパ管内皮ヒアルロナン受容体-1(LYVE-1)に対するポリクローナル抗体と、従来の血管のマーカーであるvon Willebrand factor抗体の組み合わせは、これら2つの血管を明確に区別することができるようです。

●さらに、PMDと臨床的に同一の陰茎硬化性リンパ管炎は、CD31およびCD34に対するモノクローナル抗体を用いて、ほとんどの症例で血栓性静脈炎であることが判明したようです(PMID=16326851)。

AWSの病態生理は確立されていません。もともとは血栓性静脈とリンパ管の合併であると報告されていました(PMID=11448437)。

●表在性筋膜を伴うリンパ系の病態である、とする著者もいれば(PMID=19601943)、超音波所見から微小リンパ系のうっ血や間質空間でのフィブリンなどの蛋白質の結合である、と主張する著者もいます(PMID=25915976)。

●免疫組織化学的手法によるAWSの詳細な解析はまだ報告されていません。

●静脈炎の進行には、MDの発症のいくつかの病態生理学的段階が含まれています。

●初期段階では、患部静脈に血栓性イベントが発生し、その結果、内腔はしばしばフィブリンと炎症性細胞で閉塞します。その後、血管内に集まった結合組織が硬く索状の硬結を形成します。再灌流するまで数週間進行します(PMID=19575733)。

 

症候学

●MD病変は閉塞した皮下血管で構成されているため、急性に生じた索状の触知可能な硬結が唯一の臨床症状です。

●皮膚は十分な弾力性を示し、炎症性の変化は限られています。

●表在静脈のネットワークが垂直に発達しているため、陥凹は一般的に、前側胸腹部壁に縦方向に現れます(PMID=19575733)。

●そのため、豊胸手術の際の横方向の外科的切開やタイトなブラジャーの着用は、この静脈ネットワークシステムに影響を与え、結果として乳腺下層に硬結が生じることがあります(PMID=18626336)。

●PMDでは、腹壁の表在静脈系の下側部分が関与しているために、陰茎の背側背外側に硬結が生じます(PMID=11168662)。

●また、円周静脈も侵されることがあり、これは非定型PMDの症例であると主張する著者もいるようです(PMID=24867818)。

AWSでは、軸方向の手術痕の遠位部に硬結が生じ、上腕部中位から親指の付け根までの任意の長さに及ぶことがあります。約40%に肩関節外転の制限を伴う痛みがみられました。

●Mondor病患者の中には、疼痛、圧迫感、紅斑性皮膚変化、発熱、運動時の不快感を訴える患者もいます。また、特に陰茎に病変が発生した場合には、見慣れない外観のために不安を覚える患者もいます。

●巨細胞性動脈炎や他の血管炎などの基礎疾患に続発してMondor病が発生した場合、高熱や倦怠感などの併発症状が現れることがあります(PMID=9890866)。

 

診断

●診断は問診と身体所見で出来ます。硬結を訴える事がほとんどです。

●身体所見では数cmの硬結を触れる索状物が特徴的な所見です。

●診断後、Mondor病が一次性か二次性かを判断する必要があります。以下に二次性のMondor病の鑑別をお示しします。

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●もちろん全ての検索をする必要はなく、疑わしい場合に限り、追加で凝固検査や抗体検査を行います。※無駄な検査はやめましょう!!

 

●超音波で血栓性静脈炎を確認したり、胸壁Mondor病の場合はマンモグラフィーで乳癌を除外する必要があります。MRAも場合によっては有用です。

●生検は診断にも鑑別疾患の除外にも有用ですが、侵襲性があるため、悪性腫瘍や血管炎が疑わしい場合や、4~8週間で自然に改善しない場合に考慮します。

 

マネジメント

●基本的には自然に改善しますが、痛みが強い場合はNSAIDsを使用します。

●重度の疼痛の場合は外科的治療も考慮されます。

●抗凝固療法の有効性についてはまだ議論の余地があります。

●Mondor病自体が予後に影響を及ぼす事はありませんが、二次性の場合、背景疾患が予後を規定します。

●男性でも乳癌と関連する場合があるので注意が必要です。

●Mondor病は乳癌が小さい場合でも起こる事があるのでこちらも注意が必要です。

●PMDの場合、性行為の禁止、ヘパリン軟膏、NSAIDsなどを考慮します。それでも改善しない場合は超音波検査や生検、さらには抗凝固療法を検討します。

AWSに対しては、物理療法、可動域運動、NSAIDsなどの保存的な方法が一般的に採用されていますが、これらの方法では症状は解消されるかもしれませんが、治癒までの期間を短縮することはできません。

●しかし、2009年に「manual axial distraction」と呼ばれる方法が、効果的で非侵襲的であると報告されました(PMID=19601943)。この方法では、施術者は、索状物が裂けるまで、線維性帯上の様々な点で強い圧力を加えるというものです。

●30人のAWS患者のうち、25人(83.3%)が最初の施術で治療に成功し、残りの5人の患者は3回目の試験で治療が完了したと言います。

●すべての患者が血腫や皮膚損傷を伴わずに完全な治療を達成したとのことです。

●より重症の症例では、経皮的に針による索状物の切断と脂肪移植が代替療法としていくつかの研究で提案されています(PMID=27070684)。

 

予後

 ●長期的な予後はまだ報告されていませんが、以前の研究では、胸壁Mondor病患者4人がほぼ3年間再発することなく良好な臨床経過を示した。しかし、別の研究では胸部MD患者23人中3人が9年間再発し続けたと報告されています(PMID=22377612)。

●PMD患者の中で慢性疼痛や持続勃起症を経験する患者はごくわずかであり、ほとんどの患者は完治します(PMID=20579824)。

●Mondor病と他の表在性血栓性静脈炎との関係は不明ですが、Mondor病の病変は、全身性血栓性静脈炎の初期症状と考えられています(PMID=17544957)。したがって、二次性Mondor病の予後は、基礎疾患の予後に依存します。 


【参考文献】

Masayuki Amano, Taro Shimizu. Intern Med. 2018 Sep 15; 57 (18): 2607-2612. ”Mondor's Disease: A Review of the Literature” PMID=29780120