リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

関節リウマチってどのくらい治るの?~IORRA cohort 2020~

 たまに患者さんから『関節リウマチはどのくらい治るんですか』と聞かれる事があります。この寛解に関して、海外からは様々なコホート研究の結果が出されておりますが、日本人には日本のデータを示した方が良いといつも思っています。

 

 東京女子医大が運営しているIORRA cohortというものがあり、定期的に関節リウマチの治療や疾患活動性、寛解達成率のデータを出して頂いています。

 

 直近では2020年に過去20年分のデータをまとめてくれています。単施設という制限こそありますが、関節リウマチ患者さんの登録数が6000人と、日本の関節リウマチ患者の約1%を占めるビッグデータになりますので、参考になるかと思います。

 

 

薬剤使用と疾患活動性・寛解達成率の推移

早速結果ですが、以下の通りです。

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左図は使用する薬剤の推移を見ています。

 

2003年に生物学的製剤が出現してから急激に使用頻度が増えている事が分かります。また、第一選択薬であるメトトレキサーも同様に80%近くまで処方されている事が分かります。

 

他の従来のDMARDsは横ばいからやや低下傾向ですが、NSAIDsステロイドの使用頻度が低下してきていることが分かります。これは状態の改善に伴い、疼痛や抗炎症の必要性がなくなったためと考えられます。

 

しかし、欧州リウマチ学会の推奨では3か月以内、米国リウマチ学会では推奨されていないステロイドの使用が未だに3割近くある事が非常に残念です。もちろん、横断的な観察なので、その時に初発だったり、たまたま悪化して薬剤変更した際にステロイドを短期的に併用した可能性は否定できません。

 

右の図はDASという疾患活動性の指標を用いた時の疾患活動性と寛解の達成率の推移を示したものです。

 

DASは別の疾患活動性の指標であるSDAIやCDAIと比べると、寛解の割合が多くなりやすく逆に低疾患活動性の割合は少なくなる傾向があります(PMID=31475852)が、今回は経時的に同じ指標の変化を見ているので、大きな問題はないかと思います。

 

これをみると近年は、半数以上の関節リウマチ患者で寛解が達成できている事がわかります(55.9%)。また低疾患活動性20.5%と、両者を合わせると75%以上の方が臨床的に改善している事が分かります。

 

もちろん、多くの場合は薬剤を使用しながら寛解になっている訳ですが、これは決して悪い数字ではないと思います。

 

『関節リウマチは症状がコントロール出来て当たり前』の時代が来れば良いなと思います。

 

寛解達成回数と身体機能障害の進行率

関節リウマチの寛解の指標はSDAICDAI、さらにはBooleanがあります。Boolean寛解基準はさらに臨床用(Boolean practice)臨床試験用(Boolean trial)があります。

 

今回の研究では、2008年から2010年の間の2.5年の経過中に全6回、関節リウマチの疾患活動性の評価が行われておりますが、その時にこれらの基準で寛解』を達成していた回数身体機能障害スコア(J-HAQ)の進行の関係についても言及しています。

 

結果は以下になります。

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一番左の『N』は寛解を達成した回数です。横に各寛解基準が列挙されており、それぞれの基準で寛解を達成した回数ごとに、身体機能障害スコア(J-HAQ)の進行に対するオッズ比が示されています。

 

これが低ければ低いほど身体機能障害は進行しにくいと言えるわけです。

 

さて、寛解が1回ではDAS28を除き(データなし)、各寛解基準の身体機能障害スコア進行に対するオッズ比が0.5を超えている事が分かります。

 

これはつまり、経過中にBoolean trialの寛解基準を1回だけ達成した場合では身体機能障害が54%進行する可能性があるという事です。一方でSDAIを1回達成しただけでは、98%の方が身体機能障害が進行する可能性があります。

 

しかし、いずれの基準でも寛解を達成する回数が増えるほど身体機能障害の進行する確率が下がっている事が分かります。

 

6回の評価期間の時に全部寛解を達成していた場合、身体機能障害が進行するのは7~15%しかありません。

 

つまりは、寛解が達成できていればいるほど、身体機能障害が進行しにくい可能性があるという事になります。

 

身体機能障害スコアだけでなく、骨びらんの進行を含めたその他の指標との関係性も気になりますし、やや力業で出したデータのような気がしなくもないですが、これはこれで重要な情報ではないかと思います。

 

その他

このコホートから以下のように様々な研究が派生しています。

 

●生物学的製剤よる寛解を達成した後、コルチコステロイドまたはメトトレキサートの漸減が一般的に可能(PMID=28880684)。

●併存疾患は治療選択に影響を与え、不良の転帰、疾患活動性の増加、身体機能障害の進行をもたらす(PMID=25073613)。

●関節リウマチ患者の死因の最多は心血管疾患だが、生物学的製剤使用患者では悪性腫瘍、呼吸器感染症、間質性肺疾患が最多(PMID=20476859)。

→ただし、関節リウマチ患者の死亡率は一般人口と同等(PMID=23073692)

●登録されたRA患者の14%が5年間に骨折を起こした。女性は男性よりも有意に高い割合で複数の骨折を経験した。10年間にわたる非椎体骨折の発生率は、女性の年齢とともに急激に増加し、椎骨骨折の約3倍の頻度で発生した。年齢は椎骨および大腿骨近位端の骨折の頻度の増加と強く関連していた(PMID=22801953)。

●女性の75%と男性の56%でビタミンD欠乏症(血清25-OH VitD<20 ng/mL)を示し、骨粗鬆症と女性の性別、若年、身体障害、経口プレドニゾロンの使用との間に有意な相関関係がある(PMID=23423442)。

●関節リウマチの治療に関わる治療費はDAS28で評価される疾患活動性の悪化、J-HAQ-DIで評価される身体障害の増加、EQ-5Dで評価される生活の質の低下に関連している(PMID=22878927)。

→不十分なRA治療がより高い治療費と関連する傾向がある。

 

【参考文献】

Hisashi Yamanaka, et al. Mod Rheumatol. 2020 Jan; 30 (1): 1-6. "A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today's treatment options" PMID=31475852