リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

リツキシマブによるANCA関連血管炎の維持療法~BSR expert consensus guidelines~

 世界的にANCA関連血管炎の寛解導入療法、維持療法におけるリツキシマブ(RTX)の立ち位置は徐々に上昇して来ました。しかし、リツキシマブの維持療法での使用方法については正直エビデンスが限られておりました。

 

 今回、British Society of Rheumatology(BSR)より、専門家のコンセンサスガイドラインが発表されましたので以下に意訳します。 

 

 こちらもご覧ください。

 

 

BSR expert consensus guidelines全貌

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  LoE: Level of Evidence, GoR: Grade of recommendation

どんな時にAAVの寛解維持にRTXを使用すべきか

1.1 GPA/MPAの場合

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●115名の新規発症(80%)、再発(20%)のAAV(EGPAは除外)を対象にしたMAINRITSAN試験ではシクロホスファミドで寛解導入し、維持療法にRTXとアザチオプリンを比較した。●AAVに対するRTX維持療法については2つの臨床試験がある。 

●RTXの用量は500mgを2週おきに2回投与し、その後は6か月毎に18か月まで投与した。

→0週、2週、6か月、12か月、18か月、合計5回

●28か月後、RTXを受けた患者ではアザチオプリンと比べて再発が少なかった(5% vs 29% hazard ratio(HR) 6.61; 95%CI:1.56, 27.96 p=0.002)。

●主要な再発(major relapse)を1人防ぐためには4人に投与をする必要がある(NNT4)。

●RTXのアザチオプリンに対する優位性は60か月後の追跡調査でも持続した(PMID=29724729)。

MAINRITSAN 2試験では6か月毎に固定スケジュールでRTXを投与した群(固定スケジュール群)と3か月毎に血液検査でANCAの値とB細胞を確認し、それらが再上昇した場合にRTXを投与した群(テーラーメイド群)を比較した。

●この試験では寛解導入に37%の患者がRTXを使用した。

●最初のRTX維持療法開始後28か月で、固定スケジュール群では8人(9.9%)が再発(major relapse 3人)し、テーラーメイド群では13人(16.0%)が14回再発(major relapse 4回)を経験した。有害事象に関しても差はなく、感染症は固定スケジュール群で16人が18回罹患、テーラーメイド群では9人が18回罹患した。

●現在進行中のRITAZAREM試験(NCT01697267)では、4か月毎にRTX 1000mg投与を行う群と、RTXで寛解導入後にアザチオプリン投与群で比較している(PMID=28270229)。

→結果はまだ論文化されていないが、2019年米国リウマチ学会での速報では、アザチオプリンと比較してRTX群で24か月後の再発率が低かった(13% vs 38%)。

 

1.2 EGPAの場合

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コホート研究レベルでは41人のEGPA患者にRTXを投与して6か月までに83%臨床的改善が得られ、34%が完全寛解したという報告はある(PMID=25467294)。●現在公表されているRTXの臨床試験ではEGPAは組み込まれていない。

→PSLの中止は12か月で2人のみ可能だった。

●別の69人のEGPA患者にRTXを投与した単一施設での研究でも、寛解率は6か月で34%、12か月で49%であった(PMID=31245051)。

→PSLの中央値は12か月で7.25mg/日で24か月で5mg/日、54%の患者はコントロール不良の喘息や他の呼吸器症状で再発した。

●上記2つの試験は決してRTXの寛解維持の試験ではない事に注意すべし。現在進行中のEGPA患者に対するRTXの維持療法の臨床試験としてはMAINRITSEG試験(NCT02807103)がある。

 

RTX維持療法のレジメンは何にするか

2.1 投与量と投与間隔

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●小児に対するRTXの効果を示すデータは限られている。●思秋期後の青年期や併存症の多い高齢者では個別に考慮する必要がある。

MAINRITSAN試験では500mg、RITAZAREM試験では1000mgとなっているが、両者の直接比較はなされていない。

→RITAZAREMを除く臨床試験では500mgを採用している事が多く、観察研究では1000mgが多い様子。観察研究では再発や難治例が多いためと考えられるが、RTXの量が多い事が有効かは不明。

1.で既に示したが、投与間隔に関してはMAINRITSAN 2試験で6か月毎に固定投与するのと3か月毎に血液検査を実施し、ANCAやB細胞の上昇を確認してから投与するのでは再発率に有意な差はない事が判明している。

●ANCAやB細胞の再上昇などのバイオマーカーに基づくRTX投与に関しては更なる研究が必要。というのもANCA陰性、B細胞が枯渇している状態でも再発したというランダム化比較試験と観察研究があるためである。

→現時点では固定スケジュール投与が推奨されるが、一部の患者ではバイオマーカーの変動、併存症、副作用により、RTXの投与量と投与間隔をより個別化したアプローチをとる必要がある。

 

2.2 難治例やRTX維持療法でも再発する場合

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図1: 難治例やRTX維持療法で再発する場合

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●残念ながら、難治例やRTX不応例に対する研究はない。

●専門センターでは様々な戦略が取られているため、紹介を勧める。

●患者の症状が疾患の活動性(activity)か傷害(damage)か、他の診断がないか、感染症黄色ブドウ球菌の鼻腔内侵入やコカイン使用などの増悪因子がないかを検討する。

→活動性(activity)は傷害(damage)は意味が異なる。前者は可逆的だが、後者は不可逆的

●治療は疾患活動性、重症度、障害臓器病変の種類、RTX治療が有益かどうかによって選択される。

●主要臓器の病変であれば再発した場合は通常、再度寛解導入療法を行う。

●もともと固定スケジュール投与をする前に疾患活動性が上がった場合は、間隔を短くして投与する事を検討する。

●RTX投与に反応しているにも関わらず、主要臓器病変のない軽度の持続的な疾患活動性がある場合は、免疫抑制薬の併用を検討する。

●併用薬には従来の維持薬(アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸など)、低用量のグルココルチコイド(PSL≤5mg/日)が含まれる。

●RTXで有害事象が起こった場合は、他の維持療法を考慮する。

 

2.3 RTX投与期間の延長

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●MAINRITSAN試験の長期追跡データは、RTX中止後の再発リスクを強調している(PMID=29724729)。最終投与から10か月後の28か月のフォローアップまでに3人(5%)が主要な再発(major relapse)、その後22か月間RTXを投与せずに経過観察すると、さらに13人(23%)が主要な再発(major relapse)を経験した。

●RTX維持コホートではRTX中止後、無再発生存期間が進行性に短縮する事を示した(PMID=25477054/24703438)。

●現在進行中のMAINRITSAN 3試験はRTX維持療法の延長と標準的な維持療法とを比較している(NCT02433522)。

●RTX延長のレジメンについても更なる研究が必要。

●再発のリスクが高い患者では5年までの長期治療が提案されている。

●RTX治療後に再発リスクが高い患者を特定する事は依然困難である。前コースのRTX投与後に再発した患者では経験的にさらに再発リスクが高いと考えられる。

●ANCAn持続的陽性または再上昇が再発リスクと関係する可能性がある。MAINRITSAN試験ではフォローアップ中にANCA陽性患者の再発リスクは時間とともに上昇した。

●ある報告ではRTX導入後、PR3-ANCA陽性例ANCAが陽転化した例B細胞が再上昇した例では再発リスクが上がるという(PMID=25477054)。

→これは維持療法であるアザチオプリンとグルココルチコイドを継続または中止を比較したREMAIN試験の結果と一致している(PMID=28546260)

●一般的にPR3-ANCA陽性例GPA病変腎病変の欠如は再発リスクと考えるべき。

●累積RTX量、感染症、慢性の低ガンマグロブリン血症は再発リスクと関連しなかった。

 

2.4 RTX維持療法におけるバイオマーカーの役割

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●バイオマーカーが陰性でも再発する例があるため、治療のガイドとしてのルーチンのバイオマーカー測定は議論中である。

●また、今までの試験では感染症や低ガンマグロブリン血症、RTXの毒性などが治療ガイドとして組み込まれていない。

●バイオマーカー単独で治療を選択すべきではないが、MAINRITSAN 2試験ではANCAとB細胞の再上昇が治療のガイドになる可能性を示唆している
 

併用療法

3.1 DMARDs

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●AAVの寛解維持のためのRTXの臨床試験では併用療法は使用されていない。

●観察研究では維持療法として免疫抑制薬が既に投与されている患者で、RTXを追加した場合、元の免疫抑制薬は中止されている。

有害事象が増加する可能性があるため、ルーチンでの併用療法は推奨されない
●稀にRTXで維持療法中にも関わらず、活動性が持続する患者では免疫抑制薬の併用療法を行う事は利益になるかもしれない。

 

3.2 グルココルチコイド 

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●グルココルチコイドの長期使用は疾患ダメージと関連するため(PMID=24243925)、それを使用しないで寛解状態に達する事が理想的。

寛解維持のためにRTXを使用する試験ではRTX開始後、6~12か月でグルココルチコイドを減少して行くようなプロトコルとなっている。しかし、実際は18か月まで低用量で持続されている。

●ただ、RTX寛解維持療法ではグルココルチコイドの減量、中止率が良いという報告がいくつかある(PMID=22730028/22729997/25477054)。
●EGPAではグルココルチコイドの中止はなかなか困難で、喘息症状のコントロールが不完全となる可能性がある。

●副腎不全がある場合はグルココルチコイドを中止できない場合がある。

 

予防

4.1 ニューモシスチス肺炎

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PCP予防はAAV導入療法開始から少なくとも6か月間推奨される。

●RTX維持療法の臨床試験でもRTX使用患者で2人確認され、診断時、予防療法を受けていなかった(PMID=29724729)。

●AAVのPCP予防方法についてはデータが少ない。ST合剤が最も一般的に使用される。

●他のペンタミジンやダプゾン、アトバコンは使用数が少ない。

●リスクが高い患者では予防期間を延長する事が推奨される。

→例えばリンパ球減少症(特にCD4)、高齢、グルココルチコイドまたは他の免疫抑制薬の長期使用、慢性閉塞性肺疾患を含む肺疾患など

●固形癌同様、AAVを含む自己免疫性疾患で免疫抑制薬の使用している患者では局所でニューモシスチスの定着が認められている(PMID=8299252)。局所の定着を認めた場合、免疫抑制薬を使用している患者では予防を再開する。

 

4.2 ワクチン接種

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感染症(特に呼吸器感染症)はAAVの罹患率、死亡率の重要な因子である。

●インフルエンザワクチンの一般集団における予防効果は十分に確立されている。

●以前の報告(PMID=18625625)ではワクチン接種により疾患活動性が上がると言われたが、規模の小さなランダム化比較試験と観察コホートで、AAVでも安全性とわずかな効果が示されている(PMID=25656094)。

●RTX維持療法中の患者では、特にB細胞枯渇が持続する場合は、ワクチンの有効性が懸念されている。

●B細胞の再上昇が不完全であるにも関わらず、RTXの6か月間の投与後の関節リウマチ患者ではワクチン接種の効果反応が示されている(PMID=20039397)。

●メトトレキサート単剤使用患者と比較してRTX使用患者ではワクチンの反応は鈍く、ワクチンの効果を最大にするためにはRTX投与の少なくとも1か月前までに接種する事が推奨される。

●しかし、治療の時間経過や感染症の季節的要素を考慮すると、潜在的に有効性がなくても、上記以外での接種もしばしば許容される。
 

有害事象

5.1 低ガンマグロブリン血症

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●RTX維持療法の臨床試験ではIgG値は安定しているが、低ガンマグロブリン血症は観察研究でしばしば報告されている有害事象である。

→この差は観察研究では再発例や難治例が多く、既に免疫抑制療法を受けている割合が高いためと考えられる。

→また、低ガンマグロブリン血症の定義が多様で、一過性であったり、晩期合併症となったりする可能性がある。

●長期的なデータは限られているが、低ガンマグロブリン血症が持続する事の一番の懸念は再発性で慢性化した非定型感染症である。

●低ガンマグロブリン血症があればRTXを控えた方が良いかは不明であるが、臨床試験で低ガンマグロブリン血症の閾値は300mg/dlとされている。

●RTXの継続が低ガンマグロブリン血症を悪化させる可能性を考慮すべきである。

●再発または非定型感染症と低ガンマグロブリン血症の両方が認められる患者では、予防的抗菌薬治療や免疫グロブリン補充を含む介入が有益かもしれない。これらの試みは、それぞれの地域のガイドラインに従って考慮されるべきである。

感染症を伴わない持続性のIgG<300mg/dlのある患者では介入を必要としないかもしれないが、感染症プロファイルとワクチン接種の反応は見直されるべきである

(二次性低ガンマグロブリン血症の補正ガイドラインPMID=30590695)。

●小児では長期の低ガンマグロブリン血症の影響が懸念されるため、IgG値が年齢で調整された基準値を下回った場合には補正を考慮してもいいかもしれない。

●稀な状況としてAAVの再発は低ガンマグロブリン血症に対して補充療法を受けている患者で起こる。

●RTXと免疫グロブリン補充療法の併用、これらの薬剤の投与時期については臨床状況を加味しながら行うべきである。

 

5.2 遅発性好中球減少症

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●遅発性好中球減少症は臨床試験や観察研究で確認されている。

●遅発性好中球減少症の既往がある患者では今後のRTX投与後に感染症症状に注意すべきである。

●遅発性好中球減少症の理解は不完全だが、B細胞のリンパ球増殖よりも顆粒球増殖が停止したことが原因とされる(PMID=18278570)。

●遅発性好中球減少症の発生時期は予測できないため、好中球減少症の定期的な評価はルーチンでは必要ない。

●無症状で典型的には短期間であり、ルーチンで検査がない場合は、認識されることも少ない可能性がある。

●好中球減少症が長引く有症状の患者や抗菌薬治療が必要な感染症の患者では、G-CSFを投与することでしばしば回復する。

●さらに、AVVを含む自己免疫性疾患を治療された患者では再発は稀である(PMID=25855510)。

重篤感染症を合併した好中球減少症の既往歴のある患者では、RTXの反復投与の経験は限られている。

 

研究課題

●健康関連QOLに対する維持療法の効果

●RTX維持療法の投与期間延長の効果

①好中球減少症、進行性多巣性白質脳症や低ガンマグロブリン血症の長期アウトカムを含む治療の有害事象

②疾患関連のダメージや心血管リスクを含むRTX維持療法患者の長期アウトカム

③RTX維持療法とRTX維持療法延長の健康経済学的な分析

●再発リスクに関連するバイオマーカー(ANCA、CD19、CD27、血清カルプロテクチンなど)の役割と再発予測

●特殊な集団や状況(小児、妊孕性のある女性や妊婦)における寛解維持に対するRTXの影響

 
【参考文献】
 

Tieu J, et al. Rheumatology (Oxford). 2020 Apr 1; 59 (4): e24-e32. "Rituximab for maintenance of remission in ANCA-associated vasculitis: expert consensus guidelines."