間質性肺疾患を起こしやすいリウマチ膠原病とは?
関節リウマチや皮膚筋炎、強皮症などの全身性自己免疫性リウマチ性疾患(SARD)は、しばしば間質性肺疾患(ILD)を起こします。それぞれの疾患でどれくらいILDを起こしやすいかは、各国から様々なコホート研究が発表されていますが、どの疾患がどのくらいILDを起こしやすいか、同時かつ直接比較した研究はありませんでした。
本日は台湾の健康保険の大規模データベースを用いたコホート研究をご紹介します。
ご存じかもしれませんが、台湾の国民健康保険データベースは国民の99%以上が登録されている国民健康保険プログラム(NHI)に基づくデータベースです(PMID=26192815)。
従って『コホート研究には打って付け!』と言っても過言ではありません。
また同じアジア人でもあるため、日本人にとっては大変参考になるかと思います。
Patients & Methods
●1997年から2013年までの台湾国民健康保険研究データベースを用いて、2001年から2013年までに新たにSARDと診断された患者62,930人を同定。
●主なSARDは以下の通り。
-全身性エリテマトーデス
-関節リウマチ
-原発性シェーグレン症候群
-皮膚筋炎、多発性筋炎
-強皮症
●除外基準は以下の通り。
-上記SARDの診断がつく前に間質性肺疾患の診断を受けた患者
-上記SARDの重複患者
●年齢、性別、インデックス日(年)によってSARD患者と1:4でマッチングするように非SARD診断251,720人を選択。
●非SARD患者は上記のSARDと診断されていない患者とされた。
●インデックス日に間質性肺疾患と診断を受けていた患者は除外された。
●間質性肺疾患の定義は以下の通り。
①以下のICD-9-CMコードを含めた。
-515(炎症後肺線維症)
-516.3(特発性間質性肺炎)
-516.8(その他の肺胞・肺胞隔壁疾患)
-516.9(不特定の肺胞・肺胞隔壁疾患)
-517(Lung involvement in conditions classified elsewhere)
②最初の診断日の前後6か月以内に適切な放射線学的または病理学的診断を受けた。
●主要アウトカムはSARD診断からILD診断までの期間。
●カテゴリー変数は被験者の割合、連続データは平均±標準偏差(SD)で示した。
●カテゴリ変数間の差を評価するためにピアソンのχ2検定、連続変数についてはスチューデントのt検定を用いた。
●SARD-ILDの発症率は、10,000人年(総人年)あたりのSARD-ILDと新たに診断された被験者の数とした。
●SARDサブグループと非SARDサブグループ間でILDの発生率を比較。
●多変量Cox回帰分析を用いて、年齢、性別、Charlson併存疾患指数(併存疾患の数を測る代表的な指数)を調整した後、非SARD群と比較した各SARD群におけるILDのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定。
Results
Baseline characteristics
●合計で、SARD患者62,930人と非SARD患者251,720人を同定。
●被験者同定のフローチャートは上図。
●上表に対象者の人口統計学的および臨床的特徴を示す。
●平均±SDの追跡期間は、SARD群で6.1年±3.5年、非SARD群で6.3年±3.5年。
●平均年齢と性別の分布は、SARD群と非SARD群で有意差なし。
●最も多かったSARDは関節リウマチで、次いで原発性シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚筋炎、最後に多発性筋炎であった。Charlson併存疾患指数の平均±SDは、SARD群の方が非SARD群よりも高かった。
全身性自己免疫性リウマチ患者における間質性肺疾患の発症率
●上記にSARD群と非SARD群のILDの発症率の一覧を示す。
●非SARD群と比較して圧倒的にSARD群ではILDを発症するリスクが高い。
●SARD群ではILDを発症しやすい疾患は以下の順番である。
①全身性強皮症
②皮膚筋炎
③多発性筋炎
④全身性エリテマトーデス
⑤原発性シェーグレン症候群
⑥関節リウマチ
間質性肺疾患のリスクに関連する因子
●上記はILDと共変量との関連について、一変量および多変量のCox比例回帰分析の結果をまとめたものである。
●潜在的な交絡因子を調整した後、SARD患者ではILD発症リスクが有意に上昇した。
●多変量Cox回帰分析では、分析対象となった6種類のSARDsのいずれかを有する患者では、対応する対照群と比較してILDのリスクが増加していることが明らかになった。
●年齢は、すべてのSARD患者およびすべてのSARDサブグループにおいて、ILDの有意な危険因子であることが明らかになった。
●男性はすべてのSARD患者においてILDの有意な危険因子として同定されたが、サブグループ解析の結果、性別が男性であることははRAのみの患者においてILDの有意な危険因子であることが明らかになった。
●さらに、Charlson併存疾患指数はすべてのSARD患者において、pSSやRA患者と同様にILDの有意な危険因子であることが明らかになった。
まとめ
●台湾の大規模データベースの結果から全身性自己免疫性リウマチ性疾患では
①全身性強皮症
②皮膚筋炎
③多発性筋炎
④全身性エリテマトーデス
⑤原発性シェーグレン症候群
⑥関節リウマチ
の順番に間質性肺疾患の合併率が高い。
My comments
●臨床的感覚に非常に一致した結果だと思います。非SARD群と比較すると発生率比(IRR)は大変高く見えますが、実際の頻度はTable 2のEvent(%)を見ると、疾患毎のILDの発生率が分かるので、こちらもご覧ください。
●強皮症はタイプにもよりますが、日本から、限局皮膚硬化型で40%、びまん皮膚硬化型で71.1%に間質性肺疾患を合併するという報告(PMID=21874591)があり、『強皮症を見たら間質性肺疾患をスクリーニングする』と言われるぐらい間質性肺疾患の評価が重要です。
●混合性結合組織病(MCTD)も間質性肺疾患を起こす事があるため、解析に含めて欲しかったです。
●間質性肺疾患が先行する場合や、間質性肺疾患だけが注目されて、背景の自己免疫疾患がちゃんと診断されていない場合が今回は除外されてしまっているが、臨床的にこれらの条件の患者さんは多くないと考えられるため、今回のデータに強い影響は与えないと思われます。
【参考文献】
Kooi-Heng Ng, et al. Semin Arthritis Rheum. 2020 Oct; 50 (5): 840-845. "Risk of interstitial lung disease in patients with newly diagnosed systemic autoimmune rheumatic disease: A nationwide, population-based cohort study" PMID=32896697