リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

リツキシマブによる二次性低ガンマグロブリン血症の補充療法

 リツキシマブはANCA関連血管炎の導入療法、維持療法で注目されて来ておりますが、その副作用の一つである、低ガンマグロブリン血症はリツキシマブを使用する際には、必ずチェックしなければなりません。

 

 昨年実はリツキシマブによる二次性の低ガンマグロブリン血症に対する補充療法のガイドラインが出ておりましたので、ご紹介致します。

 

 こちらもエキスパートによるコンセンサスガイドラインです。

 

 

コメント

●リツキシマブによる二次性低ガンマグロブリン血症は良く知られており、リンパ腫6.6%ANCA関連血管炎では14~21%だそうです。

●今回のコンセンサスガイドラインでは文献検索をもとにエキスパートが議論して推奨文を作成しておりますが、残念ながら、B細胞枯渇療法による二次性低ガンマグロブリン血症についてランダム化比較試験が行われていないため、どうしてもエビデンスレベルが低くなってしまっています。

●今までIgG≤300~400mg/dlを下回ったら免疫グロブリン補充!と教わってきましたが、補充群と非補充群を比較したデータはないんです。300mg/dl以下感染症が起こりやすいというのは、実は慢性リンパ球性白血病の論文が大元だったんですね。

●低ガンマグロブリン血症は値に寄らず、無症候性ならば、一過性の事もあるため、あったとしてもしばらくは様子を見ようという方針で良さそうです。

重症、持続的、非典型、再発性の感染症、肺疾患の既往などがあって、他の免疫抑制薬も併用してて、低ガンマグロブリン血症が持続する場合は補充した方が良いかもしれませんね。

免疫グロブリンの値も上記リスクがある場合は長期にフォローした方が良いかもしれません。

●投与量に関しては0.4g/kg/月で、投与経路は静脈皮下注射があります。皮下注射はハイゼントラという薬が使えますが、在宅で使用するには環境調整が必要です。

●低ガンマグロブリン血症があるからと言って、B細胞枯渇療法を中止する必要はないとのこと。

●内因性の免疫グロブリン産生能を見るのに、IgGのトラフ値をモニタリングすると良いと言いますが、IgGのトラフって結局いつか分からないから、普段通りで良いと思うんです。

免疫グロブリン補充療法の中止のタイミングですが、可能ならば感染症が少ないと書かれており、ここだけ情緒的で何となく面白かったです。

 

全体像

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包括的原則

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●副作用を患者や家族に伝える事はもちろんですが、OP1では、患者に感染症について医療機関(家庭医、二次医療機関、Clinical immunology service)に報告してもらうようなパスを作るよう勧めています。

→ここで言うClinical immunology serviceは諸外国で専門家をバックアップに免疫検査などを手配するサービスであるようです。

●上記の様な報告できるパスがない場合は、患者自身が記録できるような日記を配布して、免疫グロブリン補充前後で感染症の記録を正確にモニターしてもらう事を重視しています。

 

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●諸外国では家庭医制度が充実しているため、自己免疫性疾患であっても専門家と協力しながら、家庭医が診ているようです。よって日常診療でリツキシマブの低ガンマグロブリン血症、感染症などの副作用が出たときには二次医療機関に紹介できるようなパス(経路)があれば、という意味だと考えます。

●上記のプライマリケア領域では感染症発生時の抗菌薬の投与やワクチン接種なども求められます。

●日本では最初からリウマチ専門医が診る事が多いため、これは必要ないかもしれませんが、専門医療が過疎の地域では上記を参考にしても良いかもしれません。

 

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●OP1では感染症を患者さんに報告してもらうパスを作る事、OP2では有事にプライマリケアから二次医療機関に連絡できるようなパスを作る事が主張されてきました。

●OP3では免疫グロブリン補充療法のリスク・ベネフィットや投与経路、投与計画などを、患者を含めて関わるチーム全員で共有する事が勧められています。

 

推奨事項

1. 免疫グロブリン補充療法のタイミング

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●自己免疫性リウマチ性疾患患者ではIgGの絶対値によって免疫グロブリン補充を行うべきであるという絶対値はないが、最初にIgG≤300mg/dl感染症の関係を示したRCTは慢性リンパ球性白血病患者の報告であった(PMID=7621634)。

→英国のDepartment of Health and Social Carenでは500mg/dl以下で補充を推奨されています(Clinical Guidelines for Immunoglobulin Use. 2nd ed. Department of Health; 2011)

→一方で小規模のケースシリーズでは300~500mg/dlで補充療法を実施している報告があります(PMID=25586449/28029751)。

→規模が小さいという事と、補充の有無で比較した試験ではない事から、まだIgG値で補充すべきか分かっておりません。

●低ガンマグロブリン血症は多くの場合は無症候性一過性であることが多いが、この場合は補充療法の適応にならない。

重症、持続的、非典型、再発性の感染症の既往免疫グロブリン補充の開始決定において考慮されるべき。

●その他、気管支拡張症好中球減少症他の免疫抑制薬(特にグルココルチコイド)を併用している状況なども考慮されるべき。

●B細胞枯渇療法ではワクチン接種後の特異的抗体反応を起こしにくいとされるし、低ガンマグロブリン血症では、肺炎球菌などの多糖類抗原(ポリサッカライド)に対する抗体反応が失敗する事があるため、ワクチン接種(共役ワクチンよりも非共役ワクチン)が有効でない場合がある。この場合免疫グロブリン補充療法を考慮しても良い。

→しかし、抗体の反応基準が標準化されている訳ではないので、解釈は難しいです。

●英国のDepartment of Health and Social Careは免疫グロブリン補充療法を考慮する前に3か月の抗菌薬の予防投与を行う事を推奨。

抗菌薬の予防投与の反応不良の基準はないが、抗菌薬予防投与にも関わらず、感染症が持続したり、重症化したりする場合は反応不良と考え、免疫グロブリン補充療法を考慮しても良い。

●IgGの欠乏は一般的にはIgAやIgM欠損症よりも感染症の重要なリスクとなる。

●完全なIgA欠損症は無症候性だが、健常人で偶発的に見られる(500~800人に1人)。

●IgA低値の場合、免疫グロブリンの補充はInfusion reactionを起こすと言われているが、非常に稀であり、事前に注意も出来るため、禁忌ではない。

 

2. 低ガンマグロブリン血症のリスク

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●いくつかの研究ではリツキシマブ開始前のIgG値のベースラインが、低ガンマグロブリン血症の予測因子であると報告している。

●基礎疾患によってもリスクが変わり、例えば関節リウマチよりもANCA関連血管炎の方が低ガンマグロブリン血症のリスクが高い(理由は不明)。

●シクロホスファミドがB細胞枯渇療法患者の低ガンマグロブリン血症のリスクを増加させるかどうかについては相反する報告がある。

●他の免疫抑制薬、特にグルココルチコイドはリスクに寄与している可能性がある。

 

3. 専門家へ紹介するタイミング

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●有症状患者に加えて、無症候性のIgG≤300mg/dlの患者は専門施設に紹介すべき。

●低ガンマグロブリン血症を伴わない重症、持続的、非典型、再発性感染症を有する自己免疫性リウマチ性疾患患者も他のリスクファクターを評価するために専門家へ紹介されるべき。

免疫グロブリン補充のモニタリングは専門施設と連携してされるべき。

●自己免疫性リウマチ性疾患患者にも関連し得るcommon variable immunodeficiencyとB細胞枯渇療法に関連した低ガンマグロブリン血症との鑑別をしっかり検討すべき。

→ベースラインの免疫グロブリンをきちんとチェックする事が鑑別に重要です。

 

4. モニタリングのタイミング

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●このモニタリングは標準的なB細胞枯渇療法を実施した場合のモニタリング期間である。

●一部の施設では低用量のB細胞枯渇療法を行っており、その場合は低ガンマグロブリン血症のモニタリングは異なる可能性がある。

●長期にモニタリングするべきかは重症、持続的、非典型、再発性な感染症の既往、気管支拡張症などの併存症があるかどうか、グルココルチコイドアザチオプリンなどの免疫抑制薬を使用しているかによって考慮すべき。

Marcoらは低ガンマグロブリン血症の発症までの期間の中央値は18か月、最も重篤な状態が低ガンマグロブリン血症までの期間の中央とは35か月(1~70か月)だったと言う(PMID=24884562)。

→B細胞枯渇療法後の長期的な免疫グロブリンのモニタリングは重要かもしれません。

 

5. 投与量と投与経路

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免疫グロブリン補充療法の投与量は臨床反応、IgGのトラフ値、感染症の頻度、患者個人の要因によって調整されるべきである。

●投与経路は皮下注射、点滴を家で行うか、病院で行うかの選択肢がある。

●皮下注射はラピッドプッシュ(手動シリンジと翼状針)を使用して輸液ポンプを使わずに行う事が出来る(種類やメーカーに依存)。

→日本ではハイゼントラという皮下注製剤があります。家で投与できるかというと、医療体制的に難しいかもしれません。

●自己免疫性リウマチ性疾患患者の低ガンマグロブリン血症に対する皮下注射製剤のデータはないが、原発性免疫不全に対する静注、皮下注射による補充のエビデンスはある。

 

6. B細胞枯渇療法を中止すべきか

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●低ガンマグロブリン血症があるかと言ってB細胞枯渇療法を継続する事が禁忌という訳ではない。

●低ガンマグロブリン血症を起こした大多数の患者は再発・重症化した感染症を発症しない。

●また、中等度・重度の低ガンマグロブリン血症の50%は、nadirが持続しないという報告もある(PMID=25556904)。

●B細胞枯渇療法や他の免疫抑制薬を中止するべきかは現在の自己免疫性リウマチ性疾患の活動性、原疾患治療のベネフィット、他の治療の選択肢があるかどうかを考慮して決定すべきである。

→どの薬剤が他の薬剤よりも優位というエビデンスはないとのこと。

●B細胞枯渇療法中止の判断に骨髄検査は不要。

 

7. 補充療法をいつやめるか

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免疫グロブリン補充療法中止には、その有効性、忍容性、副作用を考慮すべき。

免疫グロブリン補充療法には血栓塞栓症や溶血などの潜在的なリスクが報告されている。

●英国ではNational Health Serviceが年に1回患者の評価を義務付けている。

●内因性の免疫グロブリン産生が時間とともに回復する可能性があり、IgGのトラフ値が持続的に上昇している事がこれを示唆する可能性がある。

●他にも例えばIgAやIgM、B細胞数なども回復の手がかりとなる。

●もし免疫グロブリン補充療法を中止しようと考えているのならば、呼吸器感染症などが少ない春または夏に検討すべきである。

免疫グロブリン補充療法を継続するか、中止するかには、免疫抑制薬を将来的にしようするかどうか、臨床的パラメータがどうかも考慮すべきである。

 

8. 予防的抗菌薬は免疫グロブリン補充よりも有用か

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●他の免疫不全に対する抗菌薬の予防投与に関するデータは限られている。

●二次性低ガンマグロブリン血症の原因に寄らず、抗菌薬の予防投与と免疫グロブリン補充療法を比較した無作為化試験はない。

●英国のDepartment of Health and Social Careは免疫グロブリン補充療法を考慮する前に3か月の抗菌薬の予防投与を行う事を推奨している。

免疫グロブリン補充療法を開始した場合は抗菌薬の予防投与は中止されることが多い。

●ワクチン接種は一般的には自己免疫性リウマチ性疾患患者には有用であるが、低ガンマグロブリン血症では効果が減弱する可能性がある。

 

リサーチアジェンダ

1. 症候性低ガンマグロブリン血症における、抗菌薬予防投与と免疫グロブリン補充療法との比較検討

 

2. 感染を伴わない著明な低IgG状態(例: 200mg/dl未満)の低ガンマグロブリン血症の治療の可否と治療法

3. B細胞枯渇療法関連の低ガンマグロブリン血症患者における特異的抗体検査とワクチン接種の有用性と解釈

4. 低ガンマグロブリン血症の予測における記憶B細胞測定の潜在的役割

 

5. B細胞枯渇療法関連低ガンマグロブリン血症患者の長期予後について

 

6. B細胞枯渇療法を受けた自己免疫性リウマチ性疾患患者における長期的な悪性腫瘍リスク

 

7. 健康経済学の研究とQOL対策への効果

 

8. バイオシミラーや新型B細胞枯渇療法薬・レジメンによる低ガンマグロブリン血症のリスク

 

9. 自己免疫疾患の違いでB細胞枯渇療法による低ガンマグロブリン血症の感受性に違いはあるのか?


【参考文献】

Wijetilleka S, et al. Rheumatology (Oxford). 2019 May 1; 58 (5): 889-896. "Recommendations for the management of secondary hypogammaglobulinaemia due to B cell targeted therapies in autoimmune rheumatic diseases"