リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

RFや抗CCP抗体の陰性化は関節リウマチの寛解指標になるか?

 関節リウマチの診断にRFや抗CCP抗体が有用であることは周知の事実だと思いますが、一昔前まで、RFや抗CCP抗体などの抗体が陰性化する事で、寛解に達する事が出来ると考えられておりました。

 

 そのため、治療経過の中で、値をずっと測定している先生や、値が気になる患者さんは少なくありませんでした。

 

 今回、ご紹介するのは、この『RFと抗CCP抗体』が本当に関節リウマチの寛解の指標になるか、というとても重要な疑問に答えてくれる論文です。

 

 内容をわかりやすくするために並び替えております。時間がない方は、『My Comments』『Result』の順番で読んで頂ければ幸いです。

 

 

My Comments

●今回の研究では、結論から申し上げますと、免疫抑制薬(DMARDs)フリー寛解を達成した患者では、陽性だったRFや抗CCP抗体が陰性化したのは1-2割という結果でした。

●抗体別では、抗CCP抗体よりもRFの方が陰性化しやすいという結果は、臨床的な感覚と一致していました。RFは陰性化しなくても値が低下すればするほど、持続寛解達成率が上がる事も分かりました。

●陰性化する人はもともと抗体価が低い、特にカットオフ値をギリギリ超えている様な人が、持続寛解を達成した時に陰性化しやすいという傾向がある事も分かりました。

●これらの結果からは関節リウマチの寛解の基準に、もはやRFや抗CCP抗体の陰性化を確認しなくても良いという事が言えるのではないでしょうか。RFは場合(ギリギリ陽性の場合)によっては確認しても良いかもしれませんが、それでも持続寛解達成時の陰性化率は20%程度…

●なので現時点では、『RFや抗CCP抗体が陰性化しなくても持続寛解が達成できる』『RFがカットオフ値よりギリギリ高い患者では持続寛解達成後、陰性化する確率が少し高い』くらいの事しか言えないのではないでしょうか。これでも拡大解釈の可能性がありますが…

●別の注意点は、オランダからの論文であり、使用しているRFや抗CCP抗体検査キットが日本と基準値が異なる点です。

●意外と参考になったのが、疾患のタイムコースです。Figure2に示されておりますが、およそ、DMARDsフリー寛解に達しているのが治療開始後から4年弱です。という事は少なくともこのくらい長く免疫抑制薬を使用している患者では、症状が安定していたら、DMARDsを中止する事も検討して良いと考えます。

●疾患の初期に陽性になると考えられている抗CCP2 IgM抗体が寛解維持後も陽性持続している事にはびっくりです。疾患活動性が続いているのでしょうか。

 

Results

Patient characteristics

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● DMARDsフリー寛解を達成した群では抗CCP抗体の陽性率が少ない事を除いて、患者群に差はなかった。

 

抗CCP2 IgG抗体とRF(IgM)の陰性化と寛解達成率の関係

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●RF(IgM)と抗CCP2 IgG抗体の推移を示したのが上記の図である。

●グレーの部分がそれぞれの抗体の陰性範囲であるが、RFも抗CCP2 IgG抗体も、寛解が続いた群、再発した群、寛解しなかった群でそれほど陰性化していない事が分かる。

 

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●DMARDsフリー寛解持続群で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したのは13%しかいなかった。

●再発群、関節リウマチ活動性持続群で抗CCP2 IgG 抗体が陰性化したのはそれぞれ8%、6%であったが、寛解持続群と有意な差はなかった(p=0.63)。

 ●抗CCP2 IgG抗体が陰性化した患者は初診時の平均抗体価が陰転化しなかった患者と比べて有意に低かった(42 vs 420 AU/ml p<0.001)。

●抗CCP2 IgG抗体が陰性化した患者は、陰性化しなかった患者と比較して生物学的製剤の使用率は有意差がなかった(33% vs 32% p=1.00)。

●RF(IgM)についても同様の結果で、DMARDsフリー寛解持続群でRF(IgM)が陰性化したのは20%、再発群、関節リウマチ活動性持続群でそれぞれ6%、15%で有意差なし(p=0.44)。

 ●RF(IgM)が陰性化した患者は初診時の平均価が陰転化しなかった患者と比べて有意に低かった(19 vs 53 IU/ml p=0.003)。

 

RF(IgM)と抗CCP2 IgG抗体の低下率

●抗CCP2 IgG抗体の変化率はDMARDsフリー寛解の達成と関連しなかった(p=0.66)が、RF(IgM)の低下率はDMARDsフリー寛解の達成と関連した(p<0.001)

●RF(IgM)が10-unit低下する度にDMARDsフリー寛解の達成率が16%上昇した。

→RF(IgM)の陰性化はDMARDsフリー寛解の達成には関係しませんでしたが、低下する度に寛解達成率が上がるようです。

 

抗CCP2 IgM抗体と寛解達成率の関係

●抗CCP2 IgG抗体陽性患者の内、25~29%が抗CCP2 IgM抗体陽性となっている。

→この抗体は一般的ではありませんが、関節リウマチの初期(免疫応答の初期)に出てくると言われている抗体です。

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寛解持続群、再発群、活動性持続群の3群でフォローアップ中に抗CCP2 IgM抗体がどのような変化をしたかを示した図である。

 

●抗CCP2 IgG抗体と抗CCP2 IgM抗体陽性患者の31%がDMARDsフリー寛解を達成した後に抗CCP2 IgM抗体が陰性化した。

→上記の図は正直分かりづらいです。本文と言っている事が違って、何故か抗CCP2 IgG抗体の割合が出ています。

●再発群、活動性持続群ではそれぞれ、100%、60%が抗CCP2 IgM抗体が陰性化した。

寛解持続がが抗CCP2 IgM抗体の陰性化とは関係しなかった。

 

早期治療と自己抗体陰性化の関係

●早期に治療したことが抗体の陰性化に関係するかを調べるために治療までの期間が12週以内と12週以上経過した群で比較した。

●治療までの期間が12週未満の患者で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したのは10%で、12週以上経過した患者で陰性化したのは15%であり、有意差はなかった(p=1.00)。

●RF(IgM)についても同じ結果で、治療開始までの期間が12週未満、12週以降でそれぞれ25%、18%が陰性化した(p=0.54)。

●早期治療と抗体の陰性化は関係しなかった。

 

自己抗体陽性数と陰性化の関係

●抗CCP2 IgG抗体が陽性の患者の中で、RFと抗CCP2 IgG抗体の両方が陽性であった患者で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したのは7%、抗CCP2 IgG抗体のみ陽性だった患者で陰性化したのは23%で、抗体陽性数が少ないと、陰性化する傾向は見られたが、有意差はなかった(p=0.12)。

●RF(IgM)が陽性の患者の中で、RFと抗CCP2 IgG抗体の両方が陽性であった患者でRF(IgM)が陰性化したのは6%、RF(IgM)のみ陽性だった患者で陰性化したのは34%で、RF陽性患者の場合は、自己抗体が陽性数が少ないほど、有意に陰性化する事が分かった(p<0.001)。

→RF単独陽性患者はRFと抗CCP抗体陽性患者よりも寛解が持続しやすいかもしれない。

 

4.2年以上の長期フォローの患者

●抗CCP2 IgG抗体が陽性の寛解持続患者では6%で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したが、同抗体が陽性の再発患者、活動性持続患者ではそれぞれ8%、6%が陰性化しており、有意差はなかった(p=1.00)。

●RF(IgM)が陽性の寛解持続患者では16%でRF(IgM)が陰性化したが、同抗体が陽性の再発患者、活動性持続患者ではそれぞれ6%、15%が陰性化しており、有意差はなかった(p=0.78)。

 

RF(IgM)のカットオフ値と33 IU/mlした場合

寛解持続患者、再発患者、活動性持続患者でRF(IgM)の陰性化率に特に有意な差はなかった(p=0.86)。

 

 ●抗CCP2 IgG抗体が陽性の患者の中で、RFと抗CCP2 IgG抗体の両方が陽性であった患者で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したのは6%、抗CCP2 IgG抗体のみ陽性だった患者で陰性化したのは16%で、有意差はなかった(p=0.27)。

 ●RF(IgM)が陽性の患者の中で、RFと抗CCP2 IgG抗体の両方が陽性であった患者で抗CCP2 IgG抗体が陰性化したのは37%、RF(IgM)のみ陽性だった患者で陰性化したのは35%で、有意差はなかった(p=1.00)。

→RFのカットオフ値を変えても、寛解持続患者で陰性化率は再発患者、活動性持続患者と比べて低い訳ではなかった。

 

Methods

Patients

●抗CCP抗体またはRFが陽性の関節リウマチ患者の転帰を調査するために、Leiden Early Arthritis Clinic cohortから臨床的に関節リウマチの確定診断を受け、症状の持続期間が2年以内の患者をエントリー。

●1993年から2014年までで3473名の患者が含められ、1586名の患者が関節リウマチの臨床診断を受け、フォローの1年以内に1987年と2010年の関節リウマチの分類基準を満たした。

●941名の患者で抗CCP抗体またはRFがベースラインで陽性であった。

●抗CCP抗体またはRF陽性の関節リウマチ患者941名はおよそ以下の3群に分類(図1)。

 

①関節リウマチ活動性持続群:824名

→この中で、45名を関節リウマチ持続群として解析した。

②DMARDsフリー寛解後(1年以上)再発群:21名

→これらの患者は、DMARDs中止後1年以上臨床的滑膜炎が認められなかったため、当初はDMARDsフリー寛解状態であったが、滑膜炎が再発し、残りの経過観察期間中にDMARDsの再投与が必要となった。

→滑膜炎再発前にDMARDsを使わずに寛解していた期間の中央値は2.2年であった。

③DMARDsフリー寛解持続群:95名

 

●DMARDsフリーの定義は、全てのDMARDs(生物製剤、全身性・関節内ステロイドを含む)の中止後、少なくとも1年間、身体所見で滑膜炎がない事。

●全フォロー期間の中央値は10年。

 

図1

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●ベースラインで患者とリウマチ科医は質問票に答え、患者は血液検査を受けた。

●血液検査は3~4か月、6~8か月、12か月、18か月、24か月、その後は1年毎の時の外来受診の際に採取された。

 

●注意点は治療は年代ごとに変化しており、1993~1995年まではNSAIDs、1996~1998年は軽度のDMARDs(ヒドロキシクロロキンまたはスルファサラジン)、1999年以降はメトトレキサートが主流であった事。

●これらの治療が効果不十分の時は他のcsDMARDsが開始または追加された。

●生物学的製剤は2剤以上のcsDMARDsが無効の時に使用された。治療の内訳は(表1)。

●また、2005年以降、DAS44(Disease activity score)を用いた治療が一般的となり、DAS44が2.4未満で臨床的関節診察で滑膜炎が認めない場合は治療をテーパリングをまたは中止し、DAS44が2.4以上の場合には治療を強化するようになった。

 

表1

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Serological measurements

●抗CCP(CCP2)抗体とRF(IgM)が587検体で診断時とDMARDsフリー寛解達成前後に酵素結合免疫吸着療法(ELISA)で測定された。

●RF(IgM)のカットオフ値は8 IU/ml、抗CCP抗体(Immunoscan RA Mark 2; Euro‐Diagnostica, Arnhem, The Netherlands)のカットオフ値は25 units/ml(これらは対照群での陽性率は5%未満であった)。

→日本ではRFのカットオフ値は15 IU/ml、抗CCP抗体のカットオフ値は4.5 U/ml。

●以下の図2に各期間で得られた検体数を示す。

●抗CCP抗体については抗CCP2 IgG抗体に加えて、抗CCP2 IgM抗体も測定された(カットオフ値は64名の健常者の標準偏差+2SDよりも高い値=12 AU/mlとした)。

 

図2

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●AはDMARDsフリー寛解が得られた患者:寛解後4.2年の間に46検体が得られた。

●Bは再発した患者:再発してから1.8年で13検体が得られた。

 

Statistical analyses

●RF(IgM)陽性患者、抗CCP2 IgG抗体陽性患者、抗CCP2 IgM抗体陽性患者の3群間で血清の変化の差をFisher検定で比較。

●追跡期間中のRF、抗CCP抗体の変化とDMARDsフリー寛解の達成との関連性を調べるためにCox比較ハザード回帰分析を実施。

●RF(IgM)と抗CCP2 IgG抗体の1年毎の変化は各患者の線形回帰分析で推定した。

●経時的な変化にはCox比較ハザード回帰分析を使用。

●RFのカットオフ値を33  IU/mlとすると、特異度は98%となり、抗CCP抗体と同等となるため、このカットオフ値でも解析をしている。

SPSS V.23.0を使用。p値<0.05を使用。

 

【参考文献】

Boeters DM, et al. Ann Rheum Dis. 2019 Nov; 78 (11): 1497-1504. "Does immunological remission, defined as disappearance of autoantibodies, occur with current treatment strategies_ A long-term follow-up study in rheumatoid arthritis patients who achieved sustained DMARD-free status"