リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

Seronegative vs Seropositive RAの治療反応性

前回、DMARDsによる治療開始前の患者でSeronegative RAとSeropositive RAのベースラインでの疾患活動性や超音波での滑膜炎の程度を比較した論文をご紹介しました。

『Seronegative RAの方が疾患活動性が高い』という結果でしたが、同じ患者さんたちを2年間外来経過を追った結果が論文まとめられました。

 

前回の結果についてはこちら。

 

 

患者さんは前回と同じでARCTIC試験(NCT01205854)に組み込まれた方で、2010年ACR/EULAR分類基準を満たす230人の関節リウマチ患者を対象としています。

→前回よりも4名少なくなっています。

 

早速結果です。

Results

Seronegative RAとSeropositive RAの比較

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上の表は、Seronegative RASeropositive RAで治療開始前(前回の結果とほとんど同じ)、24か月後、その間の各項目の変化率を比較したものです。

 

これを見ると、疾患活動性を表すDAS、腫脹関節数を示す44-SJC、医師の総合評価であるPhysician Global VAS、超音波で滑膜の血流信号を示すUS PD joint score、滑膜肥厚を示すUS GS joint scoreが、治療開始前のベースラインでSeropositive RAと比較してSeronegative RAでは高い事が分かります。

 

逆にそれらの項目は24か月後ではSeropositive RAとSeronegative RAでは有意な差がなくなっている事が分かります。

 

つまりは表の一番右でも示されているように、Seronegative RAで上記の活動性を示す指標は著明に治療に反応して変動している事が分かります。言い換えると『Seronegative RAでは治療反応が良い』という事が言えます。

 

各項目の時間的推移

さて、次はそれぞれの項目の時間的な推移をグラフにした図をお示しします。

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まず、図Aの疾患活動性を表すDASですが、治療開始6か月後まではSeronegative RAの方がSeropositive RAよりも疾患活動性が高い事が分かります。その後はSeronegative RAの疾患活動性が低下し、治療開始24か月後はSeropositive RAとそれほど差がなくなっています。これを言い換えると『Seronegative RAは治療の反応性が遅い可能性がある』と言えます。同様の事は図Bの腫脹関節数においても言えます。

 

続いて超音波での滑膜血流信号(図C)と滑膜肥厚(図D)のスコアの推移を示した図です。

これらは端的にエコーでの滑膜炎の程度を示しています。

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治療開始前はエコーでの滑膜炎の程度はSeronegative RAで有意に高いですが、12か月後、24か月後ではSeronegative RAでやや高いですが、有意差はなくなっています。

つまりは治療に反応して滑膜炎が改善している事が言えます。

 

続いて放射線での骨病変の進行を見た図(E/F)です。

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Seronegative RAとSeropositive RAでは放射線学的変化は有意な差はありませんでした。逆に言えば『Seronegative RAでもSeropositive RAと同等なくらい骨病変が進行する』という事が言えると思います。

 

Seronegative RAとSeropositive RAの治療反応性

次は治療の反応性を数値化したものです。EULAR good/moderate response(ΔDAS>0.6)ACR50ACR/EULAR Boolean remission(最も厳しい寛解基準)の3つの治療反応性基準の達成率をSeronegative RAとSeropositive RAのそれぞれで、治療開始3か月後、6か月後、ものによっては12か月後、24か月後と比較しています。

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これを見ると、治療開始3か月時点ではおおよそ全ての治療反応性の基準の達成率はSeropositive RAで高い事が分かります。しかし6か月後になるとその差はなくなっている事が分かります。最も厳しいBoolean寛解基準でさえ達成率は、治療開始6か月後、12か月後、24か月後でSeronegative RAとSeropositive RAでは有意な差はなくなっています。

 

つまり、前述したように『Seronegative RAでは早期の治療反応性はSeropositive RAと比較して遅いが、6か月を超える頃にはSeropositive RAと同じくらい治療反応性が良い』が言えます。

 

なお、本文に詳細は示されていませんが、治療に関してはSeronegativeとSeropositiveと同様な治療を行ったとのことです。メトトレキサートと3剤併用療法の使用率は6か月と24か月時点で同じでしたが、生物学的製剤は6か月時点でSeronegative RA患者で11.8%であったのに対して、Seropositive RAでは5.1%と、Seronegative RAの方がむしろ使用されている傾向があったと言います(p=0.13)。

 

My comments

●今回の論文はいわば前回の論文(SeronegativeとSeropositive RAの治療開始前の疾患活動性について)の患者さんを2年間フォローした結果を見た論文です。

●これを見ると『Seronegative RAは治療開始前の疾患活動性はSeropositiveよりも高いが、治療をするとSeropositiveよりも反応が良い』事が分かります。

●一方で、『Seronegative RAは治療開始3か月までは治療反応性が見られず、6か月後頃からSeropositiveと同じくらいの治療反応性になる』ようです。

●もう一つ注意しなければならないのはSeronegative RAでもSeropositiveと同じくメトトレキサートを使用したり、有意差はないもののSeropositive RAよりも生物学的製剤を使用している点です。治療開始後のX線での骨病変の進行はSeropositive RAと同等であったという事なので、これは『Seronegative RAでもちゃんと治療しないといけない』という事を意味するかもしれません。

●『Seronegative RAは本当に他の疾患を除外できているか』という永遠の問題が残りますが、リウマチ専門施設で2年間もフォローしているので、さすがに他の疾患の可能性が含まれる可能性は極めて低いのではないかと考えています。出ているのであれば、研究として成り立ちませんので。

 

【参考文献】

Lena Bugge Nordberg, et al. RMD Open. 2018 Nov 16; 4 (2): e000752. "Comparing the disease course of patients with seronegative and seropositive rheumatoid arthritis fulfilling the 2010 ACR/EULAR classification criteria in a treat-to-target setting: 2-year data from the ARCTIC trial" PMID=30564452