リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

SLEの慢性期のステロイドは中止できるか?

全身性エリテマトーデスにとってステロイド(グルココルチコイド)は不可欠な薬ですが『状態が安定した慢性期にそれを減量中止できるか』というのは永遠のテーマです。

 

多くの医師は臨床的に寛解になった状態でも、長期間のステロイド処方を好みます。

特にループス腎炎や中枢神経ループスの場合はそうです。

 

一部の患者では、長期間臨床的寛解を維持していたとしても、ステロイドを中止することで、再燃が起こったりするためです。

 

SLEのコホート研究では57-86%が長期の低用量グルココルチコイドを処方されています(PMID=22018198/10943870)。

 

しかし、ステロイドは低用量でも長期間使用する事で重篤な臓器障害を引き起こす可能性が知られています(PMID=25861455/27933196)。

 

したがって、最新のガイドラインでもステロイドは可能な限り減量・中止が推奨されています(PMID=30926722)。

 

慢性期に低用量のステロイドを継続すべきかやめるべきか、という臨床的疑問に対して今まできちんとした前向きの報告はありませんでした。今回ご紹介するのは単施設ではありますが、この難題に取り組んだ非盲検ランダム化比較試験(CORTICOLUP試験)です。

 

以下にこのブログの読み方を示します。

それぞれの項目に対象を示していますので、該当する部分だけお読みくださいね。

 

このブログの読む手順

専門医(R: Rheumatologist):概要→Patients & Methods→Results→My comments

非専門医(D: Doctor):概要→Results→My comments(→Patients & Methods)

患者さん(P: Patient):概要→My comments

 

 

本研究の概要:R・D・P

●フランスの単施設でプレドニゾン5mg少なくとも1年臨床的に寛解の状態を維持している患者をランダムに2群に分けた。一方はプレドニゾン維持群で、もう一方は突然中止群とした(副腎不全にならないよう1か月だけはヒドロコルチゾンを処方された)。

●52週間(1年間)経過を見たところ、5mgのプレドニゾンを突然の中止は、再燃リスクの4倍増加と関連していた。

●プレドニゾンを継続したことによる臓器障害や有害事象は離脱群と比べて有意差はなかった。

 

Patients & Methods:R・(D)

Patients

組み入れ基準

●2014年1月から2018年4月にかけて、パリにあるピティエサルペトリエール病院(単施設)で1年以上寛解が維持されている18歳以上のSLE患者がリクルートされた。

●SLEの分類は1997年ACR SLE分類基準を使用(PMID=9324032)。

●被験者を研究に登録し、プレドニゾン5mg/日を52週間継続するか、研究開始日(0日目)に内服を中断(プレドニゾン離脱)するようにコンピューター1: 1に割り当てた。

●プレドニゾン離脱に割り当てられた患者は、副腎不全を防ぐために、1ヶ月間ヒドロコルチゾン20mg/日を処方された。

●抗マラリア薬や免疫抑制薬を含む他のSLE治療は、治療に関連する副作用または治療の変更が必要なSLEフレアの場合を除いて、研究中は変更されなかった。

●臨床症状がない場合の抗dsDNAまたはC3の孤立した変化は、SLE治療の強化の指標としなかった。

 

除外基準

 妊娠中または妊娠を予定している患者、同意が得られなかった患者

 

寛解基準

 (1) SELENA-SLEDAIスコア≤4

 (2) BILAG 2004スコアにおいて血液系(白血球減少症、リンパ球減少症、

   クームス試験陽性)によるCスコアを除く全ての臓器においてDまたはE。

 (3) 医師全般評価(PGA)=0かつ薬剤使用の限定(プレドニゾン5mg /日。

   プレドニゾンや抗マラリア薬、免疫抑制薬は、最低1年間は同じ)

 

長期の臨床寛解の定義

過去5年間で、白血球減少症の発生、SLE治療、および血清学的活性((抗dsDNA抗体の存在、低補体血症)に関係なく、疾患活動性の臨床的徴候がない事

 

再燃の定義

SELENA-SLEDAIを用いた再燃の定義

●SELENA-SLEDAIを以下に示す。

●SELENA-SLEDAIを用いたflare index (SFI)は下記。

 

軽度または中等度:以下のうち1つ以上と定義された

 a) SELENASLEDAIスコアの変化が3点以上 (ただし12点未満)

 b) 新規または増悪した円板状ループス、光過敏性または

  その他のループスに起因する発疹(深在性狼瘡を含む、皮膚血管炎、水疱性狼瘡)

  鼻咽頭潰瘍、胸膜炎、心膜炎、関節炎、または感染に起因しない発熱

 c) プレドニゾンの増加 (ただし0.5mg/kg/日を超えない)

 d) SLE活性のためのNSAIDsまたはヒドロキシクロロキンの追加

 e) 医師全般評価(PGA)≥1 (ただし2.5を超えない)

 

重度:以下のうち1つ以上と定義された

 a) SELENASLEDAIスコアの変化が12点以上

 b) 新規のまたは悪化した以下の症状

※いずれの症状も、コルチコステロイドの投与量は倍増(最終投与量0.5mg/kg/日以上)、または入院を必要とする

 中枢神経系

 血管炎

 腎炎

 筋炎

 血小板減少症(血小板数<6万)

 または溶血性貧血(Hb値<7g/dl未満または2週間の間に3g/dl以上のHb値減少)

 c) プレドニゾンまたは同等の薬剤を1日あたり0.5mg/kgを超えて投与するか、または

 シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノレート酸モフェチル、

 メトトレキサートによる治療が必要だったいずれかの症状

 d) 活動性のために入院した場合

 e) 医師全般評価(PGA)≥2.5に増加

 

※独立した抗ds-DNA抗体や補体C3成分の変化や臨床症状がない状態での治療強化は再燃と定義していない。

 

BILAG 2004を用いた再燃の定義

●BILAG 2004を用いた再燃の定義は以下。

f:id:tuneYoshida:20210114012025p:plain

重度:いずれかの臓器で新規または悪化による1つのスコアA

中等度:いずれかの臓器で新規または悪化による2つ以上のスコアB

軽度:いずれかの臓器で新規または悪化による1つのスコアBまたはスコアC 3つ以上

再燃なし:上記以外

 

ステロイドの副作用の評価

ステロイドの副作用は複合グルココルチコイド毒性指標を用いた。

f:id:tuneYoshida:20210116205209p:plainf:id:tuneYoshida:20210116205229p:plainf:id:tuneYoshida:20210116205302p:plain

 

Outcomes & follow-up

主要評価項目

52週時点でのSELENA-SLEDAI flare index (SFI)での再燃患者の割合。

 

副次評価項目

 -再燃までの期間

 -52週時点でのSFIの軽度・中等度・重度の再燃率

 -52週時点でのBILAGスコアでの軽度・中等度・重度の再燃率

 -52週の間の血清学的な変化(抗ds-DNA抗体価、C3値)

 -52週のSystemic Lupus International Collaborating Clinics damage index(SDI)が増加した患者の割合

 -有害事象

 -ベースライン、3、6、9、12か月に評価

●再燃を疑う症状が現れた場合はすぐに医師に連絡。

●介入中断例も52週観察した。

 

統計分析 

●非活動性の長期プレドニゾン5mgを内服しているSLE患者では再燃リスクは3%と推定。再燃の割合がプレドニゾン離脱群で15%増加する事は臨床的に有意と仮定。

●この仮定のもと、80%の統計的検出力をもってプレドニゾン維持群が離脱群よりも優れているという事を結論づけるために、少なくとも62人の患者を各群に割り当てる必要があった。

●Type I error 5%

●ITTあり

●検定

 -連続変数:マンホイットニー検定

 -カテゴリー変数:フィッシャー直接確率検定 or カイ2乗検定

 -再燃までの時間:カプランマイヤー法(ログランク検定)

 -ハザード比:Cox比例ハザードモデル

 -治療効果とサブグループの相互作用:ロジスティック回帰モデル

有意水準:両側5%

●ソフト:GraphPad Prism V.5.0 (GraphPad Software, San Diego, California, USA)

      SAS V.9.4

 

Results:R・D

組み入れフローチャート

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●上記に組み入れ患者のフローチャートを示す。

●124人が登録され、61人と63人がそれぞれプレドニゾン維持群、離脱群にランダム化された。

●プレドニゾン維持群では2人が個人的理由で内服を中止。

●離脱群では4人が5mg/日のプレドニゾンを再開した。2人は個人的な理由、2人は妊娠のため。

 

患者背景

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●患者背景は上記。

維持群メトトレキサート併用率が高く離脱群ミコフェノール酸モフェチルの併用率が高かった事以外、両群で統計的有意な差はなかった。

●全ての患者はDORISの寛解基準(PMID=27884822)で『治療中の寛解』基準にあり、Zenらの定義(PMID=26223434)でも『コルチコステロイド寛解』の状態だった。

●維持群の24人(39%)、離脱群の32人(51%)は長期の臨床的に休止したSLEであった。

 

52週間の再燃率の比較

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●SFIを用いた52週での再燃を経験した患者の割合は維持群で4/61(7%)、離脱群で17/63(27%)で、維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.7, p=0.003)。

●SFIを用いた再燃の重症度解析では、軽度・中等度の再燃の割合維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.8, p=0.012)。

●BILAGを用いた52週で再燃を経験した患者の割合は維持群で4/61(7%)、離脱群で17/63(27%)で、維持群で有意に低かった(RR0.2, 95%CI 0.1-0.7, p=0.003)。

●BILAGを用いた再燃の重症度解析では、中等度・重症の再燃の割合維持群で有意に低かった(RR0.1, 95%CI 0.1-0.9, p=0.013)。

●なお、臓器障害の発生に関しては離脱群で3人に認められた(2つは骨粗鬆症関連骨折、1つは抗マラリア薬による網膜障害)。両群で有意差なし(p=0.244)。

 

抗ds-DNA抗体とC3の推移

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●抗ds-DNA抗体、C3値は52週間で変化していなかった。

 

累積再燃率

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●縦軸に累積再燃率を示す。

●プレドニゾン離脱群では有意に再燃している(p=0.002)。

●再燃は離脱群でおよそ50日以内に3/17(18%)、およそ100日以内に7/17(41%)起こっている。

 

サブグループ解析

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 ●サンプル数が少ないためか、特定の因子と再燃の関連付けは困難。

 

有害事象

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●52週の間に両群で発生した有害事象は稀であった。

●死亡、血栓症、悪性腫瘍、プレドニゾン中止または入院を必要とする有害事象はなかった。

●各群3人ずつ妊娠した。

●ベースラインと52週間の複合糖質コルチコイド毒性指数(GTI)の平均±SD変動は両群で同じだった(維持群3.3±13.0 vs 離脱群3.7±16.5, p=0.9)。

●ベースラインと52週間で複合GTIの悪化を経験した患者の割合も類似していた(維持群23% vs 離脱群29%, p=0.5)。

 

My comments:R・D・P

この研究ではいくつかの問題点があります。

再燃の定義の問題点

●SLEは多様性のある疾患で、活動性を表す指標に完璧なものがないのが難点です。今回の研究では再燃の基準は、その活動性指標に基づいて設けたものですので、どうしても曖昧さが残ってしまいます。

●例えば、再燃の基準として用いている活動性の指標の一つであるSELENA-SLEDAIですが、新規の血尿、蛋白尿だけで4点で再燃の定義を満たしてしまいます。再燃の指標に用いている医師全般評価も医師によって判断基準がまちまちであるため、一貫性に欠ける難点があります。

→これより、再燃が少し甘めに設定されている可能性があります。

●また、再燃時に一般的に活動性の指標となる抗ds-DNA抗体や補体が変動していないため、再燃を臨床症状だけで判断している可能性があります。

 

免疫抑制薬の使用率が低い

●『免疫抑制薬の追加』を再燃の一項と定義していますが、これはほとんどの患者ではステロイド単剤で治療されていた可能性を示唆しています。

→実際、免疫抑制薬の併用率が3割と少なく、もう少し免疫抑制薬を併用していると再燃率が低い可能性があります。

 

普通はステロイドを急に中断しない

●PSLを5mgから一気に中止する事は臨床上あり得ません。維持群と漸減中止群を比較すべきです。もちろん漸減中止すると、再燃率は低くなる可能性はあります。

●前向き試験の治療プロトコルはだいたい根拠を持って作成するものですが、今回PSLを突然中止するというのは、関節リウマチの先行研究(PMID=19074913/17963164)をもとに作られたそうです。関節リウマチとSLEではステロイドの需要がそもそも異なりますので、あまり参考にするべきではなかったのではないかと思います。

●再燃の4割が100日以内に起こっています。これは少し早すぎる印象です。Limitationにも書かれていますが、そもそも対象とした患者は医師が何らかの理由(今までに重度の再燃があった、主要臓器の病変だった、特殊なSLEだったなど)で、ステロイド1年以上減量せずに来ていた患者であるため、そのような患者でステロイドを急に中止したら、再燃するのは当たり前、と考えられます。

 

その他

●観察期間が52週=約1年でありを比較的短いです。それだけで有意差がついてしまったと言えばそうなのかもしれませんが、SLE自体がかなり長期間経過を見ないといけない疾患なので、長期的な予後は気になります。特にステロイドをずっと5mgで維持した場合に本当に問題ないのか、は重要な懸念事項です。

 

結論

●とはいえ今までSLEという多様性のある疾患の、しかも『慢性期にステロイドを中止してもいいか』という難題について挑戦した初めての前向きランダム化比較試験であり、評価に値する研究ではあります。私自身も同じような前向き試験に挑戦しようとしていた時期がありましたが、かなり大変である事を知っているので、尚更頑張ったな、とエールを送りたいですね。

●すべてのSLE患者に当てはめられるわけではありませんが、『(ステロイドだけで治療されている)寛解状態の患者ではステロイドを突然中止する事は再燃と関連する』という事は言えるのではないでしょうか。

●これは臨床で言うと、『自分で勝手にステロイドを自己中断する患者』では良い教育材料になると思います。『いくら寛解していたとしても、慢性期にステロイドを突然自己中断すると再燃率が4倍高いよ』と伝えてあげても良いかもしれません。

 

【参考文献】

Alexis Mathian, et al. Ann Rheum Dis. 2020 Mar; 79 (3): 339-346. "Withdrawal of low-dose prednisone in SLE patients with a clinically quiescent disease for more than 1 year: a randomised clinical trial" PMID=31852672