リウマチ性多発筋痛症の診療アルゴリズム
リウマチ性多発筋痛症(PMR)のガイドラインとしてEULARの2015年の治療ガイドライン(1)が有名ですが、残念ながらステロイドの用量など、日本人にそのまま当てはめられない部分もありました。
そこで、独断と偏見ではございますが、日本人向けの治療アルゴリズムを作成してみました。実臨床での応用については個々人の責任でお願いしたいですが、少しでも参考にしてなれば幸いです。
PMR治療アルゴリズム
アルゴリズムの概要と要点
本アルゴリズムは非専門医の一般内科外来を想定しております。エコーなどのアクセスが不十分、エコー操作に熟練した技師がいない、所見の評価に自信がない場合に、症状や身体所見に頼ったアルゴリズムとしております。
要点は以下になります。
⓪PMRの診断→基本は症状、身体所見で行う(エコーは診断に寄与しない)。
①PMR診断前→PMRらしさを高める。非典型的PMRを無理にPMRと診断しない。
特にEORA(末梢関節炎の有無)、偽痛風、IE、傍腫瘍症候群を除外する
②PMR診断直後→頭蓋型GCA合併の有無を評価
④再燃時→ステロイドを2段階前へ戻す。減量速度 or 減量量を減らす or MTX追加。
常にGCA、EORA、悪性腫瘍合併の可能性を想起。
※悪性腫瘍の精査については『悪性腫瘍を合併したPMR』なのか『傍腫瘍症候群として生じた非典型的PMR』で精査への姿勢が少し変わります(以下参照)。
悪性腫瘍の精査をどこまでやるか?
●『PMRの悪性腫瘍合併と悪性腫瘍の傍腫瘍症候群としての非典型的PMR時で精査の重み付けが異なる』という意見があります。
●PMRの悪性腫瘍合併に関しては、GCA/PMRで合わせてリスク比1.14 (95% CI: 1.05-1.22)。診断後6~12か月以内に限るとRR 2.16 (95% CI: 1.85-2.53)になります(PMID=25074657)。
→全体で14%のリスク上昇と考えられますが、これはGCAと合わせてなのでPMR単独のリスクは分かりません。
●日本からのコホート研究では組み入れられているPMR患者全体の悪性腫瘍の合併率はおよそ11~20%です(2)(4)。
●一方PMRの好発年齢である日本人70代の生涯癌罹患率は男性31.7%、女性15.4%と言われています(5)。
●PMRだから悪性腫瘍の合併が多い、というよりも年齢の影響が大きい可能性があり、そんなに踏み込んだ全身検査をしなくても、年齢に応じた悪性腫瘍のスクリーニングで良いかもしれません。
●ちなみに罹患率が高い癌は以下の通り(2017年時点)(5)。
男性:1位 前立腺 2位 胃 3位 大腸 4位 肺 5位 肝臓
女性:1位 乳房 2位 大腸 3位 肺 4位 胃 5位 子宮
●一方、『傍腫瘍症候群として非典型的PMR』 を呈する場合は、背景に悪性腫瘍がある事が大前提です。
●傍腫瘍症候群を想定しているのに悪性腫瘍の精査をしないという事はあり得ません。
●『PMRの悪性腫瘍合併と悪性腫瘍の傍腫瘍症候群としての非典型的PMRの時で精査の重み付けが異なる』という意見もありますので、傍腫瘍症候群を疑うの際には、PMRに合併した悪性腫瘍よりも積極的に踏み込んだ精査をするべきかもしれません(自論)。
ステロイドの副作用対策
●PMRで使用するステロイド量は決して多くはありませんが、罹患年齢が高いためか、出る頻度が高い副作用があります。
●骨粗鬆症、白内障などは必発と考えて対策をしましょう。これらは年齢のため治療開始前から存在する可能性もありますので、初めにしっかりと評価しましょう。
●また若年と比較して血圧の変動や耐糖能異常も頻回に見られます。ステロイドの減量だけでなく、生活習慣病のチェックをお忘れなく。
●不眠もしばしば見られますが、高齢であるために安易なベンゾジアゼピン系睡眠薬の導入は控えるべきです。
→代替薬としてラメルテオン(ロゼレム)やスボレキサント(ベルソムラ)が比較的安全と日本老年学会からガイドラインで推奨されておりますが、日本睡眠学会はそれに異を唱えております(6)。個人的には上記薬剤は依存なく安全に使用できる実感があります。
言葉の定義
※1. 典型的PMR
●65歳以上:欧米では50歳以上とされているが、日本のコホート(2)~(4)では平均70代
●突然発症:ドイツでは『魔女の一撃』と表現される。
●両側肩痛+両側臀部の疼痛
●肩関節可動域制限:60~120度(Rotator cuffの使用領域)で疼痛のため可動域制限あり。
●朝のこわばり45分以上:夜間の炎症を示唆する。
●不眠・うつ症状:夜間の疼痛のため。
●炎症マーカー高値:CRPが陰性のPMRは1.5%程度(PMID=30649507)
※2. PMR非典型的
●50歳未満
●左右非対称:初期はPMRでも片側は可だが、継続して片側の場合は非典型。
●高熱:38度以上が持続する場合。
●炎症マーカー:正常または低値。
※3. 頭蓋血管症状
●頭痛、頭皮痛(前髪をかき分けただけで痛い)
●眼症状:一過性黒内障、複視、視力消失
●顎跛行(食事中に顎が疲れてくる)
(●咽頭痛)
→これらの症状がある場合はCranial GCAを疑う。
※4. 全身症状
●発熱:38度までが多い、40度を超す高熱は稀
●盗汗:夜間の発熱を示唆
●体重減少
●四肢跛行
●血圧左右差
(●食思不振:PMRで認めても良い)
●貧血、血小板増多症
※5. PMR mimicker
特に以下が重要
●EORA→末梢関節炎の有無を関節エコーなどで検索する。
●偽痛風→両側手関節・両側膝関節・恥骨結合のX線に、両肩・股関節X線を加える。
●感染性心内膜炎→塞栓症状、心雑音などの身体所見、血液培養採取。
●傍腫瘍症候群→『悪性腫瘍の精査をどこまでやるか?』参照。
PMRの鑑別疾患についてはこちらをどうぞ
※6. 初期反応良好
●EULARのガイドラインではPSL12.5~25mgで開始することが推奨されているが、体重が低い日本人ではより少ない量で十分と考えるため、10~20mgとした。体重に応じて用量を調整するのであれば、0.3mg/kgが至適量であると考える(自論)。
●EULARのガイドラインでは初期反応は2週間以内と言われている(1)が、実際は数日以内に反応する事が多い(PMID=23240123)。
●1週間経過した時点で症状が半分以上軽快していない場合は反応不良と考える(自論)。
→だいたい次の外来が1週間後とすると、ほとんどの患者が著明に改善しているため。
●CRPの1か月以内の改善が寛解維持を予測するという日本からのコホートもある(3)
※7. 初期反応不良の場合
●欧米のガイドラインでは初期反応不良の際にはPSL25mgまで増量する事が提案されている(1)が、これは欧米人の用量で、体重が低い日本人に当てはめると、PSL0.5mg/kg相当になる場合もある。
→軽症巨細胞性動脈炎でも反応してしまう量であるため筆者は個人的には推奨しない。
●むしろ、初期反応不良の際には改めて頭蓋型GCAや大血管型GCAの精査を検討する。
●また、典型的なPMRだとしても、初期治療反応不良の際は悪性腫瘍による傍腫瘍症候群を疑う。
●EORAや偽痛風をこの際に考慮しなくても良いか、という疑問が生じるだろうが、いずれの疾患でも15mg程度のPSLに良く反応する事が多いため、初期不良時にこれらの疾患を考慮する必要はない(自論)。
ステロイドの減量速度
●EULAR recommendationでは4~8週以内に10mgへ減量する事が推奨されている(1)。
●従って20mgで開始となった場合は、減量速度以下の通りとなる。
・15mgまで: 5mgずつ2週間毎
・10mgまで: 2.5mgずつ2週間毎
・以降: 1mg/monthで中止まで
●CRPの微増の際は、無症状でも無理に減量せずに次の機会に回す(自論)。
※8. 治療経過中に再燃した場合
●CRPの軽度の変動だけでは再燃としない。他のあらゆる状況の影響を受けるため。
●CRP陰性でも発症時と同じ症状の場合は、再燃を疑う。
治療
●2段階前のステロイド量に戻す。
●0mgまで減量中止した際に再燃した場合はもう一度PSL3~5mgまで増量してから仕切り直す。
●活動性が高くQOLが著しく障害される場合、1週間程度PSL10~15mgまで増量し、その後、2段階前のステロイド量に戻しても良い。
●再寛解に至った場合、次の選択を考慮する。
①ステロイド減量スピードを緩める(1mg/monthを1mg/2 monthsにするなど)。
②ステロイド減量量を減らす(1mg/monthを0.5mg/monthにするなど)。
③メトトレキサート(上限10mg/週)を併用する。
精査
●可能ならばGCA、EORA、PMRに合併した悪性腫瘍の精査を行う。
●PMRに合併した悪性腫瘍の精査に関しては『悪性腫瘍の精査をどこまでやるか?』参照。
改訂記録
改訂#1. 2021-01-23 『初期反応良好』『治療経過中に再燃した場合』追記
改訂#2. 2021-01-24 『悪性腫瘍の精査をどこまでやるか?』追記
『メトトレキサートの用量』追記
『ステロイドの副作用対策』追記
改訂#3. 2021-01-25 日本からのPMRコホート研究での悪性腫瘍の合併率の数字変更
改訂#4. 2021-03-24 アルゴリズムの追加・編集
【参考文献】
(1) Christian Dejaco, et al. Ann Rheum Dis. 2015 Oct; 74 (10): 1799-807. ”2015 Recommendations for the management of polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative” PMID=26359488
→PMRのEULAR Recommendation 2015
(2) Soshi Okazaki, et al. Tohoku J Exp Med. 2020 Jun;251 (2): 125-133. "High Relapse Rate in Patients with Polymyalgia Rheumatica despite the Combination of Immunosuppressants and Prednisolone: A Single Center Experience of 89 patients" PMID=32581186
→PMRの再燃率について研究した日本のコホート
(3) Kyosuke Hattori, et al. Int J Rheum Dis. 2020 Nov; 23 (11): 1581-1586. "Predictors of glucocorticoid-free remission in patients with polymyalgia rheumatica treated with prednisolone" PMID=32996694
→1か月以内にCRPが正常化する事が寛解維持を予測するという日本のコホート
(4) Tohru Michitsuji, et al. Mod Rheumatol. 2019 Nov; 29 (6): 1013-1016. "Swollen joints and peripheral arthritis are signs of malignancy in polymyalgia rheumatica" PMID=30334628
→末梢関節炎が悪性腫瘍の合併を示唆するという日本のコホート
(5) 国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html